暁光帝、来たるべき敵の襲来に備える。何者に挑まれようとも逃げはしない!
被害者と加害者を取り違え、悪党どもに騙されて小さな童女に謝らせようとした神父グアルティエロは倒れました。
いや、ごっつい少年3人と小さな童女を見て「悪いのはお前だ!」と言い切る神父の神経が知れませんね。
子分どもも倒れ、残るは憎き首魁、パトリツィオ少年だけです。
“弱肉強食の掟”だの、“長幼の序”だの、理不尽な思想を盾に小さい子供達を苦しめてきた悪党です。
絶対に見過ごすわけには参りません。
さぁ、この強敵を相手に我らが暁光帝♀はどう立ち向かうのでしょうか。
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
アスタは何事もなかったかのように振り返り。
「さて、クレミー。確認は終わったかな?」
先ほどまでマッサージを施してきた、あの勇敢な女の子、クレメンティーナに声を掛ける。
「はい、アチュタしゃんのおかげでばっちりでつ!」
女の子は元気よくうなずく。
あちこちが擦り切れたみすぼらしい貫頭衣を着ており、いかにも貧民窟の幼女と行った感がある。母親に抱き上げられて運ばれる年齢よりはギリギリ上だろうが、小さい。瞳は榛色で栗色の髪を耳の上で二つ結びにしている。
何もかもが平凡な幼女のはずだが、何故か、榛色の瞳が以前よりも強い意志を湛えている。
「よろしい。では、テストだ。やってみたまえ。大気の絶縁破壊に気をつけてね」
童女が幼女に声を掛ける。
「りょうかいでち!」
小さなクレメンティーナが右手を掲げるとバチバチと派手な音を立てて、可愛らしくあどけない指の間に電気火花が飛び散る。
放電によって二酸化窒素やオゾンが発生して、独特のイオン臭が辺りを漂う。
乱暴狼藉を働き、我が物顔で大口を叩いていたパトリツィオ少年に近づいて行く。
「うぅ、稲光みてぇな…何だ、それは!?」
唇を震わせる少年に先ほどまでの威勢はない。その目には怯えの色が伺え、尻餅をついている。
「少し強いかな。大気の絶縁破壊を起こさないように抑えてよ」
「りょうかいでち!」
アスタの指示で女の子は指に送り込む魔気を抑えると指の間を飛んでいた電気火花が幾分、収まる。
「テ、テメェ、オレ様に逆らう気かよ!? オレはテメェらの誰よりも強ぇんだぞ!」
明らかに異様なクレメンティーナに怯えたパトリツィオ少年だが、気合で脅しにかかる。
「もうおまいなんかこわくないでち!」
幼いクレメンティーナが宣言する。
その小さな手が伸びる。
殴るでもなく、叩くでもなく、掴むでもなく、只、触る。それだけのために。
だが、幼女は先ほどは見せなかった不敵な笑みを浮かべている。その様子は異様に恐ろしい。
「うわわぁっ!」
尻を地に着けたまま、手で這いずって逃げる少年に傍若無人だった頃の面影はない。みっともない格好でズリズリと後ずさる。
だが、背中がアスタの膝にぶつかり、遮られてしまった。
「逃げるんじゃあない」
見上げた先にあった虹色の眼はとてつもなく冷たい。
「諦めたまえ。キミももう年貢の納め時だよ」
冷たい視線で向こうに転がっている子分ども2人と神父を示す。
「い…嫌だ……」
無様に伸されている3人を見てパトリツィオ少年もようやく気がつく。
逃げ回っても無駄だ、と。
ついに自分の番が来たのだ、と。
「畜生!」
迫ってくる小さな手を見て一か八かの勝負を掛ける決意を固めた。
蹴り飛ばすのだ。
あんな幼女、蹴り飛ばしてしまえばいい。簡単に吹っ飛んで泣きわめくはずだ。
「喰らえ!」
ガッ!
尻餅をついたまま、幼女を蹴りつけるも。
「むだでち!」
バッ!
小さな手が蹴りつけてきた少年の足首を掴んだ。
「くっ!」
幼女の力で蹴りを止められるわけがない。このまま掴んだ腕ごとふっ飛ばしてやるとパトリツィオ少年は力を込めたが。
「いままでみんなをしゃんじゃんたたいたぶんだけおちおきちてあげるでち!」
ビリビリビリィッ!!
