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3-20 酩酊の闘技者


「おじさん、もう一回!」


「……また来たのか。これで何度目だ」


 蝋燭の明かりだけが灯る部屋の中、紳士服を着た男は幾度となく見た少女の顔に呆れた表情を見せる。


「えーっと、みんな分かる?」


・23回目だね

・まさか日を跨ぐとは

・夢中になりすぎなんだよなぁ……

・うちのレイちゃんがすみません……


「ぎゃう……」


 惚けているのかそれとも本気で分かっていないのか、いまいちつかめない表情をするレイに対して視聴者からも呆れるような反応が上がり、隣にいたじゃしんも申し訳なさそうに頭を下げる。


「なぁもういい加減諦め――」


「やだね。もうモーションはほぼ掴めてるし、次やったら絶対勝てるのにやめる理由はないよ」


 嫌味ではなくむしろ善意を込めたその一言にレイはすぐさま否定の言葉を返す。その様子に司会の男は諦めたようにため息を零した。


「……はぁ、分かった。じゃあ次負けたらもう来るなよ」


「う~ん、それは約束できないかな!」


 提示された妥協案に対して考えた素振りを見せながら歩き始めると、横を通り過ぎる際にベーと舌を出して否定し、通路に向かって走り出す。


背後から呼び止めるような声が聞こえていたが、レイは構わず走りきって、もはや見慣れた光景である闘技場にその姿を現した。


「ウィ~?」


「また来たよ。さ、もう一回やろうかっ!」


 闘技場の中心に胡坐をかいていた【酒呑童子】がレイの姿を視界に収めると、相変わらず嫌悪感の強い笑みを浮かべながら首を傾げる。その見慣れた憎たらしい顔に愛着すら湧き始めたレイはテンションを上げながら【酒呑童子】に肉薄した。


 それに対して尻をかきながら立ち上がった【酒呑童子】は、それを迎え撃つように金棒を横に薙ぐ。それを屈んで躱すと【酒呑童子】とゼロ距離の場所に位置取った。


「ウィ~!」


「はははっ!楽しいねぇ!」


・バーサーカーかよ……

・何でこの動きについていけるんだ……

・これ見るとレイちゃんって狂人だよなぁ


 そうして始まった紙一重の攻防。滅茶苦茶に思えて的確に隙を狙ってくる【酒呑童子】に対して、バックラーを構えるだけで避ける事に徹するレイ。


その命のやり取りに二人はニタァと笑みを深め、周りで見ている人間は若干引きながらも食い入るように見つめていた。


 そんな攻防を数秒続けると、しびれを切らした【酒呑童子】は先ほどと異なり右手に持った金棒を無理やり振るう。


そのチャンスを見逃さなかったレイはそこで【パリィ】を発動し、【酒呑童子】の上体を大きく逸らした。


「それは甘いんじゃないかなぁ!」


「ウィ~!?」


 そこでようやく腰に差したショートソードを引き抜くと、喉元めがけて全力で突き刺す。その一撃は【酒呑童子】のHPを1割ほど削り大きくよろめかせることに成功した。


「ウィー!」


「おっと無理はしないよっと!」


 思わぬ反撃をもらった【酒呑童子】は飄々としながらも体勢を立て直す。それを見たレイは無理せずバックステップを挟んで距離をとると、手にした小剣を腰にしまって再びバックラーを前に構えた。


「この形態はヒットアンドアウェイで簡単に対処できる……問題はこの後……」


 ぶつぶつと呟きながらもまたもやゼロ距離まで近寄り、相手が焦れるまで攻撃を躱し続ける。試行回数のおかげが無駄な澱みもなく流れるように動き続け、やがて【酒呑童子】のHPを半分程削るまでに至った。


「ウ、ウゥ…」


 その瞬間、【酒呑童子】の様子が変わる。急に顔を抑えて俯いたかと思うと、再び上げた顔は目尻が下がり悲しげな表情をしていた。


「きた!泣き上戸モード!」


「ウウゥゥ!」


 レイが叫ぶと同時に【酒呑童子】は金棒を上空に放り投げると、瞳に涙を浮かべながらレイに向かって突撃する。


「さーてここからが勝負だ……!」


 レイは気合を入れ直すと、【酒呑童子】を迎え撃つために半身となり、その気持ちに呼応するように剣をしっかりと握る。


 ――レイの名付けた【泣き上戸モード】というのは、文字通り【酒呑童子】が泣き顔になる事が由来であった。このモード中は武器を捨て、やけっぱちになって無茶苦茶に拳を振るうモードである。


 動きは速くなるものの、先ほどの余裕があった様子とは異なり軌道も単純化し動きも隙だらけ。それだけ聞けば誰がどう見ても弱体化に見える。ただその形態の本質は最終形態に移行するまでの最後のチャンスでもあった。


