うわっ、何、これ? 暁光帝は庭木にたかるアブラムシを許しません!
海水浴場にやってきた、我らが暁光帝。
ロングヘアを操って砂浜を掘っていたら貝がどっさり採れたので。
お腹を空かせた子供達に与えてみたところ、ずいぶんと喜ばれたのです。
一躍、ヒーローになれて上機嫌の暁光帝は海に潜って更にごちそうを集めました。
すると、珍しいウミウシが採れて…いや、ナマコだったかな。
新種らしき大ナマコを見せて子供達の反応を期待したのですが、何ということでしょう!
見向きもされませんでした。
ええ。子供達は思いがけないごちそうに飛びついて感謝してきたのですが。
何か違います。
悲しみに暮れつつ水平線を眺める暁光帝……
童女の哀しみを埋めてくれるステキな出会いはあるのでしょうか?
もしかすると上品で優雅で(・人・)の大きいお姉様が慰めてくれかもしれません。
期待を込めて水平線を眺めます。
さぁ、どんな女性が来るのか?
お楽しみください。
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海面がキラキラ輝いている。
この海の下にはまだまだ知られていない生き物がたくさんいるのだろう。
ナマコは海底の有機物を食べて綺麗にする海の掃除屋であり、腐食連鎖の一端を担う。どうしても地味だ。それで子供達からも感心されなかったのだろう。
子供達に人気の生き物と言えば何だろうか。
猛毒のセグロウミヘビとか、猛毒クラゲのキロネックスとか、猛毒のイモガイとか、どうだろう。
強烈な毒で獲物を瞬殺する海の強者だ。
ライオンとか、トラとか、子供達は強い動物が好きだからきっと夢中になるだろう。
でも、新種は見つかるだろうか。
悩ましいが、自分はいくらでも海中で活動できる。この辺りの海も調べれば十分に珍しい生き物が見つかるはず。
強ければいいならシャチなんかはどうだろうか。シャチは海の王者である。いや、シャチはブタよりも大きい。シャチは駄目だ。シャチなんてウミケムシ未満だ。
ここはやはり子供達の要望も聞いてから潜るべきか。
そんなことを思い悩んでいると、突然、怒鳴り声が聞こえてきた。
「どけぇ! ガキどもっ!!」
ひときわ、大柄な少年がやって来て、焚き火を囲んでいた子供達を脅している。
「きゃぁっ!」
「うわぁっ!」
子供達は悲鳴を上げて逃げ惑う。
「どけ! どけ!」
「食い物は全部、オレ達がもらうぜ!」
大柄な少年には子分が2人ついていて同じように怒鳴っている。
「小汚いガキめ! 気色悪いんだよ!!」
「あぎぃっ! いたいー!」
少年はボロを着た子供を殴りつけ、悲鳴を上げさせた。
「なにちゅるんでちっ!?」
勇敢な女の子が少年に食って掛かる。
「うるせぇ! この食べ物は全部、オレらのものだ! お前らはあっち行け! ぶん殴るぞ!」
少年は凶暴な顔で脅しつける。大柄な上にいかつい顔つきだからとても恐ろしげに見える。
それでも。
「どうちてこのたべものがみんな、アンタのものなんでち!? おかちいでち!」
女の子は一歩も退かない。
「黙れ、女が! ガキも女もうるせぇんだよ! オレはここで一番強ぇ! 強ぇ奴が偉いんだから全部、オレのものなんだよ! どけぇっ!!」
やたら偉そうに、やたら身勝手なことを怒鳴る少年は周囲の子供達をジロリ睨みつけて。
「さっさと向こうへいかないとぶん殴るぞ!」
拳を握りしめてみせる。
「うわーっ!」
「ひぃっ!」
「きゃあっ!!」
少年の暴力を恐れて子供達は逃げ腰だ。それでも目の前にごちそうがあるのだ。空きっ腹を抱えているので逃げるに逃げられない。
「逃げないなら一人一人ぶっ飛ばしてやる!」
そんな子供達に冷酷な目を向けて、拳を振り上げた少年がゆっくり近づく。
「しゅぐにひとをなぐる! アンタなんて、ホントしゃいていでちっ!」
勇敢な女の子は立ち向かうが、足が震えている。自分よりずっと大きい少年に敵いそうもない。
「お前、弱いくせにいつも逆らうな!」
「どうせ殴られて泣いて這いつくばるだけなんだからさっさと尻尾を巻いて逃げちまえよ」
子分どもも囃し立てる。
「アンタはちいちゃいこをなぐってじぶんのわがままをきかせるだけでち! しょれでいておとなにはちたがうだけ! アンタはただのひきょうものでち!!」
