暁光帝のお友達☆ みんなで楽しく過ごしているのです☆
知らないうちに人間1人を廃人にしてしまっていた、我らが暁光帝。
いや、びっくりですぉwww
執政の老人が発狂してしまい、博物学者ビョルンは落ち込んでいます。
セバスティアーノ老は恩人で、なおかつ、親しい仲だったんですね。
でも、まだ犠牲者は1人です。
我らが暁光帝♀が舞い降りた割にはまだまだ安全☆
瓦礫街リュッダは平和です。
暁光帝、今は海辺で幼女と戯れてますし。
平和な光景を眺めてエルフのナンシーは語ります。
お城を出て何をしてきたのか。
世界の危機はどうなったのか。
お楽しみください。
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「可哀想なセバスティアーノ老…彼は失神したままで身動き1つ出来ません。おそらくもう駄目でしょう……」
思い出が目頭を熱くして、博物学者は目を伏せる。
領主の相談役、執政セバスティアーノはもう若くない。彼の良識は瓦礫街リュッダの運営に欠かせない、重要なものだったが、老いた精神は硬直化していて柔軟性に欠けてもいた。
セバスティアーノ老は心に思い浮かべてしまったのだ。
この世の真の支配者を。
太陽すらをも隠す、紫の六翼を広げた大いなる者の姿を。
長い年月を掛けて人間がつちかってきた法律も宗教も、国家でさえも“彼女”の前では全くの無意味であることを。
老人の硬直化した精神に耐えられるわけがない。
「暁の女帝…この世の真の支配者…彼女が舞い降りた。今、地上にいる。その事実が、その恐怖が、老いて脆くなっていた彼の精神を完全に破壊してしまったのです」
最後に見た時、セバスティアーノ老は失神して浅い呼吸を繰り返すだけだった。
顎が外れ、大口を開いていたから舌を噛む虞はなかったが、恐怖に歪んだ顔はビョルンが見ても恐ろしく。
「あれこそ狂人の顔でしたよ……」
思い出して恐怖に震え、両肩を掴んで歯をカチカチ鳴らす。
「私はセバスティアーノ老に請われて城に勤めたんですがね、優しくて親切な方でした」
子供だった自分を支えてくれた老人だった。『学びなさい』『考えなさい』『お前ならワシの後を継げる』と励ましてくれた。
彼の優しい笑顔はもう二度と見られない。
本当に惜しい人を亡くしたと嘆く。
「私やコンスタンス様が狂わずに済んだのは精神が若くて思考が柔軟だったからでしょう。貴女は……」
隣の豊満な女体に目をやる。
黄金の髪が煌めき、きめ細かい肌はみずみずしく、圧倒されるほどの爆乳が元気に弾む。何百年も生きているのに老化の兆候は微塵も感じられない。
広間での衝撃で自分は心をやられてしまっているのだろう。これほどの色香にも冷静な自分の方がよほどヤバイ気がする。
「貴女の精神は肉体に負けず劣らず、若さを保っているようですね。さすがは不老のエルフです」
感心すると同時に元気を分けてもらった気がする。
やはり眼福。エルフの美貌は人々を元気づけるのだ。
「私も肝を冷やしたけどね…あのまま狂っていたら街を見捨てることになるから」
ナンシーは苦笑いする。
「それで、新たにアスタの正体を知ったのは領主と奥方様だけ?」
狂人は数えなくていい。意図的にセバスティアーノ老の名は除いた。
そして、話を聞く限り、ギュディト百卒長は気付いていないようだし、他の広間にいた他の者達は恐怖に駆られて話の内容まで理解できなかっただろう。
「その理解で間違いありません。私は事実しか話していないし、それらを結びつけて考えるような、賢しい者は他にいません」
博物学者も苦笑いする。
無知であることは幸せなのだ。余計なことを考えないことは幸せなのだ。
人々は馬鹿を嗤うが。
愚か者は愚かであることの幸せを知らないだけである。
「控えめに言ってもお城は惨憺たる有様ね。だけど、わかってる? 暁光帝の犠牲者がまだ1人しか出ていないってことは……」
エルフは声を潜ませる。
「ええ。間違いなく、奇跡的な幸運です」
続けるべき言葉をビョルンが補った。
本来ならば何万人もの犠牲者が出るのに、それがまだ1人で済んでいるのだ。
