暁光帝vs風の魔道師! おまいにこの必殺のウィンドカッターが捌けるか!?
水の精霊魔法を操る魔道師2人組を倒した暁光帝。
今度は風の精霊魔法を操る魔道師らが相手です。
彼女の魔法は脅威です。
切れ味抜群、人体も大盾も大根もザクザク切ります。
恐ぇ☆
このままでは暁光帝もなますにされてしまいます。
さぁ、どう立ち向かうのでしょうか。
お楽しみ下さい。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
水の魔法使いとその護衛を倒したアスタはすぐさま次の目標に向かって走り始めた。
狙うは魔法の準備を済ませた、風の魔法使いとその護衛だ。
只、走るだけではない。
「ピーピーッピッピピ♪」
口笛を吹き始める。
楽しげな曲だ。
「ずいぶんと明るい…機嫌がよさそうですね」
ナンシーは困ったような、嬉しいような、複雑な表情だ。
今、まさに2人の兵士が童女に倒されて生死の境をさまよっているわけだが。
アスタが恐るべき暁光帝であることを考えたら、まだ死人が1万人も出ていないことの方が奇蹟に思える。あの2人だけで済むなら犠牲は非常に少ないと言える。
機嫌のいいアスタは、すなわち、機嫌のいい暁の女帝様だ。
いや、機嫌がよくても悪くても、女帝様に見えれば大勢が死ぬ。
それでも、機嫌が悪いよりは幾らかマシではないか。
「トゥリーブラインドマイスィンナロー♪」
明るい歌声も聞こえる。
何とも機嫌が良さそうだ。
女性兵士は憤っていた。
「戦闘中に歌うなんて…バカにするのもいい加減にしてよ!」
罵ったものの、鎖帷子の上からでもわかる大きな胸乳の動きは息が荒いことを示す。その動揺を隠せていない。
支援部隊の悲痛な声が聞こえてきて絶望する様子がわかるからだ。
仲間が2人やられた。何をされたか不明。治療も出来ない。只、苦しみもがく様子を見てるだけ。
それが事実だ。
だから、恐ろしい。
回復魔法が効かない傷をどうやってアスタが負わせたのか、さっぱりわからないのだ。
「だいじょうぶよ。準備が出来たわ」
背後から頼もしい声が聞こえた。
「下がって!」
「ええっ!!」
言われただけで魔導師の隣に下がる。
こちらの女性は髪をポニーテールにまとめている。主力の3人ほどには女を捨ててないが、腕は確かだ。向こうから走って来る童女の姿を視界にしっかり捉えている。
「風の刃!」
魔術杖を振り下ろす。
魔法陣から伸びる、常人には見えない、魔力場が発生する。魔法を発動させ、その反動を受け止めるための魔幹だ。
そして、魔法を発動する。
シュオン!
