3-33 答えを求めて
「いらっしゃいませ、昨日ぶりですねぇ」
「ごめんなさい、また裏道使ってもいい?」
「えぇ、勿論です。お好きにどうぞ」
晴れて自由の身になった翌日、レイは【ゴールデンマイン】にある【JackPots】のクランハウスを訪れていた。
・いや〜、めっちゃ待ち伏せされてたね
・アイツら後付ける気満々だったな
・これが配信者の宿命か……
「完全に私の不注意だね。ミナトさん、だっけ。迷惑かけてごめんね」
「いや、俺のことは気にしなくて良い」
コメントにある通り、以前使ったバーにて待ち合わせを行っていたレイの元に多数のプレイヤーが殺到した。
あわよくば横取りしてやろうといった魂胆が見え見えのプレイヤー達にどうしたものかと頭を悩ませていたレイ。そこにこれまた前回と同じようにミナトが現れて連れ出してくれたため、なんとか事なきを得ていた。
「……なぁ、俺もついてっちゃダメか?」
フレンドコールでウサに連絡を入れていると、ミナトが少しソワソワした様子でレイに話しかける。
「へ?あぁ、まぁ別に良い――」
「ミナトくん」
浅いながらも知った仲だからか、頷こうとしたレイを遮るようにオジサンが嗜める。
「それは違うでしょう。私は許しませんよ」
「……そう、だな。俺が間違ってた。すまん、忘れてくれ」
オジサンの言葉に反省するように頭を下げるミナト。それに併せてレイも首を振る。
「ううん、こっちこそごめんね。そこはちゃんとするべきだった」
「うんうん、反省できるのは良い事ですよ。ミナトきゅん、偉いでちゅねぇ〜」
「殺すぞ」
空気を切り替えるように戯けた態度をとったオジサンにミナトはいつもの調子で悪態をつく。そんなやり取りにレイが笑っていると、ようやくウサがやってきた。
「レイ、おまたせ」
「ううん、今きたとこ」
ウサが小走りで寄って来るのを見ると、レイも椅子から立ち上がる。
「じゃあいってきます」
「えぇ、いってらっしゃいませ」
「気をつけろよ」
【JackPots】の二人に声をかけ、裏道へと歩を進める。その足取りは彼女の気持ちに比例するように軽やかだった。
◇◆◇◆◇◆
「……何しにきたのだ」
再び世界樹の最上階へとやってきたレイとウサに、どこからともなく弱々しい声が聞こえてくる。
「何ってお話ししようかと思って。守る物がなくなった今なら聞いてくれるでしょ?」
レイは笑みを浮かべながら何もついていない小さな木を指さす。その瞬間、ゴウグが目の前に現れるとレイの首を掴んだ。
「【しゃーく――」
「ウサ……!大、丈夫……!」
怒りの形相で睨むゴウグに対してウサが戦闘態勢を取ろうとするが、それをレイは声をかけて止める。
「黙れ!貴様らのせいで……!!!」
「リ、ラって、ピン、ク色で、しょ。君、とお、なじ、姿、の」
『なっ!』
レイが言った特徴に心当たりがあったゴウグは思わず目を見開いて手を放す。そこで地に足を付けたレイは軽く咳込みながらもにやりと笑みを浮かべた。
「どういう事だ!?貴様は何を知っている?」
「や~っと、ちゃんとこっちを見てくれたね」
「貴様は一体……」
ぱんぱんと膝を払う動作をしてゆっくりと立ち上がるレイに、ゴウグは思わずたじろぐ。そんな警戒している様子を見てレイは苦笑しながら声をかけた。
「そんな警戒しないでよ。取って食うわけじゃないんだからさ」
・ほんとに~?
