4-8 最効率を求めて
荒廃した大地にて、人の形をした石の塊が我が物顔で闊歩している。
その名を【ストーンマン】。へイースト火山にて最もポピュラーな存在であり、物理に強く魔法に弱いというある意味分かりやすいモンスターでもあった。
こつん
「……?」
そんなモンスターに喧嘩を売るように石をぶつける人物――いや召喚獣がいた。
「ぎゃうぎゃ~う」
「……」
ストーンマンの視界が向いたのを確認したじゃしんは、おちょくるように体を左右に揺らしながらあっかんべーをする。それに触発された――という訳ではなく、ただ単に敵と認識したようで、真っすぐじゃしんに向かって歩いてきた。
「ぎゃう~」
ゆっくり、ゆっくりと、それこそ歩きでも逃げ切れそうな速度で一歩ずつ歩いてくるストーンマンに、じゃしんは鼻歌でも歌うくらい余裕そうにぷかぷか浮きながら、溶岩の池を挟むように位置を変えた。
「……」
それでもお構いなしに前進するストーンマンは遂に溶岩の池に足を踏み入れる。すると、進軍がさらに遅くなったばかりか、頭上のHPバーをみるみる減らし始めた。
このままでは自滅する――そう思われたタイミングで横やりが入る。
バンッ!
その命の灯が途切れる瞬間、一発の発砲音が響き渡る。放たれた弾丸はストーンマンの眉間に突き刺さると、HPバーを削り切ってポリゴンに変えた。
『経験値を入手しました』
『【神官】のレベルが上がりました。ステータスより確認して下さい』
「よし。レベル3っと」
・おつ~
・効率はまぁまぁか?
・そだね、普通って感じ
レイがふっと銃口に息を吹きかけていると、先ほどまでの狩り――【溶岩風呂式レベルアップ法】に対するコメントが流れ、それに便乗するように自身の考えを口にする。
「事故が少ないっていうのは魅力的だけど、そもそもストーンマンがリポップするまで待つ時間がロスだし、その労力に対して貰える経験値も大して美味くないかなぁ。そのくせタイミングがズレたら経験値ももらえない可能性があるのは……うん、これはなしだね」
・そだね
・まぁだろうな
・そもそも初心者向けだしね
今回試したのはネットで見つけた『効率的なレベル上げ方法』と銘打たれた動画の一つであった。視聴の段階で何となく察してはいたものの、やはりどこか物足りないと感じてしまうレイ。
「やっぱり【マグマキューブ連鎖】するのが1番かな。そのためには準備も練習もしなきゃだけど」
そう結論付けたレイはくるくると回しながら【Creccent M27】をホルスターにしまう。そこに役目を終えたじゃしんが羽を羽ばたかせながらレイに近寄ってきた。
「じゃしんもお疲れ様。とりあえずこの方法はおしまいになったからよろしく」
「ぎゃう~」
労わりの言葉に手をひらひらと振りながら返事をするじゃしん。その間に視聴者から指示を飛ばすようなコメントが殺到する。
・そんなことよりステータスはよ
・気になって夜しか眠れません!
・ステ確認ステ確認ステ確認
「はいはい、大丈夫忘れてないって」
コメントにおざなりに答えたレイは手慣れた手つきでウィンドウを操作すると、いつもの様にステータス画面を表示する。
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NAME レイ
MAIN 【邪教徒Lv.3】
SUB 【神官Lv.3】
HP 70/70
MP 170/170(70+100)
腕力 10
耐久 10
敏捷 60(10+50)
知性 10
技量 10
信仰 640((170*2)+100+100)
SKILL 【邪ナル教典】【祈り】
SP【敬虔ナル信徒】【自己犠牲】【通過儀礼】
【精霊の加護】【両利き】
BP 0pt
称号 【月光組織の一員】【聖獣の良き隣人】【世界樹に寄り添う者】
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・変わったのはスキルと称号か
・結構ステータス上がってるな
・上げたBPは共通だからね
「そそ。入手したBPって職業に紐づいてるから、変更したとしても入手したBPはそのままだし、戻した場合は上げたところから再開できるんだよね」
ステータス画面を見た視聴者による疑問の声に対して、レイは知っている情報をかいつまんで説明しながらも、レイは新しく追加されているステータスに目を通す。
SKILL【祈り】
信仰は、神へ祈ることから始まる。
CT:60sec
効果①:リジェネ効果を付与(信仰*0.01/1sec)
SP【精霊の加護】
祈りを捧げる者に、精霊は集う。
効果①:自身が発動する回復効果を増幅(1.5倍)
「この辺が神官の職業スキルかな。目的は10――少なくともレベル5でとれるスキルだからパス。後はワールドクエストで手に入れた奴だけど」
効果の薄いスキルは程々に、確認していなかったワールドクエスト報酬に目を向けるレイ。
称号【世界樹に寄り添う者】
世界樹の守護者の仲間として共に大切な者を救い出した証。
取得条件:ワールドクエスト【愛しき人にその手を伸ばして】をクリア
効果:未取得アイテムの効果を判別可能
・鑑定じゃん
・商人スキルにあったよなこんなの
・外れか?
「いや、商人じゃなくても使えるなら当たりでしょ。職業一つ自由になるようなもんだし」
もはや恒例となりつつあるスキル品評会だったが、レイの背後で暇そうにしていたじゃしんが我慢の限界を迎え、レイにちょっかいをかけ始めたことで強制終了させられる。
「ぎゃう~?」
「ん?あ~ごめんごめん、暇にさせちゃったね。よし、じゃあ仕事を上げよう」
「ぎゃう!」
仕事、という言葉にやる気を漲らせたじゃしんは今か今かとその内容を待つ。その間にレイはウィンドウを操作して、とあるアイテムを取り出した。
「はいコレ」
「ぎゃう?」
取り出されたのはそれはそれは赤い色をした草だった。それを押し付ける形でじゃしんに渡すと、いい笑顔をしながらサムズアップをするレイ。
「じゃ、【じゃしん捜査】で【時限草】の場所調べて。乱獲しに行くよ!」
「……」
・うわっ、びっくりした
・急に戻るなw
・嫌なんやろなぁ…
その瞬間、すんとじゃしんの顔が真顔に戻る。そのあまりの落差に視聴者から突っ込みが入ったが、レイはそれに構わず、渡し返された【時限草】をさらに押し付けながら笑顔で続ける。
「いやいやいや、今更やらないは通用しないかなぁ。やる気あるんじゃなかったの……!」
「ぎゃう……!」
そのまま意地になった二人による【時限草】の押し付け合いが始まる。しばらくの間、あまりにも醜い攻防が続いたが、やがてじゃしんが先に折れると、恨みがましそうにレイを睨みつけながらいそいそと虫眼鏡を取り出した。
「うんうん、やる気になってくれて良かったよ!」
・これは悪魔
・さすきょう
・よし、いつも通りだな!
視聴者からの非難もどこ吹く風と言った様子で笑顔になったレイは、のそのそと動き始めたじゃしんの背中を急かすように押していく。
「じゃあレッツゴー!」
「ぎゃう……」
まさに主人と奴隷と言った様子の二人は、次の目的のために移動を開始する。――監視するように睨みを利かせていた、赤い双眸に気付くことなく。
[TOPIC]
MONSTER【ストーンマン】
所詮は石。人の姿なれども意志はない。
鉱石種/鉄人系統。固有スキル【硬化】。
≪進化経路≫
<★>ゴロゴロン
<★★>ストーンマン
<★★★>アイアンナイト
<★★★★>アイアム・ゴルドー
<★★★★★>ミスリル・ギアード