幼女の電撃魔法が発動し、途端に強烈な電流がほとばしる。
少年の込めた力が一瞬で霧散して、幼女の身体に届く前に蹴り足は止められてしまった。
小さな指が触れた皮膚が火脹れを起こす。電流はたやすく皮膚を貫いて、筋肉を収縮させながら茹で、神経を広範囲に焼く。
筋肉の収縮は横隔膜にまで及び、肺の中の空気が一気に吐き出され。
「はっぱふみふみぃーっ!!!」
背骨が折れんばかりにパトリツィオ少年はのけぞって悲鳴を上げる。味わったこともない激痛に苛まれたのだ。
悪童としての経験をそれなりに積んできた少年である。殴られたことも、斬られたことも、関節を極められたことも、溺れたことも、火傷したことも、毒に中たったことも、ある。
けれども、この激痛はそのどれとも違う、体の芯まで貫くような、異常な痛みだった。
あちこちの筋肉が痙攣して、呼吸もままならない。
「あヴァびゅビュ…あぶばび…ばびゅぅぅぅっ!」
痺れて閉じられない口からボタボタと涎を垂らす。
味わったこともない強烈な激痛にのたうち回り、みっともなく、わけのわからない悲鳴を上げさせられた。
しかも、身体が痺れる。
「えびゅびょ…びゃ……」
言いたいことはあるが、口が痺れて言葉にならない。息ができず、苦しみに悶えながら、恨めしげにアスタを睨む。
今まで小さい子供達を好き放題に殴っていじめてきた自分が地べたに這いつくばらされて無様な姿を晒している。
示しがつかない。
これでは明日から威張れないではないか。
誰も自分を恐れなくなるではないか。
それどころか、自分はないがしろにされ、見向きもされなくなってしまう。
恐怖がパトリツィオ少年の心を鷲掴みにする。
それは本物の恐怖だった。
そこへ上から終了を告げる声が聞こえてきた。
「今後、キミが“弱肉強食”とやらの理屈をこねくり回して誰かを迷惑を掛ければ報復されるよ。このクレミーの電撃でね」
少年の頭上からアスタが見下している。
「で…でん…げき…?」
聞いたことのない言葉だ。
「ああ、キミ達にはあまり馴染みのない自然現象かな。雷だよ、カ・ミ・ナ・リ。ビリビリして痛いぞ〜」
童女は両手の指を揺らして稲妻を表現する。
そして。
「キミの天下はお終いだよ」
思い切り蔑んだ目で冷酷に宣言された。
「うぅ……」
パトリツィオ少年のいかつい顔が絶望の色に染まる。
本当は“弱肉強食の掟”も“長幼の序”もどうでもよかった。只の方便、おためごかしだった。
暴力を振るいながら理屈も付けておけば自分を正当化できる、相手の意志をくじくことができる、そう考えていただけだった。
かつては自分も暴力を振るわれる側にいたから、大きくなって自分が暴力を振るう側に回ったのだ。そして、一度、振るう側に回ったからには二度とこの立場を手放すまいと心に決めていた。
好きなだけ小さい子供達を殴って、欲しいだけ食べ物を取り上げて、自分だけが満腹して、いい気分に浸る。
自分が王様になることだけが重要だった。
明日になればこのアスタはどこかへ行くだろう。また、自分の天下が戻ってくる。明日になれば自分はまた王様だ。“弱肉強食”や“長幼の序”という言葉を唱えて暴れれば誰しもが奴隷になって自分は好き放題できる。
そう思っていた。
そうなるはずだった。
だが、明日からはこのクレメンティーナがいる。
暴力を恐れず、自分に逆らってきた、この勇敢な女の子が。
駄目だ。
もう王様にはなれない。
「うわぁーん!! うわぁーん!!」
大口を開け、本気で泣き出す。
ソバカスだらけの顔を涙がポロポロ、とめどなく伝う。
好き放題して散々、子供達を殴ってきたツケが回ってきたのだ。
完全に自業自得である。
「ごらん、パトリツィオがないているよ!」
「あのらんぼうものがなかされてるー!」
「いいきみだ。あいつはなにもしないボクをたたいたんだから!」
「もっとひどいめにあえばいい!」
同情の声は聞かれない。
