暁光帝vs人間、決着! ヒト軍の最強ファイアボールがドラゴンに襲いかかる! 勝つのはどっちだ!?
***作者から一言ご注意をば***
前の一章をまるまるすっ飛ばして投稿してしまいました(>_<)
こちらは『暁光帝、苛立つ。ドラゴンを悩ませる人間! 細工は流々。仕上げを御覧じろ☆』の話の後になります。
***以上、よろしくおねがいします***
人間は言葉巧みに暁光帝をだまくらかして何とか炎の上級精霊魔法を準備した!
魔力を練りに練り上げた魔法が、巨大な大火球がドラゴンに襲いかかる!
魔法が使えない、敵に触れていいのは小指一本のみという、非常に不利な条件下で暁光帝はどう立ち向かうのか!?
意外な展開! 意外なラスボス!
勝負のクライマックスを見逃すな!
お楽しみ下さい。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
魔法の準備が整った。致命的な威力を発揮する、上級魔法の準備が。
「今まで…さんざん、よくも好き放題に暴れてくれましたわね」
水兵服にズボンという出で立ち、およそ魔導師らしくない、角刈りの女性が声を張り上げた。丁寧な口調も外見に似合わない。
しかし、りんとしたたたずまいと気合の入った口調はアスタにも届く。
「…」
童女は返事をしない。只、待っている。期待を込めて。
「最大火力の上級魔法で貴女をぶちのめします」
3人娘のうち、中央に立った女性が宣言する。
大きな魔法陣の背後に下がって、それを囲むように並んでいる。
左右の2人は視線を揺らさずにまっすぐ童女を見つめている。
大音声で呼ばわるその姿に圧倒されて、チンピラ兵士も口をつぐんだ。
「ファビオ、開けて!」
女性が命じると。
「おぅ!」
チンピラ兵士は素直に従い、魔法陣の前から退いて、射線を開ける。3人娘の側に下がった。女性蔑視で亜人蔑視の差別野郎だが、戦友は別らしい。仲間の女魔法使いや巨人の十人隊長には素直に従っている。
「ぶちかましてやれ!」
ようやくやり返せると機嫌良く励ましている。
「「「…」」」
3人娘は無言で地面の巨大魔法陣に魔力を注ぎ込んだ。
描かれたばかり魔法陣はそれぞれの描線に魔気が流れて作動する。それは3人娘、それぞれの魔力が互いに邪魔することなく、1つの“色”を成している。合わさって単一の魔力場を生じて、そこから魔法を発動させ、その反動を受け止める魔幹を形成した。
「ええっ、魔気の色が濁らない! 異なる魔源から供給される魔力が不整合を起こさないなんて!?」
アスタは完全に目を奪われている。
ニヤリ
角刈りの女達が笑う。
企てが上手く行った。
地味な兵士と十人隊長、3人の護衛のうち、2人までが倒されて心もとない状況だった。残ったチンピラ兵士のファビオだけでは到底、童女を抑えきれまい。
地面に描いた魔法陣など、足で踏むだけで乱されて使い物にならなくなる。弱卒であるファビオの守りを突破されて、魔導師3人組は一撃でやられてしまうだろう。
非常に危うい状況だった。
だから、挑発した。
およそ挑発にもならないような、挑発だったが、あの童女には効いた。好奇心が強そうな子供だったので、今から強力な魔法を発動させるぞと宣言したのだ。
そうしたら、予想通り、食いついてくれた。
今まさに発動せんとする魔法に、その目は釘付けだ。
アスタは動かない。
動けない。
今だ!
「「「ファイアボール!」」」
3人が声をそろえて叫んだ。
魔力場が現実を歪め、無から有を生む。馬車をまるごと飲み込むほどの巨大な炎だ。それは可燃物のない、空中に突然現れた電離気体。魔力が生み出した、偽りの炎だが、その熱量は本物であり、人体など余裕で焼き尽くす。
それは発生と同時に、高速で発射されて童女に向かって突き進む。
精霊魔法が魔幹に生じた業火は強烈な熱と光で大気を圧して、魔法陣の回りにいた4人ですら目をつむり、ひるんだ。
「あぁぁ……」
アスタが目を丸くして驚く。
避ける間もあらばこそ、恐るべき火炎の球体は童女を包み込んだ。
たちまち、その身体を焼き焦がす。
ボォッ!!
