暁光帝vsリュッダ海軍の精鋭部隊! 戦闘開始☆ えっ、能力はレベル2に制限してあげるよ。
ようやく始まったバトル展開です。
もう心理戦じゃありません。
剣と魔法の異世界ファンタジーにふさわしい、アクションシーンが満載です。
あ、我らが暁光帝は魔法が使えなくて、腕力も“レベル2”に制限してますが(^_^;)
相手を舐めたプレイ、通称“舐めプ”ですねwww
まぁ、そもそも、年端もいかない童女に人化してる時点で舐めプですか。
仕方ありませんが、縛りプレイでがんばる暁光帝です。
お楽しみください♪
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碧中海の抜けるような青空に日が高く上った。
暑い。
初夏の日差しとは言え、肌を焼く。
第2演習場の島は小さな船着き場以外には何の施設もない。土がむき出しの、広大な土地に演習の監督官が座る椅子が数脚ある程度だ。
遠くに“瓦礫街”と揶揄される港湾都市リュッダの軍港区が見える。
周りが海なので逃げ場はない。
童女アスタは中央でたたずんでいる。
対する精鋭の十人隊はリュッダ海軍の幹部達が座る場所の近くに陣取っている。
彼我の距離は大人の足で100歩ほどか。童女の足なら140歩になるかもしれない。
精鋭部隊の布陣は、まず、十人隊長と軽装歩兵2人が魔導師3人組を守ってアスタの正面に立つ。彼ら、軽装歩兵のうち、1人はチンピラ風の兵士ファビオだ。
彼ら6人が主力の分隊で、そこから離れて右に風魔法の使い手とその護衛が、左に離れて水魔法の使い手とその護衛が立つ。
支援部隊は妖精人のナンシーと幹部らのそばに控える。けが人が出たらすぐに救助できるように。
童女がまっすぐ正面、十人隊長達に向かえば、左右から攻撃魔法が迎え撃つ。左右のどちらかに向かえば軽装歩兵が足止めに徹して守り、時間を稼ぐ。その間に正面の3人が強力な魔法を打ち込む。
敵が1人でも歩兵が動かない。攻めではなく、守りと迎撃を重視したスタイルである。
「えぇー! 何で守りに回るんだよ? めんどくさいぜ! 向こうはガキが一人なんだ。俺と十人隊長でぶちのめしちまえば早ぇじゃねぇか」
チンピラ風の兵士ががなり立てる。相手を子供と見て、完全に舐めきった態度である。
「楽な仕事なんてものは存在しない。これは金貨2枚分に相当する仕事だぞ」
十人隊長は標的の童女に厳しい眼差しを向ける。
「お、おぉぅっ!」
言われて、さしものチンピラ兵士も黙るしかない。
「それほどまでに警戒すべき相手なのですか」
魔導師のひとりが尋ねる。3人が3人とも角刈りの女性だ。このヘアスタイルは軍隊の精鋭部隊ということで割り切ったわけだが、敢えて角刈りにすることで浮ついた気持ちを捨てる意味もある。要するに、この3人娘は生真面目なエリート魔導師なのだ。
「手は抜かない。全力で行く。やれるな?」
十人隊長の声は真剣だ。
子供の単騎を相手に十字砲火を浴びせる、万全のスタイルである。
しかも、この3人を一箇所に集めたということの意味は重い。
「上級魔法ですね!」
「アイアイサー!」
「消し炭も残しません!」
女性の魔導師3人組は声を合わせる。
生真面目なので手は抜かない。子供相手に最強の魔法を撃ち込むつもりだ。
その結果、子供が死んだら?
