4-15 人生楽ありゃ苦もあるさ
現れたマスコット2号によって訪れた静寂。
そんな中、何て声をかけるべきか分からずに口をポカンと開けていたレイだったが、感じた強烈な既視感を解消するために、取り敢えず何か知っていないか自身の召喚獣に目を向けた。
「ぎゃうぎゃう!」
その視線の意図に気が付いたのか、ぶんぶんと否定するように首を振るマスコット1号。尋常じゃない速度で首を振る様を見て、本当に知らなさそうだとレイは納得する。
「ま、だろうねぇ」
・関係ないのか
・そりゃそうだろ
・雰囲気似てるのは分からんでもないけどね
『静まるのだ!』
レイが視聴者とやり取りをしていると、上空から警告するような甲高い声が上がる。つられて顔を上げると、そこには他と比べて一回り大きく老いた烏の姿があった。
『無礼者どもが!ここがどこで誰の前に立っているか分かっているのか!』
「はぁ?そんなの知らないけど?」
上から目線のそんなセリフに、レイも思わず眉を顰めて喧嘩腰になる。だが、老烏は怯むことなく鼻で笑う。
『ふんっ、そんなことも知らんとは!無礼な上に無知とはな!』
「……決めた。コイツから焼き鳥にする」
・やっちゃえ~!
・いやいや待って
・とりあえず話聞こう
その態度に堪忍袋の緒が切れたレイがニッコリと笑いながら物騒な事を口にするが、それが聞こえていないのか老いた烏は高らかに声を張り上げて宣言する。
『こちらにおわす御方をどなたと心得る!畏れ多くもこの火山の守護者たる、コウテイ様にあらせられるぞ!』
・は、はぁ
・いや、そこは『ははぁ~』だろ
・紋所目に入れてきそう
告げられたセリフに、今度は別の意味で既視感を覚える視聴者達。一方でいまいちピンと来ていないレイはドヤ顔を浮かべる老烏を冷めた表情で見つめていた。
『一同、コウテイ様の御前である!頭が高いっ!控えおろう!!』
「いや、そんなの知らないけど」
『んなぁ!?』
「ぺん!?」
微塵も従う様子のないレイの一言に、老烏とコウテイは驚いたように間抜けな声をあげる。その様子に少しだけ溜飲を下げつつも、本来の目的であるアイテムについて問い正す。
「そっちの事情はどうでもいいんだよね。そんな事より奪ったアイテム返してくれない?」
『……奪ったアイテムだと?』
その態度に不機嫌な様子を隠さない老烏は、器用に片眉を上げて怪訝な表情を見せると、レイの質問に対して毅然とした態度で答える。
『そんなものは知らんな。我々を盗人扱いするのはやめろ』
「え?」
「ぎゃう~?」
・あれ?
・どういう事?
・そんなことある?
想定外の答えにレイ達は首を傾げる。まさかじゃしんが間違えたのかと思い再び様子を伺うが、先ほどと同じように首を傾げているだけだった。
「でも確かに奪ってきた烏達はここにいる筈なんだけど――」
『全く、我々は奪ったのではない。運ばれた貢物を回収しただけだ』
「いやそれだよ!バリバリ心当たりあるじゃん!」
「ぎゃう!」
・草
・草
・コントかな?
何食わぬ顔でそう宣う老烏にレイとじゃしんは指を突き刺しながら声を荒げる。視聴者がそれを面白がる中、老烏はきょとんとした、本当に何事か分かっていない顔でレイ達を見つめる?
『む?お主達はコウテイ様が弱っていると知り、務めを果たそうとしているわけではないのか?』
「いや、全然違うんだけど……そもそも務めって何さ?」
『そんなことも知らんのか……。代々人の子らはこの火山の守護者たるコウテイ様に敬意を表し、年に1度貢物を渡すのが通例だったのだ。その始まりは1000年前に遡るとされ――』
「あーごめんごめん!やっぱりナシで!教えてもらえなくても大丈夫!」
なんだか長くなりそうな雰囲気を悟ったレイは言葉を遮るように声を大きくする。それに老烏は怒ったように眉を顰めるが、時間も時間で可能な限り今日中に決着をつけたい彼女にとって、気にしていられる事柄ではなかった。
「とりあえず、私のアイテム返して貰うだけでいいんだよ。そしたらさっさと帰るからさ!」
『……貴様の物だという証明が出来ん。何せ宝物庫にはたくさんの貢物があるからな』
少し歯切れの悪くなった老烏を疑問に思いつつも、レイは交渉を続ける。
「じゃあその宝物庫とやらに入らせてよ。自分の物だけ回収するから!」
『うむぅ……』
・本当にぃ?
・自分ものだけ(全部)
・証明は出来ないからなぁ
「イヤイヤ、サスガニソンナコトハカンガエテナイッテ!」
レイの提案に老烏は考え込むように喉をうならせる。その間に視聴者からの突っ込みをロボットのような口調になりながら返していると、ここまでほぼほぼ黙っていたコウテイが声を上げた。
「ぺん!」
『コウテイ様?どうされました?』
「ぺんぺん!」
『なんと、こ奴らにですか!?流石にそれは無謀ではないでしょうか?』
「ぺん~?」
『それは、そうですが……』
「ぺん!」
『はっ!滅相もない!コウテイ様の御心通りに――』
コウテイが老烏を手招きしたかと思うと、何やら2人で会話を始めた。一度はコウテイの指示に反論したものの、最終的にはうなだれるように頭を下げた老烏は嫌そうな目をしながらレイ達の方を向く。
『喜べ、コウテイ様の慈悲によりお主達に試練を与えること相なった』
「はぁ?」
・試練?
・試練とは?
・何故そんな話に?
突拍子もない言葉にレイは思わず呆れるような声をあげ、視聴者もそれに追随するように疑問のコメントを残す。
「いやいやいや、試練とかじゃなくて普通にアイテムを返してよ」
「ぎゃうぎゃう!」
『そう言う訳にはいかん、こちらにも事情があるのでな』
抗議の声に対しても融通の利かない老烏に、いい加減我慢の限界がきたレイはアイアンナイフに手をかける。しかし続く言葉によって、引き抜こうとした手を止められた。
『だが、お主達の意見にも一理ある。そこで、試練にクリアした場合は宝物庫のアイテムを自由にして良いとのことだ。これは特例中の特例、コウテイ様に感謝するんだな』
「……本当に?」
・自由に?
・何でもいいの?
・今何でもするって言ったよね?
コメント欄がざわつく中、確認するように投げかけられた言葉に対して、老烏は鷹揚に頷きながら返事をする。
『あぁ、本当だ。我々に二言はない』
「……分かった。受けてあげるよ、その試験とやら」
少しだけ思案するように黙ったレイはメリットデメリットを天秤にかけ、話に乗ることを選択する。
「で?何すればいいの?」
『何、簡単だ。今から現れる刺客を倒すだけでいい』
「刺客って――」
そう聞き返そうとした彼女の視界が、唐突に暗くなる。不思議に思ったレイが顔を上げると、開放感のあった天井を、まるで蓋をするかのように巨大な影が遮っている。
『さぁ人の子よ。抗って見せよ』
響き渡る怪鳥の叫び声が、試練の開始を告げた――。
[TOPIC]
NPC【老烏】
近衛隊【八咫烏】の隊長兼、コウテイの保護者役。
長年にわたって人との窓口を担当しているせいか、言葉を話せるようになった。
彼らの使命はコウテイの護衛及び不穏分子の偵察。