街も無事。
改造されたものの、火山島も島民の暮らしが良くなった。
なるほど、奇跡的な幸運だ。
そして。
「“世界の危機”なら砂浜で子供達と遊んでるわ」
ナンシーが目の前の光景に目をやる。
女の子の勇気に感心したらしい。何やら、アスタは手取り足取り教えていた。
そして、今は彼女を砂の上に寝かせてマッサージを施している。
女の子が気持ち良さそうな表情を浮かべているので、これもまた平和な光景だ。
「世界、大丈夫ですかね?」
「少なくとも今日はまだ滅びないわ」
「そうですか……」
「そうよ」
エルフの瞳を見つめて一息ついた博物学者は彼方の水平線に視線を移す。
どうやら世界はまだ大丈夫のようだ。
少しだけ心の平穏を取り戻せた気がする。
視界の中で童女アスタが女の子にマッサージを続けている。先ほどまで腹這いにさせていたが、今は仰向けにさせて手足を屈伸させたり、胸や腹に指を這わせている。
世界の危機そのものである暁の女帝様がどうして只の女の子にマッサージを施しているのやら、さっぱりわからない。
しかし、女の子は天国にでもいるかのようにリラックスして幸せそうな表情を浮かべている。
周りの子供達も童女が用意したご馳走に舌鼓を打っており、みんな、朗らかな笑顔で幸せを噛み締めている。
何も文句のつけようのない、和やかで幸せな光景だ。
「いいですね」
遠くに広がった水平線を見つめる。
海の上に雲と青空が、空の下に紺碧の海が、境目は美しい直線を描く。初夏の太陽に煌めく青い波と鼻をくすぐる潮風が穏やかだ。
これもまた平和な世界の光景である。
「今日が世界の最後にならないのなら、他のことを考えても良さそうですね。お城を出てからはどんな感じで?」
ようやく、生きている実感が湧いてきて、アスタのその後が気になって尋ねる。
「ああ、そうね。あれから港に出かけて……」
ナンシーはその後の行動について説明した。
事実を列挙するだけなら大した話にはならない。
臨港道路から軍港区に入って海軍基地を観光し、軍事演習を体験してもらった。
漁港区を観光して、大きな魚を見物した。
商港区を観光して、将来が楽しみな豚人に金貨を恵んでやった。
遊興港区を観光して、屋台で昼食をとった。
実際に起きた出来事を並べてみるとふつうに観光しただけである。内容は薄い。
もっとも、その時を会話を考えれば。
デティヨン海の悲劇について暁光帝ご本人のインタビューが聞けて、歴史の謎が解明されたり。
火山島に現れた自分の異名に苛立った暁光帝が地団駄を踏んだり。
魔法も怪力もなしで暁光帝がリュッダ海軍の精鋭部隊10人を打ちのめして地面に這いつくばらせたり。
商港区で働く巨人女性の胸乳が萎んでいて暁光帝が世界に絶望したり。
遊興港区でお人好しのおっさん兄弟に無理やりキスされて、激高した暁光帝が全人類の駆除を決定したり。
イベント盛りだくさんの時間だった。
「午前中だけで3回くらい世界の危機が訪れてませんか?」
ビョルンが青褪めている。
「そこは安心なさい。今でも訪れたままだから」
ナンシーの視線の先で暁光帝が女の子を撫でたり、指でツボを押したりしている。
“世界の危機”にマッサージされる女の子は至福の表情を浮かべてゆったりしている。
それを周りの子供達が羨ましそうに見つめている。
童女は真剣な表情で何やら熱心に話しかけているが、ここからは聞き取れない。
どうせ、1と自分自身でしか割り切れない2以上の整数について話しているのだろうと、ナンシーは気にも止めない。
武術や暴力革命、縄跳びなど、童女が肉体を使う趣味を嗜まなくてよかった。暁の女帝様が本気を出せば鬼ごっこでも街が滅びてしまう。
アスタに珍妙な趣味があって本当に良かったと胸を撫で下ろすばかりである。
「それでね、あの娘と話していると出てくるのよ、いろいろと……」
話の端々から伺い知れるアスタの、暁光帝が人化する前の生活や交友関係。
それらについて憶えていることを、予断や解釈を交えず、只、事実だけを事細かに伝える。
「二乗して2になる数が分数にならないことについてずいぶん熱心に語っていたわ。単なる算術とも違う…数秘術かしらね」
