碧中海の戦争。ポイニクス連合はおまけじゃないぞ! おうちに帰るまでが戦争です☆
前回のおっさんだらけ回を反省して…
今回もおっさんだらけ回です\(^o^)/
暁光帝、活躍してるんだけどセリフないしww
美女エルフさんも女精霊も一角獣♀も出番がありません。
今回はデティヨン海戦(予定)の第3勢力ポイニクス連合の艦隊が主役。
おまけじゃないところを見せましょう。
おっさん(デブ)の意地を見せちゃいます。
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
四方、どちらを見ても島影すら見えない大海原。
ポイニクス連合の艦隊はノロノロと惰性で進んでいた。
島影は見えないが、前方に恐ろしいものが浮かんでいるのがよく見える。心臓が止まりそうなくらい恐ろしいものが。
およそ、最低最悪の報せ、『暁光帝、降りる』の一報が伝わったのだ。いや、この場合は降りたのではなく海中から飛び上がったわけだが、それは些細な違いである。
もっとも重要なことは戦場に暁光帝が現れたということで。
次に重要なことはこれで戦争が終わったということだ。
暁光帝が現れた以上、悠長に戦争なんぞしていられないから、それも当然至極。
その上、風魔法による『暁光帝はノアシュヴェルディ大王を殺めて朕を生かした』云々という皇帝の言葉がここまで伝わってきた。それで、誰に命じられるでもなく漕ぎ手達の腕も止まったのだ。
帝国艦隊は勝ってはいないが、敵艦隊が消滅したことは明らかだ。
敵とは言え、暁の女帝に遭遇したことは哀れとしか言いようがない。
戦争なら3分の1もやられれば終わりで、少なくとも3分の2は生き残れる。やられた3分の1だって逃げるか、死んだふりでもすれば生き延びられる。
しかし、暁光帝に遭遇してしまえば死ぬ以外の選択肢がない。獣人も半魚人も鏖殺、文字通り、皆殺しである。それは有名な龍戒を聞くまでもなく明らかだ。
今、超巨大ドラゴンが漂う空の下にいる帝国艦隊だって、その運命は風前の灯火だろう。
だから、ポイニクス艦隊司令官も甲板で震え上がっていた。
ビール腹の突き出た、恰幅のよい初老の男で、司令官らしく立派な衣装に身を包んでいる。
真夏なのに寒い。その寒さは気温によるものではなく。
極限の恐怖によるものだ。
ポイニクス司令官は歯の根も合わず、ガタガタと震えながら前方を見つめている。
決戦の海域、その上空に1頭のドラゴンが飛んでいる。途方もなく大きい。金属光沢を示す紫色の鱗と虹色の瞳、何より空を覆うほどの巨大な六翼を見れば何者であるかは明らかだった。
見間違えるはずもない。
「暁光帝……」
つぶやいて甲板に膝を着いた。
こうしてうずくまってしまっても咎められない。だいじょうぶ。甲板にいる者はひとり残らず、同じように恐れおののいているのだから。
働き盛りのベテラン海軍司令は襲い来る恐怖を必死に耐えていた。今は昼間で周囲に部下やポイニクス連合の有力者が大勢いる。士気にも関わるから、艦隊司令官が醜態を衆目に晒すわけにはいかないという思いに支えられている。
現実には誰も司令官のことなど気にしていないが。
帆柱や綱、舵櫂、誰しもが何でもいいからつかまれるものにつかまって震えている。恐怖のあまり、自分の足で立っていられないのだ。今、圧倒的な脅威を前にしているのに、たかが上司の動向を気に掛ける余裕なんぞあるわけがない。
あの超巨大ドラゴンはたいてい雲の上を亜音速で飛んでいる。地上に降りることは稀だと言われているが、一度、降りれば恐るべき災害をもたらす。
今、現在、目の前で起きていることのように。
敵のロングシップ群は破片しか見当たらない。味方の艦隊も三段櫂船の多くが半ば沈んだり、砕けて船員が海に投げ出されている。大勢が溺れるだろう。帝国は水兵に水泳訓練を施していないのだ。
帝国は絶対に負けない、帝国の軍艦が沈没するわけがない。そんな建前のせいで『水泳の訓練など国家の勝利を信じない臆病者のやることだ』と排除された。そんな益体もない命令を下した将校も今は波の下で息をしていないから皮肉なものだ。
