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0-1 物語の下準備


 『Tale of Yours Online』――『ToY』と呼ばれるゲームは今世紀最大の神ゲーと呼ばれている。


 ほぼ全てのゲーマー憧れのフルダイブ型VR技術を採用している本作は、発売当初から多くのユーザーの度肝を抜いていた。


美麗なグラフィックや極限まで現実に近づけられた五感は全ゲーマーの度肝を抜き、βテスト時点で瞬く間に多くのメディアが取り上げていたが、やはり特筆すべき一番の特徴は間違いなくその『自由度』であろう。


広大なマップや多種多様な職業によって遊び方は多種多様、まさしく自分だけの遊び方を追求できるという事もあり、『第2の人生』と評判になる程。


また、チート以外のすべての行為を許可されていると言っても過言ではない程の運営の放任具合によって、PKやモンスタートレインはもちろんのこと、詐欺や窃盗などの害悪プレイも横行しており、そういったプレイを好む人種からも厚い支持を受けているようだった。


 そんなゲームに一人の少女が挑もうとしている。


「以上で設置を完了ですけど何か不明点はないですか?」


「あ、ないです。ありがとうございます」


 彼女の名前は深見玲(ふかみ れい)。高校2年生のゲーマーであった。


 彼女がゲームにはまったのは小学生の頃。初めて触れた国民的大ヒットの横スクロールアクションに触れた瞬間狂ったように熱中し、深い沼に片足を突っ込み、次にプレイしたこれまた国民的大ヒットの育成ゲームによって、両足どころか頭までどっぷりとつかっていた。


「ようやく、この時が……」


 配送業者がいなくなったのを確認した後、玲は先ほど運び込まれた真っ黒のチェアを撫でる。


 そのチェアは黒をベースにところどころ赤の模様がついており一見ゲーミングチェアのような見た目をしている。


だが、頭の部分に丸い円状のヘルメットのようなものがついているのに加えて、背面には『ToY』の文字が赤く輝いており、それが『ToYチェア』と呼ばれている『ToY』をプレイするために必要なデバイスであることを証明していた。


「これでようやく……」


 人知れずぽつりと呟く彼女の目には楽しみの中の決意のようなものが見え隠れする。


レイがこのゲームを見つけたのは、とある実況者の動画を視聴した時。その可憐な容姿と声に好き勝手するプレイスタイルにハマり、憧れ、自分もこうなりたいと願うようになった。


 また、そこで死霊術師(ネクロマンサー)なる職業があり、ゾンビやスケルトンなどを召喚して戦うことができるという、玲の心を的確にくすぐってくる職業の存在も知った。


 実は彼女、女子高生にもかかわらず闇とか黒など、年頃の男の子が好きそうなものが大好きという病気を患っていた。いわゆる厨二病という奴である。


 かくして父親に頼み込み、ToYチェアを購入してもらった。すべては『ToY』の世界を楽しむために、そしてあわよくば実況者となって有名人となるために。


 10分ほどToYチェアを撫でた後、満足したのか両開き2ページの薄い冊子に手を伸ばす。


 ToYチェアに付属していたそれは表紙に取扱説明書と書いてあった。


 冊子を開くと左側にはチェアについての説明、右側には簡単な説明事項が記載されている。


 チェアについての説明は大まかに各部パーツの名称が記載されているのみで、特に読む必要がないだろうと判断し、注意事項のページに目をむける。


『身体の影響を考え、連続プレイ時間は最大8時間となっています。7時間経過時点でゲーム内アラートが鳴りますのでそれを目安にログアウトの実施をお願いします。8時間が経過した時点でその場で強制ログアウトとなります。一度ログアウトした場合その後30分はログインできませんのでお気をつけ下さい』


 玲はあぁこれかと一人で納得したように頷く。実は強制ログアウトについて掲示板や攻略サイトなどで話題になったことがあった。


 この強制ログアウトは戦闘中でも買い物中でも、ましてやイベント中でも発生し、再ログイン後は例外なく最後にいた宿屋に転移してデスペナルティもついていたという。


 その容赦のなさからか、この強制ログアウトは運営()強制キル(コンセント引っこ抜き)であると囁かれ、フフッと笑わされたのを覚えていた。


 当時は笑っていたが、強制終了(コンセント引っこ抜き)の辛さは十二分に知っているため、改めて気を付けようと決意する。


 他にもいろいろ細かい注意が書いてあったが、特に気になるような点はなかったため流し見で済ます。


 注意事項も読み終わり最後に背表紙を見たときに、玲はさらに笑みを深めた。


『Tale of Yours Onlineを購入していただいた皆様へ


 本作品をご購入いただきありがとうございます。


 Tale of Yours Onlineは自由をコンセプトに可能な限り多くの要素を取り入れております。


 本作品をプレイするあなたに現実とは異なる体験を約束しましょう。


 我々に、そして世界に。


 "あなただけの物語"を見せてください。


 最後に、Tale of Yours Onlineの世界を満喫してただくことを誰よりも願っております。


 Tale of Yours Onlineスタッフ一同』


 そこには運営からのメッセージが書かれていた。


「"あなただけの物語"、か。いいね……!」


 そう呟いた玲はえもいわれぬ興奮と早くプレイしたい衝動に駆られる。


 そしてその興奮と衝動の赴くままに玲はToYチェアに腰を下ろし、頭上のヘルメットのようなものを被った。


 ToYをプレイするうえで玲はとある『計画』を練っている。


 それは最速で死霊術師になり、そして憧れの実況者よりも上の最強の死霊術師になること。


 そのためにこの3か月間ほかのゲームを一切せず、苦い思いをしながら動画漁りや攻略情報の収集に努めたのだ。


「事前準備は問題ない。あとは、実行する、だ……け……」


 玲は自信を胸に眠気に身を任せる。


 そして、"彼女だけの物語"が幕を開けた。



[TOPIC]

GAME【Tale of Yours Online】

20xx年、『株式会社Future legacy』から発売されたフルダイブ型VRMMO。

3ヶ月間のβ時代を経てリリースされた本作は、圧倒的な自由度と世界観を武器に瞬く間に普及していった。デバイスである『ToYチェア』の価格は税込164,980円。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 揶揄は、からかうといった意味です。
[一言] !?じゅうろくま…………愛されてますね。 物語と全く関係ないところでほっこり(´-`*)
[一言] デスゲーム企画動画から読みに来ました! 母のコンセント引っこ抜きはDQ8で初めて経験しましたが「はぁっ?!」てなったのを今でも覚えています…… 続きも楽しみに読ませて頂きます! 企画中も企…
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