暁光帝♀、イキる! 誰が最強かわからねぇ頭のワリィ奴、さっさとかかってこい! 3秒で星にしてヤる☆
瓦礫街リュッダの為政者2人、エルフのナンシーと博物学者ビョルンが暁光帝♀の様子を見て動揺していました。
フォモール族を1頭ぶちのめした後、童女の指が凶悪な鉤爪の形に変形したからです。
いろいろ、やべぇ☆
さぁ、どんな事件が起きるのか。
お楽しみください。
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大きく広がる砂浜は2人と1頭しかいない。
その1頭が大きく振りかぶった右手の連接棍棒をぎこちなく振り下ろす。
ズン! ズズン!
二股に分かれた先端の鉄塊がそれぞれ力強く砂地を打つ。
「グギャァッ!!」
双頭の異形妖族が叫んで周囲を震わせる。
怪力は健在だが、焼け焦げた右の頭は気を失っており、残る左の頭だけでは右半身を上手く操れないようだ。
だが、右の頭の仇討ちとばかり、奮戦するフォモール族は徐々に精彩な動きを取り戻してゆく。
「ハァハァ…ハァー!!」
息を荒げたものの、一気に吸う。
幻獣の肉体は魔気で構成されており、魔力さえあれば動ける。人間が呼吸するように大気中に漂う精霊の霊気を吸うので息切れはするものの、疲労は少ないのだ。
「ウガァッ!!」
怪物の振るう連接棍棒が低い位置を水平に薙ぐ。
「キャッ!!」
可愛らしい童人はやはり可愛らしい悲鳴を上げて致命的な打撃を避ける。幸いなことに怪物は力こそ強いものの、動きはあまり素速くない。今のところ、キャロルの素速さを活かせば十分に翻弄できる。
だが、素速さで勝っていてもスタミナでは勝てない。
「ハァハァ…」
だんだん、怪物の動きが速くなって、童人は息を切らし、徐々に疲労の色を濃くしてゆく。
そこへ仲間からの叫び声が。
「グギャ! 今ダ、キャロル!」
「了解!」
応えて横っ飛びに退く。
「∫dQ/T≦0…火炎の礫!」
童人が必死で時間を稼いだかいがあった。侏儒ビ・グーヒが砂地に魔法陣を描き、次の呪文を唱えてくれていたのだ。
ボォッ!!
こぶし大の炎が2つ飛んで怪物の眼球を狙う。
「グゲェッ!?」
狙い違わず、命中した炎はフォモール族の左頭を襲い、両の目玉を焼いたのだった。
「グギャギャ、ヤッタ…カ……」
うなりながら、ビ・グーヒは力なく地に膝を着く。
一気に魔法を使いすぎ、体内の魔気が空に近い。それで魔力切れの症状が出てしまったのだ。
「グ…ギギ……」
意識が朦朧として立ち上がれない。
「グ…グガァッ!!」
フォモール族がかろうじて無事な片目を開ける。
命中した炎の魔法2発は着弾にわずかな時間差があり、怪物が目蓋を閉じる余裕が与えてしまったのだ。
片目は焼いたが、残る1つは目蓋を焦がしたのみ。
ズン! ズン!
巨体が地響きを立てながら侏儒に迫る。
「くっ…ビ・グーヒ、逃げてぇっ!!」
キャロルが絶叫を上げるも。
「…」
半ば、失神しかけているビ・グーヒは動けない。
絶体絶命である。
「ハァハァ…畜生!」
息を切らしながらキャロルがうめく。
誘いながら怪物の猛攻を避けきったのだ。体力が尽きかけていて自分ももうまともに動けない。
「ウガァッ!!」
双頭のフォモール族はキャロルに目もくれない。完全に標的が固定されている。右頭を焼き、片目を潰した侏儒を何がなんでも仕留めるつもりだ。
だが、そこへ思いがけない援軍が現われた。
ズザザザザッ!
