暁光帝の冗談、まじレスで返されちゃいます。なんでよぉ!?
語りに真実と虚偽を織り交ぜて客を翻弄し、商品を売りつける、忌まわしい嘘という禁忌を操る商人。
その誘惑をはねのけて、商売のからくりを看破した、我らが暁光帝は新たなステージに進みます。
ベンチに座ってお昼ご飯です☆
肉の串焼きはどんな味がするのでしょうか。
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
さすが、遊興港区は上流階級のための場所だけあって公共区画にベンチがある。
エルフのナンシーと童女アスタは腰を下ろして、海を眺めながら肉の串焼きを食べる。
枝分かれした桟橋の辺り、遊覧艇の群れに乗る若い男達が狂ったように騒いでいて、非常にやかましい。
「ふむ…うるさいね。いやはや、なんとも」
アスタは顔をしかめる。
「ええ…まぁ…火山島のドラゴンの噂が広まりまして自暴自棄になる若者が出まして……」
アスタの嫌う“暁光帝”の名は出さずにナンシーは口ごもる。
彼らは有力者の子弟だ。
将来を嘱望される身であり、日々、そのための学問の勉強や剣の修行など研鑽に努めている。
しかし、努力が必ずしも実を結ぶとは言えず、失敗と挫折を繰り返してしまう者もいる。
そして、そのために周囲へ八つ当たりを繰り返してしまう者も。
いわゆる、ドラ息子である。
「この世の終わりだ!」
「もう何をしても無駄なんだ!」
「どうせ、みんな、死ぬ! 1人残らず!」
「どいつもこいつも暁の女帝様に殺されるんだ!」
「遠慮するこたぁねぇ! もう好き勝手しようぜぇ!」
船上から様々な怒声が聞こえてくる。
酔っ払いも大勢いて、更に荒くれる若者達は周囲にも迷惑をかけている。
「おい、ねーちゃん! こっち、来て酌しろよ!」
「ギャハハハ! 色っぺぇなぁ! 乗れよ、乗れ!」
「オレの隣が空いてるぞぉ!」
遊覧艇から桟橋の女性に声を掛けて顔をしかめられている。
女性達も裕福な市民なので警邏の兵士達が守っていて、ドラ息子達が腕を伸ばすもさすがに捕まえられるわけがない。男性達も不快感を隠そうともしない。
「ギャーハハハ! どいつもこいつもオレ達に怖がってるぜぇ!」
これだけ嫌われても若者達は黙らない。
火山島が改造され、超巨大ドラゴンの姿が確認されて以来、.若者達はずいぶん騒いだ。日々の勉強、立身出世のための交流、舐められないための演出に金子を捧げ、それら修行のために心身を削ってきた為政者の卵達は鬱憤を溜めてきた。ここに来てそれが爆発したのだろう。
騒ぎに騒いでいる。
「ん…鬱陶しい。本当にこの世を終わらせてあげようかしらん……」
つぶやく童女にエルフはひどく驚く。
「あ…ああ…しばし、ご辛抱を」
立ち上がって気合を入れる。
冗談じゃない!
ここにいるのは暁の女帝様ご本人なのだ。アスタの『この世を終わらせちゃうぞ』発言はたやすく実現されてしまう。
彼女のエーテル颶風はこの港を跡形もなく吹き飛ばすだろう。ましてや、破滅の極光など吐かれたら瓦礫街リュッダどころか、ペッリャ半島そのものが消えて失くなる。
「お任せください」
決断した。
今、ここにある世界の危機を見逃すわけには断じていかないのだ。
「Dv/Dt=−1/ρ・∇p+f」
ナンシーは超特級魔導師だ。正規の呪文を長々と唱えたりはしない。言葉に込められる言霊をまとめ上げた凝縮呪文で行く。
そして、浮遊魔法陣が発動。何もない周囲の空間に光線が現れ、複雑な図形を描いて輝く。
魔術杖で地面に魔法陣を描くようなことはしない。やはり、魔法を扱う技量が段違いだ。
これぞ、妖精人の高等魔法である。
ボゥッ!!
