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4-7 巫女と総帥ときょうじんと


 まるで時が止まったかのように感じる長い時間。だが実際には数秒ほどの時を経て、はっと意識を取り戻したギークは露骨に顔を歪める。


「『きょうじん』め、次は何を企んでるんだ?」


「あ、企んでるのは前提なんだ」


・えぇ…

・理不尽が過ぎる

・この人実はポンコツじゃね?


「チッ、ただでさえ立て込んでいるというのに……余計なことをするようなら容赦はせんぞ」


「いや、別にするつもりも――」


「ちょっと、クーくん」


 ひたすらに敵意を向けてくるギークに困惑しか感じないレイ。なんとか弁解しようと口を開いたが、自身の後ろから感じる尋常じゃないプレッシャーを前に、思わず閉口する。


「女の子になんて口きくんや。うち怒んで?」


「……ココさん、その呼び名はやめて下さい」


「何でそんなこと言うん?随分と偉くなったもんやなぁ」


 まるで面倒な事になったとでも言いたげな態度がギーグからひしひしと感じられるが、ココノッツからニコニコと笑顔で詰められ、押されるように後ずさる。


「何があったのか知らんけど、そんな態度取るなんて許されへんよ」


「えっ、本当に知らないんですか?」


・あんな話題になったのに?

・ギークとも知り合いっぽいのに?

・そんなことある?


 笑顔のまま怒ると言う器用な態度を取るココノッツの言葉にレイと視聴者が怪訝な瞳を向ける。それに対して補足を入れたのはギークだった。


「……この人は機械音痴なんだ。パソコンはおろか携帯すらガラケーを使ってるほどのな」


「えぇ、今時そんな人が……?」


 疲れたようにそう説明するギークに、レイが俄かに信じがたい表情を向ける。だが、こんな所でギーグが冗談を言うとも思えず、目の前でおっとりとした笑顔で首を傾げてる様子を見ると、本当でもおかしくないとさえ思えてきた。


「え~と、じゃあ何でココノッツさんはこのゲームを?」


「あぁ、トーカちゃんに誘われたんよ。そしたら意外とハマってしまってなぁ」


「トーカ……?」


 不意に出た人物名にレイは引っ掛かりを覚えてポツリと呟く。


・誰それ?

・確かセブンと引き分けた人

・まじ?そんな化け物が他にいるの?


「あー、いや、でももっと違う所で聞いたような……」


 視聴者の言葉にレイがそういえばと思い出したが、それで胸の突っ掛かりが取れることはない。その後も何とか記憶を辿るが、喉元まで出てはすぐに引っ込んでいき、答えに辿り着きそうにもなかった。


「レイちゃんトーカのこと知っとるん?」


「いや、気のせいかも……どんな人なんですかトーカさんって」


「どんな人かぁ、世界一カッコええ女性ってのがしっくりくるなぁ。後はクーくんの――」


「ココさん、リアルの話はご法度ですよ」


 放っておけば全部話してしまいそうな様子のココノッツをギークはやんわりと嗜める。


「あ、忘れとった。ほなこれ以上はかんにんな?」


「いえ、それは大丈夫ですけど……じゃあココノッツさんも【WorkerS】のメンバーなんですか?」


「いやいや、うちは攻略とか興味ないんよ。それにほとんどこの街から出ることもないしな」


 レイの質問にふるふると首を振ると、目を細めながら人の往来する街並みを見渡すココノッツ。


「この町すごいと思わん?どこからどう見てもゲームになんか見えへんし、一人一人生きとるみたいや。せやから、うちもこの町の一人として過ごしてみたいなぁと思ったんよ」


・あー分かる

・ちょっともったいない気もするけどね

・スローライフみたいな考え方か


 そう説明しながらも、愛おしいものを見るような柔らかい笑みを浮かべる様子に、視聴者からは同意の声が上がり、レイも思わず笑顔になる。


「素敵な楽しみ方ですね」


「うふふ、おおきに。あ、そうや、クーくん。レイちゃんにもあの話しておいたら?」


「だからその呼び方は……はぁ、まぁいいでしょう」


 ふと思い出したかのようにココノッツが声をかけると、やれやれと首を振ったギークが眼を鋭くさせながらレイに話しかける。


「貴様は【DA・RU・MA】というクランを知っているか?」


「……流石にね。超有名なPKクランだから」


 その名前にレイも警戒するように目を細める。それほどまでにその名は有名であり、掲示板を巡るうえで嫌と言うほど目にしてきた名前だったからだ。


「連中がこの町に集まりつつあるらしい。それも監獄から脱獄したPKプレイヤーの多くを仲間にしながらな」


「何しようとしてるか分かってるの?」


「それを調べてる。貴様ならよっぽど大丈夫だと思うが、用心しておけ」


「ん?意外と優しいんだね」


 意外にも心配するような言葉にレイは目を丸くすると、それが癇に障ったのか鼻を鳴らして言葉を返すギーク。


「勘違いするな。今でも貴様やセブンのせいでこのゲームが終わりかねないと思ってるし、貴様らがいなくなればまた平和が戻ると本気で信じてる」


・はいはい

・それが間違いなんよなぁ

・お?やんのか?


