3-23 一足お先に
採掘場の端、丁度施設との壁となるその場所をレイとミオン、じゃしんの3人は見上げていた。
「なるほど、アレのことですか」
「あぁ、アレのことだ」
レイが尋ねると迷いなく頷くミオン。その視線の先には遥か高くに存在する格子が施された通気口が存在していた。
「なるほど、確かにあれはじゃしんじゃないと無理そうかも。あそこの中がダクトになっているんですよね?」
「そのようだね。そして、あそこから全部の部屋に行けると」
地図で確認した事項について改めて整理するように会話をする二人。その横ではじゃしんが今か今かと準備運動をしていた。
・やる気満々じゃん
・そりゃ名誉挽回のチャンスだからな
・看守ロボにばれたりしない?
「看守ロボは今ジャックが抑えているから問題ないだろう。じゃあじゃしんくん、早速だがよろしく頼むよ」
「ばれないよう気を付けてね?」
「ぎゃう!」
ミオンの言葉を聞いたじゃしんは自信満々に一声鳴くと、その小さな羽を使ってふわふわと浮いていく。そうして通気口の位置までたどり着くとそれを爪で触れて格子をはがし、中に入っていった。
「いやー不安だなぁ」
「まぁまぁ、信じてやるのも主人の役目だよ。そんなことよりもだ」
意気揚々とした様子のじゃしんにレイは少し不安な思いになったが、それを隣にいたミオンが落ち着かせると、配信にも乗らないような小声で話しかけてきた。
「士くんは妹のような存在と言っていたが……本当のところどうなのかね」
「あ、あぁ、いとこですよ。歳が3つしか離れてないので昔から一緒にゲームしてたんです」
「うむ、そうかそうか!ならよかった!」
・なになに?
・どんな話したんだ?
・教えて~
その内容と圧にレイは少し引きながらも真実を伝える。それを聞いたミオンは嬉しそうに大声を出してレイの肩をバシバシと叩く。その様子に視聴者から疑問の声が上がるが、レイはそれに対して曖昧な笑みを浮かべるだけに留めた。
「ということは私の未来の妹と言っても過言ではないな!」
「うん?」
「とりあえずこの時間を使って親睦でも深めようじゃないか!先ずはジャック君の幼少期の話でも――」
「え?え?」
疑問が解けたのか怒涛の勢いで話し出すミオンに飲み込まれてしまうレイ。その後なすがままとなった彼女はひたすら一問一答に答え続けることとなったのだった。
◇◆◇◆◇◆
「お疲れ……って何やってんの?」
じゃしんが侵入して10分程度経った後、レイとミオンのもとにジャックがやってくると、楽しそうに話すミオンとそれとは対照的な、なんだか目が死んでいるレイの様子に疑問の声を投げかけた。
「あ!ジャック!良い所に!!!」
「おっと、ジャックじゃないか?」
怒涛の質問攻めにだいぶ精神的に辟易していたと判断したレイは現れた助け舟に飛びつくとその背後に隠れる。
「……先輩何したんですか?」
「はっはっは、仲良くお話ししていただけだよ。そんなことよりも上手くいったのかい?」
ミオンは豪快に笑いつつ、作戦の進捗をジャックに尋ねる。それに対して呆れたようにため息を吐きながら質問に返答をした。
「大丈夫そうですよ。しっかりドアのノックも確認しましたしあとは実行するだけですね」
「そっか、良かったじゃないか。ね、レイくん?」
ミオンからの問いかけにレイはジャックの後ろで猫のように威嚇するだけで言葉を返さない。それを見てやれやれと首を振りながらミオンは言葉を続ける。
「どうやらまだ仲良くなるには時間が必要みたいだね。それより、もう一回流れを確認しておいた方がいいんじゃないか?」
「……そうですね」
もはや何も言うまいと悟ったジャックは今回の計画の概要について改めて口にする。
「とりあえずじゃしんにはこのままダクトにいてもらって、時間になったら内側から鍵を開けてもらう。それから部屋前に待機した俺達が装備を入手。各階の囚人を解放しながら俺達は脱獄――ってレイ聞いてるか?」
「……大丈夫聞いてるよ」
ジャックがレイに聞くとか細いながらも返答が返ってくる。若干不安になりつつも話をまとめるようにパンと手を叩いた。
「ならいいんだけど。ともかく決行は明日。遅れないように――」
『囚人番号667番!コンナ所ニイタノカ!』
その時、レイ達の背後から看守ロボの声が聞こえ3人の体がビクッと跳ねあがる。
「ジャック、ばれたのか?」
「いやそんなはずは…」
ジャックとミオンは冷や汗をかきながらひそひそと話している中、レイだけはその看守の言葉に違和感を覚えて再度尋ねる。
「えっと、私だけ……ですか?」
『ソウダ、大人シクツイテコイ!』
そう言うと看守ロボはくるりと振り向いて道を先行する。レイは一度ジャックの顔を見てるとその後ろについて歩き始めた。
・あれ、ばれてない?
