暁光帝、闇の勢力に気づく。警戒せよ! ついに奴らが動き出したのだ!
リュッダ海軍の精鋭部隊をぶちのめした暁光帝、可愛い童女アスタに人化して絶好調です。
もう怖いものはありません。
海軍基地を後にし、エルフのナンシーに連れられて桟橋を歩きます。
すると、何やら怪しい視線が……
豊満なエルフ美女とドラゴンが人化した童女アスタの、新たな冒険が始まります。
お楽しみ下さい。
妖精人のナンシーと童女アスタ、2人は第2演習場を後にして桟橋を歩いていた。
左右の海原が陽光にキラキラ輝き、初夏の日差しと合わせてまぶしい。
海鳥の鳴き声、波の音、潮騒が耳をくすぐる。
木製の桟橋だが、海軍基地の島々と港を結ぶものだから頑丈で広い。おそらく、兵隊の集団が全力で駆けても問題ないのだろう。
右手の遠くにリュッダ港の埠頭が見える。
「水平線をこんなに低く見たのは初めてだよ」
感慨深げに言う。
ナンシーがジョルダーノ司令官に言いつけて、童人用の水兵服を提供させていた。水兵らしく下はズボンだが、アスタが着ると可愛らしい。
相変わらず、靴は履いていない、裸足である。
「そうですか」
疑問とも確認とも受け取れる言葉を返すエルフ。『そうなんですね』と肯定したり『まさか』と否定したりしなかった自分を褒めてやりたい。
別に瓦礫街リュッダでなくてもこの辺で暮らしている人間にとって海はありきたりのものだ。それを『こんなに低く見たのは初めて』などというのは有り得ない。
この発言は『自分は人間じゃございません』と白状したようなものだ。
暁光帝の特徴は何と言ってもその大きさだ。地上に降りても雲衝く超巨体の視点は高い。比喩でなく、超巨大ドラゴンが身体を起こすと頭が綿雲を衝くのである。
仮に暁の女帝様が御身を地に這わせようとも、視点は教会の尖塔よりも高くなってしまう。それはしゃがもうが、寝転ぼうが、人間が蟻の視点でものを見られないように。
しかも、ふだんは雲の上を亜音速で飛んでいるのだ。
だから、港に立つ童女が人間の低い視点に感じ入るのもわかる。
わかるけれども自重して欲しい。
破滅しかもたらさない超巨大ドラゴンが可愛らしい童女に変化して地上を闊歩しているなんて知れたら大騒ぎになる。
何としてでも秘密にしておかねばならないとナンシーは決意を新たにするのだった。
「う〜ん…何か、ちょっと寂しくない?」
童女は首をかしげる。心なしか、3日前よりも人通りが少ない気がする。天龍アストライアーとして彼方の空から汎観念動力で“視た”リュッダ港は船も人間ももう少し活発だったような。
「あー…火山島のドラゴンが噂になって以来、商人も漁師も慎重になっていますからね」
アスタが嫌っているので“暁光帝”の名は控え、エルフは手堅く現状分析を話すにとどめる。
火山島で確認された超巨大ドラゴン暁光帝の六翼と笑い声であるが、やはり、影響は少なくない。臆病な者は早くも避難の構えを見せているし、実際に大騒ぎして街から逃げ出した者もいる。
だが、多くはまだ様子見だ。
情報の確度を疑っている者もいる。『冒険者達が見た者は本当に暁の女帝様だったのか?』、と。
多くの者は単に判断を下せていないだけだ。
火山島の住民や島から逃げ出してきた冒険者達は恐るべき『暁光帝、降りる』の一報を伝えたが、その話は多くの人々から違和感をもって迎えられた。
誰も死んでないから。
島も消し飛んでいないから。
リュッダの街が滅びていないから。
あの暁光帝が地上に降りたら家々も市壁も踏み砕かれて地形が変わり、住民が死に絶えて国が滅ぶ。それが天下の常道である。
未だ、暁の女帝という天変地異による大災害が起きていないではないか。
なるほど、火山島は変形させられた。
だが、それは全てよい方向に変えられており、島民は新たな運河と豊かな飲料水、それに噴火の停止に喜んでいる。
火山島の山神が殺されたという話も流れてはいるが、お告げが下りなくなっただけで事態は単純に山神の行方不明とも受け取れる。
しかも、もともと口うるさい山神に閉口していた島民達からは好意的に受け止められている。