不吉な音とともに圧縮された空気が、人間の胴体をも断ち切る風の刃となって飛ぶ。
風の魔導師2人組を見つめていた百卒長が叫ぶ。
「魔法が発動します! 風の刃です!」
これにリュッダ海軍幹部も拳を握りしめる。
戦場で警戒すべきもの。
それが風の精霊魔法だ。
見えない刃が飛んできて兵士の命を刈る。
水の精霊魔法は単独の敵を暗殺する目的で使われる。将校や1人で働いている者が標的だ。対して、風の精霊魔法は敵の集団を殲滅するのが目的だ。
軽装歩兵、重装歩兵、騎兵の別なく密集していれば狙う。幅広い風の刃が飛んで敵の首を刈るのだ。盾で防がれてしまうこともあるが、見えない刃を警戒して首周りに盾を置く敵はいない。
恐るべき魔法だ。
わずかな音とともに上官の喉が掻き切られ、戦友の首が飛ぶのだ。後には鮮血と物言わぬ死体が残るのみ。
もっとも、ここに若干の誤解もある。
街の芝居小屋でも勇者の物語には人気だ。風の精霊魔法は勇者達が最初に使う攻撃手段であり、緑色の透き通った刃が空中を飛んで魔王の手下を切り刻む。
だから、一般的にウィンドカッターは緑色だと思い込まれている。
だが、それは芝居小屋が雇った魔導師の光魔法による演出に過ぎない。
本物のウィンドカッターに色など着いていないのだ。
だから、見えない。
不可視の刃だ。
圧縮された空気の刃が人間を襲い、肉体を切り裂く。それが風の精霊魔法ウィンドカッターであり、空気は透明だ。圧縮されて屈折率が変わるからまったく見えないわけではないが、透明であることには変わらない。
しかも、精鋭部隊の誇る、風の魔導師は風の刃を同時に5枚も出せる。
これが水平に飛んで敵の首級を刈るのだ。
今回はその見えない風の刃をアスタの進路上に5つも撃った。それぞれに間を空けて、軌道を読まれないよう、ランダムにずらしながら。
たとえ1枚目を避けられても続く4枚は避けられない。
冒険者に人気の小型丸盾など一撃で断ち割るウィンドカッターだ。
それが童女の進路に発生した。
命を刈る。ただ、それだけのために。
アスタは走った。
土煙を舞い上げて。
「トゥリーブラインドマイスズェァゼィゴー♪」
楽しげな歌もセットである。
そこへ恐るべき風の刃が迫る。
幅は兵士が3人、手をつないで並ぶほど。高さは走る童女の腰辺りだ。
この無慈悲な風の刃に斬りつけられたら上半身と下半身の泣き別れである。
不可視の刃が進路上に5枚。
一枚目を避けても二枚目に斬られる。
飛んでかわそうにも枚数が多すぎて着地したところを真っ二つだ。
しかし。
ふつうに走った距離は短かった。
「マーチンドゥンザストリート♪ シングファイ♪」
歌詞が少し変わるとともに、童女が本気で走り始めたのだ。
ダダダッ!!
アスタの本気の走り、それはすなわち、四足だった。
只でさえ小さい被弾面積が更に縮まる。
「えええっ!?」
驚きの声が上がる。風の魔導師からは平たくなったアスタの身体がもはや細い線にしか見えない。
シュン! シュン! シュン!
必殺のはずの刃が次々に虚しく宙を切る。
避けられることも考えて風の魔導師はウィンドカッターを様々な高度、様々な角度に撃っていた。腰の辺りを狙うもの、首を狙うもの、横に逃げられた場合を考えてずらしたもの、そして下にかわされることを考えて童女がかがんだときの首の位置を狙うものだ。
それらすべてがかわされた。
童女の四足走法はふつうの人間がやるものとは違う。
赤ん坊のハイハイを大人がやれば位置が高くて、精鋭部隊のウィンドカッターはかわしきれない。
匍匐前進なら被弾面積は小さくなるが、動きが亀のように遅くなり、敵から狙われればいい的になってしまう。
しかし、アスタの四足はそのいずれとも違う。わずかに胴体を地面から浮かし、手足を大きく広げて全力で大地を掻くのだ。五指はすべて広げて鉤爪のように大地をえぐり、削る。
そして、進む。
とんでもない高速で。
物凄い量の土煙を湧き上げながら。
リュッダ海軍の幹部達は目を見開き、口をポカンと開けてバカみたいに呆然としてた。
「無茶苦茶だ…あんな…あんな走り方をしたら関節や腱を傷めてしまう…長く走れるわけがない……」
何とか、小心者の百卒長がつぶやいた。
「うんうん」
「そうだ、そうだ」
でっぷり太った司令官と副官が相槌を打つ。
その通り。
