4-13 火山の中は選択の連続
2021/04/16 内容を少し変更しました。
【枝分かれの溶岩洞】――β時代に発見され、未だ謎に包まれたダンジョンの1つである。
一番の特徴は数多の分岐点が存在するということであろうか。一度中に入れば二者択一の分かれ道を、無限とも思える回数行わさせられ、結果どこにも辿り着かないなんて言うことがざらにある。よしんば辿り着いたとしても、行き止まりだったり、反対側の出口に出たり、最悪の場合はモンスターハウスに辿り着いてしまう鬼畜仕様であった。
また、熱による環境ダメージが常時発生してしまう性質上、その対策が必須であったり……そもそも挑むためのハードルが高いことも相まって、『何かあるけど解明できてないダンジョン』として噂になっていた。
「何でよりにもよって……」
・ここでこの場所がくるか
・あちゃ~
・どうする?戻る?
縦横3メートルほどのさほど広くない入り口の前に、レイは面倒なことになったと言いたげに表情を曇らせる。
「ミスったかなぁ。これ、どう考えてもフラグ踏んでヒントもらってから来るやつ――」
ただそこで、普通とは違う状況にあることに気がついた。そのまま思考に没頭するように一人でぶつぶつと呟くと、とある仮説を立てる。
「ん、でも待てよ?今回の目的ってさ、烏を追いかけることだよね?……うん、これいけるかも」
・ん、どういうこと?
・あー、たしかに
・教えて教えて
「えっと、ここの厄介な所ってさ、『ゴールが見えない』って所と『環境ダメージのせいで時間制限がある』ってことだと思うんだよね」
視聴者の問いかけに対して、レイはひとつずつ順序だてて説明を始める。
「それで、まず『ゴールが見えない』っていうのは、烏っていう明確な対象がいる以上、今回は当てはまらない。私達にはじゃしんがついてるから、少なくともそいつらまでは辿り着けるだろうし」
「ぎゃう!」
ちらりと流し目で一瞥すると、『任せろ!』と言わんばかりにじゃしんが右手を上げる。それに満足げに頷くと、レイは説明を続けた。
『環境ダメージのせいで時間制限がある』ってのもこれでクリアしてると思うから何の問題もないかな」
そう言ってレイが取り出したのは、ワールドクエストのクリア報酬でもある【聖獣のお守り】であった。装備していたおかげで盗られなかったその首飾りを見て、視聴者も納得の声を上げる。
・あ~、それがあったか
・なんて良いタイミングで
・用意されてたみたいだな
「分かる。なんかこれ自体にワールドクエストっぽさがあるんだよね」
視聴者の声に同意するように頷いたレイは、ログイン前に集めた情報を視聴者にも共有する。【世界樹の実】に似たアイテムを持っていたプレイヤーが襲われたこと、そして現状【聖獣のお守り】と言う装備が有効であることもあり、曖昧な形だったものがどんどんと鮮明になっていく。
・なるほど、分かりやすい
・一理ある…
・ということはこれは『酉』?
「可能性は高そう。むしろここまでお膳立てされてて違う方がよく分かんないけどね。――ま、とにかく、進むしかないことは確かだよ」
一通り説明を終えたレイは覚悟を決めたのか、迷いない足取りで中に入っていく。
その中は全てが真っ赤に染まった洞窟だった。壁から所々に流れる溶岩、奥から通る風は熱風、耳にはコポコポと沸騰するような音――視覚、触覚、聴覚で感じられるすべてが『熱さ』というものを物語っている。
「ここが【枝分かれの溶岩洞】……私はそんなに熱くない――のはこれのおかげか。じゃしんは?」
「ぎゃ、ぎゃう……」
「あーごめん、聞くまでもなかったね」
そんな果てまで続く一本道を前に、レイは意外にも涼しい顔をしながらじゃしんに問いかける。一方で、何の対策も出来ていないじゃしんはだらんと体を弛緩させながら舌を出しており、すでに限界といった様相を呈していた。
「悪いけど我慢してね。【世界樹の杖】取り戻すためにも」
「ぎゃ、ぎゃう!」
それでも彼らは歩みを止めない。レイの言葉に自身を奮い立たせると、率先して前へと進むじゃしん。
・ここってモンスター出るんだっけ?
・出るぞ
・え?道中は出なくね
「そうだね、確か各広間に出るか出ないかとかそんなんだった筈――あ、見えてきたよ」
視聴者にコメントを返していたレイは、しばらく歩いた先に開けた空間を発見する。そこは直径50メートルほどの少し開けただけの空間であり、正面にある左右に分かれた道以外、特に目立つものは存在しなかった。
「ここでどっちかを選んでいくってシステムだね。で、次からの広間には何かモンスターが出たり、宝箱があったり、何にもなかったり……それは行ってからのお楽しみってやつ」
・なるほどなぁ
・本来は総当たりの運ゲーか?
・ここでじゃしんの出番ってこと?
「そういうこと。じゃしん、よろしく」
「ぎゃ、ぎゃう」
声をかけられたじゃしんはだるそうに体を動かしながらも、虫眼鏡と黒い羽根を取り出して【じゃしん捜査】を行う。そのまま虫眼鏡を通して黒い羽根と分かれ道を交互に見ながら、やがて右の道を指さした。
「――ぎゃう」
「右ね、了解」
そうして導き出した進路に向かって、レイは迷わず歩き出す。再び続く長い一本道を抜けると、先ほど見た広間と全く同じ光景が現れる――だが、そこには一つだけ違うものがあった。
「ピキィ!」
「マグマキューブか。これくらいなら――」
どうやらこの広間の主は中央で跳ねるスライムのようなモンスターだった。見慣れた姿に少しホッとしながらも、レイはアイアンナイフを構えて距離を詰める。
「よっと!」
「ピギィ!?」
一気に肉薄したレイはマグマキューブが動き出す前にナイフを振るう。縦に一回、振り下ろした後、分裂した体を薙ぎ払うように横に振ると、これ以上分裂は出来ないのか、マグマキューブはポリゴンとなり消えていった。
・お見事
・鮮やかだ
・流石、数多のマグマキューブを屠ってきた女
「いや人聞き悪くない?――っと、そんなことよりじゃしん、クールタイム終わった?」
「ぎゃう」
その問いかけに頷きながら虫眼鏡と羽を取り出すじゃしん。少しだけ元気がなさそうな様子に申し訳ない気持ちがするレイだったが、今回の要である以上、頑張って貰う他ない。
「このまま何事もないといいけど……」
・どうかなぁ
・まぁ無理
・絶対何かあるぞ
願いも込めて呟いた言葉は即座にコメントで否定される。残念ながら、レイにとっても同意見だった。
[TOPIC]
WORD【環境ダメージ《熱》】
効果①:継続ダメージ(1+a/10sec)
※aは10秒経過につき1上昇