沸き立つ砂煙が怪物の前に立ちはだかるかのように走り込んで。
ザシャァッ!!
中から小さな人影が現われて怪物を遮り、ビ・グーヒの前に立つ。
「グガッ!?」
思わず、フォモール族が立ち止まる。
怪物は酷く驚いている。
幻獣だから砂煙を通して魔気力線が見える。しかし、目の前の小柄な人影からはそれが全く見えない。
生きて動いているのに見えないのだ。
生き物であれば魔荷を帯びる。例外はない。植物、動物、菌類、褐藻、粘菌の別なく魔荷を帯びて魔気力線を放ち、それが生き物の身体を覆う。
その魔気力線が全く見えない。
生きていない、死骸ならともかく、目の前の人物は動いている。もちろん、枯れ葉は揺れるし、セミの抜け殻は落ちるわけで、それらは魔気力線を放たない。けれども、意志のある生き物の動きをして魔荷を帯びていないことは恐ろしく異常なのだ。
だから、怪物はひるんだ。
やがて、砂煙がゆっくりと晴れる。
金属光沢に輝く紫色のロングヘアーは砂を浴びても曇らない。フリルが可愛らしい黄色いビキニは雪のように白い肌を露わにしている。近くで見たので産毛の1本も生えておらずツルツルであることが明らかになり、本当に人間であるかどうかさえも怪しく思える。
もちろん、違うのだが。
自分の10倍はありそうなフォモール族を童女の虹色の瞳が見つめている。
アスタが堂々と胸を張っていて、小山のような怪物が残る片目を見開いてひるんでいる、そんな状況で。
「やぁ、やぁ、遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ!」
いきなり、童女は天地を揺るがすような大音声で呼ばわる。
「我こそは、我こそは、わぁれこそはぁぁっ!!」
周囲の人々にも、怪物どもにも、全く臆することなく声を張り上げる。
「彼方の空より舞い降りしは龍の武門! デティヨン海で新種の渦虫を発見せし、天下無双の初級冒険者! ブタよりも小さいアスタなりぃぃ〜!!」
腰に手を当て仁王立ち。
怪物を前にして構える様子さえ見せない。案山子でも相手にしているかのような気楽さで叫んでいる。
「皆の楽しむ平和な海水浴場に飛び込んで乱暴狼藉!」
フォモール族の非道を声高に非難して。
「もはや、見過ごすこと能わず! 天に代わっ…天として成敗してくれる!!」
自らの正義を主張する。流行りの決まり文句をそのまま言ってしまいそうになったが、童女は嘘の吐けない幻獣なのでとっさに言い換えてみた。
天に代わらなくても成敗できてしまう天龍アストライアーだ。
言葉は難しいのである。
「あぁ……」
息を切らしながらキャロルは一心に童女を見つめている。この厳しい戦況に子供一人が入り込んだところでどうなるというのか。極めて疑わしい状況だが、もしかしたらという希望が捨てきれない。
「アスタさん! ビ・グーヒをお願い!」
今、自分はまともに動けないから、仲間の侏儒を助けて欲しい。
「ギャギャ…紫ノ髪…アスタ、アノ強イ子供…カ?」
さすがにこの盛大な名乗りでは魔力切れのふらつく頭も覚まさせられ、ビ・グーヒは目を見開いて童女を見つめる。
そして、童女が全く臆していないことに驚きながらも感心する。
「思ッタ通リ、コノ子供ハ凄ク強イ!」
これが希望か。侏儒は気力が戻ってくるのを感じて驚く。
「うん。このブタよりも小さいボクにお任せだよ☆」
アスタは楽しげにうなずくと。
ブン!
元気よく腰を振る。
…
……
………
けれども、何も起きない。
「ウゥゥ…ウガ?」
双頭のフォモール族は片目を見開いて意味不明の行動を取る目の前の童女を見つめて慄然としている。
「あれ?」
何も起きないことにアスタ自身が驚いている。
ブン!
