碧中海の戦争。神々の意向と幻獣の愉しみ♪ みんな、遊んでいるのです(^o^)
『碧中海の戦争』シリーズ、完結ぅ〜♪
長かったわぁ……
いや、「それなら書くなよ」って話なんですけどね。
碧中海で戦争の機運が高まって〜 開戦して海戦しそうになって〜 暁光帝が何もかも消し飛ばして〜
後は幻獣と神々が後始末。
さぁ、みんな、どうするのでしょうか?
楽しんでいただければ幸いです(^o^)
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
エレーウォン大陸の極東に最高峰の1つ、リゼルザインド山がそびえている。
最高峰は2つあり、もう1つは西のシャンバラ山である。
もともとはリゼルザインド山が唯一の最高峰でシャンバラ山よりも高く、世界樹すらをも見下ろす高さだったのだが。
何か気象現象の影響で山頂から昇る日が歪んで見えたらしく、ある日、暁光帝が山頂を蹴飛ばしてリゼルザインド山を縮めてしまった。今ではシャンバラ山と仲良く世界樹に見下ろされている。
腹立ち紛れに最高峰を蹴飛ばして山頂を下げるとか、あまりにも無茶苦茶だが、さもありなん。
それが世界の破壊者、“暁光帝”というものだ。
別の話では世界樹と親しい暁光帝が友人よりも高いリゼルザインド山を常日頃よりよく思っておらず、たまたま日の出を歪ませたことを口実に蹴飛ばしたのだという話もまことしやかに語られている。
いずれにせよ、山頂が平らになってしまったことはありがたい。
世界を統べる、不老不死不滅の神々は山頂に集まって神力で住まいを建てた。そして、中央に大神殿を建立して神々が語るべき場所とした。
“神界リゼルザインド”の誕生である。
神の国がドラゴンの蹴飛ばした跡地というのも何だが、腐っても最高峰であり、平らになった山頂は使いやすく、そこは神々が住まう国としてふさわしく思われた。
後は山頂の少し下に雲を並べて、神々の住まいを雲上の場所として体裁を整え、威厳を以て人間達に知らしめるだけだ。
これで神々は世界を統べる者としての資格を得たのだ。
だが、何はともあれ、神界リゼルザインドに移り住んだ時点で神々はドラゴンよりも下位の存在に成り果てたのではなかろうか。
神々を集めて神力で西のシャンバラ山を崩してリゼルザインド山を再び最高峰にしようという意見も一部にあったが、そんなことをすればこの神界そのものが潰されかねないと退けられた。
そして、今、山頂は大騒ぎだった。
同時刻、碧中海は正午だったが、時差があるのでこの最高峰が擁する神界ではすっかり夜である。
さすが、神々の住まう場所だけあって中央大神殿は天使の灯す明かりが煌々と輝いているものの。
「彼女が来た!」
「彼女が怒っている!」
「彼女が何もかも粉砕した!」
「もう駄目だ! お終いだ! 彼女が来てしまったんだ!」
世界を統べる、不老不死不滅の神々が泣き叫び、あわてていた。
その様子は天災に遭ったオルジア帝国艦隊の人々と変わらない。
この、神々がおびえる原因、“彼女”とは神殺しの偉業を成し遂げた超巨大ドラゴン“暁光帝”に他ならない。
先ほど、碧中海に出向いて獣人戦争を監視していた天使と悪魔のコンビから一報が入ったのだ。
もっとも忌まわしい『暁光帝、降りる』の一報が。
いや、この場合は降りたのではなく海中から飛び出したのだが、それは些細な違いである。
「彼女はどこにいたのだ?」
「海中だ! 碧中海の海底に潜んでいたらしい!」
「どこの空でも見かけないと思ったらそんなところにいたのか……」
「暁光帝は今、どこだ? どこに向かっているっ!?」
「ここだ! ここに来るに違いないっ!!」
「うわぁぁぁぁっ!!! 殺されるっ!!! みんな、殺されてしまうぅぅぅっ!!!」
神々は恐慌に襲われて右往左往していた。
白い荘厳な石造りの神殿はあわてふためく神々の叫び声で話も出来ないほどやかましい。
「門を閉じろ! 全軍に非常呼集を!」
大柄でたくましい益荒男の神、軍王が叫んだ。
小山のような筋肉の塊、むくつけき力天使があわてて走ってゆく。体に比べて小さな翼が可愛らしく見えないこともない。
神界の門は堅牢な作りだが。
「そんなもん、無駄だ! あの時も吹き飛ばされたではないか!?」