遊覧艇の群れが浮く辺りから目に見えない魔力場がそびえ立つ。発動させた魔法の反動を受け止める魔幹である。
「へぇ…」
童女も感心している。
『そこの愚か者どもへ警告します! 私はエルフのナンシー! ここは上流階級の遊び場ですよ! 下民を混乱させるような騒ぎは厳に慎むように!』
風魔法がナンシーの声を遊覧艇の若者達に届かせる。それは耳をつんざくような、強烈な通達だった。
「な…何だ? エルフだと?」
「駄目だ! ナンシー先生には逆らえない!」
「俺達は為政者の跡取りだぞ!」
「どうせみんな死ぬんだからいいじゃないか!」
「亜人の分際で俺達に逆らうな!」
若者達は思い思いに叫び、騒ぐ。
一部は為政者の義務を思い出しておとなしくなったが、かなりの数がエルフの言葉に反抗して事更に騒いでいる。
「有罪……」
ナンシーは心を決める。
騒ぐ者が1人もいなくなったら許すつもりだった。でも、1人でも残っていたらもう許してはやれない。
何人か、死ぬかもしれない。
仕方がない。
『暁光帝、降りる』の一報が伝えられたら何万人もの犠牲が出て国が滅びる。それこそが天下の常道。
犠牲が数百人で済むなら僥倖。
2,3人が死ぬだけなら例えようもない幸運。
建前はともかく、数百年もの間、瓦礫街リュッダに住んでいるエルフは街の有力者であり、実質的に為政者の1人なのだ。
為政者は市民の生命と財産を守る。
だから、多少の犠牲もやむを得ない。
ナンシーは覚悟を決めた。
だから、愛用の魔術杖を打ち振る。
「範囲を限定して…最大級台風放散大竜巻!!」
魔法を発動させる。
ギュゴゴゴォォォォォッ!!
4桁gdrに及ぶ膨大な魔気が魔幹へと注ぎ込まれ、“現実”と呼ばれる時空間を歪め、悲鳴を上げさせる。そこに形成された術式がその形而上学的な構造を侵し、書き換えているのだ。
その結果、そこにはなかった運動エネルギーが生じて大気を動かし、とてつもない大風を発生させる。
海軍の魔導師が3人がかりで発動させたファイアボールとは比較にならない強大な魔法を、遥かに短い時間で起こしたナンシーの技量は非常に高い。
多くの精霊魔法は炎や水の属性に代表される、本来、そこにはないものを仮初めの存在として扱う。可燃物のない虚空で炎を燃え上がらせたり、砂漠で鉄砲水を生じさせたり。そのために別途、魔力を消費するわけだが、風の精霊魔法はその手の余分な魔力の消費がない。空気は世界中のどこにでもあるからだ。
だから、単純な威力なら風の精霊魔法が最も強力だ。
エルフの膨大な魔力が桟橋の上空で炸裂。
膨大な大気の流れは海神の怒りか、海水を吸い上げて高波と化させ、遊覧艇の群れを翻弄し、上へ下へと振り回す。
「ぶわぁぁっ!? 何だ!?」
「お助けぇっ!」
「ひぃっ! 命ばかりはぁっ!」
「ナンシー先生には逆らいませんから!」
若者達は口々に叫びながら船の縁に掴まるも、幾人かが投げ出されて海に落ちる。
「うわぁっ!」
「お…溺れぅぅっ!」
「もう駄目だ! この世の終わりだぁー!」
暴れる遊覧艇と荒れ狂う大波と大風にもてあそばれて若者達は悲鳴を上げている。海に投げ出された者もいる。何人か、溺れるだろう。
かまわない。
その犠牲で世界が救われるのだから。
「たーまやー☆ かーぎやー☆」
桟橋の上空で逆巻く大風を眺めて、妖精人の魔法を楽しんだのだろう。アスタは意味不明の歓声を上げている。
「ふん。“この世の終わり”ならここにいますよ」
鼻息も荒くナンシーは断じる。
「ふぉにゅ?」
ベンチに腰掛けた、可愛らしい“世界の危機”が首を傾げている。口に肉の串焼きをくわえたまま。
「いえ、リュッダの未来を担う若者をしつけておりました」
愚かな若者達の悲鳴が心地よい。エルフは笑う。
正真正銘、本物の“世界の危機”が今、まさしく隣りに座っているのだ。
彼女を苛立たせたら即座にこの世の終わりがやってくる。
彼女を怒らせたら確実にこの世の終わりがやってくる。
そんな天変地異を抑えるべく努めた。故に正義はナンシーと共にあるのだ。
「あわてるな! 掴まれ!」