数に意味を見出して未来の運勢を占ったり、縁起のよい名前を考える学問が数秘術だ。占いの一種でもあり、男女を問わず人気がある。
数についてアスタは微に入り細を穿って語っていた。やたら上機嫌で、やたらしつこくて、やたら厳密だったと思い返す。
「ああ、それは哲学とも神学とも違う…おそらく純粋な“数”についての考える学問、“数学”です」
博物学者には心当たりがあった。非常に緻密で厳密な、あらかじめ定義された公理を基に演繹論理のみを展開する学問だ。冒険者のナンシーは実学にしか関心を持たないが、単純な思考の遊びとして数学は面白い。
「ええ。ええ。悪いことじゃありませんね。ひたすら雲の上を孤独に飛ぶだけの超巨大ドラゴンがなかなか降りてこないのも数学好きが理由かもしれません。それなら大いにけっこう」
両手を広げて歓迎する。
「今度、与えられた角度を定規とコンパスのみで三等分することや地図製作に必要な絵の具が4色のみで足りることなんか、アスタさんに尋ねてみたいものですね。とても平和そうです」
しみじみと語る。
魔法や博物学以外の知識について問いかけてみるのも面白そうだ。
そういう問答なら世界の危機も訪れないだろうし。
「まぁ、確かにそれはけっこうなことだわ。それでアスタの友人らしき方々についてはどう思うのかしら? 彼らは……」
ナンシーは幻獣のものらしき固有名詞を上げ連ねる。
博物学者の部屋でも名前の出た“カエルレア”。
甘やかな恋らしき思い出とともに語られた、“オーラム”、“ルブルム”、“テネブリス”、“ノヴァニクス”。
そして、悪夢としか思えない“親友のテアル”。
これらの名を聞かされて。
「全て孤高の八龍です」
ビョルンは断言する。
「実質的に8頭全部ですね。8頭の全てが互いにお友達ということになります」
大きく目を見開く。
「何ということでしょう…長年の議論に終止符が打たれてしまいましたよ……」
ため息を吐く。
ドラゴン研究家にとって孤高の八龍は古くからの禁忌だった。あまりにも強大であることと暁光帝を除けば縄張りから出て来ないことから関わるべきではないとされてきたからだ。
それでも人間の好奇心は止められない。
ある程度の知見は得られていた。只、その呼称の通り、8頭は孤高を貫いてきたのでそれぞれの関係については議論が絶えなかったのだ。
曰く、『孤高の八龍は互いに争うことがあるのでドラゴン同士は仲が良くない』
曰く、『孤高の八龍は時折、互いの縄張りを訪れるのだから、ドラゴン同士の交流があるのだ』
曰く、『孤高の八龍が互いに敵対したり交流したりしてもそれは頻繁ではなく、ドラゴン同士の関係は薄い』
……などなど、長年、真っ向から対立する意見が盛んに戦わされてきた。
しかし、あれこれ考察することはともかく、禁忌であるため、孤高の八龍の縄張りに出かけて観察することはためらわれた。
だから、議論が議論を呼び、謎はひたすら深まるばかり。
ドラゴン同士の関係は盛んに議論されながら解決できない永遠の難題とされてきたのだ。
そんな孤高の八龍にまつわる謎が今、一気に解決されてしまったのである。
しかも、人化した暁の女帝様ご本人の発言から確認されたので疑う余地がない。
「孤高の八龍はとにかく特殊でほとんど知られていません。いや、ドラゴン自体が人間との関わりが薄く、謎なのですよ……」
ため息が尽きない。
「貴女は竜種という幻獣についてどれくらいご存知ですか?」
改めて問いかける。
「えっ、いきなり? えーっと……」
突然の質問に目を白黒させつつもナンシーは知識を漁る。
「あらゆる幻獣の頂点に立つ最強の怪物で…翼飛竜、妖蛇、海大蛇、多頭大蛇、竜翼人、竜、それと龍に分けられる?」
妖精人の知識も少々、心もとない。
竜種は危険なので冒険者ギルドの依頼対象になることがあまりないからだ。
翼飛竜は前足の代わりに強力な翼を持ち、大空を自由に飛翔する。ブレスは脅威であるものの、知能が低いから囮や罠で対抗できる。
妖蛇は足のない、巨大な蛇と言った形態で、しばしば地中を移動する。いきなり、地中から現われて人間を襲うこともある危険な幻獣だ。