人間がアスタのような走り方をしたら、普段使わない筋肉を、関節を酷使する。人間の肉体はあんなガニ股で走るような構造にはなっていない、あの姿勢で高速を出せるような筋肉の付き方はしていない。
あの童女と同じ姿勢で全速力を出したら、筋肉は断裂して、関節が脱臼する。10歩も走れまい。すぐに施療院に担ぎ込まれて入院する羽目になるだろう。
けれども、アスタはその無茶な姿勢で、四足走法で全力疾走している。しかも、遅くなるどころか、逆に速くなっているのだ。
だが、ナンシーだけはからくりに気付いていた。
「あー……」
呆れて天を仰ぐ。
童女の、あの走りはドラゴンのそれだ。
ドラゴンの普段の走り方だ。
やはり、アスタは規格外。力を制限しても“やり方”がおかしい。確かに力を制限した。それはいい。だが、制限した、その力の使い方そのものが常軌を逸している。
そもそも発想がおかしい。
もっとスピードを出したい。ふつうの大人の力ではまだ足りない。しかし、そこで『じゃあ、手も使おう』『四足ならもっと速い』という発想にはならないだろう。
いや、普段が四足歩行のドラゴンならではの発想か。おそらく、二足歩行がもどかしかったのだ。
「たぶん、まだまだ、こんなもんじゃ終わらないわ、アスタは……」
エルフは童女を迎え撃とうとする風の魔導師とその護衛を見つめている。
海軍の精鋭部隊でもアスタが相手では旗色が悪い。
それでも、がんばれ。世界の平和はキミ達の双肩にかかっている。
いや、比喩ではなく。
キミ達が目にしている相手は、あの暁光帝なんだぞ、と。
迫りくるアスタの脅威を前にして風の魔導師は考えていた。
あれほど低い姿勢で走られたら被弾面積が小さすぎて、ウィンドカッターの信頼性は著しく下がる。
おそらく、次を放っても命中するまい。
どうする?
「くっ!!」
使うべき魔法の選択を誤ったと臍を噛んだ。
肉体にかける強化魔法のおかげで護衛の女性兵士は非常に有能だ。軍が魔法を積極的に取り入れるようになって以来、男女の性差が及ぼす能力差は消え失せた。いや、むしろ、魔力に優れる女性の方が強い筋力、強い体力を示すことさえある。
倒された水の魔導師に着いていた護衛よりも相棒の方が能力は上だ。
しかし、あの奇っ怪なアスタに及ぶかと問われれば疑問。
幼い子供の姿をしているものの、あれは正真正銘、本物の化け物だ。
おそらく、彼女がどれだけ速く剣を振るっても童女の長髪に搦み取られて負けるだろう。
金属光沢で輝く、あの紫色の髪はまさしく脅威だ。こちらが対応する手段が思いつかない。
いや、おそらく、そんな手段はない。
軽くて細く、それなのに切れない、自由自在に動かせる、しかも身長より長い髪なんてどう対応すればいいのか。
ふつうに剣で斬りつけても搦み取られて反撃されるだろう。
後、魔法が使えないとも言っていた、これは真実だろう。魔法を使って攻撃したなら負傷の具合もわかる。それなら、支援部隊の回復魔法が治せないわけがない。ところが、実際には回復魔法が効かなかった。
倒された水の魔導師とその護衛は魔法でやられたわけではない。
わからないけれど、こちらの予想もつかない、何か、謎の技術だ。
しかし、アスタの能力が魔法でなく、技であるならば、それは単純な腕力によるものであるはず。おそらくはふつうの大人くらいの力でも実現できる、何らかの技だ。
それならまだ手はある。
「私の隣に!」
ポニーテールの魔導師は水兵服の襟をはためかせながら、苦労して描いた魔法陣の後ろに下がる。
「はい!」
護衛の女性兵士は即座に従った。本来、これだけ敵に迫られた状況下で護衛が下がることは有り得ない。魔導師を守れなくなるからだ。
だが、この2人組の絆は固く、護衛は魔導師の命じるままに動く。互いに信頼し合い、協力し合って戦ってきたのだ。
軍団兵は魔導師が考えて歩兵が戦う。命令に疑問を感じても戦闘中に問い返すことはないのだ。
もはや、アスタとの距離は半分になってしまっている。
そこで風の魔導師は地面に魔術杖を伸ばす。そして、素早く魔法陣に手を加え、とっさに手直した呪文を唱える。
「1/2v^2+p/ρ=k!」
ウィンドカッターは下級の精霊魔法だ。術式の変更は容易。風の魔法を少し変えて対応する。
「ウィンド…アッパー!」
魔導師は魔力を術式に注ぎ込み、アスタの進路上に新たな魔幹を設定、魔法を発動する。
ビュゥゥゥゥッ!!
