3-19 コツは気持ち早めで
「グ、グゴォァ……」
『チャレンジャー、第3ラウンドも難なくクリア!身長が倍近くある【オーガ】に対して蝶のように舞い蜂のように刺す、その姿はまさに強靭で可憐!このままクリアしてしまうのでしょうか!』
・めっちゃ褒めるやん
・にしても余裕で倒すね
・信じられるか?これで初期ステなんだぜ……?
「まだまだモーションも単純だしね。本番はこっからでしょ」
いとも簡単に撃破された【オーガ】を見てザワザワとどよめく観客を尻目に、余裕の表情を崩さないレイは視聴者に向けてピースをつくる。
・さすレイ
・カッコいいなぁ
・確かに同系統しか出てないしある意味やり易いか
「そうだね。ってことはあと2つ……っと、やっぱりコイツか」
次のモンスターが現れるとレイは剣を抜いて構えを取る。その目線の先は先程倒した【オーガ】よりもさらに紅く、より巨大になった鬼の姿があった。
『続いて第4ラウンドは【ハイオーガ】!かつて数多くのチャレンジャーがいましたが、その殆どがここで散っております!果たして今回は乗り越えることが出来るのでしょうか!』
「ゴガァァ!!!」
そのアナウンスが開始の合図となったのか、【ハイオーガ】は大きく咆哮をあげてレイへと突進する。そして射程圏内に入ると、手に持ったレイの身の丈程ある大きく太い金棒を振り下ろした。
「とりあえず様子見からっと」
先程までは似たような攻撃に対してバックラーを使用し受け流していたレイだったが、今回は不可能だと判断したのか、すぐさまその場から距離を取る。
「ゴラァァ!」
「うわっ!?」
後に跳んだレイに対して、【ハイオーガ】は追撃と言わんばかりにその振り下ろした金棒を横に薙ぐ。それを今度はバックラーで受けると、その勢いのまま後方に吹き飛ばされた。
「おっとっと……結構威力あるなぁ。あれをまともに受けるのは危険だね」
バランスを崩しながらも何とか着地したレイはその威力に対して感想をポツリと呟く。
「うーん、使わなくても勝てそうだけど……でも出し惜しみをする意味もないしそろそろアレ使ってこうかな。ヘイ視聴者、アイツって金棒以外の攻撃ある?」
・ないよ
・【オーガ】系は唯一スキル使えない
・ただステータスが純粋に高いって感じ
「オーケー、それさえ聞ければ問題ないかな!」
ストレッチする様に首を軽く回しながら視聴者に尋ね、その返しを聞くと今度はレイの方から駆けだしていく。
「グガァァ!」
「はっ!そんなんじゃダメだってば!」
肉薄するレイを迎撃するため金棒を振りかぶった【ハイオーガ】に対し、レイは嘲笑うように懐に潜り込むと、手に持ったショートソードで斬りつける。
「グオォォォ!!!」
「まず動作がもっさりしすぎ。動きも遅いし力任せに振りすぎてる。そんで何よりも――」
ムキになって金棒を振り回す【ハイオーガ】の攻撃を、レイは完全に見切った様子で躱しつつカウンターを入れていく。そしてその金棒を振りかぶった瞬間、足を止めて盾を構えた。
「グルァ……?」
「攻撃が単調。そんなんじゃ一生私には届かないよ?」
ガキィン、という金属を弾く音が聞こえると、【ハイオーガ】の腕が金棒ごと跳ね上がる。その状況に対峙する2人は困惑としたり顔、正反対の表情を浮かべていた。
・今のは!?
・レイちゃん何したの?
・これは……【パリィ】か
・説明求ム
・こんなにうまく決まることあるのか……
・アレだよ、武器のスキル
・攻撃に合わせてスキルを使うと無効化できるって奴
・完全無効だけどめっちゃむずいんだよな
・ほへ~そんなのあるんだ
・これ初見でやったの?ヤバすぎない?
