1-5 さぁ、検証を始めよう
「それじゃあ検証を始めようと思う」
「了解です」
「ぎゃう!」
ウサの言葉にレイとじゃしんは返事(片方は手を上げながら)をする。
あの謎のティータイムを過ごした二人と一匹は【スーゼ草原】に場所を移している。どうやらウサは検証から行うようだった。
「その前に敬語やめてほしい」
「え?いやでも……分かった。遠慮なくいくよ」
「ん。じゃあまずは【じゃしん結界】で1匹だけ隔離してほしい。じゃしん、できる?」
「ぎゃう!」
じゃしんは威勢よく声を上げると両手を突き上げ、世界を作り上げていく。そうして形成された空間は【スーゼ草原】と全く同じ場所ではあったが、すべての色が反転していた。
オレンジの空に黒い太陽、紫の草とそのあまりに禍々しい、悪い夢の中のような景色にレイは身震いする。
「すごい、さすが。なら次は【別世界ノ住人】の検証。あそこにいる【ステップラビット】に攻撃して」
「ぎゃう~!」
褒められて気分を良くしたのか、じゃしんはウサに対して敬礼をして後ろ足だけで立っているウサギのようなモンスターの真上までふらふらと飛んで行く。
じゃしんが近づくと【ステップラビット】もその存在に気付いたのか警戒態勢をとる。それに構わず真上まで到着したじゃしんは、急降下して爪を振り降ろした。
「ピギ!?」
振り降ろされた爪は確かに【ステップラビット】の眉間にヒットし、驚いた声が聞こえる。だが、効いた様子は微塵もなく、喰らった本人である【ステップラビット】の方が困惑しているようだった。
じゃしんの方を見てみると、『なかなかやるなお前』と言わんばかりの目で【ステップラビット】を睨んでる。レイはそんな様子に呆れた目を向けた。
「いやなんも起きてないから。よくそんな顔できるね」
・草
・草
・草
「ピギ!」
「ぎゃう!?」
一応攻撃をされたと認識したのか、反撃の飛び蹴りがじゃしんを襲う。
じゃしんは蹴られた頭を押さえながら涙目になっているが、やはりダメージを受けた形跡はない。どっちかというと攻撃した【ステップラビット】がショックを受けているようだった。
・あ、ノーガードの殴り合いが始まった
・すごい泥仕合だね
・不毛すぎるだろ…
・いつまでやらせるんです?
「もう大丈夫。次の検証」
ウサはそう言うと虚空からぬいぐるみを召喚する。1mほどの大きなぬいぐるみはサメの姿をしており、宙に浮きながら口をパクパクと開閉していた。
「え、何それ」
「この子は【しゃーくん】。遠距離特化のゴーレム」
「ゴーレム?それに遠距離って一体――」
「しゃーくん。【ハイドロビーム】」
レイの疑問に答える前にウサは何かを呟くと、【しゃーくん】の口が大きく開いて青白いエネルギーが集約され始める。
やがて限界まで溜められたソレは空気を震わせながらまっすぐに放たれた。――絶賛泥仕合を続けている二人に向けて。
「ピ――」
「ぎゃう――」
「うわぁ……」
・じゃ、じゃしんーーー!!!
・ウサさん!?
・え!?
・容赦なくぶっ放したwww
寸分の狂いもなく二人を包み込んだ圧倒的な光の暴力は、数秒かけてその全てを消滅させていく。
やがて光がはれると、そこには両手で顔を覆いながらさめざめと泣くじゃしんの姿だけがあった。
「大丈夫、味方の攻撃も効かないと思ってた」
「あ、推測だったんだ……」
「ぎゃう!ぎゃう!」
立ち直ったじゃしんは起き上がるとウサの方に詰め寄っていく。そしてぽかぽかと頭を叩き始めた。
「ごめん。もうこんなことしない」
「ぎゃう~?」
未だに納得いってないようだが、しぶしぶといった表情で離れていく。その表情は次はないからなと言っているようだった。
「ってかそのしゃーくんってなんなの?」
「これはゴーレム。私のジョブは【人形技師】だから」
帰っていいよとウサが【しゃーくん】に話しかけると、その姿がだんだんと薄くなっていき、やがて完全に消えてなくなる。
レイはその姿を見てそんな職業もあるのかと感心するのと同時に、私もあんな強い奴が良かったなと少し羨ましく思った。
「次はレイの【自己犠牲】の検証。これ」
「あ、うん。……なにこれ」
「いいから飲んで」
「怖っ」
今度はレイに対して、ウサからいきなり紫色の液体を渡される。
さっきの様子見ていきなり飲む勇気はレイにはない。だが、抗議の目を向けても取り合ってくれる様子はなく、じゃしんの方を見ても、『俺はやったんだぞ』と言わんばかりのジト目でレイの方を見ていた。
「わかったよ!飲めばいいんでしょ!」
そう気合を入れると一息で飲み干す。何が起きるのかハラハラしていたがレイに変わった様子は特になかった。
・あれ、何も起きない?