桟橋ではドラ息子達が仲間を助けようと懸命だ。思いっきり手を伸ばしたり、櫂を差し出したりしている。
「うひぃっ! 勘弁してくれぇ!」
「溺れるぅー! 死にたくないぃー!」
「おぶふっ! ぶくふぇ! お助けぇ!」
どうやら海に投げ出された荒くれ者は救助してもらえたようだ。
「ふひぃ…ふひぃ……」
「暁光帝に殺される前にナンシー先生に殺される……」
息も絶え絶え、これほどの現象を引き起こしたエルフの魔法に参っている。
桟橋を歩いていたお金持ち達はとうの昔に逃げ出していた。
ナンシーが手心を加えたからか、遊覧艇もかなり振り回されていたが、何とか、故障を免れているようだ。
「面白いなぁ…」
エルフの大魔法にも、若者達の騒ぎにも動じず、アスタは落ち着いて人々の姿を眺めている。
「ええ…まぁ……」
どうやら世界の危機は防げたようだ。そんな童女を見つめてナンシーも胸をなで下ろしている。
そこへ訪れる者達がいた。
「よぉ、こんちは!」
「さすがは超特級魔道師、妖精人のナンシーね。まさしく、歩く決戦兵器。はぁ…相変わらず、とんでもない魔力だわ」
「グギャギャ、紫陽花ノ鏡リーダー…恐ルベキ魔法ダ。信ジガタイ……」
ヒトのハンスと童人のキャロル、そして侏儒のビ・グーヒだ。彼らは冒険者パーティー“荒鷲団”のメンバーである。
現在、売り出し中の中級パーティーで、バランスの取れたメンバー構成が売りである。けっこう稼いでいるので遊興港へ遊びに来たのだ。
「ナンシーが凄いのは知ってるけど、あそこで騒いでた為政者のせがれどもをどやしつけるのに最大級の精霊魔法を使わなくてもいいんじゃないの?」
キャロルは荒鷲団のリーダーで、女だてらにパーティーを率いている。ホビットらしく小柄で身長はアスタとほぼ同じ、ヒトの女児にしか見えない。身体の強化&弱化くらいしか魔法は使えないが、物知りで交渉力があり、とっさの機転が利く。偵察したり、罠を扱ったり、敵の動きを妨害したり、パーティーの斥候役として優秀な人材だ。
今もこうしてエルフの動きを観察している。
「世界の危機が訪れそうだったからね。魔力が尽きそうよ……」
一度に大量の魔力を使いすぎたため、軽くめまいを覚えながら、ナンシーは一瞬だけ視線をアスタに向ける。そして、盛大にため息を吐いてみせる。
「あ…ああ…そぉなんだ」
その視線だけでキャロルは察する。
分別のある盗賊は危機に敏感だ。余計なことは訊かない。自身もアスタのことは気にかけていたのだから。
童女がどのような形で世界の危機をもたらすのか、それはわからないが、ナンシーの言葉は無視できない。数百年前、この瓦礫街リュッダで冒険者ギルドを興したエルフであり、彼女こそ初代ギルドマスター。冗談や虚栄心で大魔法を発動させるはずがないとわきまえる。
「まぁ、それはそれとして、あの連中は為政者の息子達だけど、あんなことして大丈夫?」
経緯はどうあれ、有力者の子弟をとっちめたのだ。彼らの不興を買うかもしれない。そうなれば息子可愛さで無茶をしてくる可能性もある。
「アスタについてはコンスタンス様に話を通してあるから問題ないわ」
あっさり答えるエルフ。
無能な夫に代わって街の政治を執り行う、領主の奥方様の名前を出した。これで若者達への叱責は童女が絡む件だと暗に示している。
為政者の子弟に風の精霊魔法をぶちかましてしまったわけだが、そんなことはどうでもいいくらいの重要案件なのだ。
実際、領主の奥方コンスタンス様はドラ息子達の抗議を受け付けないだろう。親である有力者達の話も、だ。
コンスタンス様は博物学者ビョルンから事情を説明されているはずだし、今頃、青ざめて寝込んでいるかもしれない。事態が事態であるから、自分は非常大権を任されていると思っていいだろう。
何しろ、とんでもない大事件が起きているのだから。
“世界の破壊者”、“神殺しの怪物”などの悪名に事欠かない、百万の大軍を一瞬で殲滅させる超巨大ドラゴンが可愛らしい童女に変化して地上を闊歩しているのだ。
これほどの重大事案は他にあるわけがない。
