1-6 月夜の乱入者
なんと、ジャンル別日刊ランキングに本作の名前が…!!
これも見てくださってる皆様のおかげです。本当にありがとうございます!
これからも頑張って投稿してきますので、よければお付き合いください
「いたいいたい、頭を叩くのやめてって」
「じゃしんくん、ごめん」
爆破検証が終わってから数分間、じゃしんは無言でレイの頭を叩いていた。
別に痛みは無いため甘んじて受け入れていたレイだったが、いい加減鬱陶しくなってきたのでじゃしんに文句を言って止める。
「クッキーあげるから機嫌直してほしい」
「………ぎゃう」
・ちょろ
・ちょろ
・ちょろかわ
しばし固まった後、しょうがないなと言った様子でクッキーを受け取るじゃしん。明らかにクッキーにつられたのが見え見えだった。
「よし、これで丸く収まったってことで」
「ぎゃうぎゃう!」
何とか誤魔化そうとしたレイだったが、残念ながらそうは問屋が卸さないようで、じゃしんはまだ話は終わってないと言わんばかりに騒ぎだす。
「ちっダメか……いい、じゃしん。よく聞いて?」
「ぎゃ、ぎゃう?」
急に真剣な顔つきになったレイにじゃしんは思わずたじろぐ。そのまま諭すような口調でレイは語りかけた。
「先に言っとくけど、私はやめる気ないから」
「ぎゃう!?」
「今後強い攻撃技が出るようなら考えるけど。安定供給出来るようになったら多発するよ。約束してあげる。恨むなら召喚に応じた自分を恨むように」
「ぎゃうぎゃうぎゃうぎゃう!!!」
じゃしんは納得できないのかレイの肩をゆすりながら思いっきり抗議し始める。レイはそれをどこ吹く風といった様子で無視すると、まったく気にする素振りを見せずに再び歩き始めた。
・草
・いや完全に親子じゃんwww
・めっちゃ仲いいやん
・レイママぁ…
「だからママっていうな。――ウサはこれからどうするの?」
「これから?」
コメントに文句言いながら、レイはウサに対して問いかける。
「そう。私たちはこれからレベル上げするから、もうちょっとここにいるつもりだけど」
「ぎゃう!?」
じゃしんは『そんなこと聞いてないぞ』と言いだげに心底驚いた表情を見せる。ただレイは一瞥すらせずに話を進めた。
「私は……一度ログアウトする」
「ん、了解。じゃあここでお別れかな。色々と助かったよ」
レイがお礼の言葉を口にすると、ウサは何か思い出したようにあ、と呟いて何かを差し出す。
「はいこれ」
「ん?」
「【時限草】。今持っているのはこれだけ。欲しかったらまた取りに来て欲しい」
そう言って【時限草】を5つ渡そうとするウサ。確かに喉から手が出るほど欲しいアイテムだったが、レイは困ったように笑ってそれを拒否した。
「うーん、これは受け取れないよ」
「でも……」
「分かった。じゃあ今回は受け取るけど、こういうのはもうしないで欲しいかな。私たち友達でしょ?」
「友達……」
そもそもレイはそういう行為を毛嫌いするタイプであり、ましてや彼女にとって既にウサは友達のつもりだった。
そのため余計に罪悪感を感じてしまうものの、ただウサの力になりたいという気持ちも無碍にできず、何とか妥協案を出すことにする。
「わかった。でもまた遊びに来てほしい」
「それは勿論。あ、そうだフレンドになろうよ!」
フレンド交換を済ますと、今まで無表情だったウサの口角が少し上がる。それに気付いてレイも自然と笑顔になった。
「じゃあそろそろ行く」
「うん、またね」
・てぇてぇなぁ…
・てぇてぇ…
・てぇてぇわ…
・ありがとうございます…
別れの挨拶を済ませるとホワイティアの街に向かってウサが歩きだす。やがて彼女の姿が見えなくなるまで見送ると、よしとじゃしんのほうに向きなおった。
「じゃあこれからちょっとでもレベル上げようの会を開始するよ!」
「ぎゃう!」
「私はひたすらに戦う、君はそこらへんで遊んでて!」
「ぎゃう!?」
「それじゃあ、解散!」
◇◆◇◆◇◆
「ピギ!」
「ッ!そこ!」
「ピギ!」
地面を右に左に飛び回る【ステップラビット】の動きを完全に見切りながら、攻撃のタイミングに対してその杖を叩きつけ的確なカウンターを決める。
想定もしていなかった一撃を浴びた【ステップラビット】はたまらず悲鳴を上げ、そのまま地面に倒れるとポリゴンとなって消えていった。
「グアー!」
「あまいよっと!」
一息つく間もなく空から【フライダッグ】が襲い掛かるが、レイはまるで後ろが見えているかのように攻撃を避けると、先ほどと同じ要領で杖を当てる。
「グエェ……」
顔面に杖を当てられた【フライダッグ】はその場で墜落する。一撃では倒せなかったようだが、もう一回杖を叩きつけることで無事にポリゴン化させた。
・お見事!
