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3-37 愛しき人にその手を伸ばして④


「あ、あはは……何かお邪魔しちゃったみたいで……どうぞ構わずごゆっくり……」


「ぎゃ、ぎゃうっ」


 周囲から突き刺さる『なんだコイツ』とでも言わんばかりの視線に居た堪れなくなったのか、レイとじゃしんが愛想笑いを浮かべてコソコソと移動しようとする。


「レイ、時間が惜しい。早く行きたいんだが」


「君がこんな所突っ込むのが悪いんじゃないかなぁ!?」


 だが、その苦労を微塵も感じ取っていないゴウグが急かすように声をかければ、レイは怒りをぶつけるようにゴウグの肩を叩く。ただそれを受けてもゴウグは何がいけないのか分からず、頭上にはてなマークを浮かべていた。


「だからもっとゆっくりって言ったじゃん!どっから入るかは慎重にって!」


「そんなこと言っている状況じゃないだろう!今もリラの身が危険にさらされているんだぞ!」


「いや、そうなんだけど!それはそうなんだけどさぁ!」


「レ〜イ〜ちゃ〜ん?」


 正論をぶつけられ、なんとも言えない感情が渦巻く彼女の名前を背後から呼ぶ声がする。普段はともかく今は出来れば聞きたくなかったその声に、ギギギッと錆び付いているような挙動でレイは振り向いた。


「あ、あ〜!セブンさんじゃないですか!お久しぶりです!」


「本当にね!いや〜相変わらず面白いメンツ連れてるねぇ!」


「い、いやぁそれほどでも……」


 口の端が引き攣っているのを感じながらも、レイは何とか笑顔を貼り付けて会話する。


だが目の前にいる相手がとびきりの笑顔を向けており、非常に嫌な予感がして頭を抱えたくなっていた。


「ねぇ、レイちゃん今から暇?一緒に遊んでかない?」


「いやいやそんなっ、申し訳ないですって!なんかただならない雰囲気ですし、邪魔者はすぐに消えますからっ!ね、ギークさんもそっちの方がいいですよね!?」


 レイの予想通り、セブンの口から可能な限り聞きたくなかった提案をされて全力で首を振る。ただ残念ながら目の前にいる相手が、他人の意見を尊重するような人物ではないことも重々承知していた。


 そのため話の矛先を逸らそうとギークの方に話しかけるものの、レイの方をチラチラ見ながら仲間内で話しているだけで、レイの言葉に肯定する様子はない。


「大丈夫!僕らは気にしないから!と、いうことで、勝手に始めちゃいまーす!じゃあ皆、好き勝手暴れて良いよー!」


「「「ヒャッハー!!!」」」


 セブンの掛け声とともに今か今かと前屈みになっていた囚人達がレイ達に向かって飛び出す。それに対抗するかのように、対峙していたプレイヤー陣営もレイ達に向かって殺到し始めた。


「やっぱりこうなっちゃうかぁ!取り敢えずここから離れるよ!」


「レイ、コイツらは敵か?」


「そう!だけどあんまり暴れないで!」


 暴動にも似た混乱に巻き込まれないために、端に逃げるよう指示を出して走り出したレイはゴウグの質問に声を張り上げて答える。


「ん?何故だ?無理矢理押し通せば良いと思うが」


「片方潰しちゃうともう片方が邪魔してくるから!それとも時間かけて両方潰すつもり!?」


「そういう事か、何と厄介な」


「理解してくれて嬉しいよ!君のせいでこうなってるんだけどさっ!」


 ようやく事態を分かってくれたゴウグに嫌味を返しながらひたすらに走り続けるレイ。背後では第一陣がぶつかったようで、悲鳴と怒号が入り混じる喧騒が聞こえ始めた。


「メンバーに告ぐ!『きょうじん』達を間に挟むように立ち回れ!決して奴らを逃すな!」


「んなっ!何て最低な作戦立てるの!?」


 そんな中ギークの言葉に連動して、軍服を着た一部のプレイヤーがレイ達の進路を妨害するように回り込む。それに思わず悪態をついたレイだったが、漁夫の利を狙う作戦は憎たらしいほど理にかなっていた。