十人隊長が責任を取る。
自分達は泣く。
だが、まずは戦闘で全力を出す。それだけだ。
軍隊とは制御された暴力装置であり、角刈りの彼女らはその体現者である。そこには一欠片の甘えもためらいも存在しない。
「諸君、処刑の陣形を!」
「おぅっ!!」
「任せとけ!」
左右の2人組も気合を入れる。
どうやら、単騎の敵を仕留める最高のフォーメーションで臨むようだ。
殺す気満々である。
両者、準備が整ったと見て、エルフのナンシーが立ち上がる。
「それでは…演習、始め!」
宣言する。
同時にゆっくり数え始める。
「ひとーつ、ふたーつ、みーっつ……」
カウント開始だ。
数えている間、アスタは何も出来ない約束だが。
対する、精鋭部隊は自由だ。
「書け!」
十人隊長が命じる。
剣は抜かない。歩兵らが携帯用魔術杖で地面に複雑な図形、魔法陣を描き込んで行く。
「m*lim⊿t→0{⊿v(t)/⊿t}……」
同時に呪文を唱え始める。
魔力線で空中に魔法陣を描く浮遊魔法陣、特殊な魔法語で呪文を短くまとめて唱える凝縮呪文などの高等技術もあるが、使わない。
軍隊なのだ。
自分だけが高等技能を使えても駄目である。部隊員全員が使えるのならともかく、1人だけ足並みを乱すような真似は出来ない。
だから、全員が地面に図を描き、全員が丁寧に一語一語しっかり呪文を唱える。
一糸乱れぬ統率された共同作業こそが軍隊の強みなのだから。
今も全員が武器を構える前から魔法の準備をしている。
現代の戦争は魔法が要である。
獣人戦争の頃とは違うのだ。
かつて、勝敗を決するのは士気と技術力と男達の体力だった。
今でも士気と技術力は重要だが、魔導師が必須となる。そして、かつて頼もしかった男達は数を集めても魔法の前には蹴散らされて終わりだ。彼らは遠距離攻撃が心もとないし、船の火事も上手く消火できない。
だから、精鋭部隊には何よりも魔力が求められる。
軽装歩兵も重装歩兵もまず魔法が使えなければならない。
敵よりも早く呪文を唱え、敵よりも正確に魔法陣を描き、敵よりも集中して魔力を込める。
これが現代の魔法戦の極意なのだ。
それ故、戦闘開始と同時に兵士達は魔法の準備を始める。そろって呪文を唱えつつ、同時に魔法陣も描き始める。
ひたすら身体を鍛えた男達が武器を構え、何も考えずに突撃するような、昔の戦争とは隔世の感がある風景だった。
「畜生っ、ミスった!」
チンピラ兵士の呪文が途絶える。
だが、十人隊長は何も言わない。
「…」
視線をわずかに向けただけである。
「チィッ、最初からかよ!」
チンピラ兵士も舌打ちするが、すぐに呪文を唱え直す。その間も魔法陣を描く手は休めない。
2つのことを同時にやるのは難しい。魔法の呪文を唱えながら複雑な図形を地面に描く。描くのに気を取られて呪文を間違えれば術式が崩れてしまう。最初からやり直しだ。
このチンピラ兵士のように。
しかし、それで苛ついて意識が乱れるようでは精鋭部隊は勤まらない。
あわてず、騒がず、すぐさま立て直して失敗を取り返す、強い精神力が求められる。
「「「nΣi=1{Qi/Ti}≦0……」」」
歩兵らの背後では角刈りの魔導師ら、3人の女性が真剣に呪文を唱えながら地面に大きな魔法陣を描いている。大人が5人は寝られるほどの大作だ。それほど大きな1つの図形を3人がかり描いている。正確に、確実に、素早く。
しかも、彼女達が唱える呪文は完全に一致していて一音も違うことはない。
どれだけ急ごうとも手や口を休ませず、呪文も魔法陣も正確無比。これが精鋭部隊の強みなのだ。
より早く、より正確に、より集中して、魔導師は強力な魔法を完成させる。
十人隊長とチンピラ兵士ともう1人の歩兵、3人はこの間、角刈りの女性達をしっかり守らねばならない。その集中が途切れないよう、一切の妨害をその身で受け止めるのだ。
そのために彼らが使う魔法は肉体強化。骨を、皮膚を、腱を強くして敵の攻撃を受け止めるのだ。
「ハードゥンアップ! んんんんむぅっ!!」
いち早く、十人隊長が魔法を完成させた。只でさえ頼もしい巨体が更にたくましく大きく見える。
スラリと剣を抜いてかがみ、盾の上からは目だけ出して戦場を睨む。
必要なのは剣を振るう筋力ではない。長方形の大盾を隙間なく並べて、敵の攻撃から魔導師を守る。魔法を発動するまでの時間を稼ぐ。
盾を抜けられたら鎧で防ぐ。鎧を貫かれたら肉体で受け止める。死ななければ銃後で回復魔法を受けられる。傷が癒えたら、再び前に出て魔導師を守る。
魔法を主体とした、この最新の戦闘教義を実現する兵士こそが重装歩兵であり、巨人のエルッキ十人隊長はその代表だ。彼の巨体とそびえるような大盾は大きな被弾面積で味方を守る。
敵を攻める剣ではなく、味方を守る盾。
それが現代の兵士を象徴するものである。
童女アスタは演習場の中央でたたずんだままだ。腕組みして偉そうに立っている。
「ふぅん……」
その虹色の瞳はこれだけ離れていても精鋭部隊の様子を事細かに観察できる。その耳は呪文の一言も逃さず聞ける。
彼女が口にした“レベル2”とは単純に腕力を制限するだけ。飲んだり食べたり、コップを受け取ったり、ベッドに横たわったり、日常的な行動するたびに力を加減しなくてはいけない状況に飽き飽きした童女が生活を楽にするために生み出した技である。
