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4-16 天空の支配者


 ぼたりぼたりと垂れるように落ちてくる赤い液体を辿り、レイは顔を上げる。そこには全長10メートルは優に超えるような巨体に、キリンのように伸びた長い首、それに合わせて肥大化したほとんどが鋭い嘴となっている頭部を携えた巨大な鳥の姿があった。


 巨大と言っても胴体部分は全体の三分の一ほどしかなく、その歪でアンバランスなスタイルに全身に広がる赤い斑点のような斑模様も合わさって、気持ち悪さを増長させている。


「クルルルルァ!」


 怪鳥は自らの力を誇示するように(いなな)くと、体格に比べると小柄な翼を使って空中に滞在しながらも、ぎょろぎょろと人間の頭ほどの大きさの目を動かす。


 その様は捕食者そのものであり、生ける者全てを食物と認識して姿形問わず容赦なく食い散らかす、まさに災害と呼ぶにふさわしい習性を持っていた。


 その名を【悪食のゴアトルス】。『ヘイースト火山』における徘徊型のユニークモンスターであり、『横取りよだれ糞鳥(ファッキンバード)』と揶揄されるほどの嫌われ者(糞モンスター)であった。


「クルルルルァ!」


「チッ!」


 忙しなく動いていた目がレイを捉えると羽を一層羽ばたかせ始め、同時に黄緑色の魔法陣が展開される。その予備動作に心当たりがあったレイは避けようとはせずにその場で顔を守るように両腕を交差させた。


 数秒後、叩きつけるように訪れる暴風。ダメージはないものの、動くことの出来ないレイはその場でじっと耐えて過ぎ去るのを待つ。そうして上空からの風がやんだ後、レイは視線を上げて次の動きに備え始める。


・飛んだ!?

・う、浮いてる…!?

・ナンデ!?ナンデ!?


 続いて吹き荒れたのは地面から突き上げるような風であった。おそらく地面にぶつかった先ほどの暴風が反射する形で巻き起こったそれは、プレイヤーをいとも簡単に持ち上げ高度を上げていく。


「これむっず……!」


「ぎゃう~!?」


 普段とは違うバランス感覚を要求され、レイは四苦八苦しながら体勢を整える。ちらりと流し目で横を見ると、上手くいかないじゃしんが叫び声をあげてくるくると回っている姿が映った。


「いや、じゃしんはいつもみたいにその羽使いなよ」


「ぎゃう――ぎゃ?」


 レイの指摘で思い出したかのように羽を動かし始めると、ものの数秒で態勢を整えるじゃしん。目を回したのか、ふらふらとしながらも額の汗をぬぐう動作をしていたのを見て、大丈夫だと判断したレイは今の状況を再度確認する。


「動けない……ことはないけど、変な感じだな。やわらかいソファーの上を歩いてるみたい」


・これ何が起きてんの?

・あの鳥が何かしたのは分かった

・これはスキル【悪風の食卓】だな

・知っているのか電電!

・あぁ、あの糞鳥の効果だよ


 レイが()()()足踏みをしている間、視聴者からこの現象に関する情報が上がる。 ――SKILL【悪風の(バッド・ハビット)食卓(・テーブル)】、それはまさしくゴアトルスの持つユニークスキルであった。


 効果は至ってシンプルで、下から吹き上がる風で対象を空中にとどめることで、自身が最も得意とする空中戦を強制する効果がある。空中戦と言ってもプレイヤーには風の足場があるため動くことが出来なくなるわけではないのだが、それでも大幅に移動に制限がかかるのは確かだろう。


 また何よりも嫌われているのが、基本的に回避が不可能であるという点だった。徘徊型ユニークのため『へイースト火山』にて戦闘を行っていると稀に現れる存在のゴアトルスだが、獲物を見つけた瞬間にこのスキルを発動する仕様となっている。


 そのためダンジョン帰りにエンカウントしてしまい、強制的に宙に浮かされ、一方的に喰われることになるほか、別モンスターの撃破直前にエンカウントしてしまい、そのモンスターごと胃袋の中に入れられたり……とおよそプレイヤーにとって有益にならないタイミングで全てを台無しにしてくる存在として有名になっていた。


・それでネットでは『横取りよだれ糞鳥』って言われるようになったな

・説明助かる

・でもそれ倒した報告ないよね?

・え?じゃあレイちゃん大丈夫?


「一応、エンカウントしたときどうしようかってのは考えてたよ。対策って程の事じゃないけどね――」


「クルルルルァ!」


「うおっと!?」


 視聴者の疑問にレイが言葉を返そうとした時、ゴアトルスが甲高い声で鳴きながらその巨大な嘴を開いてレイに直進する。速度自体は大したことないものの、その巨体ゆえのバカにならない移動距離にレイは側面に回り込むように動き出す――。


「あっぶなぁ!?」


・今掠らなかった?

・ノーダメだからぎり当たってない

・ってか当たる=デスだぞ


 だがそれでもギリギリで間に合わないと判断したレイは、最後に慌てて横に飛び込む形で転がる。その靴底に何か固いものを感じてゾッとしたものの、何とか躱したレイは急いで立ち上がって警戒体制を取った。


「想像以上に足場が悪すぎる……!動き辛いったらありゃしないんだけどっ!」


「クルルルルァ!」


 不満を述べるレイに、旋回したゴアトルスが再び口を開けて突っ込む。今度は早めに行動した影響か少し余裕をもって回避できたものの、かといってレイにも反撃できる余裕はなかった。


「避けれはするね。まぁこのままじゃ千日手なんだけど……。とりあえず背中に乗ることからか」


・背中?

・それがさっき言ってた作戦か

・じゃしんにヘイト取ってもらうのは?


「お、それ採用。おーいじゃしん!」


 突撃するゴアトルスを時計回りに走り続けることで回避し続けるレイは、反対側にいたじゃしんに向けて声をかける。


「ちょっとやりたいことあるからさ、こいつの相手お願いできない?」


「ぎゃ、ぎゃう!?……ぎゃう!」


 レイの言葉に一瞬驚愕したものの、決意を込めて力強く頷いたじゃしんは雄たけびを上げながらゴアトルスめがけて前進し――それに合わせてぐるり!とゴアトルスの頭部が動く。


「ぎゃ、ぎゃう!?」


「クルァ!」


「ぎゃっ――」


「あ」


・あ

・あ

・あ


 ぱくり。その擬音が一番しっくりくるほど見事にゴアトルスの口の中に捕らえられたじゃしん。あまりにも一瞬の出来事でしばし反応できなかったレイだったが、はっと気を取り戻すと相棒の名を呼んだ。


「じゃ、じゃしーん!?」


・じゃしん!?

・おいおいおい

・え、ゲームオーバー?


 こうしてじゃしんの冒険は終わりを迎えた――。


[TOPIC]

MONSTER【悪食のゴアトルス】

永い眠りから覚めた太古の怪鳥は、決して満たされぬ飢えを胸に秘めていた。

古竜種/系統なし。固有スキル【悪食】

《召喚条件》

【太古の化石】を復元時、低確率で出現


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― 新着の感想 ―
[一言] つまりこうと。 To be Continued →
[一言] あっさり過ぎて草生える
[一言] 今こそ爆破したい
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