暁光帝、ストーキングされる。ストーカーって誰よ? えっ、全人類? 何それ、キモいっ!!
海軍司令官と副官の曰く、「火山島に現れたドラゴンは“平らげる者”または“均す者”である」、と。
どうしてそんな呼び名が付いたのか、めっちゃ知りたい暁光帝。
尋ねてみると……
またしても千年前の物語を語られてしまいました。
童女の過去の悪行が次々に暴かれていきます。
えっ、何それ? そんな昔のこと、どうして知ってんの? ストーカー? キモいっ!!!
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
昔というか、古代。人類史に残る悲劇に終わった獣人戦争よりも更に前のこと。
獣人族を襲った豚人族の大移動は大陸の西で暮らすヒト族の諸侯にとっても脅威だった。オーク達は大軍を以てヒト族の土地と民を狙ったのである。
歴史的にしばしば滅亡するオルジア帝国が当時もやはり滅亡していて、強力なヒト文明が途絶えた時期だった。それ故、大陸西方のヒト族は勢いに欠け、他の地域からの救援も望めくなっていた。
オークの脅威におののいたヒト族は海を越えて彼方の島へ逃れようとしたが、そうはさせじと追い詰めるオークであった。ヒト軍を蹴散らしてヒト族を奴隷にしようと図ったのである。
当時の古代オーク文明は奴隷経済により成り立っていたのでこのような戦争の動機もあながち珍しいものではなかったのだ。
こうして、大陸の西端、ドゥンキルヒンの海岸にヒト族は追い詰められたのである。
もしも、我らに統一王朝さえあれば。
もしも、我らに強い軍隊さえあれば。
オーク軍に驚きあわてることもなかったものを。
ヒト族は大いに嘆いた。
常日頃、つまらぬ些事で諍い、誰が一番偉いのかと、どんぐりの背比べを続けていたツケが回ってきたのだ。
数ばかり多いヒト族は分裂して右往左往し、ヒト軍は烏合の衆。総大将さえ決められない。
この、人種の危機に際してさえもてんでバラバラ好き勝手に騒ぐばかりであった。
『これならいっそのことすべてのヒトが奴隷に成り果ててオークの足をなめて暮せばいいのではないか』と述べる者まで現れる始末。
もはや、ヒト軍は決死の覚悟を決めざるを得なくなった。
東からやって来るオークの大軍は地平線を埋め尽くし、海岸の段丘崖を真っ赤に染めていた。
これはオークが赤い鎧を好むからである。野蛮なオークは自分の血を返り血と区別がつかないようにすることで、恐怖を忘れて好きなだけ暴れまわれると考えていたのだ。
オーク達は多くの騎馬軍団を抱えており、これもまた破竹の勢いを示していた。騎兵に対して有効な戦法を持たないヒト族にとっては絶望的な状況である。
名の知れた将軍もたくさんいて。
ヒトの倍はある“不死身のお頭”。
昼飯代わりに敵兵を頭から齧って食う“人食いオーク”。
素手で敵兵を殴り殺す“豪腕のおばちゃん”。
…などなど、有名人が戦列にずらり並んでいた。
これら、遠目にもわかる猛将達を前にしてヒト軍の兵士はおののくばかり。
港に殺到する民間人をどう守るか、もう逃げる算段だけでも整えようとあわてふためき、嘆く有り様。もはや、ヒト軍に勝利はなく、只、押し寄せるオーク軍団を抑えて家族をどれだけ逃がせるかという状況だった。
もちろん、オークがヒトの都合を待ってくれるわけがない。
高らかに鬨の声を上げ、真っ赤な軍団が迫ってくる。
戦争が始まったのだ。
ヒト軍は海岸に陣地を築いたものの、視界はすべて真っ赤。オークの大軍はそびえる段丘崖をものともせず、はしごを掛けて降りてくる。騎兵部隊だけはさすがに迂回しているが、それとて大した時間稼ぎにはならない。