・嘘くさw
・【世界樹の実】奪っといてよく言うよ
「そこはほら、昨日の敵は今日の友ってことで。とりあえず、なんでそんな目の敵にしているか教えてもらえない?」
軽い調子で言うレイの真偽を確かめるようにじっと見つめるゴウグ。しばらくの間黙って見つめ合っていたが、やがて諦めたのかため息を吐きながらぽつぽつと話し始める。
「……あれは一月前のことだった。【世界樹の実】を狙うものが現れたのは」
「あ、ごめん。その前に一個だけ。君達は『聖獣』っていう認識であってる?」
ゴウグの話を遮って、レイは一番気になっていたことを確認する。それにこくりと頷くとゴウグは話を続けた。
「あぁそうだ。我々――私とリラはこの地の『聖獣』であり、同時に守護者でもあった。この神聖な地を汚す悪しき者から守るために」
そう言うゴウグの表情はどこか懐かしむような寂しい顔をしていた。それにレイは言葉を挟まずに言葉の続きを待つ。
「そもそもこの地は選ばれた者にしか辿り着けない結界が張ってある。だから何百年もの間、平和な日々だった」
・結界か
・なるほど、だからコンパスが必要なのか
・見つからないわけだ
「そんな時だ、奴らが現れたのは……!」
世界樹の仕様について合点がいったように視聴者が納得したコメントを残していると、ゴウグは顔を顰めて手に力を籠める。
「どこで資格を得たのかは分からないが一目見ただけで分かった。奴等は悪しき者であると。――そして『ハクシ教』なるものがいずれ災いを齎す事になると」
「うん、だろうね」
その単語を聞いた瞬間、レイは頷いて返す。その間もゴウグはヒートアップするように語気を強めていく。
「だから我々は戦うことを選んだ。守護者として、使命を果たすために。……それが失敗であった」
ゴウグはドシンと握りしめたこぶしを思いっきり地面に叩きつける。その心に呼応するようにざわざわと樹が揺れ、鳥が鳴きながら飛び立っていく。
「その結果がこれだ。奴らの使う神の力に為す術なく、リラと使命の2択を迫られて……私は選べなかった。そのせいで……」
「神の力?」
「あぁ、かつてこの世界を混沌に貶めた邪神の力だ。とにかく強力で――そのせいでリラを……」
またもや聞きなれない単語にレイはふむと考え込む。その間にトーンを落としたゴウグは自嘲気味に俯いた。
「しかも引き換えにして選んだ使命すら果たせない。なんて滑稽な――」
「ふっ、それは違うよ」
自身を攻めるようにゴウグは薄く笑って弱音を零す。だがレイはそれを鼻で笑って一蹴した。
「君が負けた理由は一つ。相手が私だったからだよ」
「……は?」
自信満々に胸を張りながらそういうレイに、思わずゴウグは顔を上げて惚けた顔をする。
「そんな最強な私があえて言ってあげよう、私と協力してあなたのお姫様を助けに行かない?」
「ッ!?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべてそう提案するレイにゴウグは二の足を踏んで押し黙る。そんな様子に構わず、レイはゴウグに問いかけた。
「さぁ選んで、ここで一生うじうじ悩むか、ヒーローになるか」
「それは……」
再度問われた言葉に、上げた顔を再び落とすゴウグ。
「私にも、できるだろうか」
「さぁ、知らない。でもね、私は絶対にやるよ。たとえ何があっても勝つまでやる」
そんな縋るような語気にレイは呆れたように肩を竦めるも、勝気の溢れた自信満々な瞳で真っすぐとゴウグの目を見る。
「……お主は強いな」
言い切ったレイの瞳を見つめ返したゴウグはその様子に気圧され、やがて吹っ切れたように薄く笑う。
「改めて問おう、お主の名前は?」
「レイだよ。彼女はウサでこっちがじゃしん」
「よろしく」
「ぎゃう!」
改めて自己紹介を交わすと、ゴウグは全員の目を見つめて思いを伝える。
「レイ、ウサ、じゃしん。お願いがある、私に力を貸してくれ」
「任せて、大船に乗ったつもりでいなよ!」
[World Quest]
【愛しき人にその手を伸ばして】
・ゴウグと共にリラを救う
・報酬:???
※ワールドクエストが発生しました。これよりクエスト完了まで配信は出来なくなります。
レイが胸を強く叩いて自信満々に言い放てば、その言葉と共に配信用のドローンが消え、通算三度目になるウィンドウが出現する。
彼女の取り巻く世界はまたしても激しく変動するようだった。
[TOPIC]
ITEM【始まりへの道標】
世界樹から作られた紙の地図。そこに記された場所には誰も知らぬ始祖の大木が存在する。
効果①:世界樹への道を指し示す。




