暁光帝、散々バカにされてついに人間と戦う気になる!? いやいや、手加減しますけどね(汗)
童女の過去の悪行が暴かれて…さんざん悪口を言われてしまいました。
許せません!
数千年に渡って美少女をストーキングし、その秘密を白日の下に曝け出した邪悪な人類に正義の鉄槌を!!
…と、言うわけでww ついに暁光帝が人間と戦う気になりましたww
いや、本気じゃやりませんけどね(^_^;)
さぁ、どうなることやら…お楽しみください☆
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
“瓦礫街”の蔑称で知られる、港湾都市リュッダは碧中海の制海権を争う3強の1角である。
陸では弱いが、海では強い。
典型的な海軍国である。
陸で弱いのは海軍に資金を回すので手一杯だからであって、リュッダという都市が劣っているわけではない。
そして、リュッダ海軍は他の2強と比べても装備はよく、士気も練度も高く、精強である。他の2強が質より量タイプであることのおかげでもあるが。
とにかく、リュッダ海軍は強いのである。
その強いリュッダ海軍の精鋭が本拠地としている軍港区の小島の群れには司令官お気に入りの演習場もある。何しろ本土から離れているので何をやっても文句が来ない。何をしているのか、本土からはわからない。
ここではリュッダ海軍の偉い人が好き放題できるのだ。
一行がやって来た演習場は2番目に大きい島である。兵舎のある島からは離れていて、橋も掛けられておらず、ここまで来るには舟を使わねばならなかった。
広い。
周囲を遮る壁はないが四方を海に囲まれている。島は岩場で囲まれており、逃げ場はない。舟のための小さな船着き場があるだけだ。
それでも百人隊が演習するに十分な面積がある。
今、ここに童女アスタとエルフのナンシーが立っている。
リュッダ海軍のジョルダーノ司令官と副官、そして、彼らが引き連れてきた精鋭の十人隊とその支援部隊を前にして。
もっとも1人を除いて全員が呆気に取られている。
リュッダ海軍の偉い人が好き放題できる場所だから、偉い人が好き放題しているのだ。
軍用泥人形の運用実験をしていても、ここなら咎められない。
その怪物はヒト族の3倍はある巨体で名前の通り泥で出来ている人形だ。たくましい腕に反して足は短く、頭の鉄の檻になっており、そこへ人間が入って操縦する形式だ。
身長で3倍だから、体積は27倍、素材である泥の比重もあるので体重は60倍である。
「ご覧ください。この大きさ、このパワー、この威圧感。素晴らしいでしょう」
カイゼル髭のジョルダーノ司令官は子供のようにはしゃいでいる。
自分で操縦したいようだが、さすがに専門の魔導師を搭乗させている。
今、その軍用ゴーレムがパンチやキック、演武を披露している…
…わけだが、酔っ払った巨人のダンスにしか見えない。
パンチは威力を大きくするために振りかぶって腰の回転に乗せて殴りつける。
キックは軸足のバネとやはり腰の回転、加えて上半身の反りとともに蹴る。
その間、ゴーレムの頭部に収められた魔導師はどうなるか。
もちろん、思いっきり振り回されるのだ。ヒト族の3倍の背丈であるから、3倍の遠心力で。
当然、頭がフラフラになって操作もおぼつかなくなる。
その結果、“演舞”と称する、意味不明の、謎のダンスが披露されることになったのである。
「軍用ゴーレムは術者から離れると上手く操れない、術者がやられると動かない木偶人形になってしまうなどの欠点がありましたが、このように操縦席を設けることで問題を解決したのです」
カイゼル髭を撫でつつ自慢するジョルダーノ司令官だが。
「却下で」
童女アスタが一言の下に否定する。
「なぜっ!?」
大切な新兵器を否定されて司令官は泣きそうな目をする。
「いくら何でも敵わないよ」
童女は顔をしかめている。
意外と素直なのか。勝てないことを認めてしまう。
「そうですか、そうですか♪ 音に聞こえた紫陽花の鏡メンバーでもうちの最強ゴーレムには敵いませんか☆ わぁーはっはっはっ!」
一転して、上機嫌になる司令官である。
「いや、司令官殿、その新兵器は重すぎて軍艦に乗せられませんって何度も……」
副官が苦言を呈する。これは海軍としては運用不可能な新兵器であり、人間が操る人工の巨人というロマンは別にして使い物にならないらしい。
「戦闘中にそんなものを動かしたらガレー船が沈むか、転覆しちゃうでしょ。やめなさい」
エルフのナンシーも海軍が使うには実用性がないと判断する。
「えええっ!?」
ジョルダーノ司令官は母親に叱られた子供のような顔でうつむいてしまう。