「よぉ、テメェがレイか?」


「俺らのいない間に好き勝手やってたみたいだなぁ?」


「取り敢えず身ぐるみ全部置いてけや!」


 その作戦にまんまとハマるように、足を止めたレイ達に囚人達が追いついてくる。彼らは何も考えていないのか、嫌な笑みを浮かべながらレイに向かって距離を詰めてきた。


「おらおら、どうしたよ!」


「クソッ!鬱陶しいな!」


 囚人達は対人戦に慣れた、かなり嫌らしい動きをして翻弄する。それに加えて装備が強く、また人数不利のためかレイは徐々に押され始めていた。


「【ハイドロビーム】」


「おっと、危ねぇな!」


 そこにウサの援護が入り、囚人達は距離を開けるように後退し、レイもまたウサの元まで下がる。


「ウサ!ありがと!」


「レイ、話がある」


 レイがお礼を口にすると、ウサは真剣な顔をしてレイの目を見つめた。


「今、修復中で【くーまん】が使えない。だから多分、最終決戦で私は使い物にならない」


「いや、そんな事はないと思うけど……?」


 たとえ【くーまん】がいなくとも、ウサの火力は馬鹿にならない事をレイは重々承知している。正直に言えば、レイ自身よりも戦力という面では圧倒的に優秀だということも疑いようがない事実だろう。


「そんな事ある。だからここは私に任せて。レイ達は先に行って」


「でも……いいの?」


 だがそれでもウサは譲らない。覚悟を決めたその瞳にレイはおずおずと改めて確認を取る。


「うん、私はレイのファンだから。活躍してると嬉しい」


「――分かった。じゃしん、ゴウグ、行こう!」


「ぎゃう!」


「感謝する」


 決して曲げない意志を感じたレイはじゃしんとゴウグに声をかけると、その場を彼女に任せて走り始める。背後からの追手はウサが何とかしてくれると信じ、もう一つの問題である正面の軍服達に目を向けた。


「こっちに来たぞ!囲え!陣形を崩すな!」


「ここはやるしかないか……ゴウグ――」


 部隊のリーダーと思しき男の声に従い、【WorkerS】のメンバー達が統率の取れた動きでレイ達の行く手を遮る。もはや戦わないという選択肢は難しいと判断したレイがゴウグに声をかけようとした――その時だった。


「【鬼蛇のコイン】。今日はそうだな、鬼の気分だ」


「……あ?何してんだ!?」


「おい、こっちは味方――ぐあぁ!」


 軍服の中の一人がコインをはじくと、地面に着地した瞬間に大量の【オーガ】が現れる。


突如現れたモンスター、だがそれがレイ達に襲い掛かることなく、寧ろ味方であるはずの軍服達へと襲いかかり始めた。


「よう。久しぶりだな、嬢ちゃん」


「ダークレさん?何で……」


 その状況に困惑しているレイに、一人の男が近づいてくる。声をかけながら被っていた軍帽を脱ぎ捨てると、そこには鼻の赤らんだ【JackPots】の幹部の姿があった。


「うちのボスの命令だよ。嬢ちゃん達をフォローするように、だとさ」


 そう言いながらダークレが指さす方に顔を向けると、軍服の男達がお互い争いあっているのがレイの目に映る。恐らく【JackPots】のメンバーが紛れ込んでいたのだろう、そのお陰で陣形どころの話ではなくなっていた。


「なに安心しな。俺達は老骨だが、簡単に折れるほど落ちぶれちゃいねぇからよ。だから今のうちに通っちまいな」


「――うん!ありがとう!」


 レイは感謝の言葉を口にすると、戦闘の最中をすり抜けるように街の中心部へと駆け出していく。


「いいねぇ、若いってのは」


「何をしている!裏切るのか!」


 その後姿を見送るダークレに、部隊のリーダーと思しき男が怒声を上げながら近づいてくる。


「おう、アンタらにも伝言だ。【JackPots】は何ちゃら同盟から抜けさせてもらうとよ。あぁ、それと――」


 怒り心頭と言った様子の相手に、ダークレは懐から煙草を取り出して口にくわえる。


「人生の先輩からのアドバイスだ。人をそんな簡単に信じるもんじゃあねぇよ、そんなんじゃカモにされちまうぞ?」


 たっぷりと時間を使いながら煙を吸った彼はそう呟く。その顔には大人の貫録を感じさせるニヒルな笑顔を浮かべていた。


[TOPIC]

SKILL【鬼蛇のコイン】

鬼が出るか蛇が出るか、すべてはあなたの運命次第。

効果①:コインの面を宣言する。宣言通りの場合、召喚獣として使役できる。

効果②:コインの面を宣言する。宣言と異なる場合、対象プレイヤーに襲い掛かる。

(鬼の面:【オーガ】を召喚/蛇の面:【フライスネーク】を召喚)


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― 新着の感想 ―
[一言] 読み進めていくと無理だよねという気持ちが邪魔します。 最初は魂をとることを目的にしていたのでそうでもなかったのですが、レベル制のゲームでこれはちょっと無理があると思います。 プレイヤースキル…
[一言] 更新お疲れ様です! どうやって来たのか謎ですが、、、 それはそれとして最悪だ、、ギークはホントに、、、 コイントスで決めるスキル、、粋だなぁ、、 更新お待ちしています!
[一言] ギャンブラーらしいなぁ
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