強烈な光と熱で正視できない。
少し離れたところにいた、リュッダ海軍の幹部3人とナンシーでさえ、目をつむった。
地獄の業火は燃え続ける。
包み込んだ童女を焼き尽くさんと燃え盛る。
しかし、それは偽りの炎。注ぎ込まれた魔力が尽きるに連れて、現実には存在し得ない魔法の炎は勢いを衰えさせて。
やがて、燃え尽き、消滅した。
真っ先に目を開けたのは弱卒のチンピラ兵士だった。
「やったか!?」
ファビオは高熱と眩しい光が失せた場所を凝視する。
だが、しかし、そこには何もない。
黒く焼け焦げた地面が広がるばかりである。
「エクセレント!」
パチパチパチ!!
背後から拍手と嬉しそうな声が聞こえて。
「何だと!?」
チンピラ兵士ファビオが振り返ると。
「エックセレンッ!!」
アスタが手を叩いて喜んでいた。
全裸で。
さすがに上品なワンピースと下着は燃え尽きていたので、一糸まとわぬ全裸である。しかも、美しい。その真っ白な素肌には焦げ跡1つついていない。
その周りには3人の角刈り女性達が倒れていた。
「げぇっ! いつの間に!?」
ファビオは驚いて飛び退る。
「エックセレンッ!! 足りない魔力を補った! 異なる3つの魔力を同調させて不整合を起こすことなく魔法陣へ流し込むことで! それがキミ達、非力な定命の者が編み出した秘術か!」
手と紫の髪を広げて称賛している。
「「「……」」」
アスタの攻撃で倒された角刈りの女性達は何も喋れない。他の兵士達のように身体が痺れて動けないが、彼らと違って呼吸困難に陥っているわけではない。意識もはっきりしていて、童女の話は聞こえている。
この辺はアスタの配慮である。
意識を失っていたり、苦痛にあえいでいたら、この天龍アストライアーの称賛を受けられないではないか。
それは世界の損失である。
だから、痺れさせるに止めた。倒れる瞬間も頭を頭を打たないよう、地面に落ちる前に受け止めてやった。
「誇りたまえ。このボクを驚嘆させた技なのだから」
気色満面、上機嫌で手を叩いている。
社会性の乏しい幻獣は助け合うことを知らない。とりわけ、孤高の八龍は二つ名の通り、孤独なので助け合いとは縁がない。
ここにいるアスタ、“暁光帝”こと天龍アストライアーも魔法はすべて自分1頭で発動させて来た。ほぼ無限の魔力があるからだ。
そもそも、他の幻獣に力を借りるという発想がない。
だから、魔力の足りない、か弱い、角刈りの女魔導師3人組が放ったファイアボールには度肝を抜かれた。
一人一人では足りない魔気を3人が協力することで補い、彼女達は魔法を発動させた。
こんな技術は考えたこともなかった。
これは“人間の集団魔法”と名付けよう。きちんと研究し、論文に仕立て上げて発表せねばならない。
素晴らしい。
感動した。
『世界を横から観る』という遊びはこれほどまでに面白いのか、と。
紹介してくれた、親友の緑龍テアルにはどれだけ感謝しても感謝しきれない。
ほんの数日前まで塵芥に等しいと思っていた人間がこれほどまでに面白いとは。
驚嘆し、感動した。
ワンピースや下着が炎に焼き尽くされる間、立ちすくむくらいに。
だが、感動に打ち震えているうちに気づいたのである。自分は盛大に燃やされていて、今が戦闘中だと。
そこで余韻に浸る暇もなく、四足に戻って燃えさかる炎の中を走り抜け、角刈りの女性らに近づいてまたしても小指で急所を突いたわけだ。ちなみにそれは前三枚ではないので、呼吸困難のような苦痛の症状は出ないし、意識もはっきりしている。
「「「……」」」
女性達は目だけ動かして応える。
『どういたしまして』、と。
いや、本当は色々言いたかった。『よくもやってくれたわね』とか、『何でファイアボール喰らって生きてるのよ?』とか、『まぁ、子供を殺さずに済んでよかったわ』とか。けれども、喋れないし、動けないので称賛を受け入れるだけにとどめたのだ。
「テ、テメェ、裸で恥ずかしくねぇのか?」
精鋭部隊、最後の1人、チンピラ兵士が目を覆ってがなり立てる。
