歴史です。アプタル朝オルジア帝国、最後の宰相は暁光帝を迎える準備をします☆ 失礼があってはいけませんからね。
何か、大変なことになったような?
ちょっと遊びに行くくらいのことのような?
アプタル朝オルジア帝国が暁光帝を呼ぶようです。
何で?
お茶なの?
お茶会のお誘いなの?
えっ、もしかして絶世の美女がボクをもてなしてくれるの?
(・人・)なの? すっごく(・人・)なの?
これは期待しちゃうしかないかな〜☆
暁光帝はまだ見ぬ(・人・)に期待を膨らませます。
えっ、何?
待ってるのはおっさん?
ええええええええええええええええええええええっ!?
でも、レナード・ニモイ似のおっさん?
う〜みゅ…「長寿と繁栄を」やってくれるなら会いたいかなぁ……
『王たる者の良心』は傑作だね☆
…
……
………
…ってなわけで、人間に呼ばれた暁光帝がアプタル朝オルジア帝国に訪問することになるようです。
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
どんよりと曇る空模様、人々の気持ちも空と同じく沈んでいた。
この日、皇帝アプタル8世が恐ろしい魔法の儀式を行うことは知れ渡っており、誰もが皆、疑心暗鬼に囚われていたのだ。
皇宮を臨む、広い廊下には窓辺に立つ宰相チシュピシュと私兵達、そして、彼を慕う忠臣らが集っていた。
「ああ、もちろん、杞憂に終わるさ。恐ろしいことは万が一にも起こらないよ」
皆を安心させようと宰相チシュピシュがつぶやいて、窓から外を眺めた。
その瞬間、空を覆う雲が爆発した。
ズッババーン!!
轟音とともに曇天の雲が吹き飛んだ。大地を揺らす突風が荒れ狂い、分厚い雲はかき消され、目にも眩しい青空が広がった。
けれども、それは一瞬。
紫色の金属光沢に輝く巨大な六翼が天空を覆う。
たちまち、外の庭も屋内も全てが超自然的な闇に包まれた。
途方もなく巨大な翼が太陽を遮ることによってもたらされる、龍の闇だ。
「おぉぅっ!」
窓から吹き込んだ突風が思いの外、強くて宰相は吹き飛ばされてしまった。
驚いて床にうずくまっていると私兵や忠臣らも騒ぎ出す。
「うわぁっ!? 何だ、これは!?」
「いきなり真っ暗になったぞ!」
「真っ昼間に夜がくるなんて!」
「龍の闇だ! これは龍の闇だ! 女帝様が来るんだ!」
突然の暗がりの中、宰相の背後で私兵と忠臣らが叫び、うろたえていた。勇敢な兵士も腰を抜かして悲鳴を上げている。
窓枠にガラスが嵌まっていなくて幸いだった。嵌まっていたら突風で全て割れて、鋭利な破片が散乱して、危険なことになっていたことだろう。
だが、この程度の騒ぎは続く異変の前兆に過ぎなかった。
「むっ! これは!?」
何かが違う。
異様な感覚に襲われ、宰相はあわてた。
今までに感じたことのない感覚だ。
幾ら周りを見渡しても異物は見当たらないし、幾ら耳を澄ましても異音は聞こえないし、幾ら鼻で息を吸い込んでも異臭は嗅げない。もちろん、皮膚にも、舌にも、何も感じられない。
五感のどれに注意しても異常は感じられない。
だが、何かがおかしい。
「お!? おぉぅっ!? これは…何だ!? 身体が軽い? 浮くだと……」
私兵の1人がうろたえている。
五感では捉えられない、奇妙な異常に他の者も気づき始めているのだ。
「こ…これは!? バカな! バカなぁぁぁぁっ!!」
忠臣の1人が叫んでいた。
手足をばたつかせながらゆっくりと浮かび上がっている。
大の男が何の支えもないのに空中に浮いて、混乱し、叫んで、暴れているのだ。
「物の重さが失せている…だと!?」
兵士長は抜き放った剣が手を離しても浮いていることに呆然としている。
「あぁ…あぁぁぁぁぁっ!!」
「嫌だ! 嫌だぁぁっ!」
「やめてくれ! 許してくれぇぇ!」
何人もの兵士達が空中で手足をばたつかせて足掻いている。彼らが剣を抜いてなくてよかった。抜いていたら誰彼なしに切りつけて怪我を負わせていたことだろう。
浮いた剣や盾を力なく見つめて兵士達は酷く混乱していた。自分達が拠って立つ暴力を象徴する道具が使い物にならなくなったことに衝撃を受けている。
