暁光帝vsエルッキ十人隊長! 童女に巨人が倒せるのか!?
いたいけな童女に凶刃が迫る!
魔法で生み出された上昇気流がその身体を吹き上げて空中にとどめてしまいました。
空中に浮かぶ的と化した童女に精鋭部隊の歩兵が襲いかかります。
女兵士は勝利を確信してニヤリ笑います。
童女の運命や、如何に!?
お楽しみ下さい。
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風が土煙をだいぶ吹き飛ばしたので少しずつ視界が戻ってきた。
「ゼァルッキンフォー♪ ズィキャット♪」
アスタの歌は終わっていないが、その身体が自分を支える地面から離れて動けないことは明らかだ。風圧は十分で今すぐ地上に落ちることはない。
「うりゃあっ!!」
女兵士は果敢に上昇気流へ飛び込んだ。
しかし、盾が地面からの風を受けて身体が浮いてしまう。
「くっ!!」
盾を手放す。
どうせ、童女には攻撃の手段がないのだから、こちらが防御することもあるまい。
だが、盾を手放しても身体は浮き気味だ。子供とは言え、人間を1人浮きあげるほどの風なのだから、女兵士も上手くバランスを取れない。
そして、盾を捨てた瞬間、視界に飛び込んできた光景は想像を絶するものだった。
アスタが飛膜を得て滑空して来たのだ。
「アプ八な!」
ありえない光景に女兵士の対応が遅れる。
金属光沢に輝く、身長よりも長い紫色のロングヘアー。童女の頭からその紫髪が伸びて、広げた両手と両足に向かっている。隙間なく並んでムササビような飛膜を成してしっかり絡みつき、上昇気流を受け止めている。
飛行ではなく滑空であるが、アスタは空中を移動できる!
そのことを認識した女兵士があわてて身を守ろうとするも、盾は捨ててしまって、今はない。
「ズィキャットザットスワローズュラット♪」
歌が続いて懐に潜り込んだ童女が小指で女兵士の胴体を突く。
ドズッ!!
バランスを崩していた彼女は避けられず、まともに受けてしまった。
ズズッ!!
「!」
上昇気流から抜け落ちた女兵士は声もなく倒れる。やはり、半身を麻痺させられて、反対側の手足のみを無意味に暴れさせている。
「そんな方法があるなんて……」
驚きのあまり、ポニーテールの魔導師は立ちすくんだ。
アスタの髪を侮っていた。単純に攻撃を受け流すだけの手段と思い込んでいたのだ。しかし、自由自在に動かせる、自分の身長よりも長い髪だ。ヘビが自分自身に絡まることがないように、おそらくあの髪も決して絡まらない。安心して操れるから、隙間なく一列に並べて風を受ける帆のように、ムササビの飛膜のように形を成せるのだ。
だが、どうして空中で姿勢を維持できるのか。
風使いの魔導師なら誰しもがやる失敗の1つに“飛行”がある。魔法で強力な上昇気流を起こして空を飛ぼうとするのだ。そして、思うようにならず、墜落する。
凧に捕まったりマントを広げてみたり、いろいろ試すものの、すぐに気づく。空へ飛び立つのはかんたんだが、空を飛び続けるのはとてつもなく難しい、と。
強力な風は起こせても、空中でその風を捉え続けることが出来ないのだ。それら帆の代わりをするもので上昇気流を受けようとしても、姿勢を乱して風を逃してしまい、その結果、揚力を、“空中に浮くための力”を失う。
よしんば、意識を集中して姿勢を制御し、空中に留まれたとしても、強烈な上昇気流の中だ。まともに呼吸できず、息苦しさに集中が乱れる。そうなればやはりバランスを崩して揚力を失う。
どちらにしても墜落する
飛行の難しさは揚力の発生にあるのではなく、その維持が問題なのだ。
人間は空中で姿勢を制御できない。
だから、人間は空が飛べない。
達人と呼ばれる風使いで魔気容量に余裕があっても無理だ。空中でバランスを崩すことは即、墜落に繋がり、高度が高ければ免れがたい死に繋がる。
けれども、突然、空中に吹き上げられたのにアスタは姿勢を整え、とっさに髪の毛で飛膜を作り出して滑空してみせた。
それも瞬時に、だ。
これほどの才覚があれば上昇気流など鳶に風、格好の移動手段だろう。
何という対応力だ。
「そんな!? まるで…ふだんから空を飛ぶことが当たり前のような……」
魔導師は必死で考える。
どうすればいい?
こんな化け物じみた相手に対して取れる手段はあるのか。
もう次の魔法も間に合わない。
頼れる相棒は倒れた。
手持ちの武器は魔術杖と短刀しかない。
どうすればいいのか、わからず、ためらったのは一瞬。
しかし。
「ゼイウォントゥショウザキャットズィアティチュードォヴトゥリーブラインドマイス♪」
歌声が続く。
すでに童女が迫っていた。上昇気流を抜け、地面に這いつくばるように四足で走って来る。とんでもない速さだ。
その動きを何とか肉眼で捉えられたものの、反応が出来ない。
ドズッ!!
