3-18 地下闘技場チャレンジ
「おーい看守ロボー!『チャンスをくれー!』」
『……一体何ノ事ダ』
ジャックから情報を得て監獄内を走り回っていたレイは看守ロボの姿を目にすると、嬉しそうに近寄りながら合言葉を口にする。
「あれ、これ言えば闘技場いけるって聞いたんだけど……」
『……ソコマデ知ッテイルノカ……何処デ手ニ入レタノカ知ラナイガ……マァイイダロウ、ツイテコイ』
最初は誤魔化すように惚けていた看守ロボだったが、闘技場という言葉を聞いたことによって文字通り目の色を変え、レイを先導するように移動を始める。
・あ、本当にあるんだ
・嘘じゃなかったね
・そもそも監獄に闘技場って……
「いや、それは確かにそう思うけど。でもこれって全部勝ったら出られるんだよね?」
『ソウダ。勝ッタラナ』
看守ロボの背後について歩きながら闘技場について尋ねると、何か深みを持たせるような肯定の言葉が返ってくる。
「ふーん。でも今までの奴らと同じにしないで欲しいね」
それを聞いて一瞬訝しんだものの、結局ただの脅し文句だろうと捉えたレイは自信満々に言葉を返す。
そのまま視聴者と雑談しながらその背中を追っていくと、やがてとある扉の前にたどり着いた。
看守ロボがガチャリと扉を開けて中に入ったのを見て、レイもそれに続いて中に入る。室内には地面に魔法陣の描かれた祭壇のような空間が広がっていた。
『アソコニ乗レバ闘技場ニ行ケル。ダガ、本当ニ行クノカ?コノ先ハ人デスラナイ、サーカスノ獣ト同ジダゾ?』
「問題ないよ。見世物になるのはもう慣れた」
看守ロボの最後通牒にレイは不敵に笑い、横を通り過ぎて魔法陣の上に乗る。
瞬間、魔法陣が青白く光りだしてレイの視界は真っ白に染まると、次にレイの視界に入ってきたのは蝋燭の明かりだけが灯る薄暗い部屋の中だった。
「よく来たなチャレンジャー。いや大馬鹿者と言った方が正しいか?」
キョロキョロと辺りを見渡すレイに声をかけたのはシルクハットを被り、紳士服を着た年配の男性であった。その何処か馬鹿にしたような口調に、レイは少しだけムッとする。
「大方、一発逆転を夢見てここにきたんだろうが、残念ながらそんな簡単じゃねーんだよ。ったく!真面目にコツコツやっとけば良かったのに」
「うるさいな、おじさん誰よ?」
「おうおう、威勢がいいな。それがいつまで続くか見ものだよ」
レイの言葉に対して茶化すように口笛を吹いた男は、壁から体を起こすとシルクハットの位置を直しながら言葉を続ける。
「俺は雇われの司会さ、名乗るほどのものでもねぇよ。お前と同じ見世物の一人と思ってくれ」
「ショー?」
自嘲気味に肩をすくめながら話をする男の言葉に対してレイは問い返す。
「あぁそうさ。これから行われるのは上級階層を楽しませるための虐殺ショー、主演のお前がモンスター達に無惨にやられる姿を楽しむショーってわけだ。偉大なるクリア支配人発案の大人気事業だぜ?」
「……随分悪趣味だね」
・うわぁ……
・見世物ってそういう意味かよ
・クリアってやっぱ悪いやつやん……
「ぎゃう~……」
肩を竦めながら説明する司会の男にレイは思わず顔を顰める。コメント欄でも否定的な声が見られ、じゃしんですら嫌な顔をしていた。
「まぁここにきた以上もう逃れる事は出来ねぇけどな。ほら、さっさと武器を選べ」
「武器使えるの?」
「当たり前だろう?素手で戦うつもりだったのかよ」
呆れたような声を出しながらも司会の男は指を鳴らす。すると、壁に様々な種類の武器が出現した。
「つってもたいした性能はしていない。あってもなくても変わらないガラクタばっかりさ」
・本当だ、ほぼ初期武器しかない
・俺もこれ持ってたわ、なっつ
・レイちゃんどれにするの?
レイは武器を一つ手に取り詳細が確認する。司会の男が言う通り、それぞれに武器スキルが一つだけついているのみで対した性能ではなかった。
「うーん、低レベルでクリアといえば……あ、いいのあるじゃん」
色々な武器を吟味して最終的にその手に取ったのは片手剣と小楯であった。シンプルに鉄で出来たショートソードを軽く振りながらレイは満足そうに頷く。
「おいおい、そんなリーチの短い武器でいいのか?」
・ステータス低いんだから遠距離にしたら?
・弓とかあるじゃん
・本当にそれで大丈夫なの?