・まさかの別件?
・今度は何したのさ
「いや、私も何がなんだか…それよりもばれてなくてよかったね」
『ン?何カ言ッタカ?』
「いや!何にも!」
危うく自分から漏らしそうになったレイはこれ以上不用意なことを言わないように黙って後ろを付いていく。そうしてたどり着いた場所は監獄に似つかわしくない、豪華な扉の前だった。
『中デオ待チダ』
「了解です――って」
「お待ちしておりました、レイ様?」
言われるがままその部屋の中に入ると、あの時と同じようにソファの上で足を組んで座っているクリアの姿があった。
「おや、今日はあの召喚獣と一緒ではないのですね」
「ま、まぁそういうときもあるよ。それで何で呼び出したの?」
ひやりとする質問に対してごまかすようにレイが話題を変えると、クリアは隣にいた黒服の男に声をかけて何かを運ばせた。
「これって……」
「えぇ、あなたの装備です。ここから出してあげようと思いまして」
そうして机の上に並べられたのは【Crescent M27】や【星空の修道女】などのレイの装備一式であった。突然の出来事にレイは眉を顰めて問いかける。
「どういうつもり?」
「いえ、あなたが同志だという事を知ったのでね」
そう言ってクリアは懐から一冊の本を取り出す。それは白一色の分厚い本であった。
「まさかあなたもハクシ教の仲間とは思いませんでした。最初に言ってくれれば良かったのに」
「え~っと……?」
・何言ってるんだこいつは?
・レイちゃんあれじゃね?ニエンテから取ったやつ
・ハクシの教典か!
勝手に話を進めるクリアに対して首を傾げるレイだったが、コメントをちらりと見てようやく合点がいく。
「なるほど、あれ持ってたから仲間だと思ったのか。でもどうしてそれで出してくれるって話になるの?」
「あぁ、お願いしたいことがありまして」
何となく状況を理解したレイは新たに浮上した疑問を問いかける。
「私のペットを本気にさせてくれるあなたに、とあるクエストを受けて欲しいんですよ。受けてくれるのであれば、多少の縛りはありますが私の権限で外に出して上げられますし、クエストクリアの暁には完全釈放に加えて、少なくない報酬も出すことをお約束します。どうでしょうか?」
[ユニーククエスト]
【世界樹の元へ】
・世界樹の実をクリアに渡す
・報酬 300万G/囚人化の解除
クリアの言葉と共に目の前にウィンドウが出現する。レイはそれを見てどうしようか悩んだ。
・どうするの
・脱獄するんじゃ…
・ジャック達はどうなるんだ!
コメントを見た時、レイの脳裏にはジャックとミオンそれからじゃしんの顔が浮かぶ。レイは一瞬だけ逡巡し――。
「よし!やるよ!だから今すぐ出して!」
「ありがとうございます。こちらもできる限りサポートしましょう」
迷うことなくYESを選択して、クリアから差し出された手を取った。どうやら彼女にとって彼らは取るに足らない存在のようだった。
[TOPIC]
ITEM【ハクシの教典】
ハクシ教の信者が常に携帯するという教典。信者達は狂ったように読み耽けるが、中には何も書かれていない。
効果①:-