まともに槍衾も用意できなかったヒトは大盾の後ろで震えながら剣を握りしめるしかなかった。
その時、南の青空に小さな点が見えた。
戦は竜を呼ぶ。
「ドラゴンが来たぞ!」
誰かが気付いた。
「ドラゴンよ、オークどもを蹴散らしてくれ!」
「ドラゴンが向こうへ行ってくれれば!」
「ドラゴンは我らの味方だ!」
やけになった兵士達が口々に叫ぶ。
無駄なことだ。
いくら、ドラゴンが強力でも百万のオーク軍に炎を吹きかけてどれだけ削れるのか。焼け石に水だ。
だが、ヒトの兵士達が恐怖と絶望に打ち震えている時。
再び、誰かが気付いた。
「あのドラゴンは! 紫色だ!!」、と。
その叫びに多くのヒト兵士が視線を南に向けた。
点がみるみるうちに大きくなって、ひとつの形を成して行く。
翼を広げた龍の形に。
世にドラゴンは数あれど、紫色でこれほど急速に近づく龍は一頭しかいない。
その身が金属光沢に輝いているのを見て。
太陽すら遮るほどの巨翼が6枚あるのを見て。
ヒト族の兵士達はそれまでとはまったく別の恐怖を味わわされる羽目に陥った。
押し寄せるオークの大軍よりも恐ろしいもの。
彼方の空より舞い降りて、村を、街を、国を、叩き潰す者。
いつの日にか、世界を喰らい滅ぼし尽くすであろう、最強にして最大のドラゴン。
「暁光帝だぁぁぁっ!!!!」
誰かが上げた悲鳴がまたたく間に恐慌を広げて行った。
「女帝様だぁっ!!」
「暁の女帝様が来たー!」
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
「暁光帝が降りて来るぞぉっ!!」
「死ぬ! みんな、死んでしまう!」
「お助けぇっ!!」
「神様、神様! 助けてください!」
「死にたくないぃぃぃっ!!」
大盾の後ろに隠れていた兵士達は悲鳴を上げ、持ち場を離れて逃げ出した。
誰も止めない。
誰も命じない。
宇宙的恐怖に襲われた指揮官らが人事不省になるか、発狂して泣きわめくしかできなくなってしまったのだ。
そして、正真正銘、本物の恐怖が訪れた。
轟音とともに超巨大ドラゴンが海岸を掠めたのである。
別に着陸したわけではない。
単純に掠めただけだ。
速度も落としていたようだ。暁光帝にしては。
何かに興味を持ったのだろう、地上を紫色の鱗でわずかに削っただけだ。
幸いなことに恐怖しかもたらさない六翼は羽ばたかず。
只、滑空しただけだった。
それでも轟音が耳をつんざき、突風が兵士達を物凄い勢いで跳ね上げた。
「あ…あぁ……」
それは一瞬のことだった。
生き残ったヒトの兵士が目を開けた時、そこには見たことのない光景が広がっていた。
最強と恐れられたオークの大軍が消え失せていたのだ。
地平線を埋め尽くすほどの、百万の大軍が影も形も見えない。
代わりに、大地が真っ赤に染まっていた。
それが暁光帝に轢き潰された豚肉であることは疑う余地もない。
更に恐ろしいことに段丘崖がきれいに均されていた。
真っ平らだ。
兵士達の前にそびえていた崖も。
街を守って来た防風林も。
苦労して敷いた陣地も。
何もかもない。
只、真っ平らな砂地が広がっているだけだった。
「あぁ…あぁ…あぁぁぁぁぁぁぁぁあぁーー!!」
気の狂った兵士が泣きながら両手で砂を撥ね上げている。
「こりは…こりはたべられうのかなぁ…なぁ? なぁ?」
同じく発狂した兵士が兜から垂れる豚のひき肉を拭って、狂気の眼球を左右別々の方向へ蠢かせている。
「父上! 父上ぇぇぇっ!!!」
兜を拾った兵士が泣き叫んでいる。
その血まみれの兜は中身入りだ。
中身を確かめるだけで悲惨だろう。
だが、それはオーク軍の兜で、その中身もオークの首だ。お前の父親ではない。
