3-43 愛しき人にその手を伸ばして⑩
「もきゅ〜?」
「ぎゃう!」
「もきゅ!」
「ぎゃう、ぎゃうぎゃうぎゃう」
「もきゅ!?もきゅ〜……」
「ぎゃう〜。ぎゃぎゃう!ぎゃうぎゃう?」
「もきゅ!もきゅもきゅ!」
「いや、なんて?」
ラッキーと久しぶりに再会したじゃしんがハイタッチで喜びを分かち合うと、お互いボディランゲージをしながら何やら会話を始める。
相変わらず何と言っているか理解できなかったが、どんと胸を叩いたラッキーから察するに、状況の説明が終わったのだろうかとレイは推測した。
「久しぶりだな、鼠の。まさかお前が来るとは――」
「もきゅ!」
「そうか、今はラッキーと名乗っているのか。これは失礼した」
「ちょ。ちょっと待って!」
まるで旧知の仲であるかのように喋り出したゴウグとラッキーにレイは言葉を挟む。
「ゴウグは言葉が分かるの?ってかそもそも二人は知り合い?」
「あぁ、我々『聖獣』の出自は【世界樹】なのだ。だからネズ――ラッキーとは兄弟と言っても過言ではない」
「なるほど……じゃあさ、ちょっと通訳してくれない?」
「あぁ、構わないぞ」
そんな設定があったのかと少し驚きつつも、唯一言葉の通じるゴウグにお願いをすると、ゴウグは自らの手で【ハイポーション】を飲みながらも快く頷いた。
「ラッキー、さっきも聞いたかもだけど状態異常を治すあの木の実が欲しいんだ。今作れたりする?」
「もきゅ!」
「勿論だと言っている」
「それってさ、【破壊衝動】とか【崩壊】とかいう状態異常も解除出来る?」
「もきゅ!もきゅもーきゅ!」
「出来る。僕を誰だと思ってるんだ、らしいぞ」
「ぎゃう〜!」
ゴウグを介しながらラッキーと会話すると、自信満々な心強い回答が返ってきており、その様子を見てじゃしんが感心したように拍手をしていた。
「頼もしいね!じゃあ後はどうやって口に入れるか、かな」
「私が止める。たとえこの身が朽ち果てようとも」
ゴウグは完全とはいかないまでも、自力で動けるまで回復したのか決意を込めた瞳で立ち上がる。だが、レイはそれとは反対に呆れた眼をしていた。
「却下。ゴウグが死んでクエストクリアめでたしめでたしとはいかないでしょ」
「……では、どうするというのだ」
にべもなく否定されたゴウグは拗ねたように肩を落とすとレイに問いかける。
「一応、動きを止める方法はあるし、タイミングは分かってる。後は口に入れる方法なんだけど……」
最後のピースが決まりきらないレイは困ったように唸り声をあげる。そこへここまで黙っていたオジサンが手を挙げて提案した。
「すいません、発言しても?」
「え?あぁ、大丈夫。何?」
「用は遠距離から正確に口に放り込む手段があれば良いんですよね?でしたら私に考えがあります」
「考え……?」
レイが眼を細めると、オジサンは黙って頷く。その表情は朗らかながらも、熟練の老兵のような自信に満ちた笑みを浮かべていた。
◇◆◇◆◇◆
「あはっ、意外と僕ら相性良いのかもね!」
「貴様と協力しているつもりはない!」
【ゴールドラッシュ】の正門にて、セブンとギークは赤く染まったゴリラ――リラと対峙していた。
「グァァァ!!!」
「くっ――」
リラと接近戦を試みているギーグだったが、如何に善戦しているといえど、タイマンで勝てるほど甘くはない。振るう軍刀はその硬い筋肉に弾かれダメージを与えられておらず、敵による攻撃は【集え、我が旗のもとへ】の発動下であっても、受ける事は出来そうになかった。
しばらく打ち合っていると次第に状況が悪くなり、その弾丸よりも速い拳が何度かギークを捉えそうになる。
「おっと、【スカルキング】よろしく」
その度にセブンは【スカルキング】によるスケルトンの壁を作り出す。一撃で吹き飛んでしまう、脆く儚い壁ではあるが、その一瞬がギークに猶予を作り、形成を立て直すチャンスを与えていた。
「チッ、余計な事を」
「素直じゃないなぁ」
アシストに舌打ちするギークに、肩をすくめるセブン。
彼女にとってもタイマンでは勝てないだろうという思いは共通であり、彼が倒れた瞬間に自分にヘイトが来るのが見えている。そのため、彼が倒れないように矢面に立たせながら機会を窺っていた。
「ねぇ、ギーク君。なんかおかしくない?」
「……確かに、息が切れているな。というよりは弱っているのか?」
そしてその時は訪れる。暫くの間戦闘をこなしていると、リラの様子が目に見えて弱っているのが分かった。
目の前の怪物が辛そうに肩で息をしており、その表情も苦しげに歪んでいる。動きについてもセブンのフォローはほとんどいらなくなってきており、もう少しで倒せるかもしれないという状況になっていた。
「ということは負けイベントじゃないって訳だ。ねぇどっちが倒す?」
「ふん、話し合うまでもない」
「あ!ちょっと!」
話しかけたセブンの言葉を半ば無視する形でギーグは前に出ると、手に持った軍刀で斬りつける。先程までは通らなかった刃が徐々にリラの体に切り傷をつけ始めた。
「ガァァァ!」
「どうした?鈍っているぞ?」
それを嫌ったリラが乱暴に腕を振るうが力任せの一撃はトッププレーヤーには届かない。それを嘲るように笑うとギークは痛ぶるように何度も斬りつける。
「この程度か。拍子抜けだな」
やがて膝をついたリラを見て、ギークはつまらなさそうに言葉を吐き捨てると、トドメを刺さんとスキル名を口にした。
「消えろ。【国斬ノ断】」
その言葉とともに軍刀が金色に輝き始める。その凶刃が動けないリラの首に振り下ろされる――。
「ちょっと待ったぁ!!!」
「ぎゃう〜〜〜!?!?」
「何……?」
叫び声と共に突如として黒い物体が飛来する。それは刃とリラの間に滑り込むと、むにぃっと、光り輝いた軍刀が何か柔らかいものにめり込んでリラに届く事なく弾かれた。
「その子を倒されると困っちゃうんですよ、先輩方!」
「またお前か……!」
「いいねぇ、クライマックスってやつかな!」
距離を取り、声のした方に眼をやって忌々しそうに吐き捨てた『総統』に、滑り込んできた登場人物を見て至極愉快そうな『魔王』。そして全てを掻き乱す『きょうじん』が揃い、事態は最終局面を迎えようとしていた。
[TOPIC]
SKILL【国斬ノ断】
最強の剣豪が使用したとされる伝説の斬撃。どれだけ栄えようとも意味はない。その一撃の前には……
CT:1000sec
効果①:斬撃属性の単発ダメージ(腕力*100)
効果②:対象の防御力を計算しない