身体の大きい少年達を向こうに回して、女の子は勇気を振り絞る。その声は震えていたが、勇敢であることは間違いない。
実際、ここの子供達が一斉にかかれば少年達を撃退できるだろう。
しかし、大柄な少年が怖い顔で怒鳴るだけで子供達はおびえてしまい、どうにもならない。
チンピラ少年達はここでは圧倒的な力を振るう強者なのだ。
「うるせぇ! 女のくせに生意気な!」
少年は振り上げた拳を打ち下ろした。
「くっ!」
女の子はあわてて避ける。
「動くな! おとなしく殴られろ!」
少年は逃げる少女に転ばせようと足をかける。
「こんなの!」
女の子はうまく避けたが。
「逃げんなよ!」
「キャアッ!」
子分の1人が女の子を捕まえてしまった。1人が牽制して相手を誘導し、残る1人が捕まえる。そんなことを普段からしているのだろう。
喧嘩で多人数のコンビネーションを使うとはずいぶん手慣れている。
見事ではあるが。
ずいぶん卑怯だ。
「よし! いいぞ! 逃がすなよ!」
少年はニヤニヤ笑いながら。
「逃げた分だけ余計に殴ってやる! 覚悟しろ!」
拳を振りかざして近づいてきた。
「男に逆らったらこうなるって教えてやるんだ。ありがたく思えよ」
これから自分に逆らえない弱者をいたぶれるという期待に顔をほころばせている。
「まず一発!」
バシィッ!
少年のパンチが炸裂した。
「いたぁっ…って、あれ?」
女の子が悲鳴を上げるも。
パンチは中たっていない。
少年の拳は直前で捉えられていた。
小さなアスタの手に。
「みんなで楽しくご飯を食べているときに乱暴するものじゃないよ」
童女は不思議そうに首を傾げている。
自分が獲ってきた獲物をみんなで楽しく食べるはずが、なぜか、少年達が乱入してきた。
その上、暴力をふるいながら怒鳴り散らしている。
『世界を横から観る』という遊びの最中だし、これも人間の習性かと観察していたが、少年達の主張はどうにも納得がいかなかった。
人間の本格的な暴力はぜひとも観察したいものではあるが、大柄な少年と小さな幼女では体力の差が大きすぎるし、単に拳で殴り合うだけなら面白みに欠ける。
それなら食事の風景を眺める方がよほど面白そうだ。
そう判断したから少年の乱暴を止めることにしたのである。
自分よりも頭ひとつ大きい少年が相手だが、もちろん脅威にはなり得ない。しょせんは人間。か弱い魔力を嘆きながら地べたを這いずり、日々の糧を求めてけなげに生きる、哀れな生き物だ。
少年は傲慢でずいぶん偉そうだが、自分はブタよりも小さい。此奴の話を聞いてやるのもいいだろう。
「それで?」
自己紹介は省略だ。
楽しい食事の場にやって来て暴力を振るうような輩に名乗ってやるような義理はない。
「テメェ……」
少年は激高する。
子分に押さえつけさせて、今から生意気な女児をぶちのめして躾けてやろうとしたのに邪魔されたのだ。
それも女に。
女のガキに。
不愉快だ。
絶対に許せない。
「オレが怖くないのか? ぶっ殺すぞ!」
目を剥いて怒気を放つ。
怒りに歪んだ顔は醜く、恐ろしい。
「うわぁっ!」
子分が悲鳴を上げるくらいだ。
けれども、アスタとしてはこういう相手に返す言葉を1つしか持っていない。
「殺ってみろ」
堂々と胸を張って、真っ正面から相手を睨み返す。
「ガキがぁっ! お前ら、やれ!」
自分よりも小さい童女に挑発され、怒りで頭の血管が破裂しそうだ。顔を真っ赤にした少年が怒鳴ると。
「こいつめ!」
「テメェはもう終ぇだぞ!」
女の子を離し、子分どもがアスタに飛びかかって両側から押さえつける。
「いいぞ。そのまま捕まえておけ。母親でも顔がわからなくなるくらいブン殴ってやる」
少年が罵りながら近づいて来る。
「ひどいでち! ひとりに3にんがかりなんて!」
女の子が声を張り上げる。
「うるせぇ! ガキが弱っちいくせにオレ様に逆らったことを悔やむんだな!」
少年は勝ち誇って拳を大きく振りかぶる。
童女は両側から自分よりも大きな子分2人に押さえつけられている。
逃げられない。
「!」
女の子は自分が理不尽な暴力に逆らったから、海の幸を獲ってきてくれたこの童女が痛めつけられるのだと己の行いを悔いる。
そして。
「オラァっ!」
少年は動けないアスタの顔にパンチを叩き込んだ。
バキィッ!