それでも。
オークとは言え、人間がこれだけ大量に殺されたことで兵士達は恐慌に陥っていた。
「勝った…のか?」
何とか正気を取り戻したヒト族の老将軍が呆然と立っている。
「不死身のお頭も…人食いオークも…豪腕のおばちゃんも…名の知れた武人が1人も生きていない。こちらは相当の被害が出たものの……」
老将軍の前には吹き飛ばされた大盾と吹き飛ばされた兵士が倒れている。
ヒト族の犠牲は少ないだろう。
大盾と陣地、彼我の距離、いち早く暁の女帝に気付いて兵士達が逃げ出したことが幸いした。
兵士については敵前逃亡だが。
「無理もないか……」
逃げ出した兵士を責める気は起きない。
暁光帝が現れたのだ。
戦争どころの話ではない。
「平らげる者……」
自然と口を衝いて出た言葉だ。
目の前の真っ平らな大地を創ったのは誰か。
何もかも真っ平らに均した者は誰か。
凸凹のない真っ平らな地平線を描いた者は誰か。
世界の破壊者、暁光帝をおいて他にはない。
大地を踏みしめるはずの足から力が抜け、立っていられず、老将軍は砂地に膝を着いて。
号泣した。
戦うことも出来ずに散華した、哀れなオーク達のために。
これが歴史に名高い、“ドゥンキルヒンの悲劇”である。
その後、港に追い詰められたヒト族はどうしたか。
もはや、自分達を襲うオーク軍団はいなくなったのだ。
もはや、逃げる必要はない。
もはや、彼方の島を目指して漕ぎ出さなくてもよくなった。
これで安心して暮らしていける。
これからも先祖の残してくれたこの土地で。
いつまでも平和に暮らしていける。
めでたし、めでたし。
…とは、ならなかった。
百万人のオークが一瞬で屠殺されて、豚肉のミンチにされてしまったのである。
次は自分達の番ではないか。
暁の女帝様が戻って来ないなどと、誰が言えよう。
オークに襲われたら、ヒト軍は散々に負けて、ヒトは誇りを喪い、奴隷としてオークの下で惨めな暮らしを強いられたことだろう。
悲惨なことだ。
悲惨なことだが。
死ぬわけではない。どんなに惨めでも生きてはいける。いずれ再興の機会もあるかもしれない。
しかし。
暁光帝に襲われたら、待っているのは速やかな死だ。それ以外の何物でもない。王も奴隷もなく、すべてが等しく轢き潰されて果てる。
今、まさに轢き潰された百万のオークのように。
今、目の前に飛び散っているミンチ肉のように。
先祖の土地を守っても、自分達が死んでしまったら無意味である。
恐ろしい。
何よりも暁の女帝様が恐ろしい。
危機感を抱いたヒト族は大あわてで指導者を選び、統一国家の体裁を整えた。そして、取るものも取り敢えず、彼方の島に向けて船出したのである。
それからの冒険はまた別の話になるが。
ただ1つ、言えることとして。
生き残り、逃げ延びたヒト族が。
暁光帝の偉業を、暁の女帝の恐怖を、また新たな二つ名を。
世界中に広めたのである。
すなわち、『平らげる者』、『均す者』、と。
初夏の太陽が兵舎の屋根を焦がし、碧中海がキラキラと陽光を反射している。
「…と、まぁ、そういうわけでですね、軍人達は畏怖を込めて暁光帝のことを“平らげる者”とか、“均す者”って言うんですよ」
エルフのナンシーは懇切丁寧に説明する。
これで納得する童女アスタ…
…であるわけがなく。
「何、それ? 知んない! 憶えがない!」
小さな拳を握りしめ、強く不満を訴えている。
「まぁ、千年以上も昔のことですから」
一応、エルフがとりなすも。
「だいたい、“百万人”とか、ちゃんと数えたのか、おまいは? 1人でも欠けてたら根拠のない誹謗中傷じゃないか」
歴史家の皆様方に抗議しながら、童女はいじけて地面を蹴っている。
