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3-34 愛しき人にその手を伸ばして①


「さて、どこに行こうか?」


「むっ、分かっているのではないのか?」


 先程の威勢のいい発言とは裏腹に、ノープランとでも言わんばかりのレイの言葉に対して、ゴウグは訝しげな視線を向ける。


「いや、悪の親玉が誰かは分かってるよ?でも候補が2つあるんだよね」


 それに落ち着くようジェスチャーをしながら、レイはとある方角を指さした。


「まずは『フォーゲルケーフィッヒ』。私がリラを見たのはあそこなんだけど……ただなぁ」


「ただ、何だ?」


 言葉を濁したレイにゴウグは再度尋ねる。


「中から何処かに転移するんだよね。だから直接的な場所ではないことは確かで、もしかしたら無駄骨かもって感じ」


「なるほど、ではもう一つは?」


「もう一個は街にある【セントラルタワー】って所。まさしく悪の親玉の根城だね」


 納得したように頷くゴウグに対してレイはもう一つの案を提示する。ただ考えがまとまらない二人は一緒になって困ったように唸り、それを見かねたのかウサから助け舟があった。


「可能性があるなら潰しておくべき。ここからなら監獄の方が近いし、そこまでロスじゃないと思う」


「だね。じゃあやっぱり監獄からかな。ゴウグもそれで大丈夫?」


「あぁ」


「よし、じゃあ早速行こうか。時間も限られてるし走って――」


「その必要はない」


 ウサの提案に乗っかる形で方針を決定したレイはゴウグに確認を取った後、反論がない事を確認すると、監獄に向かって走り出――そうとするレイをゴウグが服を掴んで止める。


「うぐっ、何すんのさ!」


「私が移動する。背中に捕まってくれ」


 急に体を引っ張られて尻餅をついたレイは立ち上がりながらゴウグに恨みがましく睨みつける。それに構うことなくゴウグは背を向けると、乗りやすいように少し屈んでみせた。


「え、いいの?」


「ぎゃう~!」


 レイが遠慮がちに問いかける一方で、じゃしんは我先にとその頭にがっしりと掴まる。隣を見るとウサも当然のように乗り始めていたため、レイもおずおずとその大きな背中に乗った。


「じゃあ失礼して……安全運転でお願いね?」


「任せた」


「もちろんだ。しっかりと掴まっていてくれ」


 二人の言葉に大きく頷いたゴウグは一度腰を落としてクラウチングスタートのポーズをし、グっと溜めの時間を作ると、勢い良く地面を蹴って跳躍する。


「と、飛んでる!?」


「ぎゃ、ぎゃう~!?」


「これは凄い」


 世界樹の太い幹を激しく揺らして青空へと飛び出したゴウグに、レイ達は目を見開いて驚愕の声をあげる。


 長い滞空時間の後、ズドンと地面に着地したゴウグはその勢いのまま走り出す。


「ははっ、速い速い!これ楽しいかも!」


「ぎゃうぎゃう~!」


 慣れてきたのか、背中の上で声を上げてはしゃぐレイとじゃしん。たったの一歩で途轍もない距離を詰め、一分も立たない内に、『フォーゲルケーフィッヒ』の姿は見え始めていた。


「これならすぐ着く――ん?」


「何か様子がおかしいぞ」


 だが『フォーゲルケーフィッヒ』に近づくにつれて、何か様子がおかしい事に気づく。その事についてゴウグから尋ねられるも、レイにも分からず、眉を顰めることしかできない。