足が地につかないことの何と不安なことだろう。
「うわぁっ! 駄目だ! 動けねぇ!」
「あぁ! 浮いたままじゃ、逃げることも隠れることも出来やしねぇー!」
「お…おいっ! どうすりゃいいんだ!? おうぃぇ…どぉすりゃいいんだよぉっ!?」
無駄に騒ぎながら私兵達が空中で暴れ、半ば発狂し、死にそうな顔で絶望している。
こうなっては歩けないし、走れない。いざることさえ無理だ。一切の移動が不可能なのだ。
「間違いない! これは重力魔法だ!」
窓枠に捕まった宰相は必死で考えを巡らしていた。
暁光帝だけが使えると言われる重力魔法。あらゆる物の重さを失せさせて、自身の圧倒的な超巨大質量が地上に及ぼす影響を緩和させるために使うらしい。
暁の女帝様がそれなりに気を使っている証拠だとも言われているが、さて、本当のところはどうなのだろうか。
とにかく相手が相手だ。兵士も、武器も、魔法も、もう暴力には頼れないし、使えない。否定された暴力の代わりに使える手段は知恵と決断力だけだ。
「重力魔法!? 女帝様が降りて来るんだな!?」
忠臣らの1人が窓から目を逸らしながら叫んだ。
何故、彼は窓を見ないのか。
窓を見れば本物の恐怖を味わうからだ。
「うげぐっ! えるんどぅぁっ! じぉでいざまぁぁっ! おぷるどぅぶぁぶびぃぃぃぃっ!!」
限界まで開ききった口から血の混じった赤い唾液の泡をブクブク吹き出しながら、老大臣が目を見開いて絶叫している。
油断してつい異変が映っているであろう窓に目を向けてしまい、天空を覆う異様な物体をまともに見てしまった。そして、それが何であるか、理解してしまったのだ。
「うぉぶぉぐげぇぇぇぇぇぇっ!」
恐怖に耐えられなかった老人が狂気に囚われ、宙に浮いて手足をばたつかせながら、聞く者の心臓を鷲掴みにするような絶叫を上げる。
「ぶべっ! うびっ! うぼぉあっ!」
箍の外れた狂人の怪力か。痩せ細って朽木のように折れ曲がった身体が弾んで、釣り上げらればかりの若鮎のように跳ねる。
バタン! ガツン!
身体が壁や床に衝突して跳び、空中で予測不能な動きを見せる。
窓から覗いた物体が紫色の金属光沢で輝いていたことに気づいてしまい、老人の精神は完全に破壊され尽くしていた。
彼は気づいてしまったのだ。
この世の真の支配者が今、ここに顕現したことに。
全てが価値を失い、オルジア帝国でさえ朝食のテーブルに落ちたパンくずほどの意味もないことに。
神々が全くの無力で誰も守れないことに。
彼女が来て自分がいつ魂ごと滅ぼされてもおかしくないことに。
宇宙の真理に気づいてしまったのだ。
老いて硬直化した精神がそんな物に耐えられるわけがない。
「ぶべぇ! ぶげぇおろろろろろろ……」
不幸なことに時間は正午過ぎ、ちょうど昼食が終わったところだった。異常に開ききった口から大量の吐瀉物を噴出させながら老人はのたうち回る。
宇宙的恐怖に脳を侵食されてしまっているのだ。
「ぐげぇ! げぼぉ! うぉぶ…ぷぴぃ! ぷぴぃっ!!」
その奇っ怪な呼吸音に宰相は憶えがあった。
「まずい! ゲロで喉を詰まらせている! 早く助けないと死んでしまうぞ! 誰か……」
声を上げようとして果たせなかった。
この場は龍の闇の真っ直中、暁光帝の重力魔法に支配されているのだ。すべての物体が重さを失い、宙に浮いていて、人間も例外ではない。歩くことはおろか、いざることも這うこともできない。
誰が哀れな老人を助けられるのだろうか。
「ぷぴぃー…ぷぴぃー……」
徐々に老人の呼吸音が弱くなっていく。
「くっ……」
もはや、どうしようもない。自分の無力さに胸を掻き毟られるも、宰相は次に起きることを予想して身構えていた。
ズッドーン!!
今度は物凄い地響きが轟いた。大地が割れたのかと案じるほどの激震が屋敷を襲う。
「おぐっ!?」
激しい揺れに一瞬、地震かと思ったがすぐに違うと気づいた。
彼女が来たのだ。
彼方の空から彼女がやってきて、今、この大地に舞い降りたのだ。
その超巨大質量が大地を踏みつけ、地震と見まごうほどに震わせたに違いない。
そして次の瞬間。
ドスン!