たとえ、『ついに魔王が世界征服を始めた』と言われても、これには及ばぬ。ここに暁光帝がいると知れれば魔王も絶叫して逃げ出すのだから。かつて、往古の神魔大戦で2代目の魔王が暁の女帝様に踏み潰されて、果てて、世界中に無様を晒した。3代目より下は暁光帝の恐怖をその魂に刻み込まれている。
アスタの件は国家の危機、いや、まさしく世界がおののく脅威。コンスタンス様どころか、国王陛下でさえ土下座して頼むレベルの大事件である。
何しろ、気まぐれに童女が人化を解くだけでリュッダの街が破滅するのだ。
たとえ何もしなくても、寝転んだだけでも暁光帝の超巨体は街を押し潰す。それは龍戒に謳われるままに実現するだろう。『立つと死ぬ』、『座ると死ぬ』、『歩くと死ぬ』に続く『寝ていても死ぬ』は嘘でも大げさでもなく歴史の真実なのだ。
ただならぬ、その様子に。
「なるほど、理解したわ」
キャロルは押し黙る。
冒険者ギルドの初代ギルドマスターの言葉だ。懸念の中身まではわからないまでも、重大な事件だと理解した。その重みはずっしり胸に来る。
「こんな子供がねぇ……」
つぶやきつつ、ハンスがこぼす。中肉中背の中級遊撃士だ。剣も魔法もそこそこ使える、冒険者パーティーの“何でも屋”である。取り立てて優れた技術があるわけではないが、前衛にも後衛にも回れて、とっさの代役ができる。ハンスは酒癖の悪い愚か者だが、戦況の変化に対応して様々な役割を器用にこなす男でもある。
アスタの正体まではつかめないものの、キャロルの様子から只者ではないと考えている。
「ギャギャ、ソノ子供、強イ。物凄ク強イ」
独特のしゃがれ声でハンスを注意するビ・グーヒである。背丈はアスタよりも小さく、薄緑色の肌と口にズラリ並んだ犬歯が特徴だ。彼女は荒鷲団で唯一の上級魔導師で、ゴブリンらしからぬ賢さを誇る才媛である。
「そういや、そうだったなぁ…剣呑、剣呑」
昨夜、酔っ払って童女を殴ってしまったことを思い出してハンスは青ざめる。危うく殺人犯になるところをアスタの頑丈さに救われたのだ。
人食いオオカミだって殴り殺せるパンチを喰らっても無傷。やたら丈夫な童女に感謝せねばならない。
そして、バカはバカなりに童女のヤバさを感じ、改めてしっかりと見つめる。
「えっ!?」
息を呑んだ。
「ん?」
驚いてこわばったハンスに気づいて童女は顔を上げる。大きな虹色の瞳が頭の悪いヒト族の大人を見つめ、金属光沢にきらめく紫色のロングヘアーが重力に逆らって浮き上がる。
得も言われぬ美貌。
思わず絶句するほどの可愛らしさ。
だが、ハンスはその可憐な容姿に背筋が凍るような戦慄を覚えたのだ。
童女は肉の串焼きを食べている。ウシガエルの肉を香草と挟んで焼いたもので、味は鶏肉に近く、脂がほぼないのでさっぱりして美味しい。上流階級の人間は本物の鶏肉を食べることが多いけれども、この国ではポピュラーな食べ物だ。
異常なのはその食べ方だった。
アスタは串焼きをそのまま口に突っ込んで齧っていたのだ。
木串ごと。
かなり硬いはずだがものともせず。
スープを飲むのとはわけが違い、ものを齧れば唇がめくれ上がる。可愛らしい口から覗く牙。およそ、ヒト族には有り得ない、白く透き通った、鋭く尖った牙である。
「……」
思わず、ハンスは隣りにいるビ・グーヒと見比べてしまう。
醜い侏儒だが、見慣れてしまったので不快感は感じない。それどころか、親近感が湧きすぎてシワだらけの顔が可愛くすら見える。
その口に並んだ犬歯は小さく白い。隙間だらけで、子犬のようだ。
アスタの牙とビ・グーヒの犬歯は似ているようで全然違う。
童女の方が異質で、遥かに力強く、頑丈で、鋭い。肉を引き裂き、骨を噛み砕く、獰猛な肉食獣のようだ。
バリ、バリバリ、バリ
串ごと肉の串焼きを咀嚼する音が響く。
アスタの牙はウシガエルの肉も香草も木材の串も関係なく、バラバラに噛み砕いてしまう。
ヒトならぬ身の、アスタの口に唾液は分泌しないので食感がパサパサしてしまうが、そもそも、物を食べた経験があまりないので気にもせず。