1人が欠けても九十九万九千九百九十九人だが、百万人には及ばない。被害を誇大に言い募っているのではないかと言いたいのだ。
「はっはっはっ、まぁまぁ」
カイゼル髭のジョルダーノ司令官はアスタの子供らしいいじけっぷりに破顔してなだめる。
もちろん、アスタの正体が暁光帝ではないかなどとは露ほども疑っていない。幻獣が人間に変化できるとは知らないからだ。
単純に、童女が歴史の授業をちゃんと聞いてなかったことを悔しがっているだけと微笑ましく思っている。
裸足だが、高級なワンピースを着ているし、アスタが裕福な家の子供だろう、と。
当然、立派な家庭教師が付いているのだろう、と。
気楽にそんなことを考えている、腹の突き出たカイゼル髭の頭は幸いである。
それでも、童女は抗議する。
「何もしてないじゃん! 海岸、掠めただけじゃん!」
声を荒げて抗議する。
「そ、そうですね」
ナンシーは困惑しつつも理解しようと努める。
それは千年以上も前のことを今更言われても納得できないだろう。
おそらく、空の彼方から地上を眺めていたら海岸線が赤くなっていたからちょっと近づいてみたのだ。すると、翼が滑ったか、空気の具合か、目測がずれたか、海岸を掠めてしまった。そこで大量のオークを潰してしまい、ブチュッと気持ち悪い感触で不快になり、そのままスエビクム海にまで飛んで行って洗ったのだろう。
その超巨体に海水を浴びて。
そんな“暁光帝の海水浴”も歴史書に記されている。ちなみに、その時は津波が起きて沿岸の村々が壊滅している。
人間で言えば、つい、つかんだ庭木の枝に大量のアブラムシがついていて、それを潰した手がドロドロに汚れてしまい気持ち悪くて池に飛び込んだ、みたいなことだろうか。
考えてみれば、暁光帝の行状はたいてい歴史書に記されているのだ。
自分の行いが何もかも全て、世界中のあらゆる場所、歴史のあらゆる時間で、記録されているわけである。本人にとってはさぞかし難儀なことだろう。
多くの歴史家が唱えるところでは『理不尽な大軍に襲われたヒト族を哀れんだ暁の女帝が慈悲を垂れて豚人を鏖殺した』ということになっている。
おかげでヒト族は生き残れた、と。
実際、百万の大軍を一瞬で轢殺されたオーク諸侯は大いに衝撃を受け、配下のオーク達はひどくおびえた。戦って死ぬことを誇りとする戦士、オーク達は暁光帝を非常に畏れる。挑んでみたところで犬死だからだ。
配下のオーク達が恐怖したので、オーク諸侯はヒト族への追撃を断念した。
そのおかげでヒト族は国家統一でき、生き長らえて発展できたことは事実だ。
それにしても、相変わらず、ヒトは自分の都合のいいように考えるものだと思った。
うん。
事実はまったく違う。
やはり、暁光帝は人間などにはまったく関心がない。
当時もヒトに慈悲など垂れていないし、オークに懲罰を加えたわけでもない。
単純に、面白そうだから近づいて、触ってみたら汚くて気持ち悪かったから、隣の海まで飛んで行って、水を浴びただけだ。
その結果、百万人が死んで、沿岸の村々が壊滅した。ついでに、ヒト族は救われて生き延びることが出来た。だが、しかし、それらはあくまでもそのような結果であって暁光帝の意図したところではない。
「えーっと…そ〜ゆ〜わけで、この事件は“ドゥンキルヒンの悲劇”と呼ばれています」
エルフが歴史を語るも。
「“悲劇”、ゆーな! “ドゥンキルヒンの戦い”でいいじゃん!」
童女は怒っている。
「いえ、ですが、両軍は戦っていませんから……」
戦争の直前ではあったが、戦争には至っていない。戦う前に敵が暁光帝に轢き潰されて消え失せたから。
