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4-4 偶にはこんな時間も


・あ、あれじゃね?

・見えてきた!

・暁城だ~


 整備の行き届いていない荒れ果てた道を全力で駆けるレイの視界に、うっすらと和風のお城のようなシルエットが映る。視聴者からその指摘がきたのと同時に、彼女は腕の中にいるじゃしんに話しかけた。


「ほらじゃしん見て!もうちょっとで着くよ!」


「ぎゃう~…?」


 その声掛けにじゃしんはぐったりとした様子で生返事を返す。尋常じゃないほど疲れた顔をしており、まるで真っ白に燃え尽きたかのようだった。


「大丈夫?一体どうしてこんなことに……」


・お前じゃい!

・よくそんなことが言えるな…

・流石『きょうじん』


 レイは足を止めることなく、どこか他人事のようにとぼけた声を出す。


 視聴者から指摘がある通り、じゃしんがこうなったのは間違いなく彼女に原因があり、幾度となく襲い掛かるモンスターの攻撃をその体で受け止めさせられていたからであった。


「ま、考えても仕方ないことってあるよね!じゃあラストスパート行くよ!」


「ぎゃう――ぎゃ!?」


 話は終わりと言わんばかりにスピードを上げたレイの上空から全長1mほどの鶴のようなモンスター――【ブラックレイン】が襲い掛かる。


 それに対してレイが瞬時に腕に抱えた(じゃしん)を割り込ませると、その鋭いくちばしがお腹に突き刺さり、悲しくも儚い悲鳴を上げるのであった。


 ◇◆◇◆◇◆


「よし到着。じゃしんお疲れ様」


「……」


・返事がない、ただの屍のようだ

・燃え尽きたぜ…真っ白にな…

・ふはははは、ごみのようだ!

・それは違くね?


 城下町。そのワードがピッタリと当てはまるような、規則正しく整備された道は正面に聳え立つ豪華絢爛な城に続いており、道の脇には歴史を感じさせるような古い町並みが広がっていた。


 そんな『伝統を継承する町』とも揶揄される、【暁ノ城下町】に辿り着いた彼らは正反対の表情を浮かべていた。


「じゃ、じゃしん様?大丈夫ですかい?」


「あれ、もうへばった?軟弱だなぁ」


「……ぎゃう~!」


 やれやれと首を振るレイに、我慢の限界を迎えたじゃしんはその顔に怒りを滲ませ、全力で噛みつく。――レイではなく、心配そうに声をかけたイブルに対して。


「じゃしん様!?なんであっし何ですかい!?」


・多分本能的に勝てないって悟ってるんやろうなぁ…

・あぁ、だから勝てる相手に行ったのか

・とばっちりが過ぎる


「ぎゃう~!」


 レイの腕から解放されたじゃしんはイブルに噛みついて、ばしばしと叩きながら何かを訴えかける。その様子をみた視聴者からは哀愁を感じるコメントが流れていた。


「なんで助けてくれなかったって言われても、あっしに出来ることなんかなかったですって!」


「ぎゃう!ぎゃう!」


「いやいや、そんな無茶な!?」


「おーい、そろそろいい?」


 言い争いをする2人にレイが声をかけると、イブルはしめたと言わんばかりにレイの腰元に収まり、怒りの吐きどころを失ったじゃしんは腕を組んでぷいっとそっぽを向く。


「そんな怒んないでよ。悪かったって」


 その様子に苦笑したレイはじゃしんの機嫌を取り戻すために交渉を始める。


「ほら、団子買ってあげるからさ。とりあえず宿屋に行こ?」


「……ぎゃう~?」


 レイの言葉に訝しげな眼をするじゃしんにひたすら平謝りするレイ。数分間頭を下げ続け、ようやく立ち上がったじゃしんは定位置となりつつあるレイの頭に位置取った。


・面倒だなw

・でも機嫌直ってよかった

・こう見ると本当にお母さんみたい


「いや、そんな年齢じゃないから」


 コメントに突っ込みつつも、レイは町並みを歩く。多くのNPCが和風テイストの衣装をしており、髪型も髷を結っていたり、ちょんまげを生やしていたりなど、まるで時代劇に入り込んだかのような感覚に陥っていた。