「何、これ……」


 やがて辿り着いたレイ達が目にしたのは、チョーカーを外した囚人達が『看守ロボ』と戦闘を行っている、地獄のような光景だった。


 あちこちで火の手が上がり、警報と怒声や笑い声が響く世紀末具合に、思わず言葉を失う。


「一体どうなって――あ!ちょっと!」


 状況が微塵も理解できないレイは真っ赤な目をしながら渦中へと向かう『看守ロボ』の一体を引き止める。


『お前ハ……元囚人番号667番!何シニキタンダ!』


「ちょっと知り合いに会いに。そんな事よりも一体何が起きてるの?」


 問われた質問にしれっと嘘で返したレイに対し、『看守ロボ』それどころではないと言わんばかりに捲し立てる。


『襲撃ダ!何者カガコノ監獄ニ対シテ攻撃を仕掛ケテキタノダ!』


「襲撃?一体誰がそんな事――」


 そこまで言葉が口に出て、ハッと押し黙る。その脳裏には一人だけ候補が思い浮かんでおり、その人物は頭の中で楽しそうに高笑いをしていた。


『多クノ囚人ドモガ脱走シテ街ニ向カッテシマッタ!設立以来、初メテノ大失態ダ!』


 ビカビカと目を点滅させる事で怒りを表現している『看守ロボ』。そこで良いことを思いついたと言わんばかりにレイはにやりと笑うと、今にも走り出していこうとする『看守ロボ』を引き止める。


「ねぇ、私も手伝ってあげようか?」


『ム?』


 その言葉に『看守ロボ』は動きを止め、顔のディスプレイにクエスチョンマークを浮かべる。


「まだまだ暴れてる奴らがいるみたいだし、一般市民として協力しようと思って。どうかな?」


『ナルホド……良イ考エカモシレナイ』


 一考の余地があると踏んだのか、少し考え込んだ『看守ロボ』はピピっと何かの機械音を鳴らす。


 どうやら他の「看守ロボ」に通知したのだろう、そう判断したレイは勇足で横を抜けて監獄内へと向かう。


「オッケー決まり!じゃあ中入らせてもらうね!」


『待テ!ソイツハ何ダ?』


 その後ろにパーティメンバーが続き、ゴウグとすれ違ったタイミングで『看守ロボ』が呼び止める。


「これ?これは新しい召喚獣だよ!ほら挨拶して!」


「ウ、ウホ?」


『……ウム、ナラ良イカ』


 くるりと振り向いたレイはその顔にセールスマンのような笑顔を貼りつけてゴウグに指示を飛ばす。それに対し右手を上げただけのゴウグだったが、『看守ロボ』は少し考え込むと特に問題ないと判断したのか一言だけ呟いて戦闘へと向かった。


「私が言うのも何だけど本当にそれで良いのか『看守ロボ』……まぁいっか、さっさと中入っちゃおう!」


 ガバガバ判定の『看守ロボ』にレイは呆れた様子を見せつつ、周りに声をかけて監獄内へと侵入する。


「えーっと、確か――あっ!ここ!」


 そのまま何回走り抜けたか分からない道を迷う事なく進み、闘技場へと続く扉を発見する。


「あの先か?」


「うん、準備はいい?初っ端からリラって子と戦う事になるかもしれないけど」


 ゴウグの問いかけにレイは脅すように言葉を返す。それに一度目を瞑って思案すると、やがて決意の籠った目で言葉を放った。


「――覚悟はできている。必ず、彼女を救うと決めたからな」


「いいね、じゃあゴー!」


「ぎゃう!」


 その回答に満足げに頷いたレイは先陣をきるように魔法陣に飛び込む。そのすぐ後ろには意気揚々と鳴いたじゃしんが続いていった。


[TOPIC]

AREA【セントラルタワー】

『賭博街ゴールドラッシュ』の中央に位置する街で最も高い建造物。

中にはクリアが出入りしていることが度々目撃されているが、入るには特別な許可が必要である。

判明しているものとして『クリア関連のイベントを進める』と入場できるというものがあり、他にも『1000万Gを収めて上流階級になる』という噂がまことしやかに囁かれているが、情報が少なく真偽は定かではない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! うん、、、ガバガバ警備過ぎない? そして流石聖獣、ステータスは高い! うーむ、、、そう上手くいくかなぁ、、、? 更新お待ちしています!
[一言] ロボット、それでいいのか
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