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3-42 愛しき人にその手を伸ばして⑨


 屋根が完全に崩壊し、瓦礫が散乱する室内で、レイは茫然と街を見つめる。


 その視界の先では至る所で煙が上がり、建物が崩れているのが映る。それがリラによるものか、はたまた囚人達の暴動によるものか彼女には判断がつかなかった。


「は……早く……追いかけなければ……」


「ちょっと無理だって!」


「ぎゃう~」


 満身創痍のゴウグが体を起き上がらせようとしているのをレイ達が慌てて止める。


 見るからに重傷で動くこともままならないゴウグはそれに抵抗することもできず、苦しそうに呻いて倒れ込んだ。


「おぉ、凄い音がしたと思ったら大変なことになっていますねぇ」


 そんな時、エレベータの止まる音と共に一人の男が現れる。その顔には出会った時と同じような優しい朗らかな笑みを浮かべていた。


「オジサン……」


「どうも、おじさんですよ。それで、これは一体どういう状況なんでしょう」


 きょろきょろと辺りを見渡しながらレイの方に近寄ってくるオジサンに、レイは今あった出来事をゆっくりと説明する。


 それを一通り聞いたオジサンは口髭を撫でると、優しくレイに声をかけた。


「なるほど、大体は分かりました。では一つずつ考えていきましょう」


 そう言ってオジサンはメニューウィンドウから幾つかアイテムを取り出す。


「まずはゴウグさんから。回復アイテムは試しましたか?」


「いや、まだ……」


「それでは【ハイポーション】を。じゃしん君、手伝ってあげてください」


「ぎゃ、ぎゃう!」


 取り出したのは中に黄緑色の液体が入った瓶であった。数十個あるそれを地面に置くと、じゃしんが一つずつ拾ってゴウグの口元へと運んでいく。


 その液体を口にしたゴウグは僅かながらも効果があったようで、苦しそうだった表情が少し和らいでいるようだった。


「恩に……きる……」


「いえいえ。そうお気になさらずに」


 お礼の言葉に笑顔で頷きながらも、オジサンは次の問題についてレイに話しかける。


「では続いてリラさんの方を。街の方に飛び出していきましたが追いかけるのは後にしましょう。こういう時はまず落ち着いて、何をしたらいいかを考えてからです」


「考える……でも何も分からないし……」


 レイの弱気な発言にオジサンは首を振ると、優しく諭すように否定する。


「レイさん、それは違います。これはゲームですよ?ヒントは自分の手で掴み取るものだと思いませんか?」


 その言葉にレイはハッとする。ついていけない程の怒涛の展開に、ここまで何一つ上手くいってなかったことも相まって、自身が全く冷静ではなかったと気付かされた。


「そっか……そうだね!じゃあ私探すよ!」


「ぎゃう!」


「私もお手伝いしましょう」


 落ち着いたことでようやく思考がクリアになったレイは笑顔を向けてじゃしんとオジサンに宣言する。それを聞いた彼らは嬉しそうに返事をしてそれぞれの仕事に取り掛かった。


 じゃしんはゴウグの看病を、レイとオジサンは唯一の手掛かりである机を調べるために瓦礫の撤去を始める。そうして数分後、姿を現したテーブルの上にファイルが一つ置いてあるのを発見した。


「レイさん、これを見てもらえますか?」


「これって……」


 それを手に取り、中身を流し見していたオジサンがとあるページを指さしながらレイに声をかける。


「【進化の薬】、というものについてみたいですが。これ黒服の方たちが使っていたものでは?」


「そうだね……あ!そういえば末端に渡したどうのこうのって言ってた気がする!」


 その言葉を聞いてクリアが自慢げに言っていた発言を思い出す。それが正しいのであれば、そこに記載されている事は関連している可能性が高く、レイは横から食い入るように見つめる。


「ありました。【R:evolve】、これですね」


「【破壊衝動】に【崩壊】……?何これ聞いたことないけど、この前の鼠と同じようなものかな?」


 初めて聞くその名称にレイは眉をしかめる。何度か見た攻略サイトや動画には当然その名はなく、ワールドクエスト特有のものであろうと考察した。


「効果は全MOBと強制敵対行動に逃走不可……それと一定時間毎にステータス減少ですか。厄介ですねぇ」


「じゃあ放っておけば楽に倒せる?」


「いえ、ダメみたいですよ。全ステータスなのでHPも対象でしょう。直に弱って死んでしまうのではないでしょうか」


「何だと!?」


「ぎゃ、ぎゃう〜!」


 資料を見ながら答えたオジサンの言葉にゴウグは思わず身体が反応する。まだ万全とはいかず、動いた事で顔を歪めたゴウグをじゃしんが再び寝かせた。


「本来であれば継続投与する事で長期間運用する予定だったんでしょうね。ただ想像以上に強く、うまく手綱を握れなかったと」


「バカ過ぎる……」


 資料を読み終えたオジサンが結論を語るように考察を口にする。それに呆れて舌打ちをするレイに困ったように笑いつつもファイルを机の上に置くと、腕を組んで眼を細めた。


「状態異常であれば何とか直せそうな気もしますが、ここには専用アイテム等は特に書いてませんね。さてどうしたものか」


「状態異常の回復……あっ」


「おや?その反応は何か良い案が?」


 何かに気が付いたレイは顔を跳ね上げると懐にいる本を取り出す。その様子にオジサンがちらりと視線を向けると、自信満々にニヤリと笑った。


「うん、任せてよ。うってつけの子がいるからさ!イブル、出番だよ!」


「お!お呼びですかい!」


「おやおやこれは……」


 突然喋り始めたイブルに対して、オジサンは驚いたように眼を丸くする。その様子に少ししてやったりと感じながらも、レイはスキルの発動を宣言した。


「【簡易召喚】!使うのは【子の紋章】で!」


「アイアイサァ!じゃあ行きますぜェ!」


 威勢良く声を出したイブルが怪しく発光すると、足元に黒色の魔法陣が現れ、夜空より雷が舞い落ちる。やがて晴れた煙から顔を出した生き物を見てレイは顔を綻ばせた。


「よく来たね、ラッキー!」


「――もきゅ?」


 ひょっこと顔を出したのは虹色のスカーフをした黄色いリスであり、突然の状況にこてりと首を傾げていた。


[TOPIC]

STATE【破壊衝動】

効果①:強制敵対行動

効果②:逃走不可


STATE【崩壊】

効果①:全ステータス減少(1/30sec)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! 手ひどくやられましたね、、 ああ、、レイちゃん熱くなりすぎてたか、、 あ、そうだ子の紋章使えばよかったのか! さぁここからは一転攻勢だ 更新お待ちしています!
[一言] この調子だったら『申の紋章』で『簡易召喚』で出てくるのはゴウグかな?
[一言] ラッキー召喚できたのか
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