「これプレイヤーはすぐ分かるね」


・そだね

・流石に鎧とか大剣はな

・ゲームって感じするわ


「分かる。この何でもあり感もゲームの醍醐味って感じ」


 そんなことを話しつつ、マップを確認しながら進んでいたレイは、ようやく宿屋と思しき建物を発見して中に入る。


「いらっしゃい!やだ、偉いべっぴんさんだねぇ!」


「あはは、ありがとうございます」


 木材で造られた大きな建物に入った途端、女将らしき着物を着た女性が声をかけてきた。その賛辞の言葉にレイは照れたように頬をかくと受付を済ます。


「えっと、とりあえず一泊で」


「なら500Gだね。――はいよ。部屋は二階の4号室を使っておくれ」


 指定された金額を払うと、鍵と共に部屋の番号が言い渡される。それにお礼を言いながら木製の階段を上がり、先ほど教えられた部屋の扉を開けた。


「おぉ!」


・すごい

・めっちゃいい所やん!

・旅館みたいだな


 内装を見たレイは思わず感嘆の声を漏らす。室内は6畳ほどで布団が敷いてあるだけのこじんまりとした部屋ではあったが、床が畳となっていたり、窓から街並みが一望出来たりと、何とも風情のある部屋となっていた。


「ぎゃう~!」


「あ、ちょっと!」


 テンションの上がったじゃしんはレイの頭から飛びのくと、白い布団に向かってダイブする。そのままごろごろと移動すると枕に顔を伏せて動かなくなった。


「もう、行儀わる――まてよ?これもお母さんって言われるな」


・チッ…

・気づかれたか…

・勘のいい奴め…


 漏れ出そうになった言葉を引っ込めて、レイも畳へと腰をおろす。そのままリスポーン地点に設定するために枕に触れようとして――ふと気が付いた。


「ぎゃぅ……」


・あれ?

・寝てる?

・そんなことある?


 そこでは先に枕に触れていたじゃしんが穏やかな寝息を立てていた。視聴者から突っ込みの声が入る中、レイは困ったように笑う。


「まぁ酷使しちゃってたしな。ちょっとくらい寝かしてあげていい?」


・おけ~

・まぁ偶にはね

・起こすのは可哀想だしな


 起こさないように注意しながら枕に触れたレイは確認を取るように視聴者に声をかけ、壁にもたれ掛かりながら雑談を始める。


「じゃあ今のうちにこの前のワールドクエストの話でもしよっか。みんなゴリラが暴れてた話とか聞きたいでしょ」


・聞きたい!

・それ見たわ

・俺も。別のチャンネルで街が崩れてく映像見た


「え?そうなの?まぁでもいいじゃん、聞いてってよ。あのね――」


 穏やかな陽気に包まれる中、レイはころころと表情を変えながら言葉を紡ぐ。彼女にとって『ToY』の世界で初めてと言っていい程に、まったりとした空気が流れていた。


[TOPIC]

MONSTER【ブラックレイン】

火山地帯に生息する鳥。黒く染まったその肌は、環境に適応した結果か、それとも。

鳥獣種/怪鳥系統。固有スキル【飛翔】。


≪進化経路≫

<★>フライダック

<★★>ハイイロサギ

<★★★>ブラックレイン

<★★★★>灼熱ペリーカ

<★★★★★>ユウキュウシソチョウ

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― 新着の感想 ―
[一言] じゃしん 強く生きろ
[一言] 更新お疲れ様です! 燃え尽きたよ、、真っ白にね、、、 戦闘では酷使するけどそれ以外は普通にケアしてるからなぁ、、、じゃしんも憎み切れないんだろうなぁ。 なんだかんだじゃしんはレイちゃんに被害…
[一言] この物語が始まって以来のとてもほのぼのとした時間ですね。 嵐の前の静けさってやつですか、荒れる事を覚悟しておきます。
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