暁光帝、初めてのキスは〇〇味w えっ、キスってホラーだったの!?
ついに肉の串焼き6本を食べ終わった暁光帝はメインディッシュに取り掛かります。
さぁ、何を食べましょう。
いろいろな食べ物の屋台がのきを連ねています。
どれも美味しそうでもうたまりません。
童女に人化♀した超巨大ドラゴンの道行きはいかが相成りますか。
お楽しみください。
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キャロル達、荒鷲団と別れたナンシーとアスタは次の屋台に向かっていた。
お仕置きが効いたようで、うるさく騒いでいた遊覧艇の若者達も今はおとなしい。
まばゆい初夏の太陽は高く上ったばかりだ。
小さな海鳥を追いかけているのか、仔猫が遊んでいる。
可愛らしい白鶺鴒は猫の爪にかかることもなく、人々と屋台の周りを飛んでいる。
潮騒の中、上流階級の遊び場らしく少し上品な屋台が建ち並ぶ。それぞれ、飾りが付いていたり、店員がアクセサリーなので装っていたり、華やかだ。
「あれもこれも美味しそうだなぁ♪」
キョロキョロと辺りを見渡す。
肉の串焼きを串ごと6本も平らげた童女だが、満腹にはなっていない。そもそも、人化した超巨大ドラゴン、暁光帝であり、ものを食べる振りをしているだけ。アスタの喉を通り越した食べ物は胃袋で消滅して魔気に変換されている。いくら食べても腹がくちくなるわけがない。
「ええ、アスタさん。きっととても美味しいものが見つかりますよ」
母親よろしく着いていくナンシー。少し汚れた格好で髪も乱れているから、所帯じみて見える。妖精人らしく、何百年も生きているので子供がいてもおかしいことはない。
とは言え、暁光帝の生きてきた年月に比べたら誤差のようなものだ。
自分よりも遙かに年上の娘を持つのは御免こうむる。
それでも、この街でアスタが楽しく暮らせるよう尽力は惜しまない。街の平和と住民の生命がかかっているのだから。
「むぅ…ここはやはり……」
虹色の瞳が1つの屋台を見つめる。
それは大きなブタの丸焼きを売る兄弟の屋台だ。
「ブタよりも小さいボクがブタを食べないわけにはいかないからね」
小さくて平らな胸を思いっきり張る。
理屈はともかく、アスタは慎重だった。
いくら腹のくちくならないアスタでも際限なく食べて屋台を制覇するわけにはいかない。そんなことをすれば正体がドラゴンだとバレてしまうかもしれないからだ。
この辺は親友の緑龍テアルから強く戒められていた。
『バクバク、バクバク食べていると怪しまれるからいくら美味しくても控えるべき。そうすべき』、と。
さすが、親友。
経験の豊かなドラゴンは言うことが違う。
感心した。
だから、先ほどの肉の串焼き6本を計算に入れると後はメインディッシュとデザートくらいしか食べられない。
ならば、肝心のメインディッシュはどうするべきか。
屋台は明日もなくならないだろうが、この街で最初に食べるごちそうは慎重に選びたい。
それはこのアスタ、天龍アストライアーの偉業を象徴する食べ物にするするべきだろう、
なるほど、ブタの丸焼きを置いて他にはない。
あの、焼かれているブタの間抜け面はまさしく自分に食べて欲しそうではないか。
ゴクリ
喉を鳴らすと一瞬のためらいもなく真っ直ぐ向かう。
買い物はナンシーに任せる。エルフがいれば恐ろしい商人の嘘に飲み込まれることもない。自分は彼女が立て替えてくれた分を後で支払えばいいのだ。
もはや、買い物は怖くない。
何の心配をすることがあろうか。
「よし!」
力強くうなずき、スタスタと近づく。
そして。
童女はポカンと口を開けて呆然としてしまった。
「仲良しファッキネッティ兄弟の♪」
「美味しいお店♪」
2人の男達が歌っている。
踊りながら声を合わせて。
屋台を営んでいるのは中年の兄弟。2人とも白色人種ででっぷり太っている。兄の方は無精髭を生やした、白い装いの料理人。弟の方はブラウンの髪を後ろでまとめ上げ、でかいエプロンを着けて、布地がはちきれんばかりに肉が余っている、髭モジャのおっさんだ。どちらも今、まさに丸焼きにされているブタと同じくらい脂ぎってギラギラしている。
2人は瓦礫街リュッダの屋台を営む料理人だ。
「毎日、美味しい♪ 極上の料理♪」
「ここでしか食べられない♪」
歌っている。
踊っている。
屋台でブタを1頭まるまるローストしながら。
この街の料理人らしく、歌いながら踊っているのだ。
それはまだいい。
屋台を営むデブ兄弟が踊りながら歌っていてもアスタはそこまで驚かない。
2人は互いの手を取ってクルクル回る。
肥えた肉が2人分、ブルンブルン震える。
余りまくった肉は首周りをなくして胴体から直に頭が生えているよう。
肉料理屋の店員らしいとも言えるし、食糧事情の貧しい瓦礫街でよくもここまで太れたものだと感心もする。
「仲良し兄弟♪」
「助け合って美味しい料理♪」
調理そっちのけでリズムに乗る。手を取ってターン、そして。
ぶちゅぅっ!