つまり、“力”しか制限しないのだ。
虹色の瞳の視力や身体の頑丈さは天龍アストライアーのままである。
ちなみに、“レベル1”まで制限すると立って歩くこともままならなくなるから、それこそ昆虫を観察するときくらいしか使わないだろう。
この能力制限“レベル2”でその辺を歩いている通行人くらいの力しか出せなくなる。相手は武装した兵士だ。ここまで弱くなれば思いっきり殴っても死にはしないだろう。
しかも、今回は小指一本でしか相手の肉体に触れないという、おまけ付きだ。
これで死んじゃったらエルフに丸投げしようとナンシーに視線を向ける。
どうやら手に汗握って兵士の戦いぶりを応援しているようだ。
仲の良いことだ。
少し微笑ましくなる。
視線を精鋭部隊の主力たる正面の6人に向ける。前衛に図体のデカい十人隊長とチンピラ兵士ともう1人が立ちふさがり、背後の魔導師3人組を守っている。
若い女性ばかり3人、しかも同じ髪型だ。
正直、3人娘のヘアスタイルが物凄く気に入らない。うら若く美しい女性が角刈りってのは断じて許せない。
でも、まぁ、真剣に戦っているようだからこの場は許してあげようか。
何より気になることがあるのだ。
これだけ離れていても連中の行動は詳らかにわかる。
彼女達が使おうとしているのは上級の精霊魔法だ。
属性もわかる。
しかし、あの魔法は発動させるのにかなりの魔気容量を要するはず。
どう考えても彼らの魔力では及ばない。
アスタの虹色の瞳は人間の魔力が視えるのだ。
角刈り娘ら、あの3人の誰1人とっても上級魔法を発動させるに足る魔気容量を持っていない。
どういうことか。
さしもの始源の魔導師アストライアーも首をひねっていた。
「よーっつ、いつーつ……」
ナンシーが5まで数えたところで精鋭部隊の側が動いた。
左の2人組、魔導師の魔法が発動したのだ。
歩兵が盾なら魔導師は剣。敵を撃つ、華麗な魔法が攻撃の要である。
そして、この頬のコケた痩せぎすのハゲ頭は水の精霊魔法を得意としている。
「アクアボール!」
発動させたのは下級の水魔法だ。
ヴォン!!
わずかな物音とともに、男の魔力が少しだけ現実を歪め、無から有を生む。
それは大きな水の球。
冷たく、透き通った、さほど大きくもない。せいぜい、一抱えくらいの水の球体だった。
たとえ、兵士にぶつけても一瞬のけぞらせることができるくらいか。通行人にぶつけたら驚きあわてて逃げ出すかもしれない。その程度の代物だ。
しかし、出現した位置が問題である。
水球は童女の頭をすっぽり包み込んでいた。
海軍幹部らの座る観覧席は大いに盛り上がっていた。
「決まった!」
「さすが、我が軍の精鋭部隊!」
でっぷり太った副官とカイゼル髭のジョルダーノ司令官が拳を握りしめる。
アスタの負けだ。
もはや精鋭部隊の勝利は揺るがないと確信している。
「ええ。単騎で相手をする場合、もっとも恐ろしいのは水の精霊魔法です」
隣に控えた、小心者の百卒長が解説してくれる。
たとえば、炎の精霊魔法。
たとえば、雷の精霊魔法。
いずれも強烈で圧倒的な破壊力を示す魔法である。
けれども、これらは威力が大きすぎる。人間を効率的に殺す魔法ではない。魔法による処刑方法としては人気があるものの、それは民衆が憎む凶悪犯を派手に処分するのに向いているだけだ。
もっとも効率的に、もっとも静かに、もっとも確実に、人間を殺す精霊魔法は水属性である。
別に強烈な水流を叩きつけたる必要はない。人間はもっと簡単に死ぬ。水で顔面を覆ってしまえばいいのだ。それだけで窒息死する。
よしんば、耐えられても、せいぜい瞬き30回くらいか。
敵兵は息ができなくなり、呪文も唱えられなくなる。酸素の供給が断たれているのだから、走ったり飛んだりも出来ない。やる前に深呼吸する素潜りとはわけが違うのだ。日常生活で深呼吸している奴はいないだろうから、このアクアボールを喰らえば瞬き30回の間に昏倒する。
シンプルに溺れ死ぬのだ。
アクアボールを食らった敵兵は顔面に張り付いた水を剥がそうとして顔を掻きむしるも叶わず、叫べども水の中でゴボゴボ言うばかり、悲鳴は仲間には届かず、苦しみもがいて死んでゆく。
水の精霊魔法という清らかなイメージとは相反する、恐ろしい魔法なのだ。
「早く降参しないと本当に溺れますよ!」
百卒長は心配している。
エルフのカウントが続いているからだ。
「むーっつ、ななーつ……」
声は無情に響く。
ゆっくりと数えながら。
「えっ!?」
「止めない?」
ハゲの副官もカイゼル髭の司令官も唖然とする。
勝負の審判たるナンシーが数え続けているのだ。
早く演習を止めないと童女が溺れる。
海軍幹部、3人のおっさん達はあわてていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
魔法戦、開始です。
まずはリュッダ海軍の精鋭部隊が仕掛けました。
みんな、地面に魔法陣を描いて呪文を詠唱する、非常にスタンダードな魔法です。
空中に魔法陣を浮かび上がらせたり、呪文の詠唱を省略するようなことはしません。
軍隊ですからwww
暁光帝はこれにどう立ち向かうのか。
さて、次回からはついに激突!
魔法戦から肉弾戦へ☆
お楽しみに〜