意外と紳士的なのか。否、品位にうるさいだけだ。これが男の子であればとやかく言わない。子供であっても女性が全裸でいることは軍隊の品位を下げる。
このファビオ、チンピラ兵士だが軍人としての誇りがある。このような、品位に欠ける行為を放置する軍隊が許せないのである。
自分はチンピラなのに。
しかし。
「うん、裸ン坊だね」
やはり、アスタは上機嫌で応える。腰に手を当ててふんぞり返り、紫の髪を楽しげに踊らせている。
こちらはこちらでそもそも服を着る習慣のない暁光帝だ。むしろ、魔法“人化の術”で発現させたワンピースと下着がファイアボールの炎で見事に燃え尽きたことが誇らしい。
そして、思い出した。
「そうだ。キミは…最後に、特別に、念入りに、ぶちのめすんだったね」
そういう約束だった。
いや、約束ではないが。
そういう話だったのだ。
角刈り3人娘の“人間の集団魔法”が素晴らしすぎて、危うく忘れるところだった。
そこで。
「…」
ちょっと困った顔をする。
幾ら、得意の魔法とは言え、この天龍アストライアーがここまで心を奪われるとは。
この勝負、もう角刈り3人娘の勝ちでいいような気がしてきた。
だが、まだ、目の前のチンピラ兵士ファビオが残っている。
自分がわざわざ軍事教練の相手を務めてあげようと言ったのにも関わらず、理不尽に罵って来たこのバカ者を制裁せねばならぬ。
それを含めての軍事教練であろう。
「じゃあ…」
ゆっくりとチンピラ兵士の方へ近づく。
すると、チンピラ兵士の方も気を取り直したらしく。
童女の裸を責めるのを止めて。
「亜人の! 女の! 素っ裸の! ガキめ! よくもみんなをやってくれたな! こうなったら、男の俺様がテメェに“服従”って言葉の意味を教えてやるぜ!」
罵声に“裸”も追加して怒鳴る。
更に大盾をしっかり引き寄せて腹を守った。両手で。
段平は地面に放り出している。
「ほほぉ……」
スッと目を細め、アスタは感心する。
このファビオ、口だけの男ではないようだ。どうやら、童女の奇怪な技を見破ったらしい。
「テメェの技はアレだろ? “急所”って奴を狙ってるんだろ? なら、こうやって腹を守ればどうすることもできねぇ!」
チンピラ兵士が抱えた大盾は分厚く湾曲した曲面を持っていて、貫けても童女の短い小指では急所まで届かない。ふつうに考えれば、小指の攻撃を封じただけで他の攻撃は防げないわけだが、問題はない。他の攻撃など出来ないのだから。
先ほど、童女は『相手の身体に触れるのはこの小指一本のみ』と宣言してしまっている。その辺に転がっている短刀や段平を拾って攻撃することは出来ない。
「さぁ、どうする?」
ニヤニヤ笑いを浮かべるファビオ。
自分の得物を捨てて防御に徹するとは、チンピラのくせに思い切ったものである。
だが、アスタが動じる気配は微塵もない。
「キミ程度、ぶちのめすのにどうしてボクが悩まなくちゃいけないのかな?」
余裕の構え、フッと笑ってみせて。
「今からキミをぶちのめすにあたり、ボクはキミに指1本触れない」
再び、宣言する。
これまた、思い切ったものだ。
チンピラとは言え、屈強な軍団兵を触れずに倒すと言う。
魔法を使えばできるだろうが、それは本人が否定してしまったいる。
アスタは魔法が使えない。
魔法も剣も使わずにどうやってファビオを倒すのだろうか。
「ハァッ!?」
ファビオも不快そうに口を歪めた。常日頃、亜人や女性を蔑んで暮らして来たチンピラだ。そんな相手からバカにされるとは思ってもみなかった。予想外の事態に腸が煮えくり返る想いだ。
「ハッ! ガキの戯言だな! いいか? 女は男に劣る! 亜人はヒトに劣る! そして、ガキなんて論外だ! よく覚えとけ!」
思いっきり声を張り上げて怒鳴りつける。
酷使された喉が悲鳴を上げそうだ。
だが、これほどまでに怒鳴られても童女は動じない。
「定命の者が聞いたふうな口を…それら、命題の論拠は何かな? どうせ、得体の知れない“エライヒト”から聞いただけでしょ?」