 ケンカ腰の態度に、コメント欄がヒートアップするも、ギークは冷静に流し見するだけで、まともに取り合わない。


「だが、奴らはゴミだ。それこそ、比べ物にならないほどにな。他人から搾取することだけが生き甲斐のような腐った連中に、このゲームが汚されるのは許せん」


・お、おぉ…

・やるやんけ…

・かっこいい(トゥンク)


 そうして続けられた言葉と決意の籠った視線に、勢いが削がれ、手のひらを返す視聴者達。


「それに、貴様らにはまだ借りを返せていない。必ずやり返すから覚えておけ。――特にあの女にはな……!」


・あぁ、それが本音ね

・んだよ、さっきの感動返せや

・はい、解散


 そして最後に憎しみの籠った表情に戻ったギークに対して、またしても手の平を返すコメントが溢れた。その一連のやり取りに思わず吹き出してしまったレイは、体裁を保つように、一度咳払いをする。


「こほん、な、なるほどね。ありがとう、気をつけるよ」


「……なぁ、貴様はまだクランに入っていなかったよな?今からでも【WorkerS】に――」


「ごめん、それはパス」


 レイの返答に我に返ったのか、急に真面目な表情になったギークは勧誘を試みる――もレイはそれを最後まで聞くことなく一蹴した。


「それは私のやりたいプレイじゃないから。それに、今更みんなが許してくれないしね」


・そうだそうだ!

・お前のようなやつにうちの子はやらん!

・おとといきやがれ!


「――ふん、まぁ聞いてみただけだ。次会った時は覚えておけ」


 大方予想はついていたのだろう、少しだけ落ち込んだ様子を見せたものの、いつもの仏頂面に戻ったギークは踵を返して立ち去ろうとする。


「あ、クーくんちょっと待って」


「……ちょっと、今いい感じで話がついたんですから」


 が、そこで空気の読めない巫女(ココノッツ)から待ったがかかり、立ち止まったのを確認すると、今度はレイに向かって話しかけた。


「レイちゃん、フレンド登録せぇへん?またじゃしんくんにも会いたいし」


「あぁ、いいですよ」


「で、どうやってやるん?」


「あ、そっから……」


 殆んどレイの手によってフレンド交換を終えたココノッツは満足げに頷くと、レイとじゃしんの手を握ってぶんぶんと大きく振る。


「おおきに!じゃあ悪い奴らはうちらが何とかするさかい、レイちゃんも気いつけてな~」


「ぎゃう~!」


 そうして手を振りながらギークと共に去っていく姿に、じゃしんとレイも同じく手を振りながら返し、やがてその姿が見えなくなるとぽつりと呟く。


「いや、本当に嵐みたいだったな……」


・本当にそれ

・フラグ回収したね…

・結局なんだったんだ?


 しみじみと呟く彼女の言葉に視聴者も同意する。なぜかどっと疲れたレイだったが、それを忘れようとお茶を口に含んで3色団子を頬張るのだった。


[TOPIC]

NAME【ココノッツ】

身長:161cm

体重:53kg

好きなもの:友人、和風建築(特に城や神社)


黒色のウェーブがかったセミロングが特徴の、ぽわぽわお姉さん系巨乳巫女。

ゲームどころか機械とは無縁の生活を行っており、その抜けてる様子から現実ではいいとこのお嬢様なんじゃ……と邪推されるほど。

友人の紹介で『ToY』を開始し、その景色やNPCの動きに魅了され、無事沼にはまる。ビギナーズラックの影響か、片手で数えるほどしかいないユニークモンスター保持者でもある。

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― 新着の感想 ―
[一言] トーカさんとやらはあれか 別ゲーで鳴らしてた系の人なのかな?
[一言] ダルマ・・・両手両足・・・ウッ頭が‥
[一言] うん...前回はタイミングが良すぎて腹黒に見えたんだよね。天然お姉さん(ギーク特攻付き)の方が正しかったな(;˘ω˘) にしても、自分から八傑同盟立ち上げて指名手配あててんのにクランに誘う…
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