むしろ、さらなる制裁を望む声すらある。
だが、アスタはそれ以上にパトリツィオ少年を痛めつけようとは思わない。制裁というものは実際のダメージよりも痛みと見た目のインパクトが重要なのだ。気絶するまで責めるよりしっかり意識を保たせて、苦痛と屈辱で反省させる方がよい。
それより他にやるべきことがある。
「クレミー、このアブラムシはもういいや。もう1つの仕事をやってみようじゃないか」
愛称で呼びかけ、海を指差す。
「はい、アチュタしゃん!」
元気よく応え、クレメンティーナは海に向かった。
「じゃ、やりまつ!」
今度は両手を掲げて魔気を込める。
けれども、指の間に電気火花は散らない。先ほど、いじめっ子を懲らしめた魔法と違い、余った魔力を漏らすことなく、完全に制御している。
次の瞬間、幼女の前の虚空に巨大で複雑な図形が浮く。
速い。魔気力線で描かれた、上位の魔導師にしか使えない浮遊魔法陣よりも、圧倒的に速い。
そこから強烈な魔気が海に放たれて行く。
海上に魔力場が生じて、魔法を発動させる魔幹が海底から生え、遙か上空へ高く伸びる。
「スーパーデリシャスゆーせーゴールデンスペシャルリザーブゴージャスアフターケアービリビリ28ゴォー!!」
幼女の叫びとともに。
ズババ! バリバリバリィーッ!!
海と空に膨大な電位差が生まれた。
強烈な稲光に目を焼かれて視界が真っ白になる。
そして、大気の絶縁が破壊されて一気に凄まじい量の自由電子が海へ流れ込んだ。
バジュゴォォォッ!!
大電流が流れ、ジュール熱で海水が沸騰して泡立ち、水が蒸発する。
たちまち、水蒸気が湯気になって視界を真っ白に染める。
「!?」
突如、辺り一帯の海上を埋めた濃霧に誰もが絶句した。一部の海水が電気分解されたのだろう。塩素の強烈な臭いも立ち込めている。
幼女の魔法に子供達は唖然とし、ある程度は事態を理解できる大人達は目を飛び出さんばかりに驚いている。
「うむ」
アスタがうなずく。
なかなか、いい具合だ。
今の電撃は大きな落雷と同じくらいの威力。
クレメンティーナの魔気容量は十分に拡張されて、大きな魔法を放つことができる。悩まなくて済むよう、複雑な魔術式は直に魂魄へ書き込んでおいた。
人間に使える魔法としては最大級だろう。
今の人化したアスタは魔法が使えないから苦労した。クレメンティーナの精神と肉体を作り変える方法が限定されてしまい、悩まされたが、そこは始原の魔道師アストライアーである。少し工夫したら何とかなった。
何も知らない、魔法への適性も未発達な幼女だった。それをここまで魔法が使えるようにさせたのだから上々の出来だろう。
ビュオオオー
風が霧を吹き飛ばすと視界が開けた。
「わぁぁっ!」
「すっごぉーい!」
海を見つめる子供達から歓声が上がる。
海面にたくさんの魚が浮いていたのだ。
「はい! まだ、駄目だよー! 海が沸騰したからね、火傷しないように気をつけよー!」
「はぁい!」
「だめだってー!」
「いうこときいてまたなくちゃいけないよ」
「はやくたべたいなぁ……」
腹を空かせた子供達だ。喜び勇んで海に飛び込もうとしたが、アスタが呼びかけると素直に従う。
「ドラゴンが遊ぶわけじゃないからなぁ。ちょっと火力が強すぎたかな」
相変わらず、思考の基準がおかしいものの、童女は子供達の安全を気にかけている。
「次はもう1段、威力を落とそうね」
「はい。もっかい、うちまつか?」
「ううん、要らないよ。今日はこれだけ獲れれば十分だと思う」
「りょうかいでち!」
幼いクレメンティーナは元気よく応えた。
魔力が尽きて苦しむ様子は微塵も見られない。元気いっぱいである。
そして。
「「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」
背後から絶叫の三重奏が聞こえて来た。
「何だよ、あれ!? オレにだってわかる!! おっそろしく強力な精霊魔法だろ!? 貴重な雷属性の!?」