拳が童女の鼻をしたたかに打った。
しかし、少年が期待した苦痛の叫びは上がらない。
「?」
アスタは不思議そうに首を傾げるだけだ。
そうだ。
ギュディト百卒長の鎚矛を何度、打ち込まれても平然としていた童女である。たかが少年のパンチごときにひるむはずがない。
「キミは何をしているんだい?」
子分2人に両側からしがみつかれている。その状態で少年が拳を打ち付けてきた。
そうか。
先ほどの、勇敢な女の子をやり込めたように自分を殴って言うことを聞かせようとしているらしい。
「それで?」
もう一度、尋ねた。その意図を。
「畜生! 痩せ我慢しやがって! これならどうだ!?」
頭に血が上った少年はムキになって拳を振るう。
ドガッ! バシッ! ガッ!
何度も何度も童女の顔を殴りつける。
殴られるたびにアスタの頭は左右に揺れたり、大きくのけぞったり。
「この! このっ!! こいつめっ!! どうだ! まいったか!?」
少年は容赦なく殴りつけるも。
「お…おい……」
「それ以上やったら殺しちまいますぜ」
行き過ぎた暴力に子分の方がひるんでしまう。
その上。
「ハァハァ…フゥ……」
全力で何十回も腕を振るっていると少年の息が上がってきた。
「くそったれぇっ!!」
思いっきり力を込めて殴りつける。
しかし、相手は平然としていて効いている様子は全くない。
駄目だ。きつい。
苦しむ様子がまるでないから、勢い、自分の全力を込める。だが、相手の表情が変わらない。
こちらは全身全霊を込めて両腕を振り回しているから、たちまち息が上がってしまう。疲労が筋肉にたまり、腕を上げるのも億劫だ。
もう殴りつける手の方が痛いのだ。
もう止めたい。
けれども、今、この童女を泣かせなければ、屈服させなければ、自分が舐められてしまう。
明日からは言うことを聞く奴が減るだろう。言うことを聞かない奴が現れるかもしれない。
そうなれば、自分の天下は崩壊する。
何がなんでも殴り続けなければならない。
ところが、いくら殴っても童女は泣いてくれない。
もはや、自分の方が泣きたいくらいだ。
「畜生! 畜生!!」
歯を食いしばり、呻きながら拳を振るい続ける。
そこには奇っ怪な光景が繰り広げられていた。
見ている子供達は唖然としている。
大柄な少年の振るう、絶対的とも思える暴力に蹂躙された童女が平然としているのだ。
拳を振り上げる少年をまっすぐ見ている。
恐れることも。
目を背けることも。
しない。
只、面白そうに少年を見つめている。
いくら殴られても、どんなに罵られても、アスタは苦痛のうめき1つ漏らさず、しっかり立っていた。子分どもに両側から押さえつけられて身を躱せない状態で、全部のパンチをまともに喰らっておきながら。
全くダメージを受けた様子がないのだ。
「で?」
童女は更にもう一度、尋ねる。自分を殴りつけた少年に、その意図を。
これ以上ないほど短く。
大した関心はないのだ。
只、暴力を振るう理由がちょっと知りたい。ちょっと聞いておきたい。
その程度の興味である。
「ぐぬぅっ!」
憎々しげに唸る少年。
これだけ拳を振るわれても平然としている相手に脅威を感じた。しかし、蔑んでいた子供達が見ているし、子分の手前だ。不安はおくびにも出さない。
「ふぅー!」
切らした息を思いっきり吸い込んでから、拳を振り上げて。
ガッ!!
最後に童女の顔がひん曲がるほどに思いっきり殴りつけた。
そして。
「オレは強いんだ! 強い奴が全てを決める! 強い奴が全部もらえるんだ!」
醜い顔を一層歪め、一気に言葉を連ねて怒鳴りつける。
「うわぁっ!」
「ひぃっ!」
「いやぁっ!」
その迫力に子分どもも子供達も一斉にひるんだ。
ところが。
「へぇ……」
少年の怒気を正面から受けてもアスタは動じず。逆ににっこり笑ってみせる。
実に嬉しそうに。
「な…何だよ…そりゃ……」
少年の方がひるんだ。
目の前の童女が有り得ない態度を取っているから。
誰だって苦痛を嫌う。暴力を恐れる。痛みを与えれば逃げようとし、殴られれば泣いて屈服する。
そのはずだ。
だが、しかし、目の前の童女は微動だにしない。
涙の1滴も流さず、悲鳴の1つも上げず、面白そうに自分を見つめている。
まるで、瓶に捕まえた虫を観察するような目で。
「くっ……」
少年は密かに拳を握りしめる。
自分が信じていた暴力。
絶対と思っていた暴力。
それが全く通用しない相手に不安を覚えたのだ。
その時。
ダン!
