3-17 隠れ家的アジトにご招待
「あの、本当にやめてもらえますか?」
「いい加減そのよそよそしいのやめてくれない?辛いから。結構傷ついてるから」
あの後どれだけ邪険に扱っても後ろについてくるジャックに対して、いい加減邪魔に思ったレイは半眼になりながら尋ねる。
「……というか、本気でなんでついてくるの?正直邪魔なんだけど」
「まぁまぁ、そんなこと言うなよ。いい話があるんだよ」
「いい話?」
急に声量を落として内緒話をするようなジャックの姿勢に、レイは訝し気に眉根を寄せた。
「胡散臭過ぎる……」
「いや、聞く前からそんなこと言わないでくれる?まぁいい、でも気になるだろ?」
「むっ」
その気持ちを見透かすようにニヤリと不敵な笑みを浮かべたジャックに少しだけ不快な思いをするも、指摘自体は正しいためレイは口を噤む。
「何も言わないってことは肯定と捉えるぞ。……よし、ついてこい」
「え、ここじゃダメなの?」
「あぁ、ここだと看守共に聞かれる可能性があるからな。それに、だ」
そう言ってどこかを目指して歩き出したジャックにその理由を尋ねると、含みを持たせて言葉を続ける。
「秘密基地。レイも好きだろ?」
「ひ、秘密基地……!?」
そうして続いた魅惑的な単語にレイは目を輝かせると、逆に急かしながらその後ろをついて行った。
◇◆◇◆◇◆
「ここだ」
「ここね……ぱっと見なんもないや」
ジャックが連れてきた場所は一見なんの変哲もない坑道の突き当たりだった。
何も気にしなければ回れ右するようなその場所で、ジャックは徐にツルハシを取り出すと、カンカンカンと特定の3箇所に当てる。
・おぉ!
・隠し扉!
・かっけぇ…!
「これはあがるね……!」
「ぎゃう!」
次の瞬間、ゴゴゴッと地響きを立てながら壁が横に割れる。その光景にジャック以外の全員が興奮の声を上げた。
「そうだろ?さ、早く入ってくれ」
どこか得意げなジャックに促されるままレイが中に入ると、そこは8畳ほどの空間だった。
大部分を机が占めており、会議室のようになっているその場所の奥には一人の女性が立っている。
「ジャック君お帰り――っと、その子は?」
「あぁ、俺の妹みたいなモノです。レイ、あの人はミオンさんって言って、ゲーム仲間兼俺の先輩だ」
二人が軽いやり取りをすると、ジャックの口から彼女についての簡単な紹介が入り、それを聞いてレイはぺこりと頭を下げた。
「あ、どうもよろしくお願いします」
「あぁ、ジャック君にとって妹という事は私にとっても妹ということになる。これからも末永くよろしく頼むよ」
そう言って差し出されたミオンの手を取ったレイに、突如として悪寒のような何かが背中を駆け巡る。
その原因は間違いなく、目の前にいる捕食者の眼をした肉食獣だった。
「先輩、そういうの良いですから。悪いなレイ、この人いっつもこういう冗談言うんだよ」
「え?いやあの目はそんな感じじゃ……」
「あぁ、悪いね。こんな可愛い妹が欲しかったんだよ」
見当違いのことを言うジャックの言葉をレイが正そうとすると、すかさずミオンがその言葉を遮ってレイにウインクをする。
それを何も言うなというサインと受け取ったレイはこくこくと頷いた。
「はぁ、つか――じゃなかった、ジャックもやることやってるんだなぁ」
・リアル朴念仁か
・女の先輩と一緒にゲームとかそれなんてエロゲ?
・リア充死すべし
思わぬところで身内のリアルが透けたことに何とも言えない気持ちになりながらも、レイはゲームの話に戻るためジャックに尋ねる。
「これ以上身内のプライベートな部分は聞きたくないからこれくらいにしとこ。それよりもよくこんな所作ったね」
「いや作ってないぞ。最初からこの形であったのを、ミオン先輩がたまたま見つけてくれたんだ」
「ん?どういうこと?」
その返答にレイは首を傾げる。
「それに関連してはだな……レイはなんか思わないか?」
「何って……」
逆に問いかけられた質問にレイは言葉を詰まらせる。なんとなく言いたいことは分かったが、それには重要な「なぜ」の部分が抜けていた。
「隠し部屋、会議、囚人。これはもう完全に脱獄しろってことだろう?」
「えぇ……」
・いや言いたい事はわかる
・分かるか?
・他になんなのって話だしな
どや顔で口にしたジャックにレイは微妙な顔をする。
しかしそれ以外の可能性が思い浮かばず、視聴者からも概ね賛同の声が上がっているのを目にして自身を無理やり納得させる。
「いいや、これは間違いない。それに脱獄は未だ誰一人成し遂げられていない偉業。これを達成すればすごい目立てると思わないか?」
そんなレイに演説するようにジャックは身振り手振りを駆使しながらレイに語り掛ける。
「そのための仲間を探しているところでな。丁度良いタイミングでお前が入ってきたから一緒にやらないかって話だ。お前も早く出たいんだろう?」
「そりゃそうだけど……リスクもあるよね?もしそれ捕まったらどうなるの?」
「【懲罰房】に入れられるな。ゲーム内時間で3日間まったく何もできなくなるらしい。なに、成功すれば問題ない」
レイの質問になんてことはなく答えたジャックだったが、3日何もできないというのは彼女にとって想像以上に深刻だった。
そんないまいち乗り気でないレイに対して、ジャックは再度説得するように言葉をかける。
「でもよく考えてみろ。クソ地味な鉱石集めか完全無理ゲーな闘技場かの2択しかないんだぞ?なら脱獄でもしてだな――」
「え?」
リスクとリターンを考えていたレイの耳に何か聞き捨てならない単語が聞こえ、驚いた声をあげて話を止める。そのままジャックに詰め寄るように問いかけた。
「待って、今なんて言った?」
「え?だから脱獄しかないって」
「違う、その前!」
「その前……闘技場のことか?」
「それ!一体どういうやつなの!」
新しい第三の選択肢を聞いたレイは身を乗り出してジャックに説明を要求する。それにジャックは困ったように頬をかいた。
「えっと、看守ロボに『チャンスをくれ』と言えば闘技場に連れてってもらえるぞ。そこで全部のモンスターを倒せば脱出できるって話なんだが……絶対無理だしオススメはしないぞ?」
「そんなのあったのか……」
その説明を聞いたレイはぶつぶつと呟きながら思考に入る。後半の止める言葉は残念ながら耳に入っていないようだった。
「あー、レイちゃんあのだな――」
「先輩、こうなったら言っても無駄ですよ」
何か思うところがあるのかミオンがレイに向けて何か言おうとしたが、ジャックは首を振りながらそれを止める。
長年の付き合いからか、彼女の性格ではもう止まることはないだろうと確信していた。
「ちょっと行ってくるね!」
そうしてジャックの言葉通り、レイは闘技場を目指して看守ロボを探しに走り出していく。その目には新しい希望の光が灯っていた。
[TOPIC]
WORD【懲罰房】
監獄内にて問題を起こした際に看守ロボに連れていかれる独房。
4畳ほどのひどく狭い空間にゲーム内時間で3日間(現実だと1日相当。ログアウト中も時間は動く)入れられるため、実質ゲーム不可状態となる。
単純に何もできなくなるため、監獄内で何かするには看守ロボに見つからないことが重要になる。




