4-6 至福の一時、波乱の出会い?
「ぎゃうっぎゃうっぎゃうっ」
「ちょっと、気をつけてよ?」
5、6人が横に並べそうなほどの比較的広めの大通りを、じゃしんが木の棒を握り締めながら歩く。それを振って他人に当てないように注意しながらも、レイはその後に続いていた。
「そういえば、団子屋さんのオススメってある?」
・國喜屋一択
・あぁ、看板娘が可愛いよ
・コマちゃんprpr
「そうなんだ、じゃあそこにしようかな」
視聴者に尋ねたレイは詳しい場所を確認し、マップと睨めっこしながらルートを決める。そうして3分ほど歩いた先に、看板に大きく『國喜屋』と書かれた建物にたどり着いた。
「いらっしゃいませっ!毎度おおきにっ!」
にこ~っと人懐っこい笑みを浮かべながら店内から現れたのは、小学校低学年くらいの女の子であった。
黄色の着物に下駄を履き、お団子にした髪をかんざしで止めており、見ただけでこの子が看板娘なんだろうとレイは推測する。
「こりゃ可愛いね……」
・でしょぉ?
・3大幼女の一人だからね
・あかん、ロリコンになってまう!
「3大幼女……?そんなのもあるのか」
「あの~?」
「あ、ごめんね。団子貰えるかな?三色とみたらしを2本ずつ」
「は~い!400Gになりますっ!」
注文に対して勢いよく返事をした少女は両手を合わせてレイの前に差し出す。そこに言われた通りの金額を渡すと、店先に用意された座れるスペースで待つよう言葉を残して、店内に戻っていった。
・どう、可愛くない?
・癒されるわ~
・もうハマるよね
「……うん、君たちが言いたいことは分かった」
一連のやりとりを終えて、レイは神妙な顔をしながら視聴者の言葉に答える。彼らの思い通りになるのは少し癪だが、彼女のために会いにくるのも吝かではないかもしれないと思い始めていた。
「ぎゃう?ぎゃう?」
「あぁ、はいはい。可愛い可愛い」
日除けのための大きな唐傘が備え付けられた場所に腰を下ろしたレイの横で、じゃしんが『俺は?』と言わんばかりにレイの服を引っ張る。それをおざなりに扱いながら暫く待つと、レイ達の元に再びコマがやってきた。
「お待たせしました~!みたらしと三色団子ですっ!」
「ぎゃう~!」
コマが運んできたお盆の上には注文の通りみたらし団子と三色団子、そして湯呑みがそれぞれ2つずつ用意されており、じゃしんが食い入るように見つめている。
「はいっ、それとこれお茶です!ゆっくりしていってくださいね!」
「ん、ありがとね」
最後まで笑顔で接客を終えたコマはとたとたと駆け足で中へと入っていく。その後ろ姿を見送ったレイはお皿にのったみたらし団子を手に取った。
「じゃ、いただきます」
「ぎゃう!」
食前の挨拶を済ませたレイが団子を口に運ぶと、甘くもっちりとした食感が口いっぱいに広がる。
「うん、普通に美味しいね、この辺はリアルと一緒かな?」
・多分ね
・みたらし美味しいよね~
・コマちゃん分があるから美味しさ3倍では?
「ぎゃう~!」
視聴者に話しかけているレイの横で、じゃしんはほっぺに手を当てながら感激するかのように目を輝かせていた。それを見たレイはお茶を飲みながらくすくすと笑う。
「いや~、それにしても平和だなぁ」
・そだね~
・レイちゃんの配信とは思えないな
・嵐の前の静けさかな?
「いやいや、そんなすぐ問題起こらないでしょ。現に他のプレイヤーも声掛けてこないし――」
「あら、ほなうちも声かけへんほうがええ?」
瞬間、レイの横から声が掛かる。あまりにも早いフラグ回収にレイは錆びついたようにギギギと首をそちらに向けた。
「えっと……どちら様で……?」
「うふふ、その前にうちにも座らせてーや」
その先にいたのは巫女服を着たスタイルの良い女性だった。ウェーブのかかった艶のある黒髪を揺らしながら、頬に手を当てて上品に笑うと、レイの確認を聞く前に腰を下ろす。
「えぇ、そんな急に――」
「いかんの?」
上目遣いで見てくる彼女にレイは思わず押し黙る。見た目が美女だからか、断るなんてとんでもないという思考に陥ってしまい、抵抗する間もなくこくりと頷いた。
・レイちゃんって押しに弱いよね
・頼んだらなんでもやってくれそう
・ッ!閃いた!
「通報した。じゃなくて!これどういう事!?」
「あ、君がじゃしんくん?可愛いなぁ、よしよし」
「ぎゃう~!」
レイが視聴者に助けを求めている間にも、じゃしんが謎の美女の手に囚われており、わしゃわしゃとお腹を撫でられていた。
その満更でもなさそうな顔に味方を失ったと悟ったレイは、状況を打開するために意を決して声をかける。
「あの、それで誰なんです?」
「あぁ、そやな。うち、よう人の話を聞かへん言われるんよ。堪忍な」
「は、はぁ……」
掴み所のなさに、終始押されっ放しでたじたじになるレイ。そんな彼女に構うことなく、こほんと姿勢を正して咳払いをした巫女服の女。
「うちの名前はココノッツっていいます。よろしゅうな」
「ココノッツ?どっかで聞いたことあるような……」
・ココノッツってあの!?
・確か、ユニーク保持者だよな?
・超有名人じゃん
名前に聞き覚えがあったレイがちらりとコメントに目をやると、その答えともいえるコメントが目に入り、なるほどと一人納得する。
「あぁ、確か【陰陽師】の方ですよね?」
「知ってくれてるん?嬉しいわぁ」
再度問いかけたレイの言葉に嬉しそうに頷くココノッツ。その間にもおなかを撫でる手は止まっておらず、その膝上ではじゃしんが骨抜き状態にされていた。
「うちもな、レイちゃんと話してみたかってん。それでここに来てるって配信で見て、待ち合わせついでに探してみよう思ってな?」
「待ち合わせ?」
「そうそう、もうそろそろくる思うんやけど――あぁ、来た来た。おーい!」
立ち上がってきょろきょろと辺りを見渡したココノッツは遠くからゆっくりと歩いてくる人物に手を振って声をかけた。人ごみに紛れていた男もその姿を見つけたのかまっすぐと向かってきており――そして隣に座るレイを見てぴしりと固まる。
「あれ、貴方は……」
「き、貴様っ!何故こんなところに……!?」
「おや?二人とも知り合いなん?」
レイの姿を見てワナワナと震え出す人物。
そこには全身を軍服で身にまとい、驚愕で顔を染めた元トッププレイヤーの姿があった。
[TOPIC]
NPC【コマ】
茶屋【國喜屋】における看板娘。
人懐っこい笑みに一生懸命働くその様は男女問わず多くの人を虜にしており、人気NPCの一人として数えられている。