なすすべもなく、まともに胴を突かれる。
「!」
相棒と同じく、ポニーテールの魔導師は声もなく倒れた。相棒とは反対側の半身を麻痺させられ、自由な方の手足をバタバタと無意味に動かしている。
これで4人。
精鋭部隊10人のうち、4人が倒されたのだ。
そして、間奏が始まった。
「ピッピーピーピー♪ ピッピ♪ ピーッピピピ♪ ピーピッピピー♪」
ずいぶんと楽しげな口笛である。
エルフは呆然としていた。
「やられた……」
これしか言えない。
ポニーテールの風使いは完璧な対応だった。
謎の技を使う、奇怪な敵を風の魔法で空中に浮かせた。その技が力によるものならば浮かせてしまえば踏ん張れず、力が振るえなくなる。そうなれば謎の技も封じられる。
敵は手も足も出せなくなり、空中に浮いた、只の的に成り下がる。
完璧な対応だ。
相手があのアスタでなければ、だが。
あの童女の正体は暁光帝。
そして、暁光帝はドラゴンの中でも珍しい、ほとんど地上に降りないタイプなのだ。飛行を得意とする飛竜だって食事や睡眠、水を飲むために地上へ降りるというのに。
年がら年中、朝から晩まで、日がな1日、雲よりも高い上空を飛んでいるのである。
当然、空中での姿勢制御はお手の物。
つまり、空中戦は十八番なのである。
おそらく地上戦より得意であるに違いない。
それは歌も途切れないだろう。
敵がわざわざ自分を得意な戦場へ持って行ってくれたのだから。
まさしく水を得た魚のごとし。
ましてや、敵の方からわざわざ上昇気流の中に入ってきてくれたのだ。
人間は風の中では上手く動けない。対するアスタは自由自在。
たやすく女兵士を倒せたのだろう。
後は残る魔導師を仕留めるだけ。
敵が戦いやすい環境を整えてくれたのだから、それに乗っただけだろうが、それは上機嫌にもなろうというものだ。
「ピッピーピーピー♪ ピッピ♪ ピーッピピピ♪ ピーピッピピー♪」
実際、間奏がずいぶんと楽しげである。
アスタは残る6人を狙い、走り出していた。
四足で。
兵士の前で物凄い土煙が舞う。童女アスタがやって来たのだ。
十人隊長が中央を、チンピラ兵士ファビオがその左を、そして、もう1人の地味な歩兵が右端を、それぞれ長方形の大盾を隙間なく並べている。この鉄壁の防御で背後の魔導師達を守っているのだ。
童女はまず右の兵士に近づいたのである。
「ゴホゴホッ! これはっ!?」
大量の土煙に見舞われて兵士が咳き込み、動揺する。
「落ち着け! あわてるな!」
土煙のせいで、這いつくばって移動するアスタの様子がわからない。部下が狙われていることが十人隊長にはわかっていたが、歩兵の役目は魔導師を守ることだ。中央に立つ自分が戦列を乱すわけにはいかず、声を掛けるに留めるしかない。
「ピーッピッピッピ♪ ピッピ♪」
口笛の間奏は続いている。実に楽しげな曲だ。
シュバッ!!
