3-27 世界樹までの道のり
「ギャー!」
「【しゃーくん】」
オジサンに教えてもらった裏道を抜けると、彼の言った通りレイ達は誰にも会うことなく【ヘルメー山脈】に辿りつけていた。
「ゴラァァ!」
「チェンジ。発射」
道中では闘技場で戦った【ハイオーガ】や大きなワシを模したモンスター【カーニグル】が休む暇なく襲い掛かかってくる。ただウサの所有する鮫型自立人形の切り替え戦術の前では、近づくことすら叶わないでいた。
・ウサさん強すぎない?
・これで生産職ってマジ?
・これレイちゃんよりも強いんじゃ……
「いや本当にね。ウサが仲間で良かったよ」
「ぶい」
その様子に視聴者からは驚愕の声が上がり、何もせず付いていくだけになっているレイは少し申し訳なく思いつつも感謝の言葉を述べる。
「にしてもその子たち便利だね。どれくらいいるの?」
「6体。これだけいればクールタイムを実質無視できる。でもそれだけコストもかかる」
「なるほど……そういえばあの大きい熊もいるんだよね?やっぱり羨ましいなぁ」
「それほどでも」
レイの心からの賞賛にウサは照れたように片手を顔に沿える。ただ、その表情はいつも通り無表情のままだった。
「それにしても、さっきは凄かった」
・分かる
・実力だけじゃなくて運も持ってるとか無敵か?
・これがじゃしんの加護ってやつか
「あー、ありがと。でも運じゃないんだよね」
視聴者とウサの称賛の声に、レイは何やら歯切れが悪く、少し申し訳なさそうに頬をかく。
・どういうこと?
・え、やったの?
・イカサマってこと?
「そうそう。でも普通あんなに上手くいかないって」
途端に疑問符が増え、心なしか冷たくなったコメント欄に、レイは言い訳するように説明する。
「種も仕掛けもあるマジックのテクニックだよ。ウサに渡す前に『スペードのA』と『クローバーのA』を抜いて袖に仕込んだ後、カードを引く時にそれを引いたように見せただけ」
・マジか
・気付かなかった
・ま、まぁ実力も運の内って言うし!
レイの言葉に少し拍子抜けしたような言葉を漏らす視聴者達。ただそんな中で当の本人は納得のいかない様子で腕を組んでいた。
「ただなぁ、あの人気付いてたっぽいんだよね。その上で見逃されたっていうか、そもそも勝つ気がなかったっていうか……」
・どういうこと?
・あー、あの笑顔はそういう意味?
視聴者の疑問にレイは明確な答えを用意できずにうーんと唸る。
「まぁいっか。勝ちは勝ちだし、これだけ証人がいるんだから約束は守ってくれるでしょ」
やがて面倒になったのか考える事を放棄すると、別のコメントに目をやった。
・そういえば今のうちにアイテム確認しない?
「あぁ、言われてみれば。見られてなかったね」
その言葉に納得したレイはちらりとウサの方を見る。その視線に彼女が問題ないと言いたげにこくりと頷いたのを確認すると、歩きながらまだ見ぬアイテムの確認を始めた。
「まずは――ってあれ?」
最初に手に取ったのはこのイベントが発生した原因とも言える白い表紙の本だった。レイはその説明文を見て少し首を傾げる。
ITEM【ハクシの教典】
ハクシ教の信者が常に携帯するという教典。信者達は狂ったように読み耽けるが、中には何も書かれていない。
効果①:-
「これ効果ないんだね。真っ白だ」
実際にレイが本を手に取って中身を見てみると、全てのページが白紙で何も書かれていない。まさしく名前の通りの代物であった。
「じゃ完全にイベント専用って感じかな。持ってるだけでお得、みたいな」
・一理ある
・っぽいね
・それか進化するとか
「なるほど、進化はありえそう。まぁでも現状は何もないから次」
視聴者と軽く考察を挟んだレイは一つ簡単な結論をつけて次のアイテムへと目を滑らす。
ITEM【DDD-448】
正式名称『DEAD・DAY・DREAM-ダブルフォーエイト』。試作品より大幅に濃度を増した作品は、莫大な力を手に入れることが出来る。代わりに代償として失うものは計り知れない。
効果①:対象を【狂化感染】状態にする
「……これ持ってていいのか?」
忌々しい記憶が蘇るその効果に、レイは思わず苦い顔でポツリと呟く。だがそれに対して視聴者から補足が入った。
・【狂化感染】自体にテコ入れ来てるよ
・ダメージ減らなくなったらしい
・あと効果時間がつけられた
「あ、そうなんだ。えっ、じゃあすごい弱体化してない?」
そのコメントに少しだけ面を食らった部分はあったものの、最終的にはそれもそうかと納得するレイ。ただ、今後出番はないだろうなと考えると、それをしまって次のアイテムに切り替えた。
ITEM【子の紋章】
鼠の形をした銀色の紋章。なにか特別な力を感じる。
効果①:???
※譲渡不可アイテム
「これは前もあった謎アイテムのネズミバージョンか。じゃあパスで」
次に取ったアイテムは前に取ったアイテムの形違いだった。相変わらず用途不明なその効果に、考えるだけ無駄だと悟ったレイは最後のアイテムに手をかける。
ACCESSORY【聖獣のお守り】
聖獣の力が込められたお守り。その加護はあらゆる災厄を払ってくれるだろう
効果①:回復効果増加(+100%)
効果②:環境ダメージ無効
「強い!」
その効果を見たレイは思わず大きな声を上げる。
「上の効果はまだしも下の効果は体力低い私にとっては必須級でしょ!!ラッキー、ありがと~!」
・いいな~
・それあれば火山余裕じゃん
・俺にもくれ
そのアクセサリーを色々な角度から舐めるように見たレイは羨望の眼差しを向けているであろう視聴者に意地悪い笑みを浮かべる。
「取り敢えずつけよ~っと。ふっふっふっ、どうだ皆、羨まし――」
「あ」
そんな視聴者を煽るレイの言葉に割り込んでウサは短く声を上げる。そしてレイの袖をくいっと引っ張って前方を指さした。
「見えたかも。【世界樹】」
「え、ホント?」
それを聞いたレイはコメント欄から顔を上げて前を向く。まだまだ先ではあるが、その先には確かに遥か巨大な大木が姿を現し始めていた。
[TOPIC]
MONSTER【カーニグル】
気を付けろ、奴らは人の肉を好む。ただ気付いてももう遅い。奴らは死角からやってくる。
鳥獣種/猛禽系統。固有スキル【急降下】。
≪進化経路≫
<★>キラーコンドル
<★★>ハヤブサロー
<★★★>ハンターホーク
<★★★★>カーニグル
<★★★★★>終焉を知らせる怪鳥