抗議の声が上がる。
“あの時”、暁光帝は天使の軍勢もろとも神界の門を吹き飛ばして神界に押し入ったのである。ドラゴンは飛べるので回り込むことも容易だったのだが、正々堂々、正面から突破してくれた。そのせいで軍王の面目は丸つぶれだった。
「ぐぬぬ…門はあの時に比べて3倍の強度だから……」
「3倍長く持っても押し入られるのは同じじゃないか!?」
「天使の軍勢だって暁光帝の前では蚊柱と同じだろうに……」
結局、変わらないと言われて軍王は黙り込んだ。
たしかに瞬き1回分が瞬き3回分になっても大した差ではない。
数をそろえて立ち向かった天使の軍勢もたいそうな門と一緒にエーテル颶風で吹き飛ばされたのだ。
軍王が歯噛みしていると、主神ジーノウが現れた。王冠はかぶっていないが王笏は持っている。大柄でたくましい、長衣をまとった白髭の老人の姿だ。
「皆の者、落ち着くがいい。たった今、『暁光帝、南へ向かう』の一報が入ったぞ」
彼は主神、神々の取りまとめ役である。神々の王とも言われ、結構な権威を誇っていた。
「おおっ!」
「よかった、よかった…」
安堵する神々である。
「南と言うと…ダヴァノハウ大陸の東に浮かぶメスリエールか?」
「彼女が足繁く行く場所だな……」
「大きな島か…たしか、彼女の友達が棲んでいたな…」
「緑色のドラゴンだ!」
「孤高の八龍の1頭、緑龍テアルの棲家だろう」
「げげぇっ、緑の病魔大帝じゃないか!?」
「いやいや、疫鬼の棲家に行ってくれるならありがたい。神界に来ていなければそれでいい」
「そうだ。彼女が神界に向かっていなければよい報せだ」
おぞましい、呪われたドラゴンの二つ名が囁かれたものの、神々のざわめきが徐々に鎮まってゆく。
そこへむくつけき力天使が顔を真っ赤にして飛んできた。よほどの情報なのか、相当あわてていた。
報告を受け取った主神が告げた。
「大事ない! 暁光帝はたしかにメスリエールへ向かっている!!」
暁光帝が南にあるダヴァノハウ大陸の島に行ったことを断定する。
それにしても速い。何が理由かは不明だが、暁光帝は超音速で飛んだのだろう。
何であれ、行き先が神界になることはない。
主神の言葉に神々は一様に安堵した。
主神ジーノウは続ける。
「獣人戦争はヒト族の勝利で終わった」
王笏を掲げ、確定事項として宣言した。
この告示に神々から喜びの声が上がる。
「おおっ!」
「これはめでたい!」
「ヒトの繁栄はリゼルザインドの繁栄と同じ。我らの神力も安定して育まれよう」
「善哉、善哉」
今後の収入に関わる出来事だから喜びもひとしおである。
しかし、主神は重苦しく。
「両軍は戦っていない。正確には獣人と半魚人が滅んだだけ。たまたま、運悪く、彼女の通り道にいたから、だ」
気落ちした表情で告げ。
「ヒト族の艦隊も壊滅した。わずかな数が生き残った」
眉根を寄せながら説明を添えた。
「そんな……」
「いや、『暁光帝、降りる』の一報がもたらされた以上、人間の軍が全滅することを考えるべきだったのじゃ……」
「あの一報はそういう意味だったのか……」
数柱が言葉を漏らすだけで、後は皆、押し黙った。
主神ジーノウの言葉から“彼女の通り道”が何を意味するか、明らかだった。獣人とマーフォークのロングシップ艦隊はたまたま運悪く、浮上する超巨大ドラゴンの真上にいたのだ。
暁光帝の進路を妨害する。
それは破滅と同義。そんなことをすれば間違いなく消し飛ばされる。そして、消し飛ばしたドラゴンは哀れな獣人海賊の存在に気づいてすらいなかっただろう。
ヒト族の艦隊も飛び出した暁光帝にかすったか、羽ばたきの下にいたのか。いずれにせよ、暁の女帝にやられたに違いない。
人間は歩いていて、足元をいるアブラムシに気づくだろうか。
海面から跳び上がるシャチはウミアメンボに配慮するだろうか。
結局はそういうことなのだ。
それでも壊滅してしまった艦隊は哀れだが。
「「「う〜ん……」」」
神々は思い悩む。
かつて、世界を巻き込んで抗争を繰り返し、地上を荒廃させた2柱の神らが討たれた。暁光帝によって。
これが“神殺し”の偉業。
神々を震え上がらせ、この神界に引きこもらせる原因となった大事件。
