追い詰められたフォモール族が暁光帝に挑む? フフ…いいよ、遊んだげるw
海水浴場の砂浜で盛大に名乗りを上げた、我らが主人公、暁光帝♀です。
小さい童女ながら双頭の巨人をおののかせ、街の為政者2人を恐怖のどん底に叩き込みました☆
もうどっちが怪物かわからない…って、暁光帝♀の方がやべぇ怪物でしたっけ。
さぁ、ついに本格的なバトルです。
はてさて、どうなりますことやら。
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
童女アスタは繰り返し腰を振っていた。
その奇妙な動作を見て、さしもの双頭の異形妖族もひるむ。
「ガゥ!?」
意図がわからない。
少なくとも攻撃や威嚇のたぐいではないとわかるのだが、相手は魔荷を帯びないのに意志を持って動く謎めいた存在なのだ。
肉眼で観る限り、自分よりも遥かに小さくてか弱く見える。
肉眼で観る限り。
だが、魔気力線を感知する感覚器官を用いるとその存在はあまりにも異質で、その印象がフォモール族の頭の中身を占めている。
「グガゥ……」
神でも獣でも人でもない、これは何か。
怪物も訝しむ。
必死で思考を巡らせ、鈍い頭で考える。
けれども、目の前の奇っ怪な存在はそんな怪物を待ってくれない。
「ん? あぁ、尻尾なかったんだっけ……」
童女アスタは腰を振る動作をやめてフォモール族を見つめる。
黄色いビキニのボトムに包まれたお尻は何とも可愛らしい。しかし、あどけない指から伸びる鉤爪は凶悪だ。すでに指よりも長く、まるで手からガラスのナイフが生えているかのようだ。それは白く透き通って先に行くほど透明度が増し、先端は空気に溶け込んで消え行くから見えない。
臆する様子は全く無い。今も怪物が右手を振り上げて連接棍棒を構えても棒立ちで漫然と眺めているだけだ。
「グガァッ!!」
逃げるのか、防ぐのか、戦うのか。フォモール族は決断しなければならない。
しかし、逃げても追いつかれるし、防いでも防御の上からやられるようにしか思えなかった。
だから、戦うことにしたのだ。
今までに多くの敵を倒してきた連接棍棒を信じる。こいつの一撃はあらゆる敵を粉砕してきたのだ。目の前の童女だって打ちのめせる。
童女だって殺してしまえば動かなくなるはずなのだ。
バシュッ!!
怪力で振り下ろされる連接棍棒はとんでもなく素速い。握りしめた柄の先で二股に分かれた鎖、その先端の鉄球2つが童女を狙う。
だが、アスタの動きは怪物を上回っている。
左手を上げ、指を開く。同時に透き通った鉤爪がスゥッと伸び、微細で強力な振動を始める。
それは童女の頭を狙う鉄球の軌道上にあった。
スパッ!!
ガラスのナイフのような鉤爪は信じがたい鋭さを示し、襲い来る2つの鉄塊を鎖ごと真夏のバターのように切り裂く。
バラバラ! バラッ!!
必殺の勢いを付けて振り下ろされた鉄塊は本くらいの金属板に分割されて飛び散る。
ドズッ! ドズッ!!
いくつかはアスタの頭にも中たったが、いずれもダメージにはならず、強靭な童女はのけぞりもしない。
「ふぅん……」
物凄くつまらないものを見るかのような目をして、童女は一瞬だけ腰を落としてから一歩前に歩いて。
ザシュッ!!
開いた右手でフォモール族の青白い肌を斬りつける。ハンスの短刀では傷つけられなかった頑丈な皮膚をナイフのような鉤爪が切り裂いて貫く。
ブシャァッ!
青空を吹き出した鮮血が染めて。
「ウギッ!?」
巨人が目を剥く。
天龍の鉤爪がそのまま下から上に斬り上げて。
ブン!!
アスタは大地を力強く踏ん張って、優に自分の10倍はある質量を空中に放り投げる。
「ブゲェェッ!?」
双頭のフォモール族は何が起きたか、わからず、混乱しながら空中で錐揉み回転しながら落ちてゆき。
ドシャァッ!!