童女が突然、砂地を蹴って跳び上がった。
「うわぁっ!」
「逃がすな!」
突然の行動にあわてて子分どもが力を込めるも、急激な上昇に追いつけず、何とかアスタの腕にしがみついている状態だった。
跳べば落ちる。当たり前だ。童女の身体は惑星の重力と子分どもの腕力に引かれて落ちた。
だが、それで終わるわけがない。
「ていっ!」
ガッ!!
裸足が子分どもの足をしたたかに踏みつけたのだ。いや、踏みつけではない。蹴りだ。空中の落下に合わせて足の甲をかかとで蹴りつけたのである。
「うぎゃぁっ!!」
「いでぇぇっ!!」
殴られまくってズタボロにされたはずのアスタから思わぬ反撃を受けて子分どもは痛みに足を抱えて転げ回る。
童女の拘束は解けた。
その身を押さえる者はもはやいない。
だから。
「にこにこ顔面パンチ!」
満面の笑みから、今度はアスタが拳を振るう。
力強く踏み込んで砂地を穿つ震脚からの拳撃。身体が真っ直ぐに伸びて、全身の運動エネルギーが打ち出された拳に乗り。
グワッシャァッ!
少年のいかつい顔に拳打がめり込んだ。
「あかちばらちー!」
情けない悲鳴を上げて吹っ飛ぶ少年。鼻が折れて憎しみに歪んだ顔が更に醜く歪んでいる。
「ふむ…」
図らずも箭疾歩の形になってしまった。
アスタは少しだけ反省して。
「まぁ、いいか」
にっこり笑う。
そして。
「いてて…」
「なんてことしやがる…」
痛みをこらえて何とか起き上がった子分ども2人の間に立つとスッと腰を落として。
「ダブル・にこにこ顔面パンチ!」
腰を伸ばす勢いに乗せて両腕を水平に伸ばし、拳を放つ。
ボカッ! バキッ!
同時に2人の顔をしたたかに打ち抜いた。
「ホンゲェー!」
「おっぺけぺー!」
仲良く2人とも吹っ飛んでゆく。
あまり腰の入っていない、ほぼ手打ちのパンチだがタイミングも力の込め方も完璧である。
2人とも顔を腫らして、痛みでうずくまっている。これなら到底、立ち上がっては来られまい。
「ち…畜生…テメェ…」
大柄な少年の方はまだやる気らしい。鼻血をボタボタ垂らしながら立ち上がる。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
傷心の暁光帝のところへやってきたのは美女ではなく、悪ガキ3人組でしたwww
はい、すみません。
こんなんばっかりですね。
目次の警告『この作品には 〔ガールズラブ要素〕 が含まれています。』が意味ありません。
ステキなお姉様キャラはたくさん用意してあるんですけどね〜
我らが暁光帝、いまだに恋愛能力をげっとしていないのです(>_<)
…なので、悪党をやっつけます!
はい。主人公ですね。
それにしても……
1,魔界の幹部、上級魔族デルフィーナ
2,荒鷲団の遊撃兵ハンス
3,特級魔導師ギュディト百卒長
4,リュッダ海軍精鋭部隊10名
5,街のいじめっ子3人組
……と、順調に敵がショボくなって行きますね。
暁光帝の必殺技も……
1,急所への一本貫手
2,ニコニコ顔面パンチ
……と、これまた順調に弱化していますw
これは!
少年漫画のパワーインフレ問題を懸念してパワーデフレするという今までにない画期的な試み!!
……なわけありません(^_^;)
しかし、異世界ファンタジーバトルアクションものなのに主人公の必殺技が素手の打撃技しかありませんなwww
敵が弱くなっているので♀主人公も強い技が出せないのです(>_<)
まぁ、この『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ』は物語の構造上、あんまり強敵が出せませんしね。
でも、何か、飛び道具のたぐいは出してほしいなぁ…とも思います。
さらなるバトル展開が待っている?
さて、そういうわけで次回は街のいじめっ子と決着です。
うん。冒険アクションの主人公が戦う相手じゃないなぁ……
まぁ、いいや。
子供達にとって恐るべき暴君です。
さぁ、アスタはどうやって戦うでしょうか。
乞う、ご期待!