噛み砕いたウシガエルの肉と木材と香草を一緒に味わっている。
「美味しいね☆」
この上なく、童女は上機嫌だ。
人化する前はほとんど食餌と縁がなかった。海水くらいしか口にしていない。固形物はたまに岩石を齧るくらいだ。
だから、こうして肉や野菜を食べるのは新鮮な感覚だった。
実に楽しい。
最高に美味しい。
口の中を肉と香草が串の破片と一緒に混ぜられる。もっとも、それがアスタの柔らかな口腔を傷つけることはない。剣だろうと槍だろうと暁光帝の肉体を傷つけられるわけがないのだから。
ゴクリ
すべて粉々に砕いて飲み込んだ。
「うん♪」
満足である。
すぐ次に齧りつこうとすると。
「あ、その…えーっと…串は抜いた方がいいんじゃないか」
ハンスが眉をひそめながら、食べ方を教える。
「そぉ? そういうものかな」
首を傾げる童女。
串ごと齧るか、串を抜いて食べるか、しばらく考えて。
「面白いね」
料理から串を抜いて食べ始める。
「ん…これは! 美味しい☆」
肉と香草の味だけを純粋に楽しめる。
「なるほど、こういう食べ方もあるんだねー」
ますます上機嫌だ。
「あ…ああ…よかったな……」
ハンスは唖然とする。
たいがい、串焼きなどの料理の食べ方は親に教わるものではないのか。親なしだとしても、親戚なり、友人なりが教えるものだろうに。
そして、さらなる光景にまたしても絶句する。
「ありがとう」
礼を言って、アスタが残った串を口に放り込んだのだ。肉の付いてない、木材を削っただけの木串を。
バリバリ
まったく気にする様子もなく、噛み砕く。
白く透き通った、鋭い牙が串をたやすくバラバラの木片に変えてしまう。
ゴクリ
飲み込んだ。
「うむ。これは木だ! 木の味だ!」
興奮してうなずく。
素晴らしい。
これが人間の料理か。何と奥の深いものだろうか。
只の肉なのに加熱して蛋白質を変性させ、塩化ナトリウムを加えて塩味を付けている。その上、香草と一緒に串に刺して香りと味を整えている。
木串はわずかにウシガエルの味が染み込み、香草の香りもする、おそらくは松の木の味である。
何とも言えない、複雑な風味。この味わいは格別だ。
『世界を横から観る』という遊びを教えてくれた親友のテアルに改めて感謝する。
「「「!?」」」
これには荒鷲団の3人が3人とも言葉を失う。
「あちゃー!」
頭を抱えたくなったナンシーだったが、とっさに頭を切り替えて。
「うちの娘はとても頑丈なんですよ」
3人を煙に巻く方向へ転換する。
すると。
「そ…そうでしたか……」
含むところはあろうが、呑み込んだキャロルである。
「うぅむ…凄ぇな!」
「ギュググ…輝ク紫ノ髪ト透キ通ッタ牙ハ伊達デナイトイウコトカ」
ハンスとビ・グーヒ、こちらは素直に感心した。
妖精人、闇妖精人、小人、童人、巨人、獣人…数多の人種が暮らすこの世界だ。中には外骨格に覆われり、鱗が生えていたり、とても人間とは思えない者もいる。そんな蟻甲人や半魚人もいる荒鷲団だからこのくらいの差異は受け止められるのだ。
「うちは人材豊富ですからね」
しめしめ、うまく誤魔化せたと舌を出すナンシー。嘘は言っていない。紫陽花の鏡は超特級の冒険者パーティーであり、メンバーは実力者ぞろいなのだ。
その6人目がアスタである。
優秀すぎる人材で涙が出そうだ。
「ふんふ♪ ふんふ♪ ふ〜ん♪」
当の童女は気にもせず、屋台に目を向けている。驚異的な視力を誇る虹色の瞳はこの距離からでも商品が見えるのだ。
嘘を自由自在に操る、恐ろしい商人はナンシーが対応してくれる。
つまり、自分は商人に関わることなく、何でも好きなものを買えるわけだ。
次は何を食べようか。
人化した超巨大ドラゴンは小さな胸を高鳴らせていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
暁光帝、ようやく肉の串焼きを食べられました。
そして、ナンシーはドラ息子の集団をぶちのめしました。
さて、次回はようやく百合♀×♀展開☆
ついに乙女と乙女の恋が花開く♪
お楽しみに〜