重なった分厚い肉の隙間から唾液が垂れる。お互いの唇と唇をくっつけて接吻していた。
「うげ…何、それ、ばっちぃ! 不潔! 気持ち悪い!」
アスタは目を見開いている。
強い嫌悪感を抱いたのだ。
いや、知らなかったわけではない。接吻、キスというもの。それについては人間に関する博物学の研究論文を読んで知ってはいた。
只、つい最近まで人間に興味がなさすぎてその風習を無視してきただけだ。暁光帝に限らず、多くの幻獣は人間そのものには興味を持たない。きらびやかな文化だけに目を奪われ、服飾や料理などにばかり関心を持つ。だから、個々の人間がどういう生活をしているのか、集団となった人間がどうやって祭りや戦争をするのか、知らないし、どうでもいい。
しかし、目の前で太った人間が2人、互いの唇と唇を合わせている様子はショッキングだった。
文書で読むのと目の前で見るのとではずいぶんと印象が違うものだと実感する。
「あれは“キス”ですよ、アスタさん。恋する男女、または仲良し同士で行う、親愛の挨拶です」
ナンシーは難しい顔で説明する。
ドラゴンに人間の感情の機微が理解できるだろうか。そもそも、アスタは“失恋”という言葉の意味を知らなかった。当然、“恋愛”の意味も知らない。この瓦礫街リュッダでは恋人同士だけでなく、家族や友人でもキスをする。
性別は問わない。
それぞれ、意味が違うし、必ずしも唇と唇を合わせるわけでもない。
「えーっと…キスというのは……」
人化したドラゴンに人間の風俗をどこまで教えるべきか、悩んだ。
ところが。
「ええっ!? その娘はキスしてもらったことがないのかい?」
でっぷり太ったファッキネッティ兄弟の兄の方が驚く。
「おぉう、かわいそうに……」
モジャモジャの髭を生やしたファッキネッティ兄弟の弟の方が嘆く。
「お金持ちの子供でも親がいなければ寂しいんだな」
「ママやパパがいない…お金持ちの子供も大変だね」
同情の視線を童女に向けて来る。
「ほへ? えっ? いや、その……」
アスタはあわてる。
親のいる子供をうらやんだことはない。
そもそも、親に捨てられたわけではなく、初めから親がいないのだ。それはアスタだけでなく、全ての幻獣がそうである。幻獣は親から生まれるのではなく、虚無の空間から湧出するものなのだ。
だから、同情されると珍妙な気分になってしまう。
それは『おまいはモイノヂグシがないからかわいそうだ』なんて言われるようなものだ。例え、謎の“モイノヂグシ”について知識があっても実感としてピンと来ない。
けれども、ここはどうするべきか。
『ボクはブタよりも小さいから親など初めからいない!』と宣言して胸を張れば気持ちいいだろう。
だが、そうしてしまえば怪しまれ、『何? 初めから親がいないだと?』、『まさか、おまいは虚無の空間から生まれたんじゃないのか?』と真実を看破されかねない。
それは困る。
そこで。
「ウン、マァ、色々アルケレドナ、難シイ問題ダネ」
親友の緑龍テアルから教わった“誤魔化しの言葉”を唱えて遠くを見つめる。魔法ではないが、人間には効果のあるおまじないらしい。
そう理解している。
嘘の吐けないアスタのために親友のテアルが組んでくれた文言であるが、これが次なる混乱を招いてしまう。
「うううう…こんな小さい子供が言葉を濁すなんて……」
「お嬢ちゃん、誤魔化さなくてもいいんだよ……」
人のいい兄弟は涙を流して同情してくれる。
「えっ? えっ?」
童女は戸惑う。
おかしい。
こんなはずじゃなかった。
親友のテアルが編み出した“誤魔化しの言葉”に惑わされて、人間は話しの流れを見失うものなのに。
どうして誤魔化されないのか。
思い悩んだが、わからない。
悩みの答えはアスタの境遇にある。今、着ている水兵服とズボンは海軍からもらった。それは上等兵が着る、高品質の服で、童人向けのミニサイズは上流階級のお嬢様の遊び着に見えるのだ。そんなお嬢様がキスを見たことがないとのたまった。それは親がいないか、親に愛されていない、そんな子供に見えてしまうのだ。
人情味にあふれる、人の良い兄弟にとってそれは悲劇そのものであり、頭の中が『かわいそう』だけで埋め尽くされてしまうには十分なインパクトがあったのだ。
「よし、それなら俺が!」
お人好しのファッキネッティ兄弟の兄の方がスッと近づいて来て。
「ええっ!?」
アスタの逃げる間もあらばこそ。
ぶっちゅぅぅっ!!
