3-44 愛しき人にその手を伸ばして⑪
「『きょうじん』、貴様らが何をしているのか知らんが、私がいる以上好き勝手出来ると――」
「ぎゃうぎゃーう!」
レイを睨んだギークが高らかに宣言する中、その言葉を遮るようにじゃしんが憤怒の叫び声をあげる。
「うわっ、何さじゃしん!」
「ぎゃうぎゃうぎゃう!」
「『何で投げるんだ!こっちは疲れてるのに!』って怒ってやすぜ」
「いや、しょうがないでしょ。ああしなきゃリラがやられてたかもしれないんだよ?むしろ盾としての役割を全うしたんだから胸を張りなよ」
「――う〜、ぎゃう〜!」
「ちょっ、やめてよ!」
全く悪びれもしない様子にじゃしんは怒りが沸点を越えたのか、ぽかぽかとレイの頭を叩き始める。
急に二人の世界に入ってしまい、話の輪から外されたギークはぽかんと惚けた顔をすると、やがてワナワナと震え出す。それを遠目に見ていたセブンは腹を抱えて笑い出した。
「はははっ!相手にされてないでやんの!」
「……もういい、あいつを消せば全てを壊せるんだろう!」
恥ずかしさのあまり、普段よりも声を大きくしたギーグは立ち上がろうとしているリラに接近して刃を振るう。それに立ちはだかるようにゴウグがその間に入り込んだ。
「させるわけないだろうが」
「邪魔をするな!」
分厚い黒い腕でギークの刀を受け止めると、リラに向かわせないように位置取りを気にしながら戦闘を開始する。
「いいなぁ。僕はどうしたら良いと思う、レイちゃん?」
「わ、私に聞くんですか?じゃあ大人しくしててもらえると助かるな〜って……」
「ん〜、無理かな!」
その様子を羨ましそうに眺めていたセブンが話しかけると、引き攣った顔で一応提案してみるレイ。それに満面の笑みを浮かべた『魔王』は当然のように却下して、【スカルキング】を動かす。
「ですよね!知ってた!」
生み出された【スケルトン】の大軍はレイを見ることなく、真っすぐとリラに向かって進行する。リラはゴミを払うように蹴散らしているものの、見るからに動きは鈍くなっているようで、すべてを迎撃するには至っていなかった。
「この、離れろ!」
「おぉ、やっぱりすごいねレイちゃん」
そんなリラに群がる【スケルトン】をレイはその手に持った銃で撃ち落としポリゴンと変えていく。寸分の狂いもなく【スケルトン】のみに当てるレイに、セブンが感心した声を上げると、それと共に近くにいたじゃしんも鳴き声を上げた。
「ぎゃう!」
「何?今忙し――あ、ゴウグがヤバいのか!」
じゃしんの指さす方に目を向けると苦しそうな表情を浮かべるゴウグの姿が映る。未だに決め手はないものの、ギークの刃がちらほらとゴウグの身体を捉え始めていた。
「そこまで手が回んないって!ちょっとじゃしん何とかして!」
「ぎゃ、ぎゃう!?」
「ちょっと、よそ見しないで欲しいなぁ。あ、そうだ」
ちらちらと横目で見るが、【スケルトン】のタワーディフェンスで忙しいレイはじゃしんに無茶な命令を与える。ギャーギャーと楽しそうに騒ぎ出す二人を見て疎外感を感じたのか、セブンは唇を尖らせると、ゴウグに向かって言葉を放った。
「おーいそこのゴリラ君!その旗さえ引っこ抜けば彼弱くなるよー!」
「おい!ふざけるな!」
その助言によって防戦一方になりかけていたゴウグの目の色が変わると、目標をギークではなく旗に変える。一瞬にして攻守が変わった彼らを見て満足そうに頷くと、改めてレイの方を見た。
「よし、これでこっちの集中できる?」
「うわぁ……いや、確かに助かるけど!」
ゴウグが持ち直したのを見て嬉しく感じつつも、何か違うだろと言いたい状況にレイはやけくそになって叫ぶ。その間にも【スカルキング】から現れ出る【スケルトン】の量がどんどん増していく。
