4-18 喰う側、喰われる側
・待って、アイテムないんじゃないの?
・あ、そうじゃん
・どうやって召喚すんだ
「と、思ーじゃん?」
視聴者の心配の声にニヤリと笑ったレイが取り出したのは銀色に輝く猿を形どったエンブレムだった。
「実はこれだけ残ってたんだよね。多分『譲渡不可』ってのが働いたと思うんだけど……」
・そんな効果が……
・まぁワールドクエスト関連ならおかしくないか
・重要アイテムっぽいもんな
「まぁ何にせよラッキーってことで。じゃあ初お披露目といこうか!」
一通り考察を述べたレイが手に持ったエンブレムを放り投げると、口を開いてキャッチするイブル。もしゃもしゃと咀嚼するように口を動かすと、スキルの発動を高らかに宣言する。
「【簡易召喚】!触媒は【申の紋章】ォ!」
それと共に空中に描かれた黒い魔法陣に紫色の雷が迸る。次第にその量は多くなり、バチッ!と一際大きな音が鳴ったかと思うと、はるか上空からの落雷が魔法陣に直撃する。
『む……?うおっ!?何だここは!?』
「クルァ!?」
尋常じゃない量の煙と共に、ゴアトルスの背中に着地した黒毛に金の刺繍のような模様が刻まれたゴリラ――ゴウグは不安定な足場と不可解な状況にひどく困惑した様子を見せる。対するゴアトルスも急激に増加した重さにふらふらと揺れながら困惑の鳴き声を上げた。
「ゴウグ!久しぶり!早速力を貸して!」
『レイ!?これは一体何なんだ!?』
「この鳥、敵、私、ゴウグ、呼ぶ!」
・何故にカタコト……?
・オレ、オマエ、クウ
・ってか本当にゴウグ出るやん
・え?強くね?
求められた説明に必要最低限の言葉数で返すレイ。視聴者がツッコミを入れる中、ゴウグは戸惑いながらもこくりと頷く。
『よく分からんがこいつが敵なのだな?我は何をすればいい?』
「この鳥動かさないように捕まえておいて!」
『承知した』
レイの指示に従うように、その太い腕を使って両羽をがっちりと握りしめるゴウグ。その目論見通りにバランスを取るのに精いっぱいとなったゴアトルスは振りほどく事すらできないようだった。
「そのままキープよろしく!私の方は――」
ゴウグが動きを封じている間、レイは首をよじ登ってゴアトルスの頭へと辿り着く。
「はぁい、元気っと!」
「クルルァ!?」
「ぎゃう!?」
そのまま邪悪な笑みを浮かべレイの頭ほどの大きさの眼球に向かってナイフを突き立てる。その瞬間、致命的ともいえるその一撃に、堪らず口を開いたゴアトルスの口から、黒い毛玉が放出された。
「じゃしんお待たせ!」
「ぎゃう~!」
ぱたぱたとその羽を使いながらレイの元へ帰還したじゃしんは目に涙をためてレイの肩に乗る。それを慰めつつも、レイは下の状況を把握する。
「ゴウグ!もうちょっと右に移動できる!?」
『右?まぁ出来るが……』
何かを企んでいるレイの言葉にゴウグは不信がりながらも言う通りにする。掴んだ羽に対して体重をかけるように無理やり引っ張ると、目をやられて軽いスタン状態になったゴアトルスはされるがままに体を傾けた。
「――ここ!ストップストップ!」
そうして少し移動したところで、レイはゴウグに声をかけて静止させる。
「じゃあコイツに向かって衝撃波よろしく!」
『――そういうことか、任せろ』
ちらりと下を見たゴウグはレイのやりたいことを察したのか、両腕でドラミングを開始する。それに危機感を覚えたのか、スタンの解けたゴアトルスが再度暴れようとする。だが――。
「は~い、もう一回お注射するね~」
「クルルァ!?」
レイがそれを遮るようにもう片方の目にナイフを突きたてる。再び訪れた致命の一撃に悲鳴を上げたゴアトルスは時が止まったかのように動きを止めた。
『レイ、行くぞ!』
「いつでもどうぞ!」
その間にもゴウグの準備が終わったようで、レイはそれに返事しつつも頭部を踏み台に跳躍する。
『ガァ!』
「クルル!?」
ゴウグの口から放たれた咆哮と共に、途轍もない衝撃がゴアトルスの背中に直撃し、物凄い勢いで墜落していく――だが、辿り着いたのは地面ではない。
ジュワァ!