あれ以来、神々は『彼女が来る』、『彼女が来る』とおびえて暮らすようになり、地上に降りることもなくなった。
あの大事件の時、神々は暁光帝から言われたものだ。
『世界に迷惑かけるな』、と。
それが神界を縛る『人間に大規模かつ計画的に干渉してはならない』というルールになった。
これは神々が守るべき律である。
しかし。
当の暁光帝が自分の言葉をまったく守っていないのではなかろうか。
今回、世界の命運を決めるであろう、重大な戦争を叩き潰してしまったのは誰なのかという話だ。
主神は顔をしかめつつ。
「大規模であっても計画的ではないから……」
言った。言うしかなかった。
その言葉に対して。
「そういうものだろうか」
このように疑義が提示されるのも当然だろう。
今回、神々が望むヒト族の優勢が維持される形で獣人戦争は決着した。
だが、次もそうなるとは限らない。
世界の命運を決めるのは誰か。
神々でないことは明らかだが、暁光帝かと言うとそれも微妙だ。
今回の件は当の本人も気づいていないのだから。
戦争は終わった。
夕日が海を赤く染めていた。それは血に染まった海域をごまかしているようにも見えた。
おびただしい数の遭難者を救助してポイニクス艦隊は帰途に着く。
遭難者は獣人もヒトも区別なく、皆、ポイニクス連合の港に連れて行かれることになっていた。
敵だった獣人も味方のヒトも今は“遭難者”として扱われている。皆、濡れネズミで、だいぶ海水を飲んでおり、息も絶え絶えだ。
これがふつうの遭難なら敵である獣人に対してそれなりに思うところもあり、そこまで同情的にはならなかっただろう。だが、今回、海から引き上げられた者は等しく暁光帝の被害者である。
ポイニクス艦隊の旗艦にそれぞれの勢力の重鎮達が並ぶ。
『幻獣の助けに感謝を。貴女方の助けなくばこれほどの多くの同胞を助けられませんでした』
『後ほど、正式に礼の品を贈らせていただきます。幻獣の友よ』
ヒト族の宰相と司令官が頭を垂れて感謝の意を述べる。その言葉は風魔法に乗せられて、艦隊全体に伝えられた。
「ばいばーい」
「楽しゅうございましたわー」
空と海から美女達が挨拶を返した。
それぞれ、ペッリャ半島の断崖と岩礁で暮らしている。後ほど国家から礼品が届けられる手はずになっている。
幻獣が集団で人間を助けたのは史上初めてかもしれない。
「それほどひどい災害だったということです」
「まったくもってそうですな」
オルジア宰相の言葉にポイニクス艦隊司令官はうなずいた。
船員たちも幻獣の協力だけは喜んだ。
おそらく今回だけの例外だとは思うが、それでもありがたい。
皆、去り行く美女達に手を振っていた。
「贈り物、何ー?」
「わたくし達はお話の本を注文しておきましたわ」
「塩豚の詰合せだよねー」
「あー、うちらもそれがよかったなー」
「まぁ、人間も疫病で大変ですからね」
夕日の下、人魚達と海魔女達がさえずっている。
海と空だが、仲がいい。
今日は実入りがよかったので上機嫌だ。
別に報酬を求めたわけではない。塩豚も本も陸でしか、人間からしか手に入れられないので貴重ではあるが。
“実入り”とは体験のことだ。
そもそも、戦争を見物しに言ったのだ。
それは見られなかったが、艦隊の海難救助に参加できた。本物の兵士と共同で1つの作業をするのが面白かったのだ。
「それにしても変だねー 人間達、アストライアーのことはすっごい怖がってたのに!」
「わたくし達のことは恐れずにきちんと信頼していたようですわね」
「アストライアーのことは変な名前で呼んでたー」
「“ぎぉこぉてぇ”ですか。不快な響きの…変な呼び名でしたわね」
「わたくし達とアストライアーのことは明確に区別していたようですわ」
「変だねー」
「変ですわ」
皆、きゃらきゃらと笑う。
大きさも魔気容量も桁違いだが、彼女達は天龍アストライアーと友達である。
それらは本質とは関係ないのだ。
互いにお喋りして楽しいか、付き合って面白いか、それが重要だ。
天龍アストライアーと比べてしまえば、人間と同程度の人魚も海魔女も非常に小さく、ふつうに暮らしていると目に入らない。けれども、声を掛けられればわかる。アストライアーの虹色の瞳は小さな幻獣も見落とさない。離れていても相手の表情が見える。