それは、一部の武器だけが行える、まさしく妙技。
たとえ歴戦のプレイヤーであったとしても失敗することが珍しくないほどには難易度の高いスキルを、初見で完璧に決めたことに視聴者はかつてないほどの盛り上がりを見せ、コメント欄が怒涛の勢いで流れていく。
それをチラリと見たレイは満足げに笑顔を見せると、リップサービスなのか【ハイオーガ】に向けてクイクイっと人差し指を動かした。
「さて、まだやる気ある?まだ遊んであげるけど?」
「グ、グァァァ!!!」
【ハイオーガ】は一瞬たじろいだものの、自身を奮い立たせるようにもう一度咆哮すると、金棒を振り回しながらレイに襲いかかる。
「その意気や良し。ただそれだけで勝てるほど世界は甘くないんだよ」
向かってくる【ハイオーガ】に対して優しい目を向けたレイはその姿勢に敬意を表して全力で【ハイオーガ】と向き合う。
最終的にその全ての攻撃を【パリィ】できるようになった頃には、【ハイオーガ】は力尽きて地面に倒れ伏していった。
『け、決着ー!勝利したのはチャレンジャー!圧倒的、圧倒的でした!誰がこの展開を予想したでしょうか!まるで赤子の手を捻るかの如く【ハイオーガ】を屠って見せました!』
・88888
・さすが!
・凄すぎる!
「はは、ありがと」
興奮のあまり熱が籠る実況を聞きながら、レイは称賛のコメントに言葉を返していく。
「ぎゃうぎゃう!」
「あそっか、じゃしんもいたんだ」
「ぎゃう!」
「ふふっ、冗談冗談。じゃしんもありがとね」
レイ以上に喜んでいるじゃしんで遊びながら、レイは剣をしまって体をほぐすように肩を回す。そのままそろそろ終わりが近いと感じたレイは次のアナウンスを待った。
『もしかしたら、もしかしたら彼女であればこのショー初めてのクリア者になるかもしれません!皆様準備はよろしいでしょうか!それでは早速!最終ラウンドに参りましょう!』
司会の言葉とともに対面の扉がガシャンと開かれる。レイがそちらに視線を向けると、ズリズリと何かを引きずりながらゆっくりと歩いてくるモンスターがいた。
「アレが最後のモンスター?みんな知ってる?」
・知らん
・でも鬼系統のモンスターじゃない?
・まぁ今までの流れからするとそうだろうな
・あれ知ってる、【酒呑童子】だ
「【酒呑童子】……」
そのコメントを目にしたレイは改めて目の前に現れたモンスターを観察する。
大きさは先ほどの【ハイオーガ】より一回りほど小さいため一般的な成人男性とほとんど変わらなかったが、その額に生えた一本の角と下顎から生えた凶暴な牙が人ならざるものを証明していた。
また片手には自身の身長ほどに大きい金棒を地面に引きずりながら持っており、そのもう片方の手には瓢箪を持ち、グビグビと酒を呷りながらニタァと気味の悪い笑みを浮かべている。
「ウィー……」
「何あれ、フラフラしてるけど戦えるの?」
レイは対面する【酒呑童子】が千鳥足で今にも倒れそうにしていることに困惑の声をあげる。その情けない様子に油断したからか、一瞬だけチラリとコメント欄の方を向く。――向いてしまったのだ。
「は――」
「ぎゃう!?」
視界の端に捉えていた筈の【酒呑童子】の姿が消えたことにレイが違和感を持った瞬間、その体が横に吹き飛び、隣にいたじゃしんが驚いた声を上げる。
「くっそ、油断した……!そういうタイプか……!」
壁に叩きつけられたレイは大幅に削られたHPを見ながら何とか立ち上がる。間一髪間に滑り込ませたバックラーが間に合ったおかげで九死に一生を得たものの、自身の失態を責めるように舌打ちをした。
「ウィ~」
「コイツ……絶対ぶっ倒してやるからな……!」
そんなレイを見ながら【酒呑童子】はケタケタと腹を抱えながら笑う。その圧倒的な格上の風格に今回も一筋縄ではいかなさそうだとレイは感じながらも、その手に持つ剣をしっかりと握り直した。
[TOPIC]
WEAPON【鉄のショートソード&バックラー】
鉄でできたシンプルな小剣と小楯。そこには戦士の基本が詰まっている。
要求値:-
変化値:<腕力>+10,<敏捷>+10
効果①:SKILL【パリィ】
SKILL【パリィ】
それは小手先の技術に非ず。すべてを無に帰す達人の技である。
CT:10sec
効果①:敵の攻撃を無効化(猶予時間:5F)
効果②:成功時、対象をノックバック
効果③:成功時、次の攻撃の威力を増加(50%)




