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4-9 先人の知恵は素晴らしい


「ぎゃう……」


「お、こっちにもあるの?いいねいいね!」


 とぼとぼと疲れたように歩くじゃしんが指さす先に、赤色の草が自生しているのが見て取れる。それに向かってレイは笑顔で向かっていくと、遠慮なく毟り取って腰にあるカバンに入れた。


『【時限草】を2つ入手しました』


「これで70個か。中々良いペースだね」


・どれくらい集める予定なの?

・でももう1時間くらいやってるよ…?

・じゃしんの目が死んでいく…


 ホクホク顔で呟くレイに視聴者からかなり呆れたようなコメントが飛び交う。しかし、それをものともしないどころか、キョトンとした顔で言葉を返した。


「え?全然足りないけど?最低4桁は欲しいかな」


「……ぎゃうっぎゃぅぅ」


・あー泣いちゃった!

・これは本当にかわいそう

・きょうじんについてしまったのが間違いか…


 至極真面目な顔をしながら当たり前のように言葉を吐くレイに、じゃしんはついに膝から崩れ落ちると、両手で顔を覆って泣き始める。


「大丈夫大丈夫、一日100ずつにする予定だから!ゆっくりできる範囲でやってこ!」


・いやそういうことじゃなくね?

・全然優しくないんよ…

・言ってる事がブラック企業のそれ


「――ぎゃきゃっ」


 笑顔で励ますその様が余計にじゃしんを追い詰めたのか、壊れたように乾いた笑いを繰り返すじゃしん。体を揺すっても反応がないのを確認すると、レイはため息を吐きながら立ち上がる。


「ダメだこりゃ。しょうがない今日は終わりかな」


・今日は終わり?

・じゃしん、ゆっくり休め…

・地獄は続くがな!


「地獄て。寧ろ楽するためにやってるんだよ?……まぁでもじゃしんがこの調子だし、流石に終わり――」


 そうして配信を閉じようとしたレイだったが、目の前を通り過ぎようとしたモンスターに目が止まった。そこにはスライムのような体でぴょんぴょん跳ねる、赤色のモンスターの姿があった。


「あれってマグマキューブだよね?」


・だね

・お、やるか?

・何するの?


「さっき言ってた【マグマキューブ連鎖】。練習がてらちょっとやってみようかな?」


 ふと思いついたレイは時間にまだ余裕がある事を確認し、準備運動するように腕を回す。


「えーと、先ずは武器を斬撃系に変更して……」


 ネットで調べた情報を元に、あらかじめ用意してきた【アイアンナイフ】に装備を変える。そのままこちらに気付いていない赤色のスライムのようなモンスターに斬りかかった。


「ピギィ!?」


 攻撃を受けたマグマキューブは短い悲鳴をあげると、身体が真っ二つに裂ける。ただし、そのままポリゴン化する訳ではなく、一回り小さくなった状態で2体に分裂した。


「うん、これで第一段階完了かな?」


・そうだね

・じゃあ次は溶岩に落とそう


「おっけぃ。よっと」


 コメントの指示通りに、ぴょんぴょん跳ねるマグマキューブを蹴飛ばすと、溶岩の中に放り込む。分裂したもう一体も溶岩に落とすと、確認を取るように視聴者に声をかけた。


「これで後は待つんだよね?」


・そそ

・すぐ浮き上がってくるはず

・これどうなるんです?


「了解。ま、見てれば分かるよ」


 知っている視聴者と知らない視聴者で反応が異なる中、レイがじっと溶岩の池を見つめていると、やがてぴょんぴょんと跳ねながら陸に戻ってくる二体のマグマキューブの姿があった。


「お〜、本当だ。()()()()()()()()()()()。後はこれを繰り返せば無限に増殖するってことでいいのかな?」


・なるほど、そういうことか

・そうそう

・思いついた人頭いいな


 その光景に感心したように頷くと、再びマグマキューブに切りかかる。要領を掴んだレイは、何度も何度もマグマキューブを増殖させ、やがて100を超えたあたりで一度距離を取った。


「こんなもんでいいかな。んで次は――」


 辺り一面がマグマキューブだらけになっている最中、レイはアイテム欄よりとあるアイテムを取りだす。


・それは?

・じょうろ???

・勝ったな


「そ、【魔法のじょうろ】。本当は農業する人が買う、水汲みいらずの便利アイテムなんだけど――」


 手に持ったじょうろの説明をしながらにやりと笑ったレイは、鼻歌交じりでマグマキューブに近づいていく。そのままマグマキューブの上でじょうろを傾けると、先端からちょろちょろと水が零れ出し、下にいたマグマキューブを濡らしていく。


「ピギャァ……」


 水を浴びたマグマキューブは、弱々しい悲鳴と大量の蒸気を発生させながら、どんどんと小さくなっていき、やがて完全にその姿が消滅する。


『経験値0を獲得しました』


・あれ、経験値入った?

・これ不思議だよな

・最後攻撃で倒さないといけないんじゃないの?


 突如響き渡ったアナウンスに対して、視聴者から疑問の声が上がる。本来の経験値システムであれば、最後に攻撃した者に対して経験値が割り振られる仕様であり、【溶岩風呂式レベルアップ法】のように環境ダメージ等を利用する場合は注意する必要がある――のだが。


「いや~、一応コレ()()()()らしいんだよね。本来ならダメージないから意味ないんだけど――」


 説明を続けながらせっせと水を撒くレイ。その間にもマグマキューブは悲鳴を合唱させながら次々と溶けていく。


「マグマキューブって、水魔法とか使うと一発で倒せちゃう変わったモンスターなのね?だから、例え0ダメージでも、水に当たったら倒せる仕様みたい」


 最後に『私も受け売りだけど』と付け足しながらも、だんだんと楽しくなってきたレイは無我夢中で水を撒く。何重にも重なったアナウンスが響き渡る中、3桁ほどいたマグマキューブが残り一体になったのを見て、慌てて手を止めた。


「おっと、危ない。最後の一匹は残してループさせるんだよね?」


・そうそう

・はえ~すっごい

・思いついた人天才でしょ


「ね。凄いよね。――さて、経験値はどうなったかな~と」


 ひとまずワンセットを終わらせたレイはその成果を確かめるためにウィンドウより『ログ』を確認する。ほとんどが『0』の表記であったが、下の方に1つだけ『1』の文字があり、今の十数分だけでしっかりと成果があったことにレイは思わず目を見開く。


「これが【マグマキューブ連鎖】……まだ時間あるよね?ちょっともう一回……」


・あっ(察し)

・これは周回ルートですねぇ

・マグマキューブ君にげてぇ!


 味を占めたレイは再び【アイアンナイフ】を握るとじりじりとマグマキューブに近寄っていく。その先ではまるで捕食者に睨まれてたかのように、四角い体をプルプルと震わせる赤いスライムの姿があった。


[TOPIC]

MONSTER【マグマキューブ】

スライムが環境に適応して変異した姿。熱くはあるが、強くはない。

熱獣種/溶液系統。固有スキル【溶岩再生】。


≪進化経路≫

<★>マグマキューブ

<★★>マグマドン

<★★★>ラーヴァスネイク

<★★★★>溶龍燈

<★★★★★>溶岩坊主

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― 新着の感想 ―
[一言] マグマキューブってスライムが進化(生物学的な意味で)したやつなんですね。他にどんな種類があるんだろ?コレクターの血が騒ぎます。
[一言] 合掌 ご冥福をお祈りします
[一言] 四角くてぴょんぴょん跳ねて分裂するマグマキューブ… マインしてクラフトするゲームが頭に浮かぶなぁ
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