「じり貧すぎる……!こうなったら!」
このままではいずれ捌ききれなくなると判断したレイは【スケルトン】の迎撃をやめて大元である【スカルキング】に目を向ける。
「ま、そうくるよね。でもうちの子は遠距離ダメージが無効だけど、レイちゃんにいけるかな?」
「もちろん、知ってますよ!」
今まで配信で幾度となく目にし、自分でもこれ以上なく調べてきたモンスターの特性。それを知ってなお、レイは牽制も込めて【スカルキング】に銃口を突きつける。
距離を詰めながら放った弾丸は、セブンの言葉通り当たる直前に浮かび上がった魔法陣によって弾かれる。だが当然それもレイの想定の範囲内。
「ダメージ自体がない訳じゃなくて飛び道具を撃ち落とすタイプだから――」
脳内にある情報とすり合わせを行うように独り言を呟いくレイ。その間も着実に距離を詰めており、そんな彼女を脅威とみなしたのか、【スカルキング】のがらんどうの目が僅かに揺れ、手に持った錫杖を掲げる。
一拍の後、【スカルキング】の背後に展開される黒色の魔法陣。幾重にも重なるように現れたそこから、針のような細い骨が射出される。
「うわっと!今考え事してるのに!」
【スカルキング】による迎撃に文句を口にしながらも、上下左右に体を振って、隙間を縫うように避けながら【スカルキング】へと前進する。
「邪魔!」
道中では新しく生み出された【スケルトン】がレイを止めようと群がり始めるが、その内の一体の頭を踏みつけて高く跳躍し、屍の頭を足場にしながら最短距離で【スカルキング】へと向かう。
「やほ、会いに来たよ」
そうして【スカルキング】の目の前まで降り立つと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるレイ。それを振り払うように振るわれた錫杖をしゃがんで躱すと、そのスカスカの身体に右手を突っ込んだ。
「さて、さっきの奴は内側に張れるのかな?」
そのまま右手を上に向けてレイは容赦なくトリガーを引く。ゼロ距離どころか内側から放たれた数発の弾丸が顎から突き抜けるように脳天に直撃する。
どうやら先ほど見せた黒色の魔法陣は、外部からの遠距離攻撃にのみ対応するらしい、カタカタと顎を揺らした【スカルキング】は手に持った錫杖を落とすと、ポリゴンになって消え、それに合わせて【スケルトン】の群れもまたがしゃがしゃと音を立てて消えていく。
「いやぁ、おめでとうおめでとう!流石レイちゃんだね!」
「あ、ありがとうございます」
自身の召喚獣が倒されたというのに未だに余裕そうな笑顔を浮かべながら拍手をするセブンに、レイは警戒を強める――が、状況はそれどころではなかった。
「ところで、君の守っていたゴリラちゃん街の方に行っちゃったけど大丈夫?」
「は?」
続けられたセブンの指摘に慌てて振り向くと、先ほどまでいた筈のリラの姿がどこにもない。その代わり、遠くの方で建物が崩れる音が聞こえてきた。
「やっばい、追いかけなきゃ!セブンさん、また今度!」
「行ってらっしゃ~い。さてと、じゃあ僕も決着にいこうかな」
顔を青ざめさせたレイはじゃしんを引き連れてその方面に向かって走っていく。それをひらひらと手を振って見送ると、セブンもゆっくりと歩き出した。
[TOPIC]
MONSTER【スカルキング】
魔術を極めた白骨の王は、醜い肉体を嘲り、生を求める弱者を嗤う
不死種/骨人系統。固有スキル【眷属召喚】【遠距離攻撃無効】
≪進化経路≫
<★>スケルトン
<★★>スケルトイ
<★★★>スカルナイト
<★★★★>ジェネラルスカル
<★★★★★>スカルキング




