3-48 愛しき人にその手を伸ばして⑮
活動報告にて後書きを記載しました。
お時間ある方は目を通していただければ……
「ぐぉぉぉ……!強烈過ぎる……!!!」
「ぎゃう~……!」
「何をしているのだ?」
目を押さえながら床をのたうち回るレイとじゃしんを、呆れたように眺めながらゴウグは問いかける。
「いや、さっき目眩しのために馬鹿みたいに眩しい空間つくったんだけど、まさか自分達を含むとは思わなくて……」
眼を瞬かせながら、よろよろと立ち上がったレイは反省するようにぽつぽつと呟く。
「相手だけ目潰しできる必殺技だと思ったんだけどなぁ。【輝きの迷宮】、恐ろしい技……ッ!」
「ぎゃう……ッ!」
頭を押さえつつキリッとした表情をしながら意味深に呟くレイ。それを真似して同じようにキリッとした顔をするじゃしんを見ながらゴウグはため息をつくと、一転して柔らかく微笑んだ。
「良かった。お前達と出会えて。本当に」
「お~、まさかそんな表情されるとは。最初なんかこーんなに目を釣り上げていたのにさ」
「本当に」
「ぎゃうぎゃう」
そんなゴウグの様子を揶揄うように、レイは両指で軽く目を吊り上げるような仕草をする。その他2名からも同調するように頷く姿が見え、ゴウグは堪らず頬を赤くした。
「そ、それは世界樹の守護者としての使命がだなっ!そんな事を言ったらお前達だって【世界樹の実】を盗もうとしてたじゃないか!」
「そりゃあ、あの時は味方じゃなかったし。じゃあリラー!って泣きそうになった事言っていいの?」
「お、おいっ」
『あらあら、そうなの?』
『あっ、えっとそれはだな……』
仕返しと言わんばかりに暴露した情報でも、どうやらレイには敵わなかったらしく、それ以上の爆弾を投げ込まれてしまうゴウグ。
それに乗っかるように頬に手を当てながら上品に笑うリラ。もはや彼に逃げ道はなくなってしまい、途端にタジタジになった。
「――ぷっ、あっはっはっはっは!」
「ぎゃう~!」
その様子を見たレイは我慢の限界を迎えたように腹を抱えて笑い出し、その平和な空気に拍車をかけるようにふよふよと周りを浮かびながら小躍りするじゃしん。
全てを終えた彼女達は空の上でひたすらに楽しく、そして優しい時間を過ごしていた。
◇◆◇◆◇◆
目的地――【世界樹】の麓に到着した飛行船は一度大きな揺れを起こすと地面に接地し、ハッチを開く。
「ん~、到着っと!みんなお疲れ様」
「お疲れ」
「ぎゃう~」
そこから外に出たレイが労いの言葉をかけると、それにウサとじゃしんが反応する。次いでゴウグがリラの手を取りながら降りると、改めてレイ達に向き直った。
「改めて言わせて欲しい。レイ本当にありがとう。君のお陰でリラを取り戻すことができた」
「私からも。本当にご迷惑をおかけしました」
そう言って頭を下げた二人にレイはどこかむず痒い気持ちになり、あははと誤魔化すように笑う。その時、どこからかゲーム音声が聞こえてきた。
[<ワールドアナウンス>プレイヤーネーム:「レイ」「GothUsa」がワールドクエスト【愛しき人にその手を伸ばして】を初クリア致しました。※これは全プレイヤーに伝達されます]
[称号【世界樹に寄り添う者】を獲得しました]
[ITEM【世界樹の実】を入手しました]
[ITEM【創造の種】を入手しました]
[ITEM【申の紋章】を入手しました]
[WEAPON【世界樹の杖】を入手しました]
「あぁ、このタイミングね。また結構気になるモノが――って二人とも長いよ!顔を上げて!」
そのアナウンスを聞いたレイはようやくすべての終わりを実感し始め、感慨深く呟く。
ただ、いつまでも頭を下げ続けているゴウグとリラの様子にいい加減申し訳なく思ったのか慌てて声をかけた。
「だが感謝してもしきれなくてだな……」
「え~?あ、じゃあ定期的に来るからさ、その度に【世界樹の実】を――」
「それは出来ない。守護者の矜持としてな」
「このクソ真面目ゴリラ……!」
「ぎゃうっ!ぎゃうっ!」
提案を即否定したゴウグをレイは恨みがましく睨みつける。そのやり取りにじゃしんが手を叩きながら大笑いすると、その空気が伝播し、周りにいた全員が笑顔になった。
そうしてひとしきり笑ったレイはぐーっと体を伸ばしながらぽつりと言葉をこぼす。
「さてと。やり残したこともなさそうだし、そろそろお暇しようかな」
「む、もう行くのか?もう少しゆっくりしていけば――」
「え~、そんなこと言っちゃう?私もそこまで暇じゃないんだよ?」
そのままストレッチをして身体をほぐしているレイに、ゴウグは思わず引き留めるように声をかけたが、それに対して返ってきたのは責めるようなジト目だった。
「それに折角の水入らずの時間を邪魔するほど無粋じゃないってば。全くゴウグは乙女心が分かってないなぁ」
「ぎゃう~」
やれやれと肩をすくめるレイとじゃしんに一瞬言い返そうとしたゴウグ。だがすぐに、それが彼女なりの気の使い方だと気付いて口を噤む。
「という訳で、またね。リラさんもお大事に」
「えぇ、レイさん達もお気をつけて」
「うん。じゃあウサ取り敢えずポータルステーションに――」
一通りの挨拶を済ますと、レイはウサに次の目的地を伝えながら飛行船に乗り込む。やがてハッチが閉まり飛行船が浮いていく――その中で慌てた様子で窓から顔を出したレイが大声で叫ぶ。
「忘れてた!なにかあったらこっちから呼ぶから!その時はよろしく!」
「――あぁ、その時は全身全霊をかけてレイの力になると誓おう」
その言葉の真意がゴウグには理解できなかったが、何かと無茶を通してしまった目の前の少女なら本当に呼び出してきそうだと苦笑して、問い返すことはせず薄く微笑んで頷く。
「うん!それじゃあまた!」
その言葉を受け取ったレイは満足げに頷くと、じゃしんと一緒に手を振りながらどんどん高度を上げていく。それにゴウグとリラが返していると、やがてその姿が見えない位置まで飛び立っていった。
「不思議な人達だったわね」
「あぁ。だが間違いなく最高の奴らだ」
ゆっくりと離れゆく飛行船を見つめながら、リラとゴウグはどちらともなく肩を寄せ合う。
それを祝福するように一陣の風が吹き、世界樹はザワザワと揺れていた。
[TOPIC]
MONSTER【ゴウグ/リラ】
世界樹から生まれ出た聖獣達はそれぞれの思いを胸に各地へと散らばった。
仲間たちが次々と旅立つ中、残された夫婦はその大きな恩に報いるため故郷に残る事を決めた。