馬鹿にする、と言うよりも少し困惑した様子の司会の男に同調するように視聴者からも心配の声が上がる。それに対してレイは自信満々な笑顔を見せた。
「大丈夫大丈夫!ちゃんとビジョンは見えてるからさ」
「俺としてはどうなろうと知ったこっちゃないから別にいいんだが……まぁ決まったんならあの通路の先に行け。そしたら勝手に始まるさ」
「はいはい」
その様子を見てさっさと行けと言わんばかりに手を振る司会の男に、レイはおざなりに返事をして通路に向かう。
「あ、おい!」
「もう何さ?」
「その……頑張れよ」
「は?」
唐突に呼び止められて後ろを振り向くと、そこには照れたようにそっぽを向いている男の姿があった。それを見たレイは思わず驚いた声を出し、すぐに可笑しくなって笑い始めた。
・おいおい、ツンデレかよ
・おっさんのツンデレ……ありですね!
・可愛いとこあるじゃねぇか♂
「あはは、まぁ見ててよ。私が只者じゃないってとこ見せるからさ」
「ぎゃう!」
一通り笑ったレイは背中を向けて手をひらひらと振る。その横ではじゃしんがガッツポーズをしながら一鳴きした。
「ん?これじゃしんも来るの?」
「ぎゃ、ぎゃう!?」
そういえばと思い出したように、隣を歩くじゃしんに対してレイは声をかける。まさかそんなことを言われると思ってなかったじゃしんは酷く狼狽する様子を見せた。
・いや、メイン盾でしょ?
・盾にできるじゃん
・装備が一つ増えたね
「いや、なんか勝手に一人でやるもんだと思ってたからさ。まぁありがたく使わせて貰おうかな」
「ぎゃう!?ぎゃう!?」
まるで物に対するようなコメントと言葉にじゃしんが抗議のモーションをするも、レイはそれを華麗にスルーする。そんな雑談をしていると目の前に光が差し込んできた。
「お、そろそろ出口かな」
・頑張ってね!
・レイちゃんなら余裕でしょ!
・クリアするまでやればよし!
視聴者からの応援コメントに対して笑みを浮かべながらレイは通路を抜ける。その先には円形のドームのような空間が広がっていた。
『レディースアーンドジェントルメーン!次のチャレンジャーの登場だァ!』
「あ、さっきの人だ」
全く同じ声の男性が全く異なるテンションでアナウンスをする中、レイは改めて辺りを見渡す。
円柱状の下部分は鋼鉄製の壁となっている中で、その上部はガラスとなっており、向こう側に人がいるのが窺えた。
「あんにゃろう……」
また正面の上部にはこの催しの考案者らしいクリア市長の姿があり、レイと対峙した時と同じような満面の笑みでニコニコとレイを見ていた。
『ルールは簡単!ラウンドごとに出現するモンスター達をチャレンジャーが全て倒すことができればゲームクリアとなります!皆様ベットは済ませましたでしょうか?』
陽気なテンションで観客に向けてされている説明を聞きながらこれが賭け事になっていることを知るレイ。そういう意味では確かに催しというのも間違いないのでないなと感じていた。
『さて、時間が参りましたので早速始めましょう!ラウンド1は【ゴブリン】3体!果たしてチャレンジャーはクリアできるのか!』
「「「ギャギャ!」」」
そのアナウンスとともに対面の扉が開くと中から小学生くらいの体躯をした緑色のモンスターが3体出現する。そしてレイを認識した瞬間、我先にとレイに向かって飛び込んできた。
「――舐めすぎでしょ」
あまりにもおざなりな動きにレイは冷めた目をすると、左手に装備した小手を使って先頭の【ゴブリン】の顎をかちあげる。続いて雪崩れ込んでくる別の【ゴブリン】の棍棒を躱すと、その頭を右手で持ち、3体目の頭にぶつけるように押し込んだ。
「ギャ……ギ……」
それだけで息も絶え絶えに倒れ込んだ【ゴブリン】達の頭を踏み潰してポリゴンに変えると、レイはクリアに対して中指を立てる。
「こんなんじゃ足りないね。私を喜ばしたかったら【スカルドラゴン】でも連れてきてよ」
『しゅ、瞬殺!チャレンジャー第一ラウンドを武器すら抜かずにクリアしました!』
その見事なまでの手腕に観客が沸き立つ。ただ、挑発を受けたはずのクリアは表情を変えずに不気味な様子で笑っていた。
[TOPIC]
WORD【地下闘技場】
【賭博街ゴールドラッシュ】の何処か地下にある会員制の施設。そこでは刑期の短縮を願う囚人をモンスターと戦わせるという趣味の悪い見世物が行われている。
街の代表であるクリアが考案したとされており、そこには上級階層の人間を楽しませる娯楽という側面の他に何やら企みがあるらしい。