しっかり言い返す。
童女も蔑むことなら負けていない。否、女性や亜人だけを罵るファビオよりも全ての人類を罵っているアスタの方が酷いかもしれない。
「ぐっ…ぬぅぅっ!」
反論されたチンピラ兵士は悔しげに口を歪める。歯ぎしりの音がここまで聞こえて来るようだ。
「行くよ」
告げて、アスタは近づき、同時に口笛を吹き始める。
「ピーッピッピッピピー♪」
何とも楽しげな曲を奏でつつ、踊る。
これが攻撃なのか。
どう見てもそうは思えないが、この時点でアスタの仕掛けは始まっていた。
「ピピィーピッピッピー♪ ピーピッピッピー♪」
愉快な曲に合わせた、愉快な踊りだ。
全裸の童女は手足を蜘蛛のように動かし、つま先と言うか、足の指で地面に立って背中をチンピラ兵士に向ける。
金属光沢の紫髪も踊らせ、可愛いお尻を揺らがせて。
「ピーピッピィー♪ ピーピッピィー♪ ピピーピッピッピィー♪」
顔は見せない。
口笛は途切れることなく続き、可愛いお尻も絶え間なく動く、揺れる。子供の肉は柔らかいのか、揺れ方が激しい。まるで、尻が滑稽な人間の顔のようにも見える。
「う…むぅ…ん? ぐくぅ……」
ファビオは何とか緊張を維持しようと努めるものの、軽快な音楽に合わせて踊る紫髪の間から覗いて揺れる、子供のお尻についつい目を奪われてしまう。
どんな顔で踊っているのか。かなり激しい動きなのに背中は髪の毛で隠れ、尻しか見せないので顔はわからない。
裸ではあるが、子供であるため、色香のたぐいは感じられない。感じられるのは滑稽な様子ばかりだ。
そして、突然、紫の金属光沢に輝く長髪が。
パァッ!
大きく広がる。童女の頭を中心に半円の扇のように。
それまで男の目を奪っていた可愛らしいお尻を隠す。
「ピィーピィーピッピッピー♪ ピピッピ♪ ピィ♪ ピィ♪ ピィ♪」
口笛の曲が最高潮に達した時、ピンと張ったロングヘアーが力を失い、ゆっくりと垂れて行き、半円の扇が崩れる。
腰を突き出す。
すぐに意志を持って動く長髪が真ん中から割れて、印象的なお尻が見えた。
それと同時に振り向いて、それまで隠してきた顔を見せる。
はっきりと。
何ということか。
それは整った面立ちの美少女ではない。
目は波線のようにうねり、口は珍妙な形に曲がっていた。しかも、自在に動かせる紫の鬢が両側から童女の方を頬を押して潰している。
変形させられた顔はへちゃむくれ。
とにかくおかしくて笑える形だった。
「ぶはぁっ!!」
チンピラ兵士は一気に緊張を解かれてしまう。
元々、アスタを馬鹿にしていたファビオだ。その笑いは発作に近い。
「ぶわぁっはっはっはっはー! 何だ、その顔! ゲッラゲラゲラ!!」
大口を開けて馬鹿笑い。
思わず、大盾を落としそうになる。
「うわぁはははははっ! 何だ、そりゃ! 亜人だからって! そんな! ゲァーハッハハハハッ!!」
もう止まらない。
空気を吸うのももどかしく、ひたすら笑い、そして、笑う。
もう駄目だ。
「ゲァハハハハッ!! 笑い死ぬぅー!!」
チンピラ兵士のファビオは止められない笑いに悶えながら、身体をくの字に曲げた。
そこでスッと真顔に戻ったアスタが。
「じゃあ、死ね」
手を打ち振って何かを飛ばす。
それは汗。
いや、水か。
汗として分泌したものの、そもそも暁光帝は汗をかかない。それは単純に体の表面に生じさせた、何の混じりけもない、純粋な水だった。
それを手の先に集めて投げたのである。
ゲラゲラ笑いして大きく開けているファビオの口に向けて。
「ふぶわぁっ!?」
チンピラ兵士は驚きのあまり、変な声が出る。投げ込まれた水が口腔の奥へ飛んだのだ。
「はわぶっ!? ぼへっ!? ぶへっ!? こどぅぶわぁっ!!」
笑っている場合ではない。
喉が詰まったのか。
息が出来ない。
どんどん苦しくなってゆく。
「うぶわっ!? おばえっ!! なにぶふぅを!?」
息も絶え絶えに、大きく目を見開いてアスタを見つめる。
本当に呼吸ができなくなっていた。
いくら空気を吸おうとしても何かが詰まっている。