童女を抱き上げて、その小さな唇にキスしたのである。
今の今まで初夏の太陽の下、ブタの丸焼きを焼いていたファッキネッティ兄は脂ぎった汗で無精髭を汚していた。
その余りに汚らわしい口づけに。
「はわぶぅっ!?」
アスタは硬直した。
ショックで頭が働かない。
おっさんの口から豚の脂と香辛料と肉の破片が移ってきた。何もかもがひどいおっさん風味で。
気持ち悪い。
不愉快だ。
吐き気を催す。
けれども、その行為には一片の悪意もない。
いや、もしも、悪意があったら捕まってなかった。でっぷり太った男が無邪気な笑顔で近づいてきて抱き上げてきたから抵抗できなかったのだ。
油断か。
不覚か。
多分、その両方だ。
そして。
「じゃあ、おじさんもキスしてあげようねぇ」
反対側から抱き上げられて。
ぶぅっちゅぅぅぅぅっ!!
お人好しのファッキネッティ兄弟の弟の方にキスされた。
兄に負けじとでっぷり太った中年男は豚の脂と香辛料にまみれたキスをかましてくれた。プルンプルン脂ぎった唇はどぅぷどぅぷの唾液にまみれていて。
「おぼどぶぉへっ!?」
アスタは情けない悲鳴を上げてのけぞる。
これは何だ。
おぞましい。
とてもつもなく不愉快だ。
口腔内に焼かれた豚肉とニンニク、迷迭香の臭いが満たされた。
そして、おっさん風味の唾液を流し込まれた。
それはわずかな量だったのかもしれないが、童女の神経を凄まじく刺激して、心がトゲトゲしく騒いだ。
「よかったなぁ。これが父の愛だよ」
屋台のおっさん兄が微笑む。
「ついでにおじちゃんの愛もプレゼントだ」
屋台のおっさん弟も笑顔を追加してくれる。
うん。
そこに悪意はない。
まさしく、無邪気。
だが、そのキスの不快感は途方もなく強烈だ。
「うぶゎぁ…」
童女はふらふらとよろめく。
紫色のロングヘアーは金属光沢が鈍って輝きを失い、全てだらり下がっている。自由に動かせたことが嘘のように力なく垂れて、先が地面に着いていた。
あまりの気持ち悪さに口をぬぐうと、腕にいくつかの粒が残る。それは無理やり押し込まれてぬめるニンニクの破片だった。
それを見た瞬間、猛烈な吐き気に襲われる。
「ば…馬鹿な…このボクがダメージを受けた…だと? ドラゴン以外から? そんな…有り得ない!!」
それは凄まじい衝撃だった。
魔族デルフィーナの暗黒魔法よりも、海軍精鋭部隊の火炎球よりも、侏儒の集団突撃よりも、百卒長にぶん殴られた鎚矛よりも、痛い、苦しい。
信じがたい事に、それらのどれよりもダメージが深い。
悪魔の軍団に取り囲まれて一斉に攻撃された時よりも不愉快だ。
肉体の損傷はない。
魔力の流れにも乱れはない。
だが、魂が、天龍アストライアーの本質そのものがうめいている。
痛くて。
苦しくて。
一体、これは何のダメージなのか。
“キス”とはこれほどまでに気持ち悪くておぞましいものなのか。
塵芥に等しい、たかが、人間にこれほどの力があったとは意外。
だが、『意外』と驚いているだけではいけない。
これは脅威だ。
孤高の八龍すらをも脅かすほどの毒なのだ。
「これは……人間を…駆除すべきか……」
ふらつきながらアスタの口から漏れ出た言葉は恐るべき意味を孕んでいた。
「えっ!?」
これにナンシーが絶句する。
只のキスだ。
気持ち悪いかもしれないが、屋台の兄弟に悪意はない。アスタをかわいそうな子供と見て同情し、経験したことのないであろう、親の愛を示してやっただけだ。
ありがた迷惑、余計なお世話とも言うが。
悪意がなかったからこそ、2人の抱擁とキスを避けられなかったのだろう。
しかし、そんなことはどうでもいい。