・さすレイ!
・ビューティフォー…
・レイちゃん、めちゃくちゃセンスいいよね
「ふぅ。いや~、ありがとありがと」
コメント欄を見てレイは照れたような笑みを浮かべる。視界の端ではじゃしんと【ステップラビット】がまたまた泥仕合を繰り広げているのが見えた。
「まぁ、【スカルドラゴン】に比べたら余裕かな」
・草
・それは強い
・圧倒的強者発言
・レイちゃんだけなんだよなぁ…
呆れたようなコメントに声を出して笑ったレイだったが、表示されたウィンドウを見てため息をついた。
[0の経験値を獲得いたしました]
・やっぱだめか
・じゃしんどんだけ経験値喰い虫なんだよ
『ToY』の仕様として、経験値配分はレベルが低いプレイヤーへと優先的に割り振られる。
ただ同レベル帯の場合、必要経験値の多い者に優先して分配されるというものがあった。
例えば、プレイヤーAが次のレベルアップまで100、プレイヤーBが1000必要だとする。
この状況で【スライム】を倒して100の経験値を得た場合、それぞれに50ずつ均等に分配されるのではなく、プレイヤーBだけが100が貰えるというものだ。
パワーレベリングをある程度防ぐ目的で設定されている仕様であるが、当然召喚獣にもこのシステムは適応されており、今回のように0となるのはじゃしんの必要経験値がとんでもなく多いことを示していた。
「う~ん、もっとおいしい奴いないかな?」
あまりの効率の悪さに途方もない気持ちになったレイは視聴者に何かいい案がないか尋ねる。
・うーん、ここらへんだと厳しいかも
・レイちゃんならもうちょっと奥いけそうだけどね
・いっそのこと次のエリアまで行く?
「それもありかなぁ?」
「ぎゃう~!」
どうしようとレイが悩んでいると、突如としてじゃしんが叫び声をあげながらレイの後ろへと隠れる。
「え?ちょっと何どうしたの――」
・あ
・あ
・あ
・あ
じゃしんが来た方に向いたレイは言葉を失い、コメント欄もまた凍り付く。
そこには【ステップラビット】がいた。――普通の個体より2回りほど大きく、片目に切り傷がついているという付加価値もついていたが。
[warning!!!]
ボスモンスター出現
・ビッグフット ★★★★★
「……とんでもないの連れてきたね」
「ぎゃう……」
ドシンと重量感の感じる足音とともにこちらに近づいてくる姿を目に収めると、申し訳なさそうに目を伏せるじゃしんの頭をわしゃわしゃと強めに撫でる。
「ガォォォオオオオ!!!!」
おおよそウサギとは思えない咆哮がこだまする。今まさに一方的な戦いが始まろうとしていた。
[TOPIC]
WORD【フレンド】
メニューにある『フレンド』の欄から申請及び承認を行うことで登録することが出来る。
フレンドになるとログイン中かどうかの判別、位置情報、フレンドコールなどが行えるようになる。