地面に激突して、波間の砂地に2つの頭をめり込ませる。
「ウギィィ……」
ヒグマよりも大きな怪物がうめいて動かなくなる。
そこは先ほど倒された秋刀魚のフォモール族の隣だった。
足を上にして頭から突き刺さる格好も同じ。
肉体が消滅しないから死んではいないことも同じだ。
「最終調整者に抗弁しない。いいね。言葉でペラペラ喋る奴は面倒だよ。キミらは本当に親切だ」
満足気に語る童女。自分で思っていた以上にイライラが溜まっていたようだ。
凄くスッキリする。
自分は暴力が好きだ。
引っ掻くのが面白い。
尻尾を叩きつけたら楽しい。
思いっきり咬みついたらどれだけ気分が晴れるだろうか。
どれも最終調整者には望めない贅沢だ。
本来、言い訳を重ねるバカを相手に一つ一つ論点を明らかにし、きちんと公平に事件を吟味して判断を下さねばならない。如かる後に責任の所在を明らかにして、悪い奴に謝罪させ、反省を促し、事件が再発しないように約束させねばならない。
それこそが最終調整者の仕事であり、信頼と尊敬を勝ち得た天龍アストライアーの務めである。
物凄く面倒だ。
ところが、何事にも例外がある。
乙種2類、それは魔女化け物連盟に加盟しておらず、言葉による交渉が不可能な者。
こいつは問答無用でぶん殴っていい。
引っ掻いてもよい。
むしろ、引っ掻け。
「いいね」
ニヤリ笑みを浮かべる。
向こうにまだもう1頭いるのだ。
引っ掻くだけでなく、咬みついたっていいかもしれない。
童女の夢もまた広がりまくるのだった。
両手を砂地に着けると口元が緩む。
さぁ、楽しい宴会の始まりだ。
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少し離れた場所で侏儒のビ・グーヒと童人のキャロルは絶句していた。
視線をずらすと波打ち際の砂地に突き刺さって逆立ちしている2頭の怪物が見える。
両者、ピクリとも動かない。
「「……」」
同じく、2人も棒立ちだ。
ハンスが犠牲になっても倒しきれなかった強敵が一撃で終わったのである。
それは驚くなという方が無理だ。
最後の最後までハンスが警戒して盾で受けようとすらしなかった連接棍棒は鉄球と鎖と柄がバラバラになって転がっている。
1つの欠片がアスタに中たって跳ね返っていた。
白く透き通ったナイフの刃、童女の指に生えた鉤爪に切り刻まれた鉄球の一部だ。
トコトコと近寄って拾ってみるとキャロルの手には余る。分厚い鉄の円盤だ。小さな童人族の手には当然、ヒト族の手で持っても大きくて重いだろう。
「…と、は〜」
思わず、唸る。
元の鉄球にはトゲが生えていたのだが、それも一緒に切り裂かれている。粗末な銑鉄で斑もあるが、切断面はツルツルと鏡のように輝いており、顔が映る。手鏡にしては重すぎるが。
「グギャギャ…素手デ連接棍棒ヲ切リ裂イタノカ…何ト凄イ技術ダ!」
ビ・グーヒは何とか言葉を絞り出す。
「救国の英雄が使っていた伝説の名剣だって鉄塊なんて切れないわ。そんな代物を素手で……」
キャロルは想像できない。
どんなに鋭くて硬い刃でも鉄を切りつけたら弾かれてしまう。力がどれだけ強くても滑ってしまって刃が食い込まないのだ。
ところが、アスタの鉤爪は見事に鉄塊の切断を成し遂げた。
童女の爪は妖精銀とか、金剛魔鋼とかでできているのだろうか。
「これが亜人の武術? ビ・グーヒは聞いたことある?」
ここいらではヒト族でない者を亜人と呼ぶ。
神秘的な妖精人族や地下に隠れ住む小人族、彼ら、亜人はヒト族の知らない、謎の強力な技術を持つことがあるらしい。
ホビット族も亜人だが、キャロルは聞いたことがない。
「ギギャ…極東ノ島国ニ鉄ヲ斬ル剣ガアルト聞イタコトガアルケレド…素手デ同ジコトヲヤルトハ……」
信じがたいことだ。
でも、ビ・グーヒは言葉を続けられない。
今、目の前で起きたことは奇蹟以外の何物でもなく、ゴブリンを非常に強く動揺させた。
奇蹟があれば悲劇は防げたのではないかという想いがあふれてしまう。
アールヴ大森林の大虐殺。
ビ・グーヒとその仲間達を襲った、あの悲劇を防げたなら、今、自分はどうしていただろう。
もっとも、気楽なホビットにはそんな内心はわからない。
「ほへ〜…世の中は広いものねぇ……」
ひたすらたまげるばかりのキャロルであった。
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先ほどから一寸も動かない、その位置で2人の為政者も棒立ちになっていた。
「わかってはいたけど…ゲロ強ぇ!」
エルフのナンシーは言葉を取り繕うこともできない。
「海軍基地で精鋭部隊を相手に小指1本で戦うとか、舐めてると思ったけれど…舐めてたのは私達の方だったんだわ」
あの時は小指による一本貫手で勝負したアスタだったが、その気になれば鉤爪を生やすこともできたのだろう。今、見せつけられた途方もない素速さと鋭く頑丈な鉤爪で戦っていたら、さしもの精鋭部隊も瞬き10回する間に全滅していたに違いない。
信じがたいことだが、屈強な軍人らを傷つけないよう、殺さぬよう、童女はきちんと配慮してくれていたのだ。
「2つ頭の巨人を相手に…まるで勝負にすらなってなかったじゃありません…か……」
