3-28 樹の階段を上がった先に
「これが【世界樹】かぁ」
「大きい」
遠めに【世界樹】が見えてから数分、レイとウサはようやく根元が見える位置までたどり着き、その大きさに思わず口をぽかんと開けていた。
「にしても、こんな目立つのに見つからないなんてある?」
・だよね
・言おうと思った
・でも無かったんだよなぁ……
山頂付近である事を考慮したとしても、周りの岩だらけの殺風景な景色と比べて異色すぎる【世界樹】。そんな周囲に何もない場所に、青々しく立派に育った巨木を見つける事が出来ないなど、レイには到底理解し難い事だった。
「ここまでずーっと一本道だったし……イベント踏まないといけない場所、ってことなのかな」
・あー
・可能性あるかも
・他のエリアでもあるのかな
その事から色々と思考を巡らすレイに視聴者も同調する。ただ検証のしようがないためかそれ以上考えを深める事は出来ず、もどかしい思いを抱えながらも手に持った地図を畳んで本題に入った。
「しゃーない、とりあえず【世界樹の実】とやらを探そっか」
「ん」
レイは気持ちを切り替えるようにぱんっと手を叩くと、ウサがその言葉に頷く。
「まぁ十中八九樹の上だろうね。どっかから上がれないかな?」
「レイ、あそこ」
レイが上部を見ながら思考しようとした時、ウサが何かを見つけてレイを呼ぶ。
「ん?――あぁ、なるほど。たしかにあそこだね」
ウサが指さした先は樹の側面が削られて段差のようになっており、階段のようになっていた。その『ここから上がってください』と言わんばかりの露骨さに、レイは合点がいったように頷く。
・絶対アレだ
・分かりやすっ
・なんだ?罠か?
「いや流石に罠ってことはないでしょ。むしろここ以外行く方法がないしね」
心配する視聴者にレイが楽観的に答えると、階段に向かって歩を進める。
「それにここでうだうだ言ってても始まらないし。他に方法がない以上、どんな意図があろうと行くしかないかな」
・それもそっか
・まぁこの二人なら余裕でしょ
・分かる
「私もそんな気がしてる。よろしくね、ウサ」
「負ける気がしない」
ウサから頼もしい言葉が聞こえると、レイは改めて樹を見つめ、意を決したように階段を上がり始めた。
「モンスターは……出てこないのかな」
「かもしれない」
・樹から飛び出してくるかも
・その足場だと戦いにくそう
・だからこそ出ない説
・めっちゃ長いけどね
その階段は螺旋状になっており、分岐点のない一本道となっていた。人二人が横に並べるのが精一杯の広さで、先に行くにつれてさらに狭まっていくのを感じる。
またコメントでも指摘があるように階段は雲の上まで続いているようであり、そのとんでもない高さを上がらなければいけないのかと考えると、レイは少し憂鬱な気持ちとなる。
「いくら疲れないとは言えこれは……はぁ、文句を言っても仕方ない。警戒しながらいこっか」
「ん、了解」
ウサに簡潔に言葉をかけると、レイは一歩ずつ上へと向かっていく。幸いと言っていいのか道中モンスターが現れることはなく、数分間ただ歩き続けるだけだった。
そうして歩き続けた先でやがて階段の最上部に辿り着くと、今度は枝分かれした太い幹の上へと足場を移す。
「これ以上、上には行けないのかな?にしても……これまた足場のいい場所だね」
・戦いやすそうだね
・と、いうことは……
・まぁまだ強力なモンスター出てきてないしね
足踏みをしながら辺りを見渡し、先ほどとうって変わった見通しの良い開けた場所に辿り着いたことに、レイは嫌な予感を覚える。クリアの言葉や過去の経験から、何故だかこの先の展開が手に取るように分かっていた。
「さてと。多分あれだよね?」
「そう思う」
・でしょうね
・知ってた
・むしろあれじゃなかったら詐欺だろ
一通り確認を終えたレイは敢えて触れなかった目の前にあるものを指さす。そこには小さな木が立っていた。
幹が変形したのか、それとも樹の上に木が生えたのか。真偽は定かではないが、その小さな木に金色のリンゴがついており、満場一致でそれが【世界樹の実】であると判断する。
「よし、じゃあ賭け事しよ。私は強力なモンスターが出てくるに100万G」
・じゃあ俺はボスが出てくるに10万かな
・俺は手堅く、最強モンスターが出てくるに20万G
・大穴狙いで激強モンスターが出てくるに5万
そんな意味のない、くだらないやり取りをしながら【世界樹の実】に近づき始めるレイ。その幹の中央地点に足を踏み入れたタイミングで――やはり異変が起きる。
「また来たのか、醜き人類共よ」
「あーはいはい、知ってた知ってた」
その時、どこからともなく声が聞こえてきた。完全に予想通りの展開になったレイがおざなりに返事をすると、その間を遮るように上部から黒い影が降り立つ。
「我が名はゴウグ。ここは貴様らのような下賤の者が来ていい場所ではない」
「あれって……」
・見たことあるな
・収容所にいた奴じゃん
・同じモンスター?でも色違う?
ガサガサと幹を揺らし、葉が擦れる音と共にレイ達の前に現れたのは、純白の毛をしたゴリラであった。その姿はレイが収容所で見たモンスターと酷似しており、体に描かれている金色の紋様ですら瓜二つである。
「ねえ、一つ聞きたいことが――」
「話をする気はない。失せろ」
「いや、別に戦いに来たわけじゃないんだよ。その――」
「黙れ。失せろ」
レイが何とか対話を試みようとするも、ゴウグは有無を言わさずに追い返そうとする。その様子に我慢の限界が来たのか、額に青筋を浮かべながら言葉を返した。
「話が通じないんだけど。あっ、そっか!ゴリラの脳味噌に人間の言葉は難しかったかな?」
「……所詮人か。やはり貴様らは存在してはいけない」
レイの煽りにゴウグは悲しそうな眼をして言葉を放つ。ただ瞬時に気持ちを切り替えると、ひどく冷めた目をレイ達に向け、獰猛に牙を剥き咆哮する。
「世界樹の守護者の名において、貴様等を通す訳にはいかん!」
ドシンッ!と両手を地面に叩きつけると太い幹がしなる。その反動を使い、ゴウグは大きく跳躍した。
「来るよウサ!」
「分かってる」
それを迎え撃とうとレイ達は声を掛け合い、半身になって迎撃の姿勢を取る。
――樹上の戦いが、始まる。
[TOPIC]
AREA【世界樹】
ヘルメー山脈の山頂にあると言われている伝説の樹。この世に1本しか生えておらず、この世界が出来た時から存在しているらしい。
この樹を株分けして生えてくる樹が精霊樹となり、その実は精霊や聖獣の好物として稀に市場に出回っている。
存在自体が伝説のため正しい情報が出回っていないが、選ばれし者のみその樹へ辿り着くことが出来るとされている。