暁の女帝様が人間の喜ぶようなことをするわけがない。島民が火山島の改造を喜んでいるのなら、それは暁光帝の御業ではないのだろう。
何より、肝心の超巨大ドラゴンの姿が見えないではないか。
恐るべき『暁光帝、下りる』の一報が本当なら暁の女帝様は地上を闊歩して、それを見た全ての人間に恐怖と絶望を味わわせ、狂気の渦に追い落とす。
大災害が起きていない、暁光帝も姿を見せないと言うことはやはり報せ自体が誤りという可能性がある。
『火山島から逃げて来た冒険者はいもしない影を見て臆病風に吹かれたのだ』、そんな話も流れ始めた。
人間は真実よりも夢を好む。
不快な現実を知るよりも心地よい理想を信じたがるものだ。
恐怖の報せは瓦礫街の住人を震え上がらせたが、現在は皆、様子見の状態にある。
今後、恐るべき超巨大ドラゴンが姿を見せるか、領主から警告が出されなければ多くの住民は凶報を忘れてふだん通りの日常に戻るだろう。
すでに人々はその準備に入っている。
それは領主夫人や博物学者ビョルン、そして、エルフのナンシーら、賢明な人々による努力が密かに実を結んだ結果なのだが。
その行いは秘密の奉仕であり。
街の人々が知ることはない。
幸いなことだ。
そして、ここにいる可愛らしい童女アスタ、暁の女帝様ご本人も知ることはない。
もっと幸いなことだ。
ホッと一息吐くエルフである。
ところが。
「ふぅん…そういうものなんだ。さっきからボクを監視する奴がいてね、不思議に思ってたんだよ」
童女から突然の爆弾発言が飛び出す。
「どうしてわざわざ遠くから光魔法でボクを観察してるんだろうって。好奇心が旺盛な住民なのかな」
紫色のロングヘアーがキラキラ輝きながら童女の周囲を踊っている。何とも楽しげだ。
しかし、この一報にはさしものナンシーも目を見開く。
「ええっ! 跡をつけられていたんですですかっ!?」
怪しい事態にしばらく沈思黙考する。
何者かが自分達を監視していることは間違いない。アスタは絶対に嘘を吐かないのだから。
民衆は日常を望む。火山島に現れた暁光帝のことを忘れたい。噂は嘘だったと思いたい。
それはいい。
民衆は上昇志向に欠け、立身出世を望まなず、社会の情勢にもあまり頓着しない。その代わり、のんびり生きる権利を持つ。
それでいい。
それが民衆だ。
支配される者らだ。
だが、為政者は違う。
甘い夢にうつつを抜かしているわけにはいかない。
現実を、火山島に現れた暁の女帝を忘れるわけにはいかない。
為政者は今、この瞬間にも暴れだしかねない天変地異そのもの、暁光帝について考え込み、胃痛に苦しんでいるはずだ。
贅を尽くした生活、数々の特権、かしずく配下の集団と引き換えに政治を担う義務を負う。その地位を狙う者は多く、油断して足をすくわれれば信用が失墜することもある。そうなれば地位も名誉も失う。だから、日々を緊張して過ごさねばならず、のんびり生きることはできない。
それが為政者だ。
支配する者だ。
この瓦礫街リュッダなら領主の奥方様コンスタンスと執政の老人と博物学者ビョルンだろう。おまけでギュディト百卒長くらいか。
けれども、この街の為政者がアスタを監視するわけがない。
童女を監視&護衛する自分、ナンシーがすぐ側いるのだから。
情報が欲しければナンシーに聞けばいい。
もちろん、有力者の中には領主の奥方様やナンシーを快く思わない輩もいる。そういう連中が情報を欲しがってもナンシーは助けない。けれども、得てして彼らはヒト至上主義者であるものだ。亜人を軽んじる連中が金属光沢に輝く紫髪の童女に関心を持つ可能性は低い。
遠距離から光魔法を用いてアスタを監視する者、それはこの街の人間ではないだろう。
外国の勢力に違いない。
「それは好奇心の旺盛な住民ではありません。列強が目をつけたのか…帝国か、連合か…いいえ、豚人や魔界の可能性も……」
パッと思いついた外の勢力を列挙する。
ヴェズ朝オルジア帝国、ポイニクス連合、オーク諸侯の国、暗黒教団を擁するゲロマリス魔界などの強国だ。
いずれも人材と武力が豊富で、したたかな連中である。
