4-14 選択肢を選んだ先で
昨日投稿した話ですが、少し展開に納得がいかなかったため描き直しを行いました。
その影響により、前話のボリュームを増やして2つに分割しましたので、今回はその後編部分となります。
ですので、できれば前話から読み直してもらいますようよろしくお願いします。
分かれ道を選択すること47回目。相変わらず代わり映えのない広間ではあったが、登場するモンスターの格はどんどんと上がっていた。
「くっ!」
ずしん、と大地を震わせながら歩くモンスターに対して、アイアンナイフ片手にかろうじて捌いているものの、かなりの苦戦を強いられているレイ。コメント欄もそれに合わせて白熱しているようだが、今の彼女に反応している余裕はない。
対峙しているのは【ダイエンショウウオ】。全長2メートルほどの巨大なウーパールーパーのような見た目をしており、体は発光するようにオレンジ色に輝いている。とぼけたような顔をしながらも、口から吐かれる火炎ブレスによる広範囲攻撃のせいで、逃げることすら一苦労なようだった。
「この……!」
ただレイもやられっぱなしでは終わらない。肉薄するダイエンショウウオに対していなすように側面に逸れると、その鱗に対してナイフを突き立てる――だが。
ぽよんっ
「うぇ!?」
振り下ろした安物のナイフでは、残念ながらダイエンショウウオの体に傷一つつけることができないようだった。
圧倒的な弾力を前にレイが情けない悲鳴をあげると、追撃と言わんばかりにダイエンショウウオの体が急速に熱を帯び始める。
「うわっとぉ!?」
直後、光り輝いたダイエンショウウオの体から大量の炎が噴出する。近接する敵を焼き尽くさんとするその攻撃に、レイはたまらず転がるように後ろに避けた。
・これ勝てんの?
・レイちゃんならワンチャン…
・いや流石にだろ
「うん、無理!絶対勝てないって!だからじゃしん早く!」
どうしようもないと悟ったレイは慌てたように距離を取りながら、相棒の名前を叫ぶ。その声に答えるように一つ、鳴き声が響き渡った。
「ぎゃう!」
「そっちね!オッケー!」
声のした方にレイが顔を向けると、既に【じゃしん捜査】を終えていたじゃしんが右の通路に入って手を振っているのが見えた。それを確認したレイは助走をつけて、ダイエンショウウオに突っ込む。
「――今!」
・飛んだぁ!
・うおおおおお!
・完璧ぃ!
向かってくる敵を迎撃せんと、がぱりと口を開けてブレスのモーションに入ったダイエンショウウオに対して、タイミングを合わせて宙に舞うレイ。そのまま扇状に広がる火の海を飛び越えると、ダイエンショウウオの背中を踏んづけながら、その奥にあるじゃしんのいる通路へと転がり込んだ。
「あっぶなかったぁ……」
「ぎゃうぅ……」
通路に入ったレイはじゃしんと共に腰を下ろす。一方でダイエンショウウオはというと、もはや興味を失ったと言わんばかりに、通路に入った二人に対してお尻を向けていた。
「流石に死ぬかと思った……」
・おつかれ
・あのブレスよく避けたね
・さすレイだわ
「あはは、ありがと……」
視聴者の言葉に笑いながら言葉を返すレイだが、精神的な疲れからか上手く笑えていないようだった。
1回目でマグマキューブを処理した後、広間に到着するたびにモンスターが襲い掛かっていた。始めの内はマグマキューブやストーンマン単体など、見慣れたどうとでもなるモンスターであった。だがしかし、そんなうまい話は長く続かない。
10を超えたあたりからモンスターが複数体現れるようになったり、先ほどのダイエンショウウオのように、そもそもレイのステータスでは攻撃が通らないなど、微塵も倒せる気がしない状況に移り変わっていた。そのため、『とりあえず倒してゆっくり進む』作戦から『時間を稼ぎ、隙をみて通り過ぎる』作戦にシフトすることで、何とかここまでたどり着いていた。
「これ以上強くなったら、流石に厳しそうだなぁ」
ふと、レイの口から弱音がこぼれる。倒せないストレスといつ終わるか分からない不安感、そして先ほどから感じる眠気からきたのだろう。だが、引くという選択肢はもはやない。
「――よし、休憩終わり。じゃしんいこう」
「ぎゃう……」
動きの鈍った脳みそを醒ますようにパンと顔を張ったレイは疲れ切った様子のじゃしんを抱きかかえると、前へと進み始める。
「これ終わったらたくさんアイス買ってあげようかな」
・それがいい
・じゃしん頑張ってるしね
・多分あとちょっとだよ
視聴者との雑談で気を紛らわせながらも、レイは一本道をただただ歩く。そして運命の48回目の広場。ずっと願っていた黒い鳥が広間の中央に鎮座していた。
・あ
・いた!