同じく、海大蛇も足がなく鰭が発達している。海底に棲み、時々、船を襲う海の脅威である。
多頭大蛇は複数の頭を持ち、それぞれが独自の意志で判断する強敵だ。再生能力も非常に高い。人間を襲って喰らう凶暴な幻獣だが、巨体なので身の回りの世話を牧童精霊に任せており、怪物と小人の関係は微笑ましい。
竜翼人は二足歩行の幻獣だ。翼と尾を持ち、鱗もあって、人間のような姿をしている。人間に変身することもできるらしいが、滅多なことでは正体を明かさない。貴種流離譚、各地でふらりと現われてはトラブルを解決して去ってゆく見目麗しい貴人の物語の題材になっている。
竜と龍は一般的なドラゴンの姿をしてる。前足と後ろ足の四足で歩き、大きな翼で空を飛ぶ。脅威のドラゴンブレスばかりが注目されるものの、多彩な魔法を使い、力も非常に強く、動きが素早い。攻め込むべき死角に乏しい、まさしく、最強の幻獣である。
「冒険者ギルドでも竜種に絡む依頼って少ないのよね。素材として鱗や牙、角は欲しがられるけれど、危険過ぎてわざわざ獲りに行く冒険者が少ないし。討伐の依頼は見たことがないわ。せいぜい、撃退の依頼くらいかしら」
相手は博物学者。専門家である。十分な答えになっているだろうか。
少々、不安である。
そんな不安をよそにビョルンは喜んだ。
「さすがはエルフのナンシーさん、よくご存知ですね。海大蛇がドラゴンの仲間に分類されるかは議論の余地がありますが、概ね、そういったところでしょう」
エルフの知識を称賛しつつ。
「実際、ドレイクやドラゴンって人間に倒されたことがないんですよ。理由は簡単、彼らが賢くて空を飛べるからです」
情報を補う。
「冒険者パーティーが近づけば空から観察して来ます。囮や罠も用意するところを見られていては引っ掛かってもらえない。それならと、軍隊を差し向ければさっさと飛んで逃げてしまう」
翼飛竜のように頭が悪ければ、囮で誘い込んで罠に嵌めることもできよう。しかし、重武装した大勢の人間を賢いドラゴンが見過ごしてくれるわけがない。
「大軍で迫ったら野営地に夜襲を掛けられて、空からドラゴンブレスを吹き掛けられたなんて話もありますね。だから、素直に逃げてくれた方がありがたい」
肩をすくめて、やれやれとため息を吐く。
夜中、寝ているところをドラゴンに襲われる、それは悪夢でしかない。
眠っている兵士が鎧を着けているわけもなく、空からドラゴンブレスでこんがり焼かれ、全員がウェルダンのステーキだ。
立派なテントは目立つから、指揮官は真っ先に狙われる。
よしんば、その後、一部の兵士が生き残っていても士気がくじけて指揮官も欠いているから、もはや、軍隊としては機能しない。
全滅だ。
ドラゴンの討伐は非常に危険なのである。失敗して当たり前。成功するにはとんでもない幸運と膨大な資材と優秀な人材が必要。それでいて爪や牙と言ったドロップ品が得られるとは限らない。
確実に得られるのは名誉だけ。
竜を退治した者という呼称。
それでも、多くの冒険者にとってそれは喉から手が出るほど欲しい名誉なのである。
「でもね。巷で“ドラゴンスレイヤー”と騒がれている冒険者の全てが只のホラ吹きか、バカですよ。罠に掛かった翼飛竜を退治した奴とか、大ガメの甲羅をドラゴンの鱗と間違えて拾ってきた奴とか」
どうしようもない連中だと苦笑を浮かべる。
日がな1日、書物を読むのが仕事の博物学者には冒険者の気持ちがわからない。
それでも彼らは研究者と同じくらいドラゴンの話が大好きだ。ある意味では同志と言える。
だから、少しばかり試したくなったのだ。
「それではドレイクとドラゴンの違いはおわかりで?」
突然、核心を突く質問を目の前のベテラン冒険者投げかけてみる。
「えっ!? 違い? ドレイクとドラゴンの? え、えーっと…大きさでしょう?」
あわてるナンシー。だいたいそんなものだろうという曖昧な答えだ。