・不発?
・いやじゃしんだわ!
・あ、本当だ!
「ぎゃおー!」
コメントの言っている通りにじゃしんの方に目を向けると、心なしか目が鋭くなっているように思えた。角も普段よりも赤くなっている気がするし、多少狂暴になっている……気がしなくもなかった。いや、勘違いかもしれない。
「今飲んでもらったのは【狂化の薬】。じゃしんくんのステータスを見て」
「わ、わかった」
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NAME じゃしん
TRIBE 【神種Lv.1】
HP 666/666
MP 666/666
腕力 999(666*1.5)
耐久 333(666*0.5)
敏捷 666
知性 666
技量 666
信仰 666
SKILL 【じゃしん結界】
SP 【別世界ノ住人】
STATE【狂化】
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レイがウサに言われてステータスを確認するとその効果が一目でわかった。
「なるほど、腕力にはプラス倍率で耐久にはマイナス倍率をかける薬か」
「そう。実験は成功」
「え、予想通りなの?」
「ステータス系変化も状態異常も全部じゃしんに行くのであれば」
「ぎゃう~……」
いつの間にか【狂化】が切れたらしいじゃしんは、どこか疲れた様子だった。
・じゃしんどしたん?
・狂化には終了後全ステータス半減の効果があるからな
・え、普通にかわいそう
「じゃしん、もう一回【ステップラビット】を捕まえてほしい」
じゃしんは疲れた体で気怠そうに結界を解除すると、手ごろな【ステップラビット】を探してもう一度同じ空間に閉じ込める。
「じゃ、もう一回【ステップラビット】に近づいて。大丈夫、信じてほしい」
訝し気な目でウサを見つめるじゃしんだったが、行かなきゃ始まらないとわかっているのか重い足取りで【ステップラビット】の方へと飛んで行った。
「次はこれ食べて」
今度は赤色の草を渡された。ちょっと抵抗があったレイだが、覚悟を決めて口にする。
『3』カチッ
「味は……しないな。で、なんなのこれ?」
「【時限草】」
『2』カチッ
「【時限草】?」
「そう。文字通り状態異常【時限】になる」
『1』カチッ
「【時限】?効果は?」
「食べてから3秒後に――」
『0』カチッ
ドカンッ!!!とじゃしんが爆ぜた。
その勢いは凄まじく、近くにいた【ステップラビット】を地形ごと巻き込み爆炎をあげると、きのこ雲が作り上げた。
「――こうなる」
「ちょ!?」
・じゃしーん!!!
・じゃしーん!!!
・じゃしーん!!!
・大丈夫なのこれ!?
レイは急いで近寄ると、煙が晴れた先に茫然自失といった様子で棒立ちになっているじゃしんが見えた。
両手でペタペタと確認するように自身の体を触ると、ついあふれ出したのか、つぅっと一筋の涙を流す。
「……よく、頑張ったね」
「ぎゃううぅぅう!」
レイが声をかけるとじゃしんが胸に飛び込んでくる。
よっぽど怖かったのかついにはおいおいと泣き出したじゃしんの背中をさすりながら宥める。
「名付けて『じゃしん爆弾』。どう?」
「ぎゃう、ぎゃう」
無表情だが、どこか自信満々のウサといやいやと首を振るじゃしん。
それに対してレイは即答する。
「採用で」
「ぎゃう!?」
・いや、草
・草
・草
・草
残念ながらレイは効率厨だったようだ。
[TOPIC]
JOB【人形技師】
消して無機物と侮ることなかれ。その作品には魂が宿る。
【職人】系統/第四次職
転職条件①:【ゴーレムマスター】lv30
転職条件②:ゴーレムを1000体作成




