3-31 宝物は頂いた!
「いってて……一体何――ってじゃしん?」
「ぎゃうー!ぎゃうぎゃう!ぎゃうぎゃうぎゃうぎゃうぎゃう!!!」
地面に倒れ込んだレイは突っ込んできた相手を確認して目を見開く。それに対してじゃしんは何かを抗議するように喧しく叫んでいた。
「何だ、ソイツは」
「いや、何だって言われてもなぁ。あ!そっか、無事に脱獄出来たのか。完全に忘れてた」
「……ぎゃう~!!!」
困惑しているゴウグが問いかけると、レイは本当に今思い出したようにぽんと握り拳を掌の上に置く。
その様子を見たじゃしんは絶望した表情で絶句した後、怒りが沸点を超えたのか大声で叫びレイの頭に噛みついた。
「うわっ!何すんのさ!痛い痛い!いや、痛くは無いんだけど!」
「ぎゃふぎゃふ!」
・何言ってんだ
・でもレイちゃんが悪いだろこれ
・それはそう
引き剥がそうとじゃしんを掴むレイに、視聴者から自業自得だろと言いたげな非難の言葉が告げられる。
「は・な・れ・ろ――よし、捕まえた!いや、それはそうなんだけどさ。それどころじゃなかったんだから仕方なくない?」
「ぎゃう~!」
ようやく頭からじゃしんを剥がしたレイは両腕でがっしり捕まえながら視聴者に話しかける。捕まったじゃしんはまだ納得していないのか、レイの腕を噛みながらバタバタと暴れていた。
「いや、でもナイスタイミングで来たよ。このままじゃじり貧だっただろうし」
「ぎゃう?……ぎゃう!?」
嬉しそうに顔を綻ばせるレイにじゃしんは首を傾げた後、ようやく目の前にいるゴウグを視界に収める。その何処かで見たことがあるようなフォルムに、思わずレイを二度見した。
「多分別人だと思う。それに今回は倒す必要ないから」
「ぎゃう?」
不敵に笑ったレイの腕の中でじゃしんは首を傾げる。そんないまいち理解できてない様子のじゃしんに、レイは耳打ちをした。
「ふん、作戦は決まったか?」
突然現れたじゃしんを警戒していたのか、傍観していたゴウグが痺れを切らして声を掛けてくる。
「うん、待っててくれてありがと。意外と律儀なんだね」
「所詮は一匹増えただけの事。今更何かを企んだところで遅いのだ!」
レイの煽りのような言葉を意にも介さず、再びドラミングを始めるゴウグ。それと同時にレイ達も動き出した。
「よし、ウサは下がってて。行くよ!じゃしん!」
「了解」
「ぎゃう!」
その言葉にウサとじゃしんは返事をする。それを聞き届けたレイは少し後ろに下がると、助走をつけながらじゃしんを思いっきり投げ飛ばした。
「ッ!?【ドラミング・ハウ――」
「【じゃしん讃歌】!」
「La~♪」
一瞬呆気に取られたゴウグが慌ててスキルを発動するも、すんでのタイミングでその歌声に阻まれる。
ピシリと固まった世界の中で、唯一じゃしんのみが緩やかな放物線を描きながら【世界樹の実】へと向かっていく。
「ちぃっ!させん!」
時間にしてぴったし6秒後、自由になった体を思いっきり反転させると、ゴウグはじゃしんの元へ全力で駆け出す。
「ぎゃう~!」
「甘いわ!」
ほんの目と鼻の先という所までじゃしんが【世界樹の実】へと迫り、その爪先を掠める――が、そこで追い付いたゴウグがじゃしんの足を掴んだ。
「ふん、小賢しいマネを――」
ドカンッ!
瞬間、じゃしんが爆ぜる。
大したダメージにはなっていないが、辺りは煙に包まれ視界が悪くなり、ゴウグは悪態をつく。
「クソッ!」
「ぎゃう~!」
作戦を潰せたと思い込んでしまったゴウグは慢心した自分の心を叱責する。そのイラついた心をぶつけるように手に持ったじゃしんを放り投げた。
「落ち着け……条件は同じのはずだ……!」
焦る気持ちを抑えながらゴウグは自分に言い聞かせる。爆煙によって視覚と嗅覚に頼れない以上、聴覚に全神経を集中させて、相手の出方を待つ。
………………タタッ……
「ッ!そこだ!」
僅かに聞こえた足音に神速の反応を見せたゴウグは、音のした方向に移動してその拳を横に薙ぐ。
「ッ!」
「捉えた!」
確かに触れた感触がその右手に伝わり、ゴウグの顔から思わず笑みが溢れる。だがそれと同時に違和感を覚えた。
「小さい……?それに声も……」
「残、念」
やがて煙が晴れてきた時、その目に映った人物にゴウグは目を見開く。そこには苦しげに顔を顰めたウサがゴウグの腕を掴みながら立っていた。
「んなっ!貴様が何故ここに!?下がってるんじゃ――」
「意外と、素直。甘い、よ」
驚きを隠せない様子のゴウグにウサは不敵に笑う。そこでようやく、彼女達の作戦に嵌められたことを悟った。
「クソッ!なら一体どこにいるんだ!」
「もう遅い」
ウサの言葉にハッとなったゴウグが首だけ振り向くと、そこには右手にしっかりと【世界樹の実】を握りしめたレイの姿。
「あっ、これありがと。貰ってくね?」
「待て!ふざけるなァ!」
手に持ったリンゴのような果実を左右に振りながらゴウグを挑発すると、ゴウグはウサを振り払ってレイへと向かう。
「おぉ、怖い怖い。さっさとトンズラさせてもらおうかな」
決死の表情で向かってくるゴウグにレイはすかした態度を取ると、樹の端へと向かい、思いっきり飛んだ。
「なっ!貴様ァァァ!!!」
「鬼さんこちらってね。んじゃ、ばいば~い」
地面に向かって落下しながらゴウグに向かって手を振るレイ。そんな中、ゴウグの絶叫が響き渡るも、手段がないのか追いかけてくる様子はない。
・うぉぉ!!!
・やるわ
・でも着地はどうするの?
「あぁ、それも考えてるから。【アポート】!」
疑問を浮かべる視聴者の声に対して、スキルを発動することで答えるレイ。その言葉とともにレイの元にじゃしんがワープしてくる。
「ぎゃう!?」
「じゃしんお疲れ様。もうひと頑張りよろしくね」
「ぎゃ、ぎゃう!」
・もうひと頑張り?
・一体何が始まるんです?
・あぁ、そういう……
なんとなく察した様子の視聴者もいる中、その期待に応えるようにじゃしんはレイの腕を掴むと、その小さな羽を精一杯羽ばたかせてレイを持ち上げようとする。
「がんばれ!じゃしんならいけるいける!ね、みんな!」
・お、おう
・が、がんばれ~
・正直ちょっと可哀想
「ぎゃ、ぎゃう~!」
レイの精神論に視聴者は引いた様子を見せながらも、じゃしんに声援を送る。じゃしんは顔を赤くし、必死の形相をしながらもゆっくりと地面に向かって降下していった。
[TOPIC]
SKILL【アポート】
来い、相棒!
CT:60sec
効果①:召喚獣をプレイヤーの目の前に転移する
習得方法:【召喚士Lv.3】