事件の構図はデティヨン海の悲劇と同じである。
ナンシーとしては“悲劇”の呼称も仕方ないことにしか思えない。
「火山島のドラゴンには他にどんだけ名前があるの?」
アスタが尋ねる。
あえて、“暁光帝”とは呼ばない。
呼びたくない。
呼んでやらない。
「あー、それでしたら……」
エルフが答えようとすると。
周囲の兵士達が代わりに様々な呼び名を挙げ始めてくれる。
「まず…何はなくとも“暁光帝”だよなぁ」
「ふつうは“女帝”様…“暁の女帝”様じゃないの」
「単に“絶対者”でよくね?」
「教会のシスター様は“神殺しの怪物”とおっしゃっている」
「軍人として“平らげる者”は外せないよなぁ」
「“均す者”って呼び名もあるぞ」
「ブルブルッ…まさしく“この世の真の支配者”だぜ」
「いや、それを言うなら“世界の破壊者”でしょう」
「やっぱり、“忍び寄る天災”じゃないか?」
「そうだね。近所のおじさんは“もっともわかりやすい破滅の形”って言葉しか口にしなくなって…三日後に死んだよ」
「“いつの日にか、世界を喰らい滅ぼし尽くすであろう、最強にして最大のドラゴン”だと思うぜ。もうほんとどうしようもないって感じがするよな」
いらついて騒ぐ童女を見て微笑ましく思ったのか、兵士達が様々な名称を上げてくれた。
「むー! ボクのアダ名がどんどん増えてるぅー!!」
童女は金属光沢で輝く紫髪を振り乱し、手をバタつかせながら地団駄を踏んだ。
思いの外、可愛らしい姿に周囲の大人達から笑みがこぼれる。
「よし、わかった!」
童女は平らな胸を張って仁王立ち。
「返事しない!!」
宣言する。
「えっ!? どういうことですか?」
意味がわからなくてナンシーは尋ねる。
実際のところ、心中は穏やかではない。いや、それどころか、生きた心地がしない。
今まで苛立ちすら見せなかったアスタが怒っているのだ。その怒りが子供の地団駄で済むわけがない。
童女の怒り、それは今しがた、恐ろしい二つ名をズラリと列挙された、超巨大ドラゴン“暁光帝”が怒りそのものなのだ。下手をするとこの場で瓦礫街リュッダが消滅してしまう。
しかし。
「“暁光帝”とか、“暁の女帝様”とか、呼ばれてもボクは返事しない!」
童女は断固とした口調で言う。
「あ、そ…そうですか……」
呆然とするエルフ。
『何だ? それだけか?』という想いが拭えない。
正直、この辺り一帯を粉砕消滅させて八つ当たりするのではないかとの懸念を抱いていたのだ。
しかし、それは杞憂だった。
アスタは予想以上に理性的で、本人としては理不尽な二つ名にも冷静に対処している。
そうだ。
悪口は返事をしなければいい。
返事をしなければ不名誉な二つ名は定着しない。
もっとも童女を“暁光帝”などと呼ぶ者はいないだろうが。
「はっはっはっ、そうだねぇ」
「その紫の髪はたしかに暁光帝そっくりだよぉ〜」
カイゼル髭の司令官もハゲの副官も声をそろえて褒めている。
幻獣が人間に変化するなど思いもよらない一般人の感覚はこんなものだ。いくらその特徴が恐ろしい怪物に似ていても、それが人間に化けているとは思わない。
むしろ、可愛い子供が駄々をこねているようにしか見えないのだ。
ドラゴンは子供に人気の幻獣であり、モンスター図鑑でも花形だ。紫色に輝く六翼の暁光帝は図鑑の主役であり、子供はその絵を見て喜ぶものだ。
大人になればその恐怖におののくことになるが。
子供の頃は好きだった昆虫が大人になると怖くなるようなものだろうか。
ナンシーにはその感覚がわからない。
けれども、周囲の大人達にはアスタがそんな子供らしい子供の1人に見えるらしい。
「うん。“神殺しの怪物”以外には返事しないことにする!」