一体、どこの何者だろうか。
思い悩んでいると。
「今も観ているね。背が低くて、でっぷり太っていて、髪はボサボサで不潔。目は小さく落ち窪んでいて…貧相な顔つきだよ。無精髭の様子から見てヒト族の雄…男だと思う」
アスタが遥か彼方、軍港区を越えた港の1点を眺めながら話し出す。
「えっ、そいつは遠くから監視しているんでしょう? どうしてわかるんです?」
ナンシーは周囲を見渡すが、変わったものは見当たらない。
光魔法で監視するなら、空中に設定した魔力場で光を屈折させたり反射させたりしているはずだが、その大きさは銅貨1枚ほどでほぼ透明。込められた魔力も小さいので肉眼で見つけるのは不可能だ。
「光路をたどって元を見つけたんだよ」
こともなげに言い、童女が空中の1点を指差す。
「はぁ…光路ですか……」
言われてエルフも見つめるが、そこには何も見えない。
けれども、童女は。
「あー行って、こー行って…まっすぐ進むと……」
そこから指で空をたどりながら、まったくためらうことなく港の1点に向ける。
指し示す先は遠く、かろうじて人々が動いていることがわかるくらいだ。
「はぁ…さすが、アスタさんですねぇ」
またしてもナンシーの口からため息が漏れてしまう。
何たる視力か。相変わらず、アスタの能力は常識の埒外にある。虹色の瞳で光魔法の魔力場レンズを発見した上、空中を走る光の路をたどったのだろう。そして、遥か彼方の港から自分を監視する犯人を見つけ出したのだ。
ヒトよりも優れた視力を持つエルフでも犯人がいるであろう辺りは遠すぎて見えない。目を凝らせば、何とか人間が行き交う様子はわかるものの、どれも砂粒ほどの大きさだ。
ところが、アスタの虹色の瞳はその距離からでも怪人物の容姿がわかるらしい。
全くもって信じがたい視力である。
「ああ、驚いている…ボクが見ていることがわかったんだね。腰を抜かしている。後ずさってるけどりんご箱にぶつかった。また、びっくり仰天! 愉快、愉快☆」
キャラキャラ笑いながら、犯人の様子を語る。これほどの距離であっても童女の虹色の瞳には見えているようだ。
完璧に視界に捉えているのなら。
「そいつを捕まえられますか?」
提案してみた。
魔法でアスタを監視する、外国のスパイを逮捕できるかもしれない。
ナンシーは目を凝らすも、砂粒ほどにしか見えない人間の群れの中に怪しい奴を見つけることは出来なかった。
「急ぐと桟橋を壊しちゃうから海上を走るけどいいかな?」
童女はチラリ海面に目をやってから尋ねて来た。
大型の三段櫂船1隻に乗る兵隊を運ぶ頑丈な橋だが、アスタが本気で走れば砕けてしまうのだろう。それを避けるために泳ぐ…わけではなく海を走って渡ることになるのだが、いいかという意味のようだ。
「あっ、そうですか。水面、走れちゃいますか。えーっと…バレますよ。もんす…いえ、田舎者だと」
海面を走れる田舎者はいねぇ。
そんなことが出来るのは幻獣だけだ。
だが、非常識なことをして周囲に騒がれても困る。
金属光沢に輝く紫のロングヘアーをなびかせて海面を全力疾走する童女を思い描いて、エルフは軽い頭痛を覚える。
今なら『魔法』の一言で取り繕えるか。
いや、たぶん、無理。
半魚人だって海面を走れやしない。
ましてや、ヒトの子供がやったら間違いなく噂になって目立つ。
暁光帝は目立つことに慣れているからアスタは気にしないだろうが、それで妙な事に興味を持たれてはナンシーが困る。
「そっかー…そうだね。バレるのは困るね。厄介だね」
この時点でまだ『田舎者だと思われたくない』というごまかしが通じると思っている、そんな幻獣の童女。恐るべき超巨大ドラゴンがしっかり騙されている。
この純真さが怖い。
すぐに騙されそうだ。
誰かに『街を破滅の極光で吹き飛ばしたら面白くなりますよ』とか言われて実行しないだろうか。
そんな虞だってないとは言えないのだ。
「ああ、逃げ出したよ。這う這うの体で…まぁ、いいや。瞳の形を憶えたから次に現れたら簡単に見つけられる」
こともなげに言うアスタ。