あのアスタが衝撃を、いや、ダメージを受けている。
暁光帝を傷つける、およそ、考えられないことだったが、今、アスタはよろめいていて紫髪も力なくうなだれている。
よほど気持ち悪かったのだろう。
それにしても。
「違う…」
思い知った。
神々なら不遜な人間に鉄槌を下す時、『人間を滅ぼす』と言う。実際、いにしえの昔、神々は自分の意に沿わない街や村、時には国をも滅ぼしてきた。やりすぎて、暁光帝の神殺しという大事件を招いたわけだが。
そういう時にしばしば聞かされた言葉がこれだ。
『神に逆らう愚か者を滅ぼす』、と。
だが、暁の女帝様は違う。
単純に『駆除する』だ。
『滅ぼす』のではなく『駆除する』。『自分に逆らう愚か者』などの非難も、理由付けもない。そんなものは不要なのだ。
不愉快だから消し去る。
只、それのみ。
人間の扱いは虫に等しい。
おそらく、孤高の八龍の全てがそういう意識なのだろう。
「そうか……」
今、ようやく理解した。
色々、扱いは酷いものの、神々は人間を見てきた。
導いたり、育んだり、滅ぼしたり、色々ちょっかいをかけては一喜一憂していた。果ては、気まぐれに罰を与えて人間を苦しませたり、気まぐれに祝福して人間を喜ばせたり。
正直、エルフとしてナンシーは神々に感心しない。人間の扱いが酷いと思うし、理不尽だと感じる。
けれども、それは神々にとって人間がなくてはならないものだということの証左でもある。
しかし、ドラゴンは違う。
総じて彼らは人間に関心がない。とりわけ、孤高の八龍は無関心だ。
でも、そのおかげで人類は生き延びて来られた。
もしも、神々の半分でもドラゴンが人間に関心を寄せていたら今頃、消滅させられていたことだろう。文字通り、“駆除”されていたはずだ。
ヒトだけでなく妖精人や小人、蜥蜴人に半魚人、侏儒や豚人、この世界の人間を全て合わせたところで孤高の八龍の一頭にすら及ばないのだから。
暁光帝が『人間はこの世界を害する』と判断すれば人類の歴史は終わるのだ。
今日、この瞬間にも。
庭の薔薇についたアブラムシを駆除するように跡形もなく消し去られる。
そして、今、アスタが強い不快感を示している。
これはまさしく危機だ。
世界の危機そのものだ。
人類が滅亡するか、それとも、まだ生き延びられるか、今がその瀬戸際である。
アスタ、すなわち、童女に人化した暁の女帝様が如何にお淑やかで、清楚で、可憐な貴婦人であっても害虫は潰すだろう。
庭の薔薇についたアブラムシは駆除されて当然。
庭の主が乙女だから見逃してもらえるなどと期待できるわけがない。
いや、むしろ、主が乙女であればこそ、庭の手入れには熱心だろう。
「あ…あぁ……」
エルフの脳裏に王城の姫君が庭の薔薇を手入れする様子が思い浮かんだ。
美しいお姫様は薔薇を慈しみ、花々を苦しめる害虫をその嫋やかな手で除いてゆく。優雅に、丁寧に。
やばい。
物凄くヤヴァイ。
庭にも薔薇にも興味のない、わんぱく王子の方がよほどマシだ。
世界に咲いた幻獣を愛でる貴婦人は人類を駆除することをためらわないだろう。
麗しい姫君が薔薇に吐息を吹きかけると茎にしがみついていたアブラムシの群れが吹き飛ぶ。薔薇は綺麗になって姫君が微笑む。
姫君の吐息は天龍アストライアーのドラゴンブレス、破滅の極光だ。
一日で大陸を往復できる暁光帝がその気になれば世界各地を巡って人類を根こそぎ消し去ることは容易い。
全ては暁の女帝様の御心に委ねられている。
どうすればいいのか。
今、ここにある世界の危機をどうにかしなければならない。
エルフの目の前で暁の女帝様は人類を駆除すべきか、考えている。