隣のエロ水着エルフに負けじとを目を凝らしていた博物学者ビョルンだったが、呆然としている。
ほとんど童女アスタの動きがわからなかったのだ。
「何がどうしてどうなったらあのデカブツがぶっ飛ぶんですか?」
速すぎて霞んで見えてしまい、残像が走って何かやったらしいことくらいしかわからない。
童女が何かした結果、怪物が空中に吹き飛ばされて錐揉み回転しながら地面に落ちてきたようだ。
「アスタは…相手に合わせて手加減していたわ!」
ナンシーは重要なことから明言する。
「左手の鉤爪は長く伸ばして連接棍棒を切断し、右手のは普通のナイフくらいの長さで相手の腹に突き刺した!…というか、引っ掛けた! そして、下から上に斬り上げて、自転を掛けながら吹っ飛ばしたのよ!」
指から生えた鉤爪の長さを調節しながら事に及んでいると言いたい。
それはつまり、アスタが対象に与えるダメージを抑えながら攻撃していることを、慎重に手加減していることを意味する。
「ほはぁぁ…アレほどやっていてもまだ手加減していたんですか…なるほど、ゲロ強いですね」
博物学者も言葉を取り繕えなくなってきた。
「アスタさんは“最終調整者”とつぶやいていましたが…最終調整‘官’ではないんですよね?」
謎の言葉が気になる。
瓦礫街リュッダでは聞いたことがない。少なくとも碧中海の沿岸諸国では存在しない役職名だ。
「役職ではないのよ。有り体に言えば幻獣の間で言うところの“裁判官”や“相談役”ってところかしら。幻獣同士の間で起きたトラブルの解決を、調整を図る者、その中でも一番偉いのが“最終調整者”なんだわ」
エルフは推測する。
「“魔女化け物連盟”とか、“乙種2類”とか、意味はわからないけど、幻獣の間だけで通じる概念なんでしょうね」
やはり、人間とは価値観を共有しないドラゴンだとつくづく思う。
『人間こそ世界の主役である』などとアスタは絶対に考えないし、そんな考えには思いも及ばない。どれだけ説明し、言葉を尽くしても、人間には近づいてもくれないし、理解もしてくれない。その思考はまさしくドラゴンなのだ。
「“親切な”という修飾語も我々が使う言葉と同じ意味ではないかもしれないけれど…アスタが使う以上、おそらくは“暁光帝にとって親切な”という意味だと思う。それが転じて“最終調整者に負担を掛けない”程度の意味じゃないかしら」
なかなかに正鵠を射た発言である。
「なるほど…さすがは暁光帝ですな。アスタさんに迷惑をかけない、つまり、ぶっ飛ばしても構わない、すなわち“親切な奴ら”…ですか。つくづく、暁の女帝様には敵がいないんですねぇ……」
ビョルンは納得し、しみじみと語る。
フォモール族は人間から見れば恐るべき脅威だが、超巨大ドラゴンからすれば吹けば飛ぶような羽虫でしかない。
敵ではないから楽しく遊んでいたのだろう。
「この調子ならアスタさんが人化を解くこともなさそうですね。このまま手を抜いてフォモール族を処分してくれることでしょう」
恐ろしいエーテル颶風や破滅の極光の出番もないと安堵する。
「ええ。その通りだと思うわ…でも!」
急にナンシーは言葉に力を込める。
「それなら…どうしてアスタは地面に手を着いているの?」
妖精人はヒトよりも目がいい。遠くのものも鮮明に見える。
だから、わかった。
アスタが笑っているのだ。
地面に手を着いている様子だけを見れば、落ち込んでいるのか、何か落とし物でも探してのか、謝罪しているかのよう。
けれども、それなら何故、笑うのか。
しかも、あの笑いは子供が新しい悪戯を思いついた時の笑みだ。
そして、童女が腕と足を広げて腹が地面に触れかねないほどスレスレに伏せる。
「うわぁっ! あれはっ!? あの体勢はっ!?」
博物学者にも事態がわかってあわて始める。
「手加減…してくれないかも……」
エルフは絶望的な眼差しを向けている。
童女は本気を出すつもりだ。
冗談ではない。
残る1頭のフォモール族を全力で叩き潰すつもりなのだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
はい、本格的なバトル(笑)でしたwww
えっ、舐めプ?
う〜〜ん、少なくとも敵の巨人と為政者のエルフ&博物学者は真剣でしたよ。
とりわけ、巨人の方は必死の覚悟でした。
一瞬で星になりましたけどね〜www
うちの主人公♀、戦闘らしい戦闘だと強すぎて舐めプにしかなりません(^_^;)
逆に他のことだと苦戦しかしない?
後、ついに暁光帝♀が武装しました。
“天龍の鉤爪”です。
武装と言うか、自前の武器ですね。生まれつきあるので隠していたのを現しただけ?
人間の爪が変形したのではなく、指の第一関節の先端が白く透き通った角質化して長く伸びた感じです。
指がそのままガラスのナイフになったようなイメージで☆
作中の描写でもおわかりかと思いますが、まんま高周波ブレードですね。SFじゃおなじみの人気武器です。
暁光帝♀はこれを自由自在に変形させられますから、普通に頑丈な鉤爪にも出来ますし、鋭利なメスにも、長く伸ばして日本刀にような白兵戦の武器にもできる。
はい、より一層、舐めプがはかどりますね〜www
さて、そういうわけで次回は『夏の浜辺は恋の舞台☆ 暁光帝は意中の殿方を振り向かせられるのでしょうか!?』です。
請う、ご期待!




