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3-47 愛しき人にその手を伸ばして⑭


『レイさん、どうなりました?』


「あぁオジサン」


 感動の再会を見守る中、コールの向こう側から様子を窺うような声がレイの耳に届く。


「完璧だったよ。もう最高」


『ほっほっほ、それは良かった。ですが作戦を立てたのはレイさんですよ?』


「ぎゃう~」


「じゃしんもお疲れ様。結構無理させちゃったもんね」


 互いに健闘を讃えていると、レイの肩にじゃしんがぐでーと脱力した状態で乗っかる。それを労うように声をかけながら彼女はその背中を撫でた。


『じゃしん様もお疲れ様でした。――して、レイさん』


「言いたいことは何となくわかるけど、何?」


『えぇ、次はどうするんでしょうか?』


「ははっ、そうなんだよねぇ~」


 じゃしんの背中を撫でながらレイはどこか他人事のように笑いながらその質問に同意する。


「残念ながらクエストクリアが出てきてないからさぁ、もしかしたら【世界樹】まで戻る必要があるのかも」


『なるほど、遠足みたいですねぇ。という事はこれから脱出する流れですか?』


「脱出するって言ってもさぁ……」


 オジサンの言葉に合わせて、レイは周りの様子を窺うように首を回す。


 現在、ほとんどのプレイヤーが突然始まったラブロマンスに釘付けになっており、何が何だか分からず困惑したように固まっているが、その内正気に戻った場合にまた襲ってくる可能性は十二分にある。


 それに加えて、この騒ぎに乗じて周りから追加のプレイヤーがやってきている様子が窺え、どんどんと包囲されているなぁと、これまた他人事のようにレイは考えていた。


「この状態で脱出ってどうすればいいのかな?リラは動けないからゴウグに運んでもらうとして、庇いながら抜けられると思う?」


『十中八九、無理でしょうねぇ』


「ですよね~」


 オジサンの返答にレイは諦めた様に肩を落とすと、その上での最善手を考える。


「う~ん、だめだ。何も思いつかないな。こうなったら土下座でも何でもして命乞いするしか――」


『――あ。そんなことしなくても大丈夫そうですよ』


 レイが最悪かつ最後の手段を実践しようとした時、何かを発見したオジサンがその言葉を遮るように口をはさむ。


 一瞬何のことか分からずに首を傾げたレイだったが、その疑問に答えを提示するように月明かりが黒い影によって遮られた。


「あれ、『飛行船』動いてね?」


「でもこんな街中まで来ないよね?」


「おい、今度はなんだってんだよ!」


 レイを含むその場にいるプレイヤー達が空を見上げると、その黒い影の正体が街と【ポータルステーション】を巡回する『飛行船』であることを理解する。だがそこにいる理由が分かる者はどこにもおらず、皆一様に混乱していた。


『レイ、聞こえる?』


「ん?ウサ?」


 その時、オジサンとは別の回線からレイ宛にフレンドコールが飛んできており、そこからすっかり聞きなれた少女の声が聞こえてくる。


『飛行船をジャックした。必要?』


「え!?これウサが運転してるの!?」


 犯人がまさかの人物であり、レイは驚いた声を上げる。が、ウサはそれをやんわりと否定した。


『違う。AIが操作してる』


「あぁ、そういう……ってかなんでそんなことしたの?」


『プレイヤー達の上に落とそうと思って。神風?』


 可愛い声で何やら物騒なことを宣うウサに頬を引きつらせながらも、チャンスと捉えたレイはそれぞれに次の行動を急いで伝達する。


「いや、突撃はしないで!乗って逃げるからゆっくり高度を落としてきてくれる?」


『了解』


「ゴウグはリラを守ること優先で、オジサンは私のフォローをお願い。多分大丈夫だと思うけど、寄ってくるプレイヤーがいたら弾いてほしいかな」


『あぁ、任せてくれ』


『承りました。他のクランメンバーもそちらに向かわせましょう』


「助かるよ。じゃしんは疲れてるところ悪いけど最後にもう一個だけお願い。あのね――」


 それぞれに指示を飛ばしたレイは最後にじゃしんにだけ聞こえるように小声で内緒話をする。それに対して相槌を打ちながら聞いていたじゃしんは説明の終わりと同時に大きく鳴き声を上げた。


「ぎゃう!」


「うし、じゃあ作戦はそんな感じで!もうひと踏ん張りよろしく!」


 それを確認したレイは話を締めるように声をかけると、混乱の渦から未だ抜け出せていないプレイヤー達に大声で声をかける。


「おーい、そこにいると踏み潰されるから下がった方がいいよ~!」


「潰される……?」


「うわっ本当に下がってきてるぞ!」


「逃げろ逃げろ!」


 レイの言葉に怪訝な表情を浮かべたプレイヤー達だったが、上空を漂う飛行船が近づいていることに気付き、その真意を悟る。


 まずいと判断したプレイヤー達から蜘蛛の子を散らすように散り散りに走っていくが、状況を理解できていないプレイヤーの中には逆にこちらに向かってきているものも存在し、そこで押し合いへし合いのパニック状態がまたしても形成された。


「レイ、こっち」


「……ま、いっか!さ、入って入って!」


 その隙にズシンと地面を揺らしながら巨大な飛行船が町中に着陸する。ガラガラといくつかの建物を壊したような気もしたが、レイはそれを見ない振りしてゴウグとリラに中に入るよう促した。


「あ、おい逃げようとしてるぞ!」


「追え!乗り込むんだ!」


 そこでようやく我を取り戻した一部のプレイヤー達が、今にも飛び立とうとする『飛行船』に殺到し始める。だが――。


「残念ながらこの船は定員を超えたのでもう乗れないんだな~。それでも乗るというなら――」


 ハッチを登り切って船内に入ったレイはくるりと振り返ると、その胸にじゃしんを抱きかかえながらにんまりと意地の悪い笑顔を向ける。


「じゃしん様からきつーいペナルティがあるんだよ?」


「ぎゃう~!!!」


 その言葉と共にレイは目を瞑り腕をあげる。それによって掲げられる形となったじゃしんは両手を上に上げてから手を前に突き出した。


「【じゃしん結界・輝きの(scheinen)迷宮(Dorf)】!」


 次の瞬間、プレイヤー達の視界が白に染まる(・・・・・)


「ぐあぁ!?」


「目が!目が!」


 突如現れた強烈な閃光を前に手で顔を覆って下を向く。たった5秒しか発生していないその光だったが、彼らの視界を潰すには十分すぎる時間だった。


 そうして一分ほど経過してプレイヤー達が閃光の空間から解放された時には、まるで夢でも見ていたかのようにその姿はなく。


 『欲望の街』の遥か雲の上、空の彼方へと消えていた。


[TOPIC]

SKILL【じゃしん結界・輝きの迷宮】

【じゃしん結界】によって作られた空間。強烈な光源が支配する、鏡で出来た箱庭の中では誰一人として面を上げることを許されない。

効果①:周囲の景色を鏡の部屋へと変化させる

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! これでほぼクリアかぁ、お疲れ様レイちゃん。 それにしても、、、 やらかしたのは事実だけど、こんな惨状になったのは別にシナリオ上何の不思議もないんだよなぁ、、けどこれでまた…
[一言] うさやるなぁ
[一言] ムスカ大佐いなかった? つか、結界張る時のレイちゃんに掲げられた状態で腕を上げた後に前に突き出すじゃしんを想像したら萌え死にそう・・・
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