「グギャギャ!! 最大級ノ電撃魔法ダ!! シカモ、アノ子供ハ 魔力切レヲ患ッテイナイ!! マダ、余裕ガアル!! マダ、魔法ガ撃テル!! 信ジガタイ!! 妖精人以上ノ…イヤ、茸人以上ノ超特級魔導師ダ!!!」
「そんな…有り得ないわ! あの娘は…クレミーはまだ幼女よ! 昨日の今日まで魔法の“ま”の字も知らなかったのに!?」
三者三葉で驚愕している。
とりわけ、キャロルは強烈に驚いている。幼いながらも勇ましく、乱暴なガキ大将に立ち向かうクレメンティーナのことは目を掛けていたのだ。
魔導師でも何でもない、只の幼児だったことは間違いない。そんな幼女が突如、強烈な魔法を発現させたという事実を目の当たりにしてしまった。
この奇っ怪な現象はすぐさま紫の金属ヘアーをなびかせる妖しい童女アスタと結び付けられた。
「くっ!」
今すぐ、アスタに迫って何をしたのか問い詰めたい。だが、それをしない程度の分別は持ち合わせている。
冒険者としてのキャロルは斥候だ。知恵を巡らせ、状況を読み、次の一手を考えて仲間達を導くのが役割である。
クレメンティーナという、規格外の幼女が今、ここに存在していることの意味がわかるのだ。
それは国家レベルでデリケートかつ重大な問題を孕んでいる。
そして、自分達の前には国家の重鎮がいる。
彼らに任せるべきだろう。
「有り得ない…有り得ない…何、これ!? 最大級轟雷放散稲妻だわ!! 間違いなく……」
「最大級の雷の魔法を個人で複数回、撃てる魔導師!? なんてデタラメな…こんなアプ八な、アプ八なことが……」
うわ言のようにつぶやきながら、エルフと博物学者、2人とも目を皿のように見開いていた。
数百年も生きて様々な魔法を見てきた妖精人のナンシーもこれほどの電撃魔法は数えるほどしか見ていない。
雷属性の精霊魔法は使い手が少なく、強力だ。雷は金属の鎧や石の防壁を貫通してしまうし、雷に耐性のある防御結界を張れる魔導師も少ない。その上、稲妻は素早くて回避できず、攻撃する範囲も恐ろしく広い。
更に言えば、雷という自然現象そのものが謎であり、対処法が全くわからない。
しかも最大級の精霊魔法は人間を相手にするものではない。城や砦、大規模な要塞を攻略するために用いられる。
つまり、戦場で使われたら戦局を一気にひっくり返すほどの超威力を示す、凄まじく強力な魔法なのだ。
そんなヤバイ代物を小さな幼女が操れるようになったわけで。
とんでもない大事件である。
「それにしてもおかしいわ。超特級の大魔法にしては発動が早すぎる。あの娘、呪文も唱えてないし」
「そもそも、ヒト族の平均的な魔気容量は8gdrで、鍛えてもせいぜい100gdrですよ。最大級の精霊魔法に必要な2680gdrに遠く及ばない。ヒトじゃ、宮廷魔導師だって無理です。でも、あの娘はヒトだ。一体、何が起きているのでしょう?」
2人は喧々諤々、議論する。
そもそも、雷属性の最大級の精霊魔法を軍事的に利用することは難しい。
通常、ヒト族だと魔気容量が足りないからこれほどまでに強力な精霊魔法は1人で発動できない。最低でも20人、確実を期すなら30人の超特級魔導師が必要な集団魔法だ。
もちろん、只でさえ稀少な超特級魔導師を軍隊が何十人も用意できるはずがなく、戦略上の運用は現実的ではない。せいぜい、1段下の特上級の精霊魔法で代用するくらいだ。
勢い、妖精人魔導師の傭兵軍団ぐらいにしか依頼できないわけだが、それでも雷属性という稀少な精霊魔法の使い手を何人も集めねばならず、人件費がかかりすぎる。
それだけではない。
大勢の魔導師が集まって、心を合わせて集中し、呪文を統一して、巨大な魔法陣を描いて、ようやく発動できる代物だ。準備には蝋燭2本が燃え尽きるくらいの時間がかかるだろう。
戦場で用いるなら彼らを守る兵士も必要だ。当然、敵も黙って見ているわけがないから、蝋燭2本がたっぷり燃え尽きる時間、敵の猛攻から魔導師達を守らねばならない。