ドレイクは自由民の小屋くらいの大きさだ。年老いた両親と夫婦、その子供達、全部で8〜9人が暮らすあばら家と比較できる。そんなドレイクが剣の通らない硬い鱗に守られ、大きな翼で飛び、空からドラゴンブレスを吹きかけてくるのだ。少人数の冒険者パーティーが挑んだところで勝ち目は薄い。
そして、ドラゴン。正真正銘、幻獣の帝王は立派な城や砦くらいの大きさがある。体重換算で比べると、人間などヤモリくらいであり、剣は爪楊枝だ。つまり、戦士が剣を柄まで突き刺したところで爪楊枝を思いっきり刺したくらいの傷しか負わせられないことになる。もちろん、胸を突いても刃が心臓まで届かない。それも鋼より硬い鱗を貫けての話であり、勝利など夢物語である。
たとえ、寝込みを襲っても全く勝ち目がないということなのだ。寝起きに爪楊枝を構えたヤモリを見かけたところで誰が怖がるのだろう。
「フフフ…そのとおりですよ。ドレイクとドラゴンは大きさで区別される。でもね…そこにはけっこう厳密な基準があるのです」
ニヤリと笑う。
説明を続ける博物学者の目に狂気の色があった。
「ふぅ……」
一息入れて。
「暁光帝の鱗よりも大きいのがドラゴン、小さいのがドレイクです」
断定する。
きっぱりと。
絶望と諦観が綯い交ぜになった笑みを浮かべて。
「はひ?」
ナンシーは言葉が頭に入って来ない。
一瞬、意味がわからなかった。
それでも言葉を音として捉え、その意味するところを解釈して頭の中で展開すると。
「えええええええええええええええっ!?」
自然と叫んでいた。
「あの巨大なドラゴンが…鱗一枚分しか…ない…の?」
信じがたい事実に声が裏返ってしまう。
ドラゴンは鱗より大きい。ドレイクは鱗より小さい。単純でわかりやすい基準だ。肝心の鱗そのものはオルジア帝国が国宝として保管し、一般へも公開しているから明確である。
だが、問題はそこではない。
逆に言えば。
「暁の女帝様は鱗1枚がドラゴンと同じくらい大きいってことよね……」
信じがたい事実に慄然とする。
ドラゴンと比べれば人間なんてヤモリていど。
その巨大なドラゴンさえ暁光帝と比べれば鱗の1枚ていど。
ならば、暁光帝と人間を比べたら?
いや、それくらい大きいから通り過ぎるだけで人類史に残る大艦隊もオークの大軍も轢き潰せたわけだ。
「ああ、この場合、“大きさ”ってのは頭から尻尾までの長さ、“全長”のことですよ。ちなみに“重さ”で言えば、ドラゴンは女帝様の鱗よりもずっと軽いんです。所詮は翼の生えたトカゲですからね。彼女の鱗は……」
ビョルンは帝国ご自慢の国宝について語り始める。
ヴェズ朝オルジア帝国の帝都、皇帝のおわす宮殿にはとんでもない国宝が展示されている。
見上げても天辺が見えないほどに高くそびえ立つ、巨大な“壁”だ。それはあまりにも大きいため、宝物庫に入り切らず、宮殿の天井をぶち抜いた特別な閲覧場に収められている。
最初は壁としか思えないが、案内人に言われてよく見ると鱗に見えて来る不思議な物体。
“壁”は紫色の金属光沢で光り輝き、途方もなく硬い。見物料を払えば誰でも見ることが出来、魔法の試し撃ちも剣の試し斬りも自由だ。しかし、武器だろうが、魔法だろうが、工具だろうが、傷1つ付けられない。
この巨大にそびえる“壁”こそが、人間が保管している暁光帝の鱗であった。
世界でたった1枚だけ、ヴェズ朝を興した初代皇帝が暁の女帝様から直々に賜ったものだと喧伝されている。
実物があるからこそ、大きさも重さもはっきりわかっているから博物学者からも注目された。それでドレイクとドラゴンを分類する基準として採用されたのだ。
以前、見聞を広めるために旅をしていた時、ビョルンも見物したことがある。見上げていて首が痛くなったこと、精霊魔法を放ってみたものの、びくともしなかったことを憶えている。
何百年も経っているのに保存状態は極めて良好。いや、不滅で不変なのだろう。広大な表面には汚れも傷もなく、天窓の陽光を浴びて紫の銀のように輝き、そびえ立つ。
それはまさしく威容。
しかも女帝が持つ力のほんの一端でしかない。壁にしか見えない、目の前の物体は超巨大ドラゴン暁光帝の鱗なのだ。
自分の目で見ても現実のものと信じられず、夢でも見ているかのような気分だった。
