第五話 ギルドにて事情聴取
冒険者ギルドに帰った僕らに待っていたのは質問の嵐だった。
どうやら、樹海に行った冒険者が軒並み行方不明のようだ。
まあ、確かにあの森は他人の認識を狂わせていたから引っ掛かる奴がいてもしょうがない話だ。
そんな訳で事情聴取されているのだけど、僕らの経緯はカナが全て話してくれている。
それはカナが僕より高ランクって言うのもあるが、カナのクランである『ルプスレギナ』の面々が同席しているからが大きいだろう。
僕はというと後ろで椅子に座って寛がさせてもらっている。
「つまりだ。あの森には方向感覚を狂わせる何かが起きている。それに違いないか?」
筋骨隆々の男がカナに話し掛ける。
彼は『ルプスレギナ』団長、ガラハット。
銀の短髪が逆立っているのが特徴の男だ。
「はい、その筈です」
「それでカナも迷子になって森から降りれなくなっていたのね?」
次にカナに話しかけたのは長い金髪の女性だ。
身長もここいらの女性の中では高めで170後半はあるだろう。
彼女はまだ21ながら『ルプスレギナ』副団長を務めている才媛、ルフタリア・カーナベイン。
キリッとしたつり目が特徴で。そして、
「私、てっきりあの屑野郎に何かされたんじゃないかって心配してたのよ」
僕の事を生塵のように思っている怖い女性だ。
カナみたいな純粋無垢な子が男と二人で出て行ったきり帰ってこないのを心配する気持ちは分からなくないけど、そんなに此方に眼を飛ばさないで欲しい。
「大丈夫だよルフ姉、その時は殴り飛ばすから」
満面な笑みで答えるカナ。
冗談じゃないから恐ろしい。
脱線した話を戻そうとガラハットが咳払いする。
それだけで場の雰囲気がまた緊張感あるものに戻る。
「事情は理解した。だが、それならどうしてお前達はその後森を抜け出せた? もし一時的なモノなら他の冒険者も戻ってきている筈だ」
「確かに、そうですね……カナ、何か分かることはない?」
「え? いや、私もウォルトに言われるまで気付かなかったから……」
そうカナが呟いた直後、僕に視線が集中したのを感じとる。
これは厄介事の流れだ。
けど、生憎今日の僕はもう動きたくないのだ。
「ああ、ごめん僕今日この後用事あるから帰るや」
逃げの一手で突っ込まれる前に席を外そうとするも、ギルド職員が僕の前に立ちはだかる。
「待ちな、てめえにも冒険者として説明する義理がある」
僕より二周りはでかい強面の男は高圧的にそう告げた。
「いや、僕今日、依頼者側というか、冒険者の仕事してた訳じゃないしさぁ」
「だが、てめえは冒険者だ、だろう?」
この人は何を言っているのだろう?
訳が分からない。
いや、言いたいことは分かるけど。
「と言われても説明することないしなぁ」
僕は頭を悩ます。
別に説明するのは簡単だ。
あの手の能力には僕は引っ掛からないのだ。
記憶が無いので何故そんな特技があるのか分からないが、僕には幻覚系・干渉系の能力は通さない。
普段余り活用される事もないし、活用されたとしても自分には一切影響が起きないので気付かないという欠点があるが、その他にデメリットもない便利な特技といえるだろう。
けど、それをいうと更に面倒な事に巻き込まれる予感がするのだ。
僕が言葉を濁していると強面職員は更に僕に詰め寄り凄んでくる。
「死人も出てんだ、あんま舐めてんじゃねえぞてめえ」
そうか……死人も出ているのか。
けど、僕には関係ない話だ。
なんて自己中心なんだと思われるかもしれないけど、厄介事に自ら関わるほど酔狂ではないのだ。
そんな僕の雰囲気が伝わってしまったのだろうか男は腰の剣に手をかける。
やる気なのだろうか? こんな公の場で。
常識があるならこんな大多数に見られている場所で柄に触れない。
この男は冒険者ギルドの職員なのだから。
だが、男の殺気からして避けられる雰囲気もない。
「はあ、分かったよ。するさ、話くらいならしようじゃないか」
先に根負けしたのは当然僕だ。
ここで無理を通すと返ってまた別の厄介事が起きる。
それなら上手く誤魔化しつつ話した方が後が楽だろう。
ギルド職員は僕の言葉を聞いて剣から手を離した。
一触即発の雰囲気は溶けてほっと胸を撫で下ろす。
「最初からそうしてろ」
ほっとした直後にこの協力させる気を失せさせる一言にげんなりするけど、もうこの男を相手するのは面倒だ。
僕は無視してガラハット達の前に戻る。
「ウォルトだったか、カナから話は何度か聞いているがランクに見合わず優秀だそうだな」
「そうでもないさ、頭ひとつ他より抜けてるくらいだと思うよ」
「ふむ、自己評価が低いという話は本当みたいだな」
今の話の流れでどうしてそんな結論になるんだっ!?
別に自分を卑下した訳でもないのに。
だが、その原因が誰なのか直ぐ様理解した。
と言うか、僕の話をする奴なんて一人しかいないじゃないか。
「いやいやいや、寧ろおたくのカナさんからの評価が高すぎて困ってるんだけど」
「それはあるかもしれん。カナは一度信じた事はそうそう曲げないからな」
「おー、良くご存知で」
ガラハットさんは団長なだけあってカナの事を良く理解してくれている。これはお互いうまい酒が呑めるんじゃないだろうか。
とまあ僕らが世間話に盛り上がっていると今まで口を挟んで来なかった他クランの冒険者が声を荒げて話に割り込んでくる。
「あんた達、本題に入る気はあんのかいっ!?ワタシはあんたらの下らない話を聞くためにここにいるんじゃないのさ」
ごもっともな指摘だ。
「ああ、すまない。彼とは前から話してみたいと思っていたものでつい話し込んでしまったよ」
ガラハットはぺこりと頭を下げる。
僕もそれに便乗して謝罪をする。
「いやーごめんごめん、ヘンタイヤさん」
「エンタイヤよっ!」
「ふっ」
マジ切れしたエンタイヤの横で意外にもルフタリアが吹き出して笑ってしまっていた。
「ご、ごめんなさいね……」
直ぐに謝罪を述べるルフタリア。
その大人の対応と普段僕を塵屑扱いするのとで雲泥の差を感じるけど、ルフタリアさんの笑顔が滅茶苦茶可愛かったので許すとする。。
「あーごめんね、エンタイヤさん。人の名前覚えるの苦手でね」
ついでにその流れにのって僕も謝ったが、どうやらそれが気にくわなかったようでチンピラのように睨み付けながら、文句を言ってきた。
「あ″? あんた、Dランクの癖に生意気じゃない?」
オーガのような女性に凄まれて僕も若干腰がひける。
ギルド職員しかり、この手の輩は手が早いから嫌いなのだ。
そんな困った僕に助け船を出してくれたのはガラハットさんであった。
「エンタイヤさん、落ち着いてくれ。望み通り本題に入ろうじゃないか。なあ?」
「ちっ、そうさね……」
どうにか納得したようで腕を組み椅子に座り直す。
ああ、ガラハットさん。最高。
「さて、それでウォルトは何故森を抜け出すことが出来た?」
皆視線がまた集中するのを感じる。
全く面倒なことこの上ない。
僕は溜め息を吐き、どう嘘をつくか考え始めた。
その後、僕は結局一時間以上拘束された後、漸く解放された。