もう一度、腰を振ってみる。思いっきり。
だが、やはり何も起きない。
この危機に童女は何をしているのだろうか。
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瓦礫街リュッダの為政者2人、妖精人のナンシーと博物学者ビョルンは一応、安堵していた。
アスタが人化を解除していなかったからである。
もっとも、賢い為政者だから、そうなればこれから死ぬことさえ気づかずに消滅させられることも承知していた。
けれども、その懸念はなくなったのである。
しかも、あの恐ろしい鉤爪を振るって無差別に攻撃するような真似も控えている。
「ふぅ…どうやらアスタさんは人間形態のまま、理性的に問題を解決してくれるようですね。これで一安心です」
ビョルンはすっかり安堵して一息吐いている。
「そうね…アスタが動いてくれればあらゆる問題が消滅するわ」
『解決する』のではなく『消滅する』、そこが大事だとナンシーは思う。
「それにしてもどうしてアスタさんは大声で名乗ったんでしょうね。暁光帝として今はお忍びの最中のはず。目立つのは不味いのでは?」
もうすっかり安心しきってだらけた調子で尋ねる博物学者である。
「たぶん……」
エルフは想像を巡らせる。
「アスタはどこかで読んだ本…何かの旅行記の内容にでも感化されたんだと思うわ。極東の島国には合戦の際に武将が自分の出自と業績を呼ばわる習慣があるそうだからね。それに倣ったのよ」
それで主張する自分の業績が渦虫の発見というのは如何なものか。
いや、素数の無限性について語られても困るが。
そもそも“天下無双の初級冒険者”って何だと問い詰めたい。“世界最強のチンピラ”みたいに一言で矛盾している。
「なるほど、ありそうな話ですね。ぎょぉこぉて…アスタさんが楽しそうで何よりです」
呼称を間違えそうになって途中で言い換えるビョルン。砂浜に寝転んで、本当に気が抜けているようだ。
さもありなん。
童女が楽しげに遊んでいるのだ。非常に理性的で行動はユーモアも効いている。もはや、人化を解いたり、ドラゴンの本性のままに暴れまわるようなことはなさそうである。
アスタの正体は超巨大ドラゴン暁光帝。彼女にしてみればフォモール族など吹けば飛ぶような羽虫の類。何頭いようが、息を吹きかけるだけで消し飛ばせる輩だ。
今現在、事実上、暁の女帝様ご本人が問題の解決に当たってくれているわけで。
救援に来る予定の兵隊がどれだけ遅れようと構わない。
彼らが到着する頃には全てのフォモール族は排除されていることだろう。
「それにしても…何でアスタさんはあそこでお尻を振ってたんでしょうね? 何か、武術の類でしょうか?」
訝しむ。
何であの童女は敵の面前で妙ちきりんな動作を繰り返していたのだろうか。
大した問題ではなかろうが少し気になったのだ。
霞んで見えるほどに素速い動きだったが、威嚇とも攻撃とも思えない。
「あれは尻尾を叩きつけようとしていたのよ」
さすがはエルフ。わずか半日の付き合いで童女の思考パターンを見抜いている。
「ついつい人化していることを忘れて、今は存在しない尻尾を振り回しているつもりになってたんでしょう」
アスタの考えをしっかり見抜いている。
「自分の今の姿を忘れるとか、ビョルン以上にだらけきっているわね」
ため息を吐く。
「うっ、ま…まぁ…幻獣に出会って気が抜けたんでしょうね。アスタさんからすれば相手はめちゃくちゃ弱いわけですし」
自分の態度を咎められ、博物学者は思わず口ごもる。
フォモール族は普通のリュッダ市民からすれば恐ろしい怪物で、冒険者ギルドのランキングでは“五番手の竹”に該当する。これは魔法が使える幻獣であり、侮れない相手ではあるが、中級の冒険者パーティーなら十分に対応できる。フルメンバーなら討伐は無理でも撃退は可能だろう。
暁光帝の前では存在の意味すらない。