土煙の中から金属光沢に輝く紫色の髪が躍り出る。
それは大盾の上端を素早く乗り越えて、兵士の顔を撫でる。ゆらゆらと揺らめいて、まるで独立した生き物であるかのように。
「畜生!」
思わず、悪態をついて兵士は盾を押し出してしまう。敵の体当たりを受け止めて押し返す、普段の練習通りの行動だ。
だが、浅はかだった。
相手は自在に髪を操る奇っ怪な童女である。盾に髪が搦みついて、押し返す力を助けるように引っ張った。
「うわっ!?」
引かれて体勢を崩す、地味な兵士。盾の防御が開いてしまっている。
「トゥリーブラインドマイスゥェンゼリュー♪」
間奏が終わって歌が始まっていた。
それに気づくこともなく。
「!」
盾と身体の間に入り込まれた兵士は胴体をアスタの小指で突かれて、声も立てずに倒れ込んだ。重く大きな大盾が倒れ、十人隊の防御の1角が崩れる。
「テメェ、何やってんだよ! 畜生っ!!」
チンピラ兵士が悪態をつくも、半身が麻痺した兵士は自由に動かせる手足をバタつかせるばかりで起き上がる気配がない。
肉体の頑強さを増す強化魔法も、鎖帷子も、まったく役に立っていない。盾の防御もあっさり崩されてしまっている。
「落ち着け! ガードを固めろ!」
守るべき背後の魔導師3人娘は魔法の準備をまだ完了できていない。魔法陣はほぼ出来上がっているが、まだ足りない。強力な上級魔法さえ発動できれば、素手のアスタは何も出来ないはずだ。
5人が倒されてしまったが、後、少しの時間を稼げれば十人隊の勝利である。
「トゥリーブラインドマイスェヴリウェァー♪」
しかし、アスタが今度は十人隊長の前に走り出た。明らかに十人隊長よりも劣るチンピラ兵士を差し置いて。
巨人族のエルッキ十人隊長は雲衝くような巨人だ。体重が童女の6倍近くあり、巨大な大盾はそびえるように戦友を守っている。
しかも、板札鎧ローリーカセグメンタータは名前の通り、鉄の板を隙間なく並べた強固な甲冑である。剣も槍も鎚も弾く。小指で突いた程度でダメージを与えられるわけがない。
それでも、アスタが選んだ次の標的はエルッキ十人隊長だった。
「無駄だ! 俺の強化魔法は肉体を石よりも硬く頑丈にする! どんな武器も鎧の鉄板を貫けない! あきらめろ!」
巨人が咆哮する。その怒鳴り声は隣のチンピラ兵士をすくみ上がらせるほどの勢いだ。
それでも歌は止まらない。
「サーチンゴォールァラウンドフォーズィキャット♪」
地面を這っていた童女が起き上がり、紫のロングヘアーが大盾を回り込んで十人隊長の顔に近づく。なぜか、その先端には紙縒りが絡みついていた。
それが大男の顔に伸びて、鼻の穴に潜り込む。
そして、素早く紙縒りを振動させた。
コチョコチョコチョ!
激しくくすぐる。
いくら筋肉を鍛えても生理現象は止められない。緊張していればなおさらのことだ。
「ふぁ…ふぁ…ふぁぁー…ふぁーっくしょん!」
十人隊長は思いっきりくしゃみをしてしまう。その勢いで盾の防御が大きく開いた。
その隙間にするりと潜り込んだアスタが小指を突き出す。
小指は軽くローリーカセグメンタータの左の胴に添えられただけ。
しかし、指も、腕も、胴も、足もしっかり伸びていて。
次の瞬間。
ドゴォン!
物凄い音とともにアスタの小指が鎧の鉄板を貫いていた。
「!」
大男は兜の中で目を見開いていた。
やられた他の仲間と同じく、声は発せない。
驚きの表情のまま、巨体がくずおれる。
そして、地面に横たわると思いだしたかのように右の手足を振り回して苦しみだした。やはり、左の半身は麻痺しているようだ。
「エルッキ十人隊長ォー!!」
チンピラ兵士が絶叫する。
それは自分がやられたかのような、悲痛な叫びだ。
「がぁぁっ!!」
怒り狂い、我を忘れて段平を振り回す。
だが、童女はすでに四足の姿勢に戻って素早く下がっていた。身体が小さすぎるし、姿勢が低すぎて、大柄な兵士の剣は掠りもしない。
角刈りの女性達も驚いていたが、さすがは精鋭部隊の魔導師だ。呪文を唱え続け、魔法陣を描く手も休めていない。
だが、兵士の心が折れずとも、戦場の趨勢は決している。アスタが歌っているうちに精鋭部隊の6人が、半数以上が打ちのめされてしまった。最強のエルッキ十人隊長も巧妙な技に翻弄されて地に伏している。弱卒のチンピラ兵士ファビオでは魔道師3人組を守り切れるはずもなく。
今や、精鋭部隊の敗北は時間の問題にしか見えない。
ところが、ここで意外なことが起きる。
「で?」
短く尋ねて、ゆっくりとアスタが立ち上がったのだ。
驚くべきことに、ここに来て童女の歌は止んでいた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに最強のエルッキ十人隊長も倒されてしまい、精鋭部隊は4人になってしまいました(^_^;)
弱卒ファビオは絶体絶命!
奇っ怪な童女の使う、奇っ怪な技の正体を見極められるのでしょうか。
さて、今回、ちょっとだけガールズラブ要素を入れました☆
実は!
ポニーテールの風使いと護衛の女兵士は百合ん百合んな関係です♪
軍隊の兵舎ですから、同性の兵隊でまとめられます。
2人組ですから、当然、同室です。
同棲しているので夜は同衾です☆
素晴らしい!
まぁ、2人ともあっさりやられちゃいましたけどね(ToT)
軍隊と言えば同性愛!(←偏見)
女性の兵隊もいるので、そりゃ、百合の花だって満開に咲きます。
えっ、薔薇の花はどうだって?
えーっと、そっちは読者の想像に任せますね。いわゆる、「想像する余地が云々」って奴です(汗)
次回、バトルのクライマックス!
お楽しみに〜