水だ。
驚くべきことに、先ほど投げ込まれた水が喉と肺をつなぐ気管を完璧に詰まらせているのだ。
ファビオは信じられなかった。
こんな技があるのか。
アスタは適当に当たりを付けて、いい加減に水を放ったわけではない。
何もかもが計算ずくだったのだ。
敵を大笑いさせて口を開けさせ、息を吸い込むその一瞬を見極め、そこへ水を正確に投げ込んで気管を詰まらせる。
タイミングも、命中精度も、やはり、人間業ではない。チンピラ兵士の呼吸を読み、口の中の、ごく小さな一点を狙って水を打ち込んだのだろう。超人的な動体視力と正確無比の肉体操作のみが実現できる妙技だ。
おそらく水の量そのものはスプーン1杯くらいでしかない。
たったそれだけの水だが、完全に気管を詰まらせている。
息が出来ない。
どんなに酸素が欲しくても喉から先に、肺へ届かせることが出来ないのだ。
「おぉぅぶっ!」
もう立っていられない。
地面に膝を着く。大盾などとうの昔に手放してしまっている。
酸素欠乏症で顔が青ざめてきた。
悪寒と耳鳴りがする。
苦しい。
とにかく苦しい。
息が出来ない。
このままでは死ぬ。
窒息死する。
何としてでも新鮮な空気を吸わなくては。
「ぷぴぃー!」
思いっきり息を吸い込むと気管の隙間を抜けてわずかな空気を吸い込むことが出来た。
その代わり、非常に頭の悪そうな、マヌケな音が鳴り響いた。
「ぷぴぃー! ぷぴぃー! ぷぴぃぃぃー!」
水の詰まった気管を通して無理やり息を通す音がマヌケな響きを立てているのだ。
「あれぇー? どぉしたのぉー?」
目の前の童女がニヤニヤ笑いを見せている。
憐憫の情は一欠片も見せず、只、嘲りを込めてチンピラ兵士を眺めている。
「ぷ…ぷぴぃー!」
もはや身体を起こすことも出来ない。ファビオは地面に倒れて何とか息をしようと足掻いている。
一息吸うだけで大変な苦労だ。
目を見開いても地面しか見えない。
自分が倒れていることはわかるが、どうすればいいのかわからない。
只、只、苦しい。
横隔膜を絞らせることすら辛く、酸欠に苦しみながら何とか命をつないでいる。
「立てませんかぁ、リュッダ海軍精鋭部隊の兵隊さん? 喉から変な音が出てますよぉー? 地面に這いつくばっちゃってどうしたんですかぁー?」
童女は苦しむ兵士を眺めながら楽しそうに踊っている。
そして、中腰で両手の人差し指を突き出しながら。
「ねぇ? 今、どんな気持ち?」
尋ねて来る。
「ねぇ? 今、どんな気持ち? 亜人の! 女の! 子供に! コテンパンにノされて! 地べたに這いつくばって! ねぇ、今、どんな気持ち?」
トントンとつま先で足音を鳴らしつつ、わずかに曲げた人差し指を上下に揺らしながら尋ねる。
「ぷぴぃー! ぷぴぃー! ぢ…ぢぐじょぉ…ぢぐじょぉぉぉ…ぷぴぃーっ!!」
苦しくてマヌケな必死の呼吸音に混ざって、怨嗟の言葉は失せた。苦痛に顔を歪ませつつ、チアノーゼで青くなったファビオは生きようと必死で空気を吸い込んでいる。
「アーハッハッハッ! 定命の者、死すべき定めの人の子が! 何をしたところで、ブタよりも小さい、このボクに及ぶわけがないんだよ!」
アスタは腰に手を当てて大笑い。
「キミ、全っ然、駄目じゃん。ツマグロオオヨコバイよりも駄目じゃん☆」
煽る、煽る。
「ぷぴぃー! ぷぴぃー!!」
悔しさのあまり、血が出るほど唇を噛み締め、涙を流しながら耐えるチンピラ兵士ファビオである。息をしなければ窒息死するから、悔しがりながらも何とか空気を吸い込んでいるが、水を詰められた気管が痛い。とても痛い。それで更に涙が出る。
自分は男だ。
ヒト族の男だ。
どんな女よりも偉いのだ。
女の最高は男の最低に敵わない。
ヒト族の男である自分はどんな女よりも偉くて優れている。
それなのに。
それなのにどうして自分は今、地べたに這いつくばって悔し涙を流しているのだろうか。
あの童女にしてやられたからだ。
油断した。
油断しただけだ。
俺が本気を出せばあんな奴、一発で叩きのめせる。