「う〜ん、それにしても……」
エルフは違和感を感じる。
「アスタさん、今の話は……」
童女は今、『いくら何でも敵わない』と明確に力量の差を認めたのだ。
おかしい。
人化したとは言え、暁光帝だ。アスタと人間では能力に六桁以上の差があるはずだから、童女が軍用ゴーレムごときに遅れを取ることはあるまいに。
「ボクもいろいろ考えたからね。演習に参加する兵隊さんが死なないようにボクは能力をレベル2に制限する」
さもよいことを思いついたかのようにアスタは自信満々だ。
「“れべる2”ですかぁ? それは……」
さしもの経験豊かなエルフも絶句する。どういう意味なのだろう。
「とりあえず、ボクの腕力はヒト族の大人くらいに弱める。つまり、その辺の通行人くらいの力しか出せない」
突然の爆弾宣言だ。
地に着くほどのロングヘアが紫色の金属光沢を示して踊っている。
「ほほぉ……」
ナンシーは口角を釣り上げる。
面白いことになった。
“れべる”というのはよくわからないが、おそらくアスタが自分に仕掛けた何らかの制限だろう。そこは暁の女帝様だ、魔法だろうが、妖術だろうが、何かしら技術があると思われる。
とにかく、アスタの持つ桁外れの能力を弱めてくれるというのである。ヒト族の大人と同じくらいの力しか出せなくなるわけだ。
幻獣は嘘を吐かない。
嘘が吐けない。
だから、この話はほんとうだろう。
あの恐るべき暁光帝が、ヒトの大人と同じくらいになるまで能力低下するのだ。
いきなり、とんでもない好機が巡ってきた。
勝てるかもしれない。
エルフの胸中に希望の火が灯り始めた。
童女アスタはズラリ並んだ精鋭部隊の面々に自己紹介する。
「さて、諸君。ボクはブタよりも小さいアスタ。冒険者パーティー“紫陽花の鏡”のメンバーだよ」
もちろん、いつもの宮廷風お辞儀、アストライアー式カーテシーも忘れない。
「おぉぅっ!?」
「何だと!?」
「見て! あの髪、動いてる!」
「どんな魔法だよ? 気持ち悪い!」
「紫陽花の鏡、また、亜人を入れたな」
「どうしてヒト族だけのパーティーにしないんだ」
「まぁ、紫陽花の鏡はリーダーからして亜人だしな」
「紫色の髪がキラキラ光ってるわ」
「どうやって髪を動かしているのかしら」
「目も凄いわ。青い宝石に星を散らしたような虹色の瞳よ」
「まだ子供なのに偉いわねぇ」
「ちっ、ガキのくせに紫陽花の鏡メンバーだと?」
部隊の面々から様々な反応が起こる。本来、規律正しい軍隊であるが、今回はジョルダーノ司令官の遊びに付き合うと聞かされているから、遊び気分なのだ。
だから、部外者であるエルフのナンシーや童女のアスタを前にして寡黙である必要はない。
口々に騒ぐ。
それらの中には歓迎する声も聞こえるが、必ずしも好ましい反応ばかりではない。
アストライアー式カーテシーはお辞儀せずにふんぞり返るので、反感を買いやすい上、彼らはヒト族の国家であるリュッダの軍人だから、おしなべてヒト至上主義者なのだ。
生粋のヒト至上主義者はヒトでない者、“亜人”のすべてを蔑む。侏儒や豚人は当然、妖精人や小人でさえ、亜人として軽蔑するのだ。
そして、童女アスタはその美しい容姿のせいでヒトからかけ離れた者、“亜人”に見えてしまっている。
精鋭の十人隊とその支援部隊は女も男もなく、全員が水兵服にズボンという出で立ちだ。
支援部隊は全員が回復魔法の使える魔導師で魔術杖を装備している。
十人隊は歩兵を担当する者が鎖帷子を纏い、剣とは別に短い魔術杖を持つ。魔導師は胴回りと頭を守る防具のみだが、代わりに長くしっかりした魔術杖を持っている。
つまり、歩兵と魔導師の別なく、全員が何らかの魔法を使える。これが精鋭部隊の精鋭たる由縁だ。
彼らは眼光鋭くアスタを見つめている。その視線は必ずしも好意的なものばかりではない。
しかし、童女はまったく臆せず、動ぜず。
「今からボクがキミ達の戦闘訓練に付き合ってあげよう」
余裕綽々で視線を返す。
「安心したまえ。ボクは能力をレベル2に制限する。腕力がヒト族の大人と同程度になる。そして、ボクは魔法が使えない」
両手を広げて肩をすくめ、『参った、参った』と嘆いてみせ、輝く紫髪でも同じ仕草を見せる。
「勝負はキミら、十人隊全員とボク1人で。戦えなくなって膝を地につけた者が負けだよ。これで勝ち負けを決めよう」
精鋭部隊にとってとんでもなく有利な勝利条件だ。
十人隊は童女1人を倒せば勝ちで、童女は十人全員を倒さねばならない。支援部隊は参加できないが、銃後で回復に徹する。実戦部隊は怪我を恐れず戦えるわけだ。
「後、おまけね。ボクがキミ達の身体に触れるのはこの小指一本のみだよ」