「ふっ……ふっ……」


「ウゥゥゥウウウ!!!」


 猶予は金棒が落ちてくる間の数十秒間。最大限に集中したレイは未だかつてないほど鋭い目をして、その全てのモーションに対して的確にカウンターしていく。


 乱雑に放たれた拳には当たらないように注意しながらもその腕を切りつけ。

 明確な意思を持った一撃にはバックラーで軌道をそらしながらも絶対に、無理をせず回避に専念。

 そして倒すための必殺の一撃に対しては確実に【パリィ】を決め、その胸に剣を突き刺す。


 ひたすらにそのことだけを突き詰め、徹底した動きで【酒呑童子】を追い詰めていく。そうして【酒呑童子】のHPを2割まで削ると、上からの気配を感じて慌てて後ろに下がった。


「こんなモノか……まぁまぁ悪くないかな」


 ドスンと鈍い音を立てて地面に突き刺さったのは先ほど上空高く投げられた金棒であった。【酒呑童子】は目の前に落ちてきたそれを掴むと、赤黒いオーラを纏いながらレイを睨む。


「オォォォ……」


・怒り上戸だ!

・さて、こっからよ

・油断せずに行こう!


 般若の表情と低い唸り声をあげる【酒呑童子】に対して、視聴者から応援のコメントが流れ、否が応でもクライマックスを予感させる。


「この形態とまともに戦ったら瞬殺される。だからっ――!」


 レイは目の前にいる圧倒的強者の風格に冷や汗をかきつつ、勝利までの道をイメージする。その細い勝ち筋は最初の一瞬、それがすべてであることを理解していた。


「オォォォ!!!」


「1……2……3ここぉ!」


 【酒呑童子】の雄たけびとともにレイはカウントを始め、3の数字を言った瞬間に【パリィ】を発動する。するといつの間にか目の前まで移動していた【酒呑童子】の腕が、金属がぶつかり合う音とともに跳ね上がった。


・決まった!

・ナイスゥ!

・いけるか!?


 勝利を期待するようなコメントが流れる中、レイは【酒呑童子】に肉薄するとその喉元に剣を突き立てる。そしてそれをすぐに引き抜くと、もう残り僅かのHPバーを削りきるべくさらに前に出た。


「これで、終わりだぁ!」


「オォォォ!!?」


 レイは叫びながら【酒呑童子】に飛び掛かり、その肩口に剣を突き立てる。根元までしっかり刺し込み、【酒呑童子】が苦悶の声を上げたことを確認すると、距離を取るために【酒呑童子】を蹴って後方に跳んだ。


「よし勝っ――」


 宙に浮いたレイがそう確信した週間、【酒呑童子】の目が怪しく光る。最後の力を振り絞って金棒の柄を持つと、それをレイに向けて投擲した。


「なっ!」


 鼬の最後っ屁ともいえるお粗末な攻撃であったが、空中にいるレイに避ける手段はない。最悪の状況の中、一か八かでバックラーを滑り込ませるも、その金棒の勢いに負けて共に壁に衝突する。


「がっ……くっそ……」


 壁に背を向けて立ち上がれないレイは頭上のHPがみるみる減り、自身がポリゴン化しているのを目にして悪態をつく。そうして遠くで崩れ落ちる【酒呑童子】の姿を目に収めながら、レイの視界はブラックアウトしていった――。


『デスいたしました。【カルマポイント】が加算されます』


 パチリ、と目を覚ましたレイにひどく聞き慣れたアナウンスが響く。それを耳にした瞬間、悔しそうに額に手をやりながら天を仰いだ。


「くぁ~!相打ちかぁ!もうちょっと!ワンモアワンモア!」


・ナイファイ!

・あ、また行くのね

・もう何もいうまい

・がんばれ~


 硬いベッドから飛び跳ねるや否や、レイは壁に備え付けられたボタンを連打して看守ロボを呼ぶ。相変わらず視聴者を置いてきぼりにしながらも、当の本人は至極楽しそうに24回目の挑戦に向かっていった。


TOPIC]

MONSTER【酒呑童子】

笑う酔いどれ、泣くは餓鬼。怒る姿は悪鬼羅刹。


魔人種/鬼人系統。固有スキルはなし。

≪進化経路≫

<★>ゴブリン

<★★>ホブゴブリン

<★★★>オーガ

<★★★★>ハイオーガ

<★★★★★>酒呑童子

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― 新着の感想 ―
[一言] ここの調整した運営は、絶対に逃がす気がないことが伺える敵ラインナップ。
[一言] 更新お疲れ様です! うん、流石のメンタル!既にSAN値ゼロなだけありますね、、w 酒呑童子、うん、、、クソゲーかな? けど普通に倒せそうなのが草生えますね 次回、決着カナ、、、? 更新お待ち…
[一言] じゃしんを盾に使うかと思ったら使わずともクリアですか さすがきょうじん
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