もちろん、その間、敵がボーッと突っ立ってくれているわけもなく、それだけの時間を費やしている内に対処されてしまう可能性もある。いくら魔法が強力でも魔導師が自身が攻撃されたり、魔法陣が乱されたら、お終いなのだから。
やはり、最大級の電撃魔法は軍事的な利用が不可能と言わざるを得ない。
ところが、あの幼女は準備が不要だ。あれほどの大魔法も只、怪しげな名前を叫ぶだけで発動できる。
最大級の電撃魔法が軍用兵器として実用可能になってしまったのだ。
これは大変なことである。
「今の私は水着だから魔法が使えない。でも、同じく、何も持ってないクレメンティーナが素手で魔法を発動させたわ……」
「魔術杖も呪文の詠唱もなしで、何で魔法を発動できるんですか!? もう何もかも無茶苦茶でデタラメ…非常識にもほどがある!!」
博物学者ビョルンは魔導師でもあり、エルフのナンシーに至っては非常に稀少な超特級魔導師だ。2人とも魔法の専門家なのだが、これほどまでにいろいろなものを省いて魔法を発動させた例など見たことも聞いたこともない。
魔法を発現させるためには専用の道具と複雑な手順が欠かせないのだ。
魔力の媒介物たる魔術杖。
魔法が現実の時空間に干渉する魔力場。
それを発生させる魔術式の構築。
魔術式に従って描かれる魔気の通り道、“魔法陣”。
大魔法を発動させるための十分な魔気容量。
魔法陣に流し込んだ魔気に魔力場を生み出させる引き金となる呪文の詠唱。
少なくともこれだけのものが必要にして不可欠なのだ。
だが、クレメンティーナはこれらの多くをすっ飛ばしていたのである。
複雑な魔法陣を描く作業はいきなり図形を空中に浮かび上がらせて終了。
易しい人類共通文字も読めない幼女がどうして高度な魔法理論から導かれた複雑な魔術式を構築できるのだろうか。
魔気容量は足りないにもほどがある。必要量の100分の1にも満たない。それなのに幼女は余裕綽々で、好きなだけ何度でも大魔法を発現できるようだ。
魔術杖も持っていなかったのでどうやって魔力を操作していたのやら、さっぱりわからない。
そして、呪文に至ってはそもそも詠唱すらしていない。
何もかも足りないのに大魔法、最大級轟雷放散稲妻を発動させた。
魔法に関する道理も、常識も、何もかも無視しており、もう無茶苦茶である。
その上、とにかく手軽で発動がとんでもなく早い。
魔法に長ける妖精人のナンシーでもあそこまで素早くはない。
先ほど、浮かれた若者どもを相手にナンシー自身も最大級台風放散大竜巻を発動させてみせた。けれども、クレメンティーナの巨大な雷の魔法よりもずっと時間がかかっている。
エルフ語の長い呪文を圧縮して唱える凝縮呪文、複雑な魔術式を魔気力線で空中に描く浮遊魔法陣などの上級テクニックを使ったのに、だ。
大魔法を一瞬で発動させた幼女の技量には遠く及ばない。
「クレメンティーナは生きた決戦兵器よ」
あまりにも非常識、かつ、予想される問題の量にナンシーは頭を抱える。
少し考えるだけで悪夢が見えた。
軍隊にこれほど強力な魔導師がいたら、司令官は防衛も兵站も無視した戦略が立てられる。
早馬でクレメンティーナを敵の要塞の真ん前に運んで、雷の大魔法を撃ってもらうのだ。電撃が石壁を貫通し、金属鎧の兵士をなぎ倒して、司令部を直撃して壊滅させる。
魔法の発動が早すぎて敵の迎撃は間に合わないし。
雷耐性などという稀少な防御結界を張れる魔導師はいないし。
稲妻から逃げられる道理がないし。
敵には対抗する手段がないのだ。
しかも、こちらは馬の体力が続く限り、戦線を押し上げられる。
やがて、敵兵は幼いクレメンティーナの姿を見るだけで逃げ惑うようになるだろう。
稲妻から逃げられる奴はいないから、戦場は死屍累々だ。何しろ、どんなに肉体を鍛えても感電は防げないのだ。逃れようのない電撃に弱卒も勇将も等しく斃れてゆく。