「ぐげぇっ!」
突如、落下した宰相は床に衝突して肺の中の空気を吐き出させられていた。
物の重さが戻ってきたのだ。
浮いていた物体や人間が次々に落ちた。
「うわぁぁぁっ!!」
「あひぃぃっ!!」
「暁の女帝様だ! 女帝様が来たんだ!」
「死ぬ! みんな、死んでしまう!」
「あぁぁぁ! 駄目だ! 殺される! 1人残らず殺されちまう!」
「この世の終わりだぁぁ!」
「あの召喚野郎、やりやがったな!」
「そんなバカな! 有り得ない! 有り得ないぃぃぃっ!!」
「彼女を呼び出すなんて! こんな冒涜があるのか!?」
悲鳴の連鎖が終わらない。皆、一様に尻餅をついて、いざることしかできなくなっていた。
ようやく事態に気づいた私兵と忠臣らが騒いでいる。
「あがごぶぇ! うびぃっ! おでが…おでが…ぎおごぉでぇぬぁんだぁぁぁっ!!」
明らかに発狂している者もいた。運の悪いことに賢かったようだ。兵士長もまた窓を見てしまったのだろう。目を皿のように見開いて、耳をつんざく絶叫を上げ、床をのたうち回っている。
「ぐがぁっ! じんゑん、みづげどぅゎぁぁっ!!」
一声、叫ぶと狂人は廊下の納戸に飛び込んで中身を放り出し。
「じんゑん! ごごがじんゑん! おではどぅぁいずぃぉうぶだぁぁっ!!」
叫んで頭から漬物の壺をかぶっている。
おかげで物凄く臭い。
全く大丈夫ではないのだが、本人は必死だ。納戸を“深淵”だと思い込んで飛び込み、立てこもって自分は“深淵の怪物”と一体化したつもりなのだろう。
人間は強い不安に襲われた時、自分をその不安の対象となるものに同化してると思い込ませて安心を得ることがある。それはさして珍しくもない心的反応であり、防衛機制の一種だ。
この兵士長は自分を暁光帝と同一視することで心の平穏を図ったのか。
けれども思い込みが強すぎ、明らかに幻を、そこには存在しないものを幻視してしまっているようだ。
完全に狂っている。
「お…おぃ……」
宰相が声をかけようとしたら。
今度は。
「うぐぐ…バカでよかったぜ……おぶぶふぉっ!!」
先ほど、いち早く重力魔法に気づいた忠臣は床に這いつくばって、狂気に耐えて嘔吐していた。
考えてはいけないことを考えないように努力して、何とか耐えきったらしい。
賢いことは必ずしもよいことではない。無知が身を助けることもあるのだ。
「ぶふぉっ……」
自分までも吐きそうになり、宰相チシュピシュはあわてて口を押さえる。吐瀉物と漬物の臭いが混じり合って強烈な臭気を放っているのだ。
収拾がつかない。
こんな狂騒に巻き込まれている場合ではないのに。
「駄目だ!」
叫んだ。
もうあまり時間が残されていない。
吐瀉物まみれの友人を助けてやりたいが、事態は恐るべき展開を迎えつつあり、宰相の手腕が希求されている。
「畜生!」
悪態をついて転がるように駆け出していた。
およそ有り得ない最悪の事態を想定していたから覚悟も決まっていた。『こうなってはお終いだ』との想いもある。
おかげで賢い人々の魂を貪り食う宇宙的恐怖からも免れることができた。
けれども、同時に。
皇帝も、帝都も、帝国も、もはや全てが終わったのだと理解できる。
歴史、博物学、建築学、都市計画の実態、今までに自分が蓄えてきた人類の叡智から破滅的な状況がわかってしまうのだ。
だから、今からやろうとしていることは単なる自己満足に等しい。
何しろ相手は神殺しの怪物、あの暁光帝である。たかが、1人の人間に何ができよう?
それでも自分はオルジア帝国の宰相なのだ。やるべき仕事から逃げたりはしない。
「畜生ぉぉぉぉっ!!」
絶望しながらも、チシュピシュは全力で玄関を飛び出していた。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
珍しく名前ありの宰相キャラが登場です。
こっから次の1話を含めて合計2話ほどレナード・ニモイ似の初老、チシュピシュさんが主人公(仮)になります。
暁光帝も出てきますがセリフはあんまり多くありません(^_^;)
こいつ、いつも主人公の座、奪われてんな。
後、政治家キャラが精錬潔白ですww
一般的な異世界ファンタジー作品だと王様が悪党だったりするんですが、うちは暁光帝がヤバすぎて王様の悪巧みとか霞んじゃいますからね〜
いずれ、悪党キャラとしての政治家キャラも出したいものです。
さて、このチシュピシュ氏、暗君に仕えて諫言を繰り返し、排斥された善人です。
国家と国民に奉仕する精錬潔白な、理想の政治家キャラですね。
政治家らしく嘘を吐きますが、それも平和と繁栄のため……ってなわけでイメージはレナード・ニモイ氏です(^_^;)
今回、正義の心を持ってドラゴンに挑む!
まさしく、異世界ファンタジーの主人公キャラですねwww
暁光帝、主人公の座がヤバイ!?
まぁ、チシュピシュ氏はチート能力ありませんけどね。
ジョブは風属性の上級魔導師だしwww
うはっww風w魔導師ww弱すぎwww修正されるねwwwwwwww
いえいえ、弱いなりに工夫して頑張るんですよ。
主人公(仮)ですからww
さて、そういうわけで次回はオルジア宰相チシュピシュが暁光帝に挑みます☆
請う、ご期待!




