3-29 世界樹を守護する者
「いいの!守護者が【世界樹】傷つけちゃって!」
「貴様らが居なくなればいい話だ!」
怒号と共にゴウグはレイ達の元に着地してその拳を振るう。それに対して背後に大きく回避しながら、レイはターゲットを取るように銃を引き抜いて発砲した。
「効かん!無駄な事はやめて大人しくこの地から去れ!」
ダァン!と重低音を響かせながら放たれた弾丸はゴウグの黒い皮膚に当たって弾かれる。HPバーを見てもほとんど減っておらず、ゴウグは構わずに突進を繰り出した。
「ふっ、それはどうかな?」
だが不敵に笑うレイの様子にゴウグは眉を顰める。直後、彼女の背後から平坦な少女の声。
「【ハイドロビーム】」
「ぐ、ぐおお!?」
ゴウグはその声に視点を奥に向けると、咄嗟に腕を交差して防御態勢を取る。そこに水色の閃光が飛来し、その体を押し流した。
「あれれ〜?効かないんじゃなかったの?どう見てもそうは思えないけど〜?」
「小癪な……!」
ズザザッと地面をする音を鳴らしながら勢いを押し殺すゴウグ。そんな様子をレイが小馬鹿にするように鼻で笑うと、忌々しそうに睨みつけられる。
「ならばそちらの小娘から潰せば良いだけだ!」
「そう?じゃあ私はアレ取りに行くね」
そう言ってゴウグはウサをターゲットに切り替える。すると今度はレイがその視界から外れるように【世界樹の実】に向かって走り出した。
「ッ!?」
「おっとっと、急にどうしたのさ。私なんか無視してウサの元に向かったら?」
それを見たゴウグは慌てて旋回すると、レイに向けて拳を振り下ろす。それを分かっていたかのようにひらりと躱すと、ウサが背後に隠れるような位置取りをしてゴウグと向かい合った。
「馬鹿にしおって……!」
「馬鹿にはしてないよ。だからこそ勝つために全力でやってるのさ!」
不敵に笑ったレイは位置取りを徹底してゴウグと接近戦を行う。予め似たようなモンスターと戦っていたからかレイの足取りは軽く、一方でゴウグは警戒する場所が多く、かなり動き辛そうにしていた。
「くっ、鬱陶しい!なぜ貴様らはそこまで愚かなのだ!」
「ひどい言い草だね!あの実をくれればすぐ帰るって言ってるじゃん!」
「貴様らなんぞにあの実はやれんのだ……!リラが命がけで守ったあの実を!!!」
「リラ?」
決死の覚悟で何者かの名を呼ぶゴウグの様子にレイは首を傾げつつも応戦する。
やがてゴウグは埒があかないと判断したのか、一度大きくバックステップを挟むと、空に向かって咆哮した。
「うん?一体――」
「レイ!上!」
「「「「ウキャー!」」」」
ざわざわと樹が揺れレイは警戒を強める。その時、ウサが警告しながら指さした方向に、腕が6本ある猿が複数体出現する。
・【スパイダーモンキー】だ!
・おいおい、コイツら結構強いぞ
・レイちゃん気をつけて!
一瞬で人数差が逆転した事にレイは舌打ちしながらも迎撃を試みる。確かに動きは機敏なものの戦えないほどではない――のだが。
「数が多過ぎる!ウサ、大丈夫!?」
「こっちは平気」
十数体のモンスターが一斉に襲い掛かってくるため、思うように反撃ができず、避けることに徹するしかない。今はまだ辛うじて避けられているが、いつまでもつか怪しい部分があった。
「このままじゃ……そうだっ!」
芳しくない状況にレイは必死で思考を張り巡らせ、一つ作戦を思いつく。
「ほらほらこっちだよ!」
レイは攻撃を回避しながらも、ウサの方についている【スパイダーモンキー】のヘイトも奪って走り回る。そうして幹の端へと移動すると、急に立ち止まり、その場で180度回転する。
「タイミング良く――よいしょっとぉ!」
怒涛の勢いでなだれ込む猿達に対してレイは全力で上に飛ぶ。そのまま彼らの頭を踏みつけながら背後に回ると、最後尾にいた猿の背中を思いっきり蹴った。
「「「「ウキャー!?」」」」
押し込まれた猿達はドミノのように倒れ込んでいき、一人残らず樹の上からいなくなる。それを確認したレイはようやく一息ついた。
「これでしばらくは――」
だが、そんな彼女の耳にヒュンヒュンという何かが空を切る音が聞こえてくる。何事かと様子を窺っていると、先ほど落ちたはずの猿達が口から出した糸をロープのように使い、再び樹上に飛び上がってきた。
「はぁ!?嘘でしょ!?そんなのズルでしょ!」
「レイ、避けて」
不平を口に出した瞬間にウサの声が聞こえ、即座にその指示に従う。うつぶせのレイが振り向いた先には、【しゃーくん】を6体展開したウサの姿があった。
「【ハイドロブラスト】」
その言葉と共にしゃーくんの口に溜められていたエネルギーが、密集した【スパイダーモンキー】に向かって発射される。
轟音を響かせながら突き進む青い閃光は着弾と共に【スパイダーモンキー】を消滅させ、十数秒に及ぶその暴力が晴れた後には、塵一つ残す事を許さなかった。
「何だと!」
「流石ウサ!ナイス!」
「レイが集めてくれたお陰」
ウサに近寄ったレイは堪らず彼女にハイタッチする。ゴウグはそんな二人に対して顔を顰めたが、すぐさま切り替えて新しい刺客を呼ぶ。
「来い!【阿修羅コング】!」
その咆哮と共に、再び上部から影が飛来する。今度は三面六臂のゴリラが樹上を揺らしながら着地し、共鳴するように叫んだ。
「さてと、こっからどうしようかね……」
・キツイな……
・ここでボスレベルかぁ
・しゃーくんも使えないし……
目まぐるしく変わる展開にレイは視聴者に問いかける。しかしコメントから解答を得られる事はなく、残念そうに溜息を溢した。
「だよねぇ。やっぱりここは私が頑張るしか――」
「問題ない。奥の手を使う」
覚悟を決めて銃を握り直したレイを押しのけるように、ウサはズイッと前に出ると【阿修羅コング】に立ち向かう。
「ウガァァァァ!!!」
反響する絶叫を上げながらウサに向かって突撃する【阿修羅コング】。それに対してウサは引く事なく、むしろ一歩前に出た。
「助けて、【くーまん】」
顔色一つ変えないウサはその手に抱えたクマのぬいぐるみを前方に放り投げる。
するとクマのぬいぐるみはどんどん膨張していき、やがて【阿修羅コング】よりも大きくなってズシンと二本足で着地する。
「くまーーー!!!」
「ウガァ!?」
突如壁のように現れた黒いくまのぬいぐるみに【阿修羅コング】は勢いそのままに突っ込むが、その体は微動だにしない。逆に体を掴まれると、軽々と持ち上げられ遠くへと放り投げられた。
「ヒーローは遅れてやってくるもの」
「くまー!」
「かっこいい……」
ウサの言葉に【くーまん】は赤いマントをたなびかせながら腕を組む。その様子を見たレイは心強い味方の登場にポツリと呟いた。
[TOPIC]
WEAPON【ヒーローくーまん】
ウサの所有している装備の一つである熊型自立行動人形。
普段は何の変哲もないクマのぬいぐるみ。だが、ピンチの時、真の姿へと変身する
要求値:<技量>600over
変化値:-
効果①:協力NPCとして行動