“瞳の形”とは虹彩の複雑な模様か。光魔法を逆手に取って光路をたどり、スパイの瞳を観察し、それを憶えたのだ。虹色の瞳の驚異的な視力で。
相変わらず、人間離れした能力だと思ったが、それこそアスタなのだ。今更である。
「そいつの肌の色は如何で?」
「白かったよ。目は薄い青。ボサボサの栗毛で不潔な感じ。とにかくデブ。凄くデブ」
よほど印象的だったのか、童女が犯人の肥満を連呼する。
「そうですか…」
スパイの姿は聞く限り、ふつうの白色人種のように思える。ナンシーは首をひねった。オルジア帝国やポイニクス連合の主要民族は褐色の肌を持つ。白い肌はむしろこの瓦礫街リュッダに多い。
ならば、たまたま、このリュッダの住人が紫髪のアスタに興味を持って観察していたのか。
わざわざ、遠くから光魔法まで駆使しして。
それはないだろう。
光魔法の使い手は稀少で昼間からのぞき見するほど暇ではない。仕事でなければ疲れる遠距離からの監視などしないだろう。
ほぼ、間違いなく何者かに雇われたスパイだ。
そういう意味では列強だろうが、白人となると帝国や連合の可能性が薄まる。
残るのは。
「ゲロマリス魔界の魔族かしら…」
暗黒教団のエリートだろう。暗黒神に気に入られ、強い魔力を得た人外の存在。元は人間だが、肌が黒くなり、高位の魔族にもなれば角や尾が生える。強力な魔法を操り、最上位の魔族は翼を得て空を飛ぶ。
光明教団を敵視し、その勢いが強い、このリュッダの街を狙っている。
まさしく脅威である。
本当に、そんな輩がアスタを監視しているのだろうか。
「えーっと…そもそもどうしてスパイが来るのかしら……」
エルフは思い悩む。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
だいぶ間が空いてしまいましたね。
小生が毒ゼリを喰らって死にかけていたからです〜
いや、マジで死ぬかと思いました。
田舎の山菜採り名人、怖ぇ!
もう免許制にして! 医師免許並みに厳しくして!
4月6日に春の七草、セリのおひたしと思って食べた中に毒ゼリが混じっていました。
死ぬ! 死ねる! めっちゃ死ねる!
6日の夜に発症してトイレに駆け込み…翌日7日まで27時間、一睡も出来ず。
「いー」「いー」とうめくだけ。
ショッカーの戦闘員かよwww
楽しいことも、面白いことも考えられず、ひたすら『(A⇒B)⇔(¬A∨B)』の証明図を考えていました。
なぜ?
何か、苦しくて苦しくてそれくらいしか考えられなかったのです。
ちなみに『(¬A∨B)⇒(A⇒B)』は証明できましたが『(A⇒B)⇒(¬A∨B)』は証明できませんでした(ToT)
さて、新章に突入です。
毒ゼリを喰らう前から考えていたのですが、さすがにそろそろ目次の左上「この作品には 〔ガールズラブ要素〕 が含まれています。」の警告がヤベェと(汗)
小生、こちらの皆様の作品も楽しませていただいているんですが、この手の警告なくても美少女と美少女が♀×♀キスとか、あるんですね〜
いや、嬉しいけどwwww
でも、そうなるとこの手の警告あるのに♀×♀キスシーンないのはヤバくね?
友人が描いている新作もしっかり♀×♀展開ですぉ☆
羨ましい。
いや、暁光帝が恋愛能力ないんでそういう展開にならないんですがwww
連載を開始する前に書き上げておいたプロットにもないんです。
いずれ、一通り、物語が一段落したらメインヒロイン♀が登場して暁光帝♀が初めて自分の気持に気づく…みたいな展開を考えていましたww
遅ぇ!
だめじゃんwww
そういうわけで、無理やり♀×♀展開をねじ込むことにしました。
当初のプロットどおりだと新たなバトル展開になるはずだったんですけどね〜
海軍基地で戦ってマリーナでも戦う…
バトル展開が続くのも何だかなぁ…という違和感もありまして。
そういうわけで『暁光帝も木の芽時? 百合♀×♀恋愛が花開く!』と銘打ってキャンペーン開始です(^o^)
さて、そういうわけでまずは人間の生活を見物することになりました。
お楽しみに〜