彼女が人類の駆除を決定してしまったら、もはや、止める手立てはない。
エーテル颶風や破滅の極光を喰らったら何もかも消し飛ぶのだ。
オークの大軍や獣人海賊の艦隊とは比較にならない脅威である。
どうすれば考えを変えてもらえるのか。
「よかったなぁ、お嬢ちゃん」
「これが親の愛だよぉー」
でっぷり肥えた兄弟が笑っている。
側で苦しみ、うめく紫髪の童女をよそに。
最悪の構図だ。
こいつらのせいで世界の危機が訪れているというのに何を喜んでいるのか。
デブ兄弟をぶちのめしたい衝動に駆られたが、こいつらを殴ってもエルフの溜飲が下がるだけで、肝心の童女が収まってくれない。
どうするべきか。
何をすればこの世の終わりを回避できるのか。
考える。
考える。
必死で考える。
そして。
「そうだわ……」
1つだけ思いついた。
これをやってみよう。
ナンシーはすぐさま踵を返して動き出す。
目に着いた、1つの屋台に向かって。
「んむぅ…すべての要素xについてxが人間であればxはキスをする…これは全称命題だから命題関数の真偽値は……」
アスタもまた悩んでいた。
激しい吐き気に苦しみながら。
あまりにも気色の悪いキスという行為をどう考えるべきか。
不愉快であることは間違いない。
ならば、有害であるとも言えるのだろうか。
もしも、そうであるなら、人間を駆除すべきだろう。親友の緑龍テアルや可愛らしい白龍ノヴァニクス、仲間の孤高の八龍がこんなダメージを負うことを考えると心が痛む。
そのような危険は排除すべきだ。
人間を駆除してしまえばキスという、忌まわしい行為もまたこの世から消えて失くなるだろう。
人化を解いて天龍アストライアーに戻れば、エレーウォン大陸の各地を回って人類文明を消していくのに一日もかからない。一週間もあれば惑星全土を巡り、全ての人類を駆除できるだろう。
そうやって、この世界からキスという忌まわしい行為を消し去るのだ。
それでいい。
それがいい。
そうしよう。
そうしなければ。
…と、そこまで考えてリュッダ海軍基地で戦った兵隊のことが思い出された。
「ん~…」
人類を駆除してしまうともう彼らとは戦えなくなる。
悩ましいことだ。
しかし、この苦痛は耐え難い。
肉汁まみれで太った、小汚いおっさん兄弟にかまされた、おぞましいキスが胸がむかつくような強烈な不快感を生んでいる。
魂そのものに絡みつくような、この吐き気はいつ消えてくれるのか。
収まらない。
この不快感もろとも、キスという不愉快極まりない文化を生み出した人類そのものを消し去ってやろう。
いや、だが、そうなると3人がかりでファイアボールを発動させた、あの素晴らしい角刈り3人娘も消すことになる。
もったいない。
彼女達とまた戦いたい。
今度はもっと珍しい魔法を見せてくれるだろう。それを見ずに終わらせるのは耐え難い。
それにギュディト百卒長の爆乳も忘れてはならない。自由に触らせてくれると言われたではないか。それも失うことになる。
童女が悩んでいると。
「アスタさん」
鈴の音を鳴らすような、綺麗な声に呼ばれた。
「えっ?」
振り返るとそこにはナンシーがいた。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
完全無敵のチート♀主人公、我らが暁光帝がひどい目に遭ってます。
スキル【無敵】持ちなのにダメージを受けました。
何、これ? 有り得ない〜
当惑する主人公。
迫りくる世界の終わり。
がんばれ、主人公! 何とかして世界を救うのだ!
さて、そういうわけで次回は救済編です。
お楽しみに〜