畜生、憶えてろよ。
いつか、お前を叩きのめしてやるからな。
「ぷぴぃー!!」
あまりにも苦しくて怨嗟の言葉を口に出来ない。息をしなければ死んでしまうから。
ファビオは何とかわずかな空気を吸い込み、呪いを込めて童女を睨む。
「何、それ? 邪視のつーもりー? 効っかないねー!」
童女は手をヒラヒラ扇いで笑う。思いっきり楽しげに。
「ねぇ、今、どんな気持ち? さんざんバカにしていた相手に叩きのめされて睨むことしか出来ない! ねぇ、今、どんな気持ち?」
中腰で指差しながら煽る、煽る。
本人は全裸だけど。
「うぅ…ぷぴぃー…ぷぴぃー……」
裸の童女に馬鹿にされている自分が情けなくてますます悔し涙を増やすファビオだった。
それでも、すぐに支援部隊がやってきてくれた。
「待ってろ!」
「今、助けるぞ!」
大勢がわらわらとファビオを囲んで救命活動に勤しむ。
しかし。
「どういうことだ!? 身体のどこにも傷がない!」
「いや、呼吸してないぞ!」
「隊長、やはり回復魔法が効きません!」
「あきらめるな! かけ続けろ!」
支援部隊が懸命に回復魔法を尽くすもファビオの身体には治すべき負傷が見当たらないので効果がない。
その顔がどんどん青ざめていく。
唇は紫色になり、手足の痙攣が始まる。
「ダメだ! チアノーゼを起こしている! 助からない!!」
「気道を確保しろ! 呼吸を止めさせるな!!」
必死だ。
むくつけき男達がファビオを囲んで熱気をたぎらせる。
何とか助けようと色々試みるも、肝心の気道が水で詰まっていて呼吸が阻害されている状態だ。
回復魔法が全く効かない。
「ぷぴー! ぷぴぃー! おばぇだぢ、う゛るぜぇっ! いぎをざぜろぉー! ぷぴぃー!」
チンピラ兵士ファビオの受難は始まったばかりである。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ラスボスはチンピラ兵士のファビオでした☆
えっ、弱すぎる?
勝負の最後に戦う強敵ですからね。だいじょうぶです。意味は合ってます。
先日、小生を悲劇が襲いました。
ニッキアメが好きなんですが、これを舐めながらルイボスティーを飲んだら更に美味しいんじゃないかと思いついたのです。
やってみました。
すると、溶けて小さくなったニッキアメが口の中を転がってルイボスティーと混ざってえもいわれぬ味覚に……
ところが!
その味を堪能しようと舌の上で転がしていたら…ルイボスティーとニッキアメの水溶液が気管を詰まらせてしまったのです(爆)
小生の気管は完全に詰まってしまい、呼吸できなくなりました!
作者死亡により『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ』、完。
Et_Cetera先生の次回作に(三途の川を渡った先で)ご期待下さい。
…と、なるところでした。
でも、死にたくないので必死です。
何とか呼吸しようと力ずくで息を吸い込んだのです。
すると、「ぷぴー」「ぷぴぃー」という情けない音が!!
いや~ 苦しかった……
死ぬかと思った……
でも、転んでも只では起きません。
「あ、これ、ラストバトルの必殺技にしよう」と思いつきましてwww
こんな展開ができたわけです。
いや、怖いですね。誤飲ってけっこう事故が多くて、犠牲者も少なくないようです。
格闘技の技としても存在しているようで「人間はスプーン一杯の水で溺死する」など語られていますね。
その話を聞いた時は「スプーン一杯で死ぬわけないじゃんww吹かし乙ww」とか笑っていましたが。
自分が死ぬ思いすると……
うん、格闘技、凄ぇ☆
でも、まぁ、実際問題、自由自在に水の誤飲を発生させる技ってのはないようですね。
格闘家の「できたらいいなぁ」的な技のようです。
え、いいのか? それ?
さて、次回は勝負の結果をみんなで振り返ります。
反省会?
暁光帝は後悔とか反省とかするんでしょうか。
お楽しみに〜