「クルァ!?」
肉が焼けるような音に遅れてゴアトルスの悲鳴が響き渡る。レイの作戦通り溶岩の中に落ちたゴアトルスはHPをみるみる減らしていき、今すぐにでも逃れようと羽をはばたかせるように藻掻く。
「逃がさないってば!」
「ぎゃう!」
そこにじゃしんに掴まったレイが背中に舞い降りると、藻掻く片翼に向けてナイフを振るう。ダメージには全くなっていないものの、逃走の妨害には十分だったようで、ゴアトルスは藻掻き続ける。
「クルルルルァ!」
「おっと、じゃしん!」
「Ra~♪」
そうしてHPバーが3割を切った時、最後の力を振り絞って魔法を使用しようとしたゴアトルスだったが、綺麗な歌声と共に体が硬直したことでそれすら叶わない。
たった6秒。それだけの行動制限が、ゴアトルスの最後の足掻きを封殺し、硬直が切れた時にはもはやこと切れる寸前となっていた。
「唐揚げ一丁、出来上がりってね」
・マグマでから揚げ……?
・それは違うのでは?
・肉すら溶けてるんですがそれは
「……細かいことはいいじゃん。うるさいなぁ」
ポリゴンになりかけている足場の中で視聴者にコメントを返しながらも、勝利を確信するレイ。
・で、どうやって脱出するの?
・溶岩の海の真ん中だけど
・実質相打ちか?
「ふ、忘れたの?うちにはじゃしんが居るからさ」
「ぎゃう!?」
そんな中視聴者の疑問に余裕そうな表情を浮かべたレイだったが、話題を振られたじゃしんが『え、マジ!?』といいたげに驚いたのを見て、ぴしりと固まる。
「……あれ?出来るよね?まさか飛べないなんて言わないよね?」
「ぎゃ、ぎゃう~」
その問いかけに曖昧に笑う姿を見たレイは数舜固まった後、残された少ない足場のぎりぎりに立ち、陸に向かって全力疾走する。
「うぉぉぉぉ!!!届けぇぇぇ!!!」
「ぎゃう~!」
そのままじゃしんを両手でつかんだ状態で大きく跳躍すると、じゃしんの小さな羽を酷使させ距離を稼ぐ。
・届くかこれ?
・怪しい
・ギリギリ無理そう……?
「これ届かないか……!」
徐々に高度を落としながら滑空していくものの、数メートルばかり届かないと悟ったレイは最終手段に出た。
「じゃしん、ごめん!」
「ぎゃう!?」
・あ
・あ
・乗り捨てだぁ!
溶岩に足がつく、その瞬間にレイはじゃしんを掴んでいた手を思いっきり引っ張ると、その反動を利用して再び跳躍する。2段ジャンプの要領で少しの距離を稼いだ彼女はギリギリで地面に足がかかり、そのままゴロゴロと転がる。
「何とかなった……じゃしんは!?」
生きていることにほっと安堵してひとつため息を吐くと、はっとしながら後ろを振り向く。そこには右腕を掲げサムズアップしながら溶岩に沈んでいく相棒の姿があった。
・デデンデンデデン
・I'll be back…
・かっけぇ(棒)
『助けなくていいのか?』
「じゃしん、本当にごめん!」
先に着地していたゴウグの声でレイはハッとして声を上げる。その間に鳴り響いたアナウンスはどうやら耳に入っていないようだった。
『経験値16を獲得しました』
『【太古の化石】を入手いたしました』
[TOPIC]
WORD【環境ダメージ《溶岩》】
効果①:継続ダメージ(500/1sec)