「けれども…ハッ!?」
考えを巡らせていて、突如、ナンシーは気づく。
あまりにも気を抜きすぎではあるまいか。
「先ほどまでアスタは緊張して何がなんでもダメージを受けようと腐心していた…だけど、今はめちゃくちゃ気を抜いているわ。そうなると……」
美貌をこわばらせる。
「何か問題でも〜? “レベル3”だか何だか知りませんが、今のアスタさんは魔法を使えない、只、力が強いだけの子供でしょう? クレメンティーナさんの方がよほど強力ですよ」
砂地に寝転び、だらけきったビョルンは伸びをしている。
「魔法が使えなくても、空が飛べなくても、他の…アレとか、コレとか…何か、物凄くヤバイ能力が使えちゃうかもしれないわ」
暁光帝の恐ろしい御業がナンシーの脳裏をよぎる。
いにしえの昔、天使や悪魔の軍勢を蹴散らし、最近ではオルジア帝国の帝都オルゼポリスを消し飛ばした、特殊能力のエーテル颶風。
神々を殺め、大山脈に風穴を空けた、恐るべきドラゴンブレス破滅の極光。
これらは魔法に該当しない。しかし、神話の時代から神殺しの怪物はこれらの技でとんでもないことをやってのけてきたのだ。
「えぇっ!?」
ビョルンはガバッと起き上がる。
もしも、エルフの懸念が当たっていたら今でも危機は去っていない。
ドラゴンの専門家だからすぐさまナンシーが思いついたヤバイ代物が理解できる。
いずれも魔法ではないからアスタの言葉は嘘にならない。
幻獣は嘘が吐けないけれども、嘘でなければ何でもありなのだ。
「アスタ、頼むから…」
「アスタさん、どうか手加減してくださいよ……」
祈るような気持ちで2人の為政者達は童女の活躍を見守るのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
会話の中、ナンシーがタメ口でビョルンが敬語なのは2人の関係に基づきます。
ナンシーは何百年も生きてきた不老のエルフですから、ヒトのビョルンが子供だった頃を知っているのです…ってゆーか、ナンシーが師匠ですね。実際、ビョルンがナンシーのことを「先生」と読んでいた時代もあります。
実はこいつ、かなりいい目を見てるんですよw
不老の爆乳エルフに師事して、現在の上司である奥方様は巨乳の金髪白人美女、同僚はたくましい巨乳の黒人美女という恵まれた環境で働いていますww
そして、本人は「ドラゴン研究家」「博物学者」という名前のオタクですね。
オタクなので女性に対しては相手が誰であれ敬語です。幼女が相手でも敬語です。
それがオタクの矜持というもの。
オタクってのは剣を持たない騎士なのですから。
そして、こいつのステータスですが…
<博物学者ビョルン>
階級:特級魔導師
身長:1.64[m]
体重:53[kg]
体型偏差:0.85
最大MP:MP88[gdr]
MP回復速度:0.048[gdr/s]
最大MPまでの回復時間:1,833.33[s]
力:0.5
速度:5.75[m/s]
魔法:光、回復
…と、なっております。
特級魔導師は100人に1人しかいない、その上、貴重な光の精霊魔法と回復魔法という引く手あまたの適正を2つも併せ持っています。
つまり、戦闘能力こそないものの、知識があって誰からも欲しがられる有能な人材ってわけですね。
日常生活でも怪我人や病人を診て感謝されてます。
そして、(・人・)でかい 美女に囲まれながら、好きなことを研究して日々を過ごす…絵に描いたような勝ち組ですね。
しかも、老けて30代に見えるけど実は年齢もかなり若いと来てて…何で、こんなスーパーエリートに設定しちゃったんでしょ……
あ、暁光帝の相手するんで生半可なステータスじゃ無理なんでしたっけ。
さて、そういうわけで次回は『追い詰められたフォモール族が暁光帝に挑む? フフ…いいよ、遊んだげるw』です。
請う、ご期待!