幻獣の声は空気の振動以外に魔気信号も含むので互いに遠くてもわかるのだ。
だから、声をそろえて海魔女と歌ったり、月夜に人魚と語らったりできる。
広い海の真ん中でアストライアーが踊ると幻獣の乙女達から拍手喝采が巻き起こったりもするのだ。
また、荒っぽい幻獣との交渉に立ち会ってくれたりもする。血の気が多い獣魚や海大蛇でもアストライアーを前にして暴れることはできない。自然と言葉による話し合いだけが紛争解決の手段になるのだ。
アストライアーは絶対の調停者。彼女の前では何人も好き放題、乱暴に振る舞うことは出来ない。彼女はそこにいるだけでありがたい存在なのだ。
そして、乙女達は語らう。
「あたしは100人くらい助けたなー」
「3桁、凄いわぁー」
「わたくしだって100人以上運びましたわ。半分くらい息してませんでしたが」
「息してない奴は回復魔法で無理やり呼吸させたら生き返ったよー」
「こういう時、人魚は回復魔法が使えて有利ですわ」
「アタシ、海の底に沈んでたのを200人くらい引き上げたよー 凄いっしょー」
「死体じゃん、それ」
「あははははー」
「魔法で蘇生させたら何人かは動き出したぉ☆」
「歩く死骸じゃん」
「アンデッドモンスター、作ったの? 死霊術、来たー!」
楽しげに本日の釣果を自慢し合う。
海の乙女達からすれば海難救助も遊びなのだ。
どれだけ助けたかを競った。面白かった。また、やろうね。
欠片の深刻さもない。
こういうやり取りを聞いた人間は怒り出すかもしれない。だが、彼女達は幻獣。元より、人間とは価値観を共有しない。
そんな人外の者が救助活動に参加してくれた事自体が非常に珍しく、そして非常にありがたいことなのだ。
人間が幻獣に文句を言っても通じないし、仕方のないことである。
『遊びで救助するな!』、『そんな心構えの奴は救助に参加する資格がない!』なんて話は封じておくべきだ。立派な心構えの人間がどう足掻いても助けられないほど、たくさんの遭難者を幻獣の乙女達は遊びで助け出してくれたのだから。
人魚も海魔女も本質的には天龍アストライアーと同じなのである。
彼らはどんなに人間の数が多くても『世界の主役は人間なのだ』なんて主張には同意してくれない。
ブタと人間が海に落ちて溺れていたらどちらを助けるか迷う、そんな存在なのだ。
『そこは人間を優先すべきだ』と言っても聞いてくれない。
人間を特別視してくれない。
ただし、人間が派手な服を着ていたら人間を助けるだろう。けれども、ブタがカラフルな新品種だったら間違いなくブタを助ける。物珍しさが優先されるのだ。
そういう者だから、付き合うのならそういう者と割り切って付き合わねばならないのだろう。
存在するのを止めさせることは出来ないのだから。
もちろん、初めから付き合わないという選択肢もある。
いずれにせよ、教え諭すことで幻獣の価値観を変えさせることは不可能だ。人間が幻獣に説教されてその人間中心の考えを変えることがないように。
そして、海の乙女達は更に危ないことも話し出す。
「ケッセンヘイキ? オルジアノヒって奴をもらってきちゃった☆」
「わぁっ、面白そう☆」
「アストライアーが喜びそうですわね」
「あの娘、人間の道具とか大好きだからねー」
「『おや、これは興味深いね。ふむふむ、この仕組みは! なるほど、人間はこうして火を起こすのか…うむ。博物学的にも重要な資料だよ』とか、言うよ、きっと!!」
「わぁ、似てる、似てるー」
「まぁ、そっくりですわ♪」
大勢なので家路が楽しい。
明日、仕事があるわけもない。
明日、約束があるわけもない。
幻獣は自由だ。
だから、家路も急がない。
眠くなれば海の真ん中でも空の上でも眠れる。
さぁ、今日の活躍を明日は誰に話そうか。
幻獣の美女達は上機嫌で海を渡って行った。
1日、間が空いてしまいましたが、これにて『碧中海の戦争』シリーズは完結です。
この後にヒトと豚人、ヒトと妖精人、ヒトと茸人の戦いも描こうと思ってたんですけどwww
長くなるので止めました\(^o^)/
暁光帝の出番が減るしww
また、いつか、別の機会に〜
さて、次回は中世の話に戻ります。
ナンシーが港を案内しながら暁光帝に尋ねます。
何を?
お楽しみに〜