それを眼にした視聴者が反応するよりも早く、レイはじゃしんを放り投げると、ナイフを握りしめながら全力疾走する。
「ぎゃう!?」
「ガァ!」
「チッ!」
べシャリと地面に落下するじゃしんに、飛び立つことで回避する烏、そして初撃が躱されたことに舌打ちをかますレイ。三者三様の反応を見せる中、次に動いたのは烏だった。
「あ、まて!逃げるな!」
バサバサと翼をはためかせて猛スピードで右の通路に入った烏を、レイは慌てて追いかけていく。だがしかし、敏捷値に天と地ほどの差が存在するようで、次の広間に辿り着くころにはその姿を見失っていた。
・はっや
・逃げられた?
・やり直し?
「いや、これ見て」
視聴者の間で残念ムードが漂う中、レイが指さしたのは一枚の黒い羽根であった。それはじゃしんが所有していたものと酷似しており、先ほどの烏が落としたものだろうと予測できる。
「こっちか……」
・追いかけようず
・もしかして寝れる?
・急げ急げ
「そうだね、じゃあ行こ――」
「ぎゃう~?」
「うわっ!?」
視聴者に煽られるように足を踏み出したレイの前に、ぬっとじゃしんが上から現れる。その目は責めるようにジト目をしており、心当たりがあるレイは思わずたじろいだ。
「い、いや、さっきのはしょうがなくない?」
「……」
「ご、ごめんって!謝るから無言やめて!」
・草
・草
・草
言い訳がましく言葉を吐こうとしたレイに瞳の圧力だけで訴えかけていたじゃしんだったが、やがて地面に落ちている羽を見つけると、じっと見つめた後拾いあげ、虫眼鏡を取り出して調べ始める。
「んん?いや、じゃしん多分こっちだよ?」
どう考えても正解は右なのだが、じゃしんはレイの言葉に返すことなく捜査を続ける。
「流石にこれでこっちじゃない訳なくない?だったら性格悪すぎ――」
「ぎゃう」
やがてじゃしんが指さしたのは、レイが向かおうとした通路とは反対の、左の通路の方であった。それを見て、得意げに話していたレイの顔が固まる。
・あれ?
・マ?
・レイちゃん?
「……え、これは私を騙すための嘘じゃなくて?」
「ぎゃう」
震えた声で投げかけた質問に、じゃしんは『なんでそんなことしなきゃいけないんだ』と呆れたような眼をしたため、レイは本当なのだろうと確信する。
「……あの烏ども馬鹿にしやがって……!」
思わぬ恥をかいたレイは頬を赤くしながらも、左の通路を歩き始める。溜めに溜めたフラストレーションをいかにしてぶつけようかと妄想しながら進む彼女が、一本道を抜けた先にあったのは。
・なんだこれ
・レッドカーペットみたい
・玉座?
同じ洞窟内とは思えないほどに、厳かな雰囲気をした空間であった。ごつごつと岩肌がむき出しだった壁はしっかりとした壁として磨き上げられており、正面奥にある玉座のような場所に続く形で深紅の岩が道のように続いていた。
「ここは一体……?」
一歩、足を踏み入れると同時に、バサバサと羽を羽ばたかせる音が大量に聞こえてくる。レイが顔を上げると、そこには三本足の憎き烏達がこちらを見つめている姿があった。
「ガァガァガァガァ!!!」
そして烏達は、共鳴するように鳴き始める。始めは威嚇しているのかと思ったレイだったが、どうやらそうではないらしく、むしろ何かを歓迎するような、称賛の声のように感じられた。
・なんだこれ
・何が起きてるんです!?
・レイちゃん!奥になんかいる!
「奥?それって――」
どこ。その言葉を発する前にレイもその存在を視界に捕らえ言葉を失う。夜空の見える円状に開いた頭上から、白色の小さな翼をはためかせ、ゆっくりと降りてくるそれを見つけたからだった。
それは、白い体をベースに赤いマントのような体毛に包まれていた。
頭上に金色の王冠を輝かせ玉座に着地した様は、まさに王と呼ぶにふさわしい。
だがその程よく丸みを帯びた嘴やまん丸のくりくりした目によってキュートさも兼ね備えている。
そしてはどこかの神を彷彿とさせる、ずんぐりむっくりな体型は誰がどう見ても――。
「ぺん!」
――どこからどう見ても、ペンギン以外の何物でもなかった。
[TOPIC]
MONSTER【ダイエンショウウオ】
巨大な体に大量の熱エネルギーを秘めたモンスター。可愛い顔に騙されるな。火傷するぞ。
熱獣種/炎蛙系統。固有スキル【発熱】。
≪進化経路≫
<★>火玉じゃくし
<★★>熱体イモリ
<★★★>フレイムフロッガー
<★★★★>ダイエンショウウオ
<★★★★★>フロムゴライアス