なるほど、こんな途方もない物を見せられては諸外国も臣民も帝国の権勢を思い知るだろう。ヴェズ朝に変わってから反乱が減ったのもうなずける話だ。
「何てこと…そりゃ、女帝様は軍隊を踏み潰しても気づかないわけだわ……」
ナンシーは絶句してしまう。
大きい、大きいとは思っていたが、これでようやく実感できた。
「暁の女帝様ほどではありませんが、孤高の八龍は他の7頭も途方もなく大きいんですよ。彼らはドラゴンに分類されますが、明らかに特殊なんです」
この世の真の支配者、孤高の八龍。
全ての幻獣の頂点に立つドラゴン、その中でもとりわけ強大な8頭について。
メガネの奥で眼を光らせ、博物学者は重々しく語り始める。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
暁光帝、でかい。
めちゃくちゃでかい。
作中でよく「大きさは○○くらい」って表現してますが、てきとーに描いているわけじゃありませんにょ。
例によって例のごとく、うちはドラゴン達の全長(身長?)と体重は設定してあります。
有効数字3桁のMKSA単位系でwwww
けれども、ドラゴンと人間を比較したくても形状が違うので無理。
そこで、ドラゴンを同じ体重の人間体型、つまり同体重の巨人として換算し、体重の立方根を取って相似比を考えるんですね〜
もちろん、ドラゴンと人間が同じ密度であると仮定しての話です。
同じ密度なら質量は体積に比例しますから、体積比と同じ次元なので同等と考えれば、体積比は相似比の3乗ですから立方根を取ればいいので。
まず、ドラゴンの体重をW[kg]とし、中世の人間の平均身長を1.70[m]、平均体重を60.0[kg]として。
ドラゴンと同体重の巨人から見た人間を考えて、それをふつうの人間を基準にするとどう見えるか、それをx[m]と仮定するわけですね。
すると…
W^(1/3):60.0^(1/3)=1.70:x
…という、方程式を得られますので、ここでWに設定しておいたドラゴンの体重を代入し、xについて解いてやればいいわけです。
人間、ドレイク、ドラゴン、そして我らが暁光帝♀と並べていろいろ計算してみたら作中の描写につながった次第。
ちなみに暁光帝の鱗は!
まず、身長1.70[m]で体重60.0[kg]の竜翼人を仮定します。
すると、鱗の大きさなんて1.20[cm]=0.0120[m]だと思いませんか。思いますよね? 思うでしょう。
そこでこの竜翼人が「しゅわっち!」とか叫んで暁光帝と同じ体重まで巨大化した場合の鱗の大きさをy[m]と考えて方程式を立てると……
W^(1/3):y=60.0^(1/3):0.0120
…ってなわけでこれをyについて解いたら作中の大きさになりました\(^o^)/
でかっ!!
クレムリン宮殿の天井をぶち抜いたよwww
いえね、皇帝の住まう宮殿っつったら、ロシア帝国ツァーリが棲んでた宮殿か、英国バッキンガム宮殿あたりでしょうからww
えっ、皇居?
恐れ多い!!
…んじゃなくて、ナーロッパにしたいんでヨーロッパの宮殿が基準です。
で、この鱗の大きさがちょうど設定していたファイアドラゴンの全長よりわずかに短かったんで、これ幸いとドラゴンとドレイクの分類の基準にしたわけですwwww
我ながら、けっこういい加減〜〜
いいんですよ。
異世界ファンタジー冒険小説ですからね♪
あんまりガチガチに縛っちゃうと面白くありません。
只、小生自身が校正作業で繰り返し読まなくちゃいけないので最低限、自分で読んで面白いものにしないと耐えられませんからね。
あ、暁光帝の体重W[kg]は秘密ですよ。
女の子の体重ですからねwww
前回と今回はお城の話を入れました。
♀主人公がいない場でもお話が進んでいるのです。
そりゃ、あれだけ目立つことしたんですから、有力者の皆様も尋ねたくなりますよね。
聞いて、知ってしまうと破滅するわけですが\(^o^)/
さて、そういうわけで次回はお友達の紹介です。
人化する前、暁光帝はどんな娘と付き合っていたのでしょう。
乞う、ご期待!