童女はぷいっと顔を背けて口をとがらせている。
精一杯の不満を示す子供の図だ。
元が美少女なので何とも可愛らしく見える。
「いやいや、誰もアスタさんをそんな風に呼びませんよ」
『“神殺しの怪物”はいいんだ』と苦笑い。どれだけ神様が嫌いなんだろうか。
エルフは驚いていた。
女精霊や一角獣から『この上なく穏やかで優しい』と言われていたが、なかなかどうして、ほんとうのようだ。これだけ悪口を並べられても八つ当たりの言葉さえ漏らさないアスタは並の大人よりもしっかりしている。
いや、暁光帝なのだから、当然か。
この世界のどんな大人よりも暁の女帝は歳上なのだから。
こんなにも理性的であるのならもっといろいろと考えずにはいられない。
「それではドラゴンのように強いお嬢さん、我が軍の演習に参加してみませんか?」
「それはいい。ワシもどれだけ強いか、拝見してみたいところですぞ」
副官と司令官が戦闘訓練への参加を促して来る。
ナンシーの想いを補ってくれた形だ。
それにしても、立派な大人が小さな童女に敬語を使う様子はおかしなものであるが。
「そうですよ。せっかくここまで来たんですから参加してみましょうよ。別に本気で戦わなくてもいいんです。手加減してくれれば兵士達もそうかんたんには死にませんので」
ナンシーはナンシーで頑張る。
ここでアスタの戦力を測っておきたい。如何に暁光帝と言えども何万分の1、いや、何億分の1に縮んでいるのだ。能力の低下は免れまい。魔法も封じられて使えないようだし、あるいは上手くすればとの想いがある。
だから、全力で推したのだ。
やってみませんか、と。
「そぉ? そっかぁ…じゃあ、遊んでみようかな」
持ち上げられて、あっさり気持ちを切り替えるアスタである。
ここに来た理由を思い出したのだ。
『世界を横から観る』、そんな遊びをしている最中だった。
だったら、この機会を逃す手はない。
先ほど歩いていて、巧い手加減の手段を思いついたことだし、ちょうど試してみたいところだった。
それに自分を苛つかせる異名をあれだけ列挙しやがった、定命の者らの安全をそこまで考えてやる義理もなかろう。万が一、傷を負わせたところで超特級魔導師のエルフが治してくれるだろうし。
自分は死なせないように気をつければいいだけだ。
それなら巧い手がある。
「いいよ。やるよ。人数を集めて」
童女はニッコリ笑い、紫髪が嬉しそうに踊るのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
暁光帝、ストーキングされてました。犯人は全人類wwww
世界各地の歴史書に自分の行いが事細かに記述されていたのですww
数千年分\(^o^)/
歴史家の皆様方ってストーカーだったんですねwwww
うはっwwwOKKKKKwwww
何それ、キモい……o| ̄|_
それはそれとして龍戒の『潰した国は百を下らず、殺めた敵は万を下らず』の方が過小な報告でしたねwww
あれから一万年くらい経ってますから実は億行ってるかも知れません。
いや、「あなたは今までに踏み潰してきた虫の数を憶えているのですか?」って話ですけどね〜
さて、次回からリュッダ海軍精鋭部隊の皆様と立ち会います。
ついにバトル展開ですね。
いや〜 長かった……
まぁ、暁光帝ですからめっちゃ手加減します。
それは庭のアブラムシに挑まれるようなものですからw
それでも何とか面白くしてみせましょう。
童女な暁光帝の“力”や“体重”は数値化しています。
またしてもニュートン力学の出番ですね。
現代の小説家に必須アイテムGNU_Octaveが火を噴きますぞ。
お楽しみに〜