いきなり、地面から強烈な突風が吹いた。
圧縮した空気を風の刃と化させて飛ばすウィンドカッターだが、それを圧縮せずに風力だけを増した、強烈な上昇気流に変えたのだ。
大量の土煙を吹き上げる風は、今、まさに飛びかからんとするアスタの身体を捕えた。
そして、容赦なく真上へ吹き上げる。
「トゥアカリプソ♪ ビートォールズィワイル♪」
それでも歌い続ける童女の胆力よ。
しかし、非常識に地面を走っていた手足は宙に浮き、虚しく空気を掻くばかり。
如何に奇怪な童女と言えども、自分が踏ん張る大地を失えば力の込めようがない。触れるだけで相手を昏倒させる謎の技も使えまい。そして、魔法が使えないのなら空中で動く手段はない。
こうなれば、怪しい髪の毛で反撃することも出来ないだろう。
アスタは空中に囚われ、動けなくなったのだ。
もはや、宙に浮いた的である。
「行ける! 今よ! 斬って!」
風の魔導師は風でポニーテールを飛ばしながら叫んだ。
「了解!」
女兵士が突き進んだ。
上昇気流がひどい土煙を巻き上げてしまい、ほぼ影しか見えないが、童女が動けないことはわかる。
手は抜かない。
段平で叩き切る。
空中に飛ばされては避けることも防ぐこともできない。
終わりである。
リュッダ海軍の幹部達は一息ついた。
「はぁ…」
「これで何とか…」
「風魔法はこれがありますからな。空中に飛ばされてはどんな敵だって手も足も出せません」
カイゼル髭とハゲのデブと小心者が緊張を解いた。
人間は空を飛べない。
翼がない。
せめて、ムササビのような飛膜でもあれば滑空くらいはできるだろうが、アスタは上品なワンピースを着ているだけだ。
動けなくなればただの的である。
自分達を焦らせた奇っ怪な童女もさすがに降参するだろう。
幹部達が胸を撫で下ろしていると。
「駄目! 離れて!」
エルフが絶叫した。
「いやいや…」
ナンシーが何を案じているのかと百卒長が肩をすくめる。
アスタは空中に飛ばされたまま浮いているのだ。
どう足掻いても逃げられないではないか。
しかし。
「歌が止んでない!」
エルフに指摘された事実に百卒長は顔色を失うのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに四足解禁\(^o^)/
暁光帝の本気走りです♪
腕の力を脚力の3割と仮定しますと、二足走法の22.07[m/s]だから28.70[m/s]に増加します。時速に換算すると103.3[km/h]ですね。
さすが暁光帝、童女の身体でも時速100キロメートル越えたよwwww
鉤爪で大地を削りながら走ることも鑑みて、更に速くなることは確実!
……こんなことしてて、よく正体がバレませんね(^_^;)
まぁ、それだけ童女アスタになっている時の暁光帝が可愛いのです。
かわいいは正義☆
さて、風の魔法で空中に浮かべられてしまった暁光帝。
果たしてどんな方法でピンチを脱するのでしょうか。
人化♀したドラゴンの活躍にご期待下さい。
お楽しみに〜