得物は無し。剣でも槍でもなく、素手で戦うと宣言する。それも小指だけで、と。
「そして、勝負が始まって10数える間、ボクは何もしない。キミらは自由だ」
敵に塩を送るつもりか、更にとんでもない条件を付け加えて来る。
10数える間ならそれなりに強い魔法を発動する準備が整えられる。その間、アスタが何も出来ないなら、十人隊にとっては圧倒的に有利だ。
いくら何でも舐め過ぎである。
「あのガキ、俺達を誰だと思ってる!?」
「リュッダ海軍の最精鋭だぞ!」
「10対1だと? ふざけるなっ!!」
部隊の面々から憤懣やる方ないといった声が上がる。
しかし、よく見ると部隊の半分は黙って表情を固くしている。これだけ有利な条件を見せられて油断も慢心もしない慎重な者達がいるようだ。
「あぁん? ヒトデナシの亜人、それも女がぁっ!! おめぇみてぇなガキが男の俺様に敵うと思ってんのかぁっ!?」
1人、やたらと怒鳴る奴がいる。胴体のみの鎖帷子から突き出した腕はたくましく、兜のてっぺんから鶏のとさかのように黒い飾りが突き出している。五指篭手や脛当はなく、素早さを重視した軽歩兵だ。
しかし、顔は粗野で言葉遣いにも教養が感じられず、兵士に取り立てられたばかりのチンピラと言った風情である。
基地で一番偉い司令官や自分達の百卒長を前にしてずいぶんと威勢のいいことだ。眼の前の童女は子供とは言え、司令官の客人なのだ。吠えかかっていいものではない。
「こらっ、貴様……」
「いいよ、いいよ」
叱ろうとした百卒長を制して、童女は面白そうにチンピラ風の兵士を眺める。
「……」
子供に静止されて黙る百卒長。
情けなくも見えるが、これも処世術である。エライヒトにも、エライヒトの友達にも、逆らっていいことはない。例え、それが子供であっても、だ。
「このガキ、クッソ生意気でむかつく! 演習にかこつけて殺してやろうか!」
そんな百卒長を見て、チンピラ風の兵士は苦々しげにアスタを罵る。上司が亜人の子供にゴマをすっているように見えて腹立たしくてたまらない。
「ふぅん。そういうこと言うんだぁ…わかったよ」
自分に向けられた、本物の殺気にすら童女は動じない。
「凄いな…」
「なるほど、あれが新メンバーか」
カイゼル髭と副官が唸る。こちらは“紫陽花の鏡”という冒険者パーティーを知っている、言わば身内だから童女の力量も測れるというもの。素直に感心している。
もしも、軍隊の兵士から殺気を浴びせられたら、ふつうの女子供なら身体がすくんで何もできなくなっていたことだろう。だが、アスタは逆に言い返してみせた。
見事な胆力である。
「キミは最後に、特別に、念入りに、ぶちのめしてあげよう」
そして、大人気ないアスタである。向けられた悪意と罵倒の分だけしっかり返してやると宣言してしまった。
いや、“童女”アスタなのだから、子供らしくていいのだが。
実際のところ、その中身はここにいる誰よりも歳上の超巨大ドラゴンである。
「な、何をぉっ!!」
言い返されて目を白黒させるチンピラ兵士。吐いた罵倒の分だけ叩きのめすと宣言されて、とっさに言葉を返せない。どうやら、童女を弱者と見ていじめにかかっていただけらしい。小さな女の子と見て侮ったら、思いの外、気が強くて驚いたようだ。
「じゃ、ボクは真ん中で待ってるよ。ナンシー、審判をお願いね」
アスタはゆうゆうと演習場の真ん中へ歩いて行く。
「わかりました」
笑顔で手を振り、エルフは見送る。
『がんばれ』とは言わない。
言えない。
がんばられたら負ける。手も足も出せずに負ける。
これだけ有利な条件でも厳しいと感じてしまうのは長年の経験による勘か。
兵士達の方を振り向く。
「それでは皆さん」
スッと目を細めて。
「アスタを殺してください」
懐から革袋を取り出して、輝く金貨を見せる。
「報酬は1人につき金貨2枚です」
にっこり微笑んだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悪口を言われて怒った暁光帝が人間相手に喧嘩を…というわけには、さすがにまいりませんでした(^_^;)
でも、まぁ、あれだけ言われたのでちょっと起こるくらいは許されるかな、と。
誰に?
孤高の八龍に、です。
暁光帝は人間と価値観を共有しません。けれども、同じ仲間のドラゴンの間では常識人とされています。
つまり、“違う”だけでして。
あんまり恥ずかしいことは出来ません(^_^;)
そして、最後にナンシーが爆弾発言を……
さて、次回は殺人代行請負業者、いわゆる“殺し屋”のお話です。
エルフの依頼は聞き入れてもらえるのでしょうか。
お楽しみに〜




