4-10 ついに時代が追い付いた?
『レベルが上がりました。ステータスを確認してください』
「お」
・キター!
・ようやくか~
・結局何時間やったんだ…?
ようやく区切りを告げるアナウンスが鳴り、見ていただけの視聴者から疲れたようなコメントが上がる。ただ、動いていた本人はケロッとした表情をしていた。
「あれ?もう上がった?」
・もうって…
・6時間くらいやってますよ?
・そろそろアラームなるのでは?
「うっそ、そんなに経ったの?……とりあえず全部処理しとくか」
本気で驚いたように目を丸くしたレイは、50体ほど残っているマグマキューブに対して、【魔法のじょうろ】を使い水をかけていく。
やがてすべてのマグマキューブを消滅させると、汗をぬぐうように腕で額をぬぐった後、視聴者に語り掛けた。
「いや~、お疲れお疲れ。今日はそんなにやるつもりなかったんだけどなぁ。でもみんなももっと早く教えてくれても良かったんじゃ――」
・本気で言ってる?
・全くコメント見てなかったのに?
・流石にないわ
「ご、ごめんごめん!冗談です、私が悪かったです!」
時間を忘れて没頭していたことを視聴者に責任転嫁しようとしたレイだったが、思ったよりも強い言葉で返され、慌てて頭を下げる。
・こんな謝罪で許されるとでも?
・配信者なのになぁ
・ずーッと無視されてて悲しい…
「い、いや~……と、とりあえず今日は遅いしステータス確認して寝ようかな!」
それでもなお追及するような視聴者のコメント。それ誤魔化すように声を張り上げたレイはワタワタとウィンドウを操作し、自身のステータスを確認した。
「増えたスキルは一つだけか……どれどれ?」
SKILL【邪ナル封具《神隠》】
敬虔なる信徒はその縛りに謝辞を述べ、全知全能の目を手に入れる。
効果①:重度の視界阻害
効果②:発動していた時間に応じてチャージ(1/1sec)
効果③:SKILL【封神邪眼】
・チャージ?
・邪ナルシリーズかぁ
・嫌な予感しかしないけど……?
スキルを見た瞬間に視聴者から不安のコメントが上がる。レイもおおむね同じ気持ちだったが、それでも無視をするという選択肢は存在しなかった。
「――よし、使うよ。準備は良い?」
・おけ
・気を付けてね
・何があるか分からんからな
「大丈夫、流石に死んだりしないでしょ……多分」
そう答えながら、レイは意を決してスキルを発動する。その瞬間、目の前に黒い光が集まったかと思うと、レイの目元に向かって飛び掛かった。
「うおっとぉ!?」
・!?
・レイちゃん!?
・大丈夫!?
バチーンと、派手な音を響かせながら直撃した黒い塊は、黒い布のようなモノを形取り、そのまま彼女の顔に張り付く。倒れ込まなかったものの、その勢いにレイは混乱を隠せないでいた。
「え、何!?何が起きたの!?!?何も見えないんだけど!?」
・レイちゃん目!
・顔顔!
・なんかついてるよ!
視聴者の指摘は見えていないものの、確かに目の部分にひっ付いた何かが彼女の視界を遮っている事に気が付く。ただ視界は真っ暗なため確認する術はなかった。
「ちょ、これどうなってる!怖い怖い怖い!」
・可愛いかよ
・なにこれ欲しい
・商品化希望
両手を前に突き出して、こけない様にバランスをとるも、腰は完全に引けており、傍目からすれば酷く情けない恰好になっているレイ。一方で何故か盛り上がっているコメント欄。
「そ、そうだ!確かスキル発動すればいいのか!?」
終わらない暗闇の中でレイは先ほど見たスキルの効果を思い出す。そして藁にも縋る思いでそのスキルを口にした。
「えぇい、ままよ!【封神邪眼】!」
レイが叫ぶと目についた何かがボウッと音を立てて発火し、レイの視界が一気に開ける。
・あぁ、もったいない……
・青い炎……
・カッケェ……
・レイちゃん好きそう
「炎って――あぁこのちらちら映るのはそれか」
ようやく見えたコメントにきょろきょろと辺りを見渡すとレイの視界の端に青い火の粉が待っているのが見え、全貌は分からないが悪くないんだろうなと満更でもない気持ちとなった。
「あ、スキルの効果見えるようになってる」
そうして流れるコメントを横目にレイはステータスを開くと、現在発動しているスキルの詳細を見つける。
SKILL【封神邪眼】
『尊キ御方』に与えられたその力は、代償と共に刻印を刻む。
効果①:対象に【封神の刻印】を付与
※チャージ時間を消費
STATE【封神の刻印】
効果①:HP及びMPの回復不可
「なるほど、悪くないな」
その効果を目にしたレイは感心したようにふむふむと頷く。
視界が奪われる以上、使いどころは難しいもののその効果は使いどころによっては有用であり、使える部類のスキルであることに思わず笑みが零れる。
「何より強制系じゃないのがいいね。それに恰好いいし」
・それはそう
・それだけで喜ぶのもハードル低くね
・でも発動前ちょっと間抜けやぞ
「いやそれは私から見えてないしノーカンで」
視聴者と感想を言い合いつつも数秒後、炎が完全に消えたのを確認したレイはふとじゃしんのことを思い出す。
「あ、そうだ。じゃしんもレベル上がってたよね」
ほったらかしにしていたことに怒っているんだろうなと思いつつも、とりあえず先にステータスを確認する。
=======================
NAME じゃしん
TRIBE【神種Lv.4】
HP 666/666
MP 666/666
腕力 666
耐久 666
敏捷 666
知性 666
技量 666
信仰 666
SKILL 【じゃしん結界】【じゃしん賛歌】【じゃしん捜査】
SP【別世界ノ住人】【摂理ノ外側】
========================
SP【摂理ノ外側】
『尊キ御方』に縛りなど存在しない。すべてが自由に、そして『尊キ御方』の物なのだ。
効果①:アイテムの装備が可能
「へ~、普通に有能じゃん!」
・いいね!
・あれ、これあの杖装備できるんじゃ…
・条件満たしてたしな
『ToY』の世界では、【世界樹の杖】のようにただただ荷物として持たせることは可能なのだが、本格的に召喚獣に装備を渡すことが出来ない仕様になっている。
その制約が取り払える以上、じゃしんの高いステータスも相まって、出来ることがかなり増えたことに気が付いたレイは、満面の笑みでクックックと喉を鳴らす。
「やばい、遂に時代が私に追いついてきたかも……とりあえず【世界樹の杖】を装備させてあげて、機嫌を直してもらおっと」
・ついに来たか…
・いや、普通の人には厳しいままなんすよ
・そんなので機嫌直すかなぁ
「ははは、大丈夫でしょ。なんだかんだ言って単純――」
視聴者に軽口を返しながら、レイは放置していたじゃしんの姿を探す。きょろきょろと辺りを見渡して、しばらく離れた場所に彼の姿を見つけると――思わず絶句した。
「ガァ!ガァ!」
「ぎゃうっ、ぎゃうっ」
――そこには、複数のカラスにたかられて、うずくまっている相棒の姿があった。
[TOPIC]
ITEM【魔法のじょうろ】
駆け出し農家御用達の便利道具。中にある魔石によって微弱な水魔法を半永久的に発生させている。
効果①:水魔法生成