主力軍用泥人形だってあの落雷には耐えられない。あっという間にガラクタの山の一丁上がりだ。
幼女が両手を掲げて叫ぶだけで、雷鳴が鳴り響き、天空から目もくらむような稲妻が地上に降り注ぐ。
人間も、馬も、軍用泥人形も、彼女の前ではことごとく一瞬で薙ぎ倒される。
村も、街も、軍隊も、何もかもが大電流に焼き尽くされ、幼女が通った後にはペンペン草1本も残らない。
幼女を追いかける味方の体力さえ保てば、1週間も経たずに敵国が降伏する。
そうなれば戦争はその概念もろとも意味を失い、国際的なパワーバランスが根底から覆される。
クレメンティーナを手に入れた軍隊だけが勝つ世界になる。
なってしまう。
いずれ、必ず。
「ああ、それはもう“戦争”じゃなくて…“駆除”だわ」
ついつい、おぞましい言葉をつぶやいてしまい、青褪める。
恐ろしく不吉な言葉を思い出さずにはいられない。
あの時、彼女は何と言ったのか。
そうだ。
『これは人間を駆除すべきか』、だ。
確かにアスタはこう言った。
『滅ぼす』ではなく、『駆除する』と。
小さな幼女がすでに彼女の立つ、あの次元に至っているであろうことが容易に想像された。
悪夢の再現だ。
恐るべき世界の危機の再来である。
「これはいけません!」
博物学者も妖精人に劣らない。同じ考えに至った。
「今すぐ、あの幼女を確保します!」
ビョルンは大急ぎで手配しようと緊急連絡用の魔法道具を手に取った。
兵士に命じてあの危険な幼女を捕まえさせるのだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
感電って外傷としてはやはり珍しいものでしょうか。
転んで足を擦りむく、叩かれて顔を晴らす、殴られてコブができる、切られて皮膚が裂ける、火遊びで火傷を負う、雪を握って霜焼けになる、この辺りの傷、子供は日常的な生活をしていても味わいますよね。
でも、感電や強酸による化学火傷はさすがに体験する機会がなかなかないかもしれません。
感電って痛いんですよ。物凄く。
漫画やアニメじゃ、「ビリビリビリ〜」「うひゃぁー!」からの身体が痺れて「しびびびび」で終わりますが。
実際は激痛です。
後遺症で痺れるほどの電流を味わったことはありませんが、とにかく痛い。物凄く痛い。
研究室にいた頃はほぼ毎日、感電してました(>_<)
今、思い出しても顔をしかめるくらい記憶に残っていますね。
感電した箇所を見つめてどこも傷ついていないことを確認して途方に暮れたこともしばしば。
いやぁ、きっつい、きっつい。
クレメンティーナの最大級雷魔法は大きい雷くらいの威力があります。
具体的に言うと、1億[Volt]の200[kA]ですね。電力だと20000000000000[Watt]と0が14個並びますww
20兆ワットですねwww
ああ、MKSA単位系の偉大さがよくわかりますね(>_<)
設定だけなら『瓦礫街の市壁は17[m]』とか、『アスタの身長は1.41[m]の体重36[kg]』とか、決めてあるんですけどね。
MKSA単位系、使いたい〜
でも、アンペアやボルトなんて数字だけ並べられても読者はわかりませんしね。
やっぱり、「電気」ってのは表現技法の上でもヤバイようです(^_^;)
さて、そういうわけで次回でこの『夏だ! 水着だ! 太陽だ! 浜辺は(・人・)の楽園☆』は一応、完結です。
ってゆーか、この章は次の章のプロローグでしかありませんのでww
場面転換はなし。このまま水着回が続きます。
いや、主人公、ずっと水着のままだったんですよ。
ほぼ描写してませんがwww
でも、悪党退治は一段落しましたし。
次回はクレメンティーナとアスタのお話です。
幼女と童女がいんぐりもんぐり♪
…
……
………
んなわけありませんけどね〜
あ〜 百合ん百合んな展開にしたい〜〜
乞う、ご期待!