暁の女帝が去ったとしてもいつまた降りてくるかわからない。それが自分の頭の上でないという保証はどこにもないのだ。
だから、恐ろしい。
とてつもなく恐ろしい。
それでも、何とか湧き上がる悲鳴を抑えて正気を保っていると、突然、超巨大ドラゴンは遠くへ飛んで行ってしまった。
あっけないほどにあっさりと。
暁の女帝様にも何か都合があるのだろう。
ありがたい。
本当にありがたい。
ところが、そんな感謝を捧げる間もなく。
『おぐうぇっ! ぎおこぉてぇぇっ! うぉのれっ! 末代まで! 子々孫々に至るすべてを恨んで…おぶぐぇっ! 恨み尽くしとぅうぇぇぇっ! ぶぐぐふぉっ!!』
風魔法が声を伝えてきた。
間違いない。
オルジア皇帝が断末魔の悲鳴を上げているのだ。
地の底から響いてくるような、おぞましい怨嗟の声に船員達は震え上がった。
ポイニクス艦隊司令官もおののいたが、部下の目があるので何とか醜態を見せないように踏ん張った。
目の前で恐ろしい地獄が展開されていた。
暁光帝の羽ばたき1つで海が狂気を帯びて荒れ狂い、大波と大風が哀れな帝国艦隊に襲いかかったのだ。頑丈な軍艦が次々に引き裂かれて、船員達が海に放り出されてゆく。
あれほど威光を放ち、碧中海に勇名を轟かせたオルジア旗艦が、その巨体を無残に破壊されて沈んでゆく。
頼もしい友軍の旗艦が非業の死を遂げる姿はポイニクス軍人の胸を打った。幾人かが胸の上で正三角形の印を切った。他もそれぞれの宗教に合わせてめいめいに弔意を表す。
それはまたたく間に起きた惨劇だった。
唖然として見つめる。
「オルジアは壊滅か……」
眼前の帝国艦隊はわずか10分の1ほどに減っていた。残りは材木の残骸に変わって海を漂っている。
それもつかの間、自分の仕事を思い出した。
叫ぶ。
「全艦、前進! 暁光帝は去った! 戦争は終わった! 我々の仕事は海難救助だ!」
旗艦に乗り込んだ魔導師が風魔法でポイニクス司令官の言葉を伝え、再び、艦隊は進み始めた。
「もはや、敵も味方もない! これは海難事故だ! 助け出せる者はすべて助けろ!」
戦闘海域だった場所に到着するとポイニクス艦隊は救助活動を始めた。
ポイニクス旗艦も生き残った艦に接舷する。
「酷いものだな……」
帝国の威光を示してきた三段櫂船がボロボロにされて見る影もない。帆は千切れ、オールは折れて、船体の割れ目から浸水している。
船員達は息も絶え絶えだ。
驚いていると空から人間が振ってきた。
「ぐふぇっ!」
何とか、ギリギリで受け止められた獣人がうめき声を上げる。手ぶらで武装していない。ノアシュヴェルディ海上王国の平民だろう。
驚いて空を見上げると両腕が翼になった美女が旋回している。
「まだ、たくさんいますわぁー!」
丁寧な言葉遣いだが、聞こえるように声を上げた。
「助かる!」
海魔女に向かって艦隊司令官は帽子を脱いで頭を下げた。
「おぉっ!?」
部下達が驚いていたが、かまわない。
「幻獣でさえ、溺れる者に慈悲を垂れた! お前らはどうだっ!?」
怒鳴りつけてやると部下達の目つきも変わった。
戦争は終わった。
今は海難救助だ。
海で遭難した者に敵も味方もない。ましてや、幻獣ですら哀れんで助けてくれている状況だ。
どうして、同じ人間の自分達が見捨てられよう。
海上ではたくさんの美女達が溺れた者達を運んでくれている。
「人魚だ!」
誰ともなく叫んだ。
海の幻獣が人間を助けてくれている。
それくらい非常事態であり、それくらい酷い災害だったのだと船員達は今更ながら思い知らされた。
海難事故に敵も味方もないのならば、この非常事態、もはや幻獣も人間もない。協力して遭難者を助けよう。今、海を漂っている者は等しく暁光帝の被害者なのだから。
ポイニクス艦隊はヒト族と獣人を分け隔てなく助けた。
「オルジア宰相とオルジア帝国艦隊司令官を救出しました」
部下から報告が上がった。
「よし。それで…オルジア皇帝は?」
ポイニクス艦隊司令官の問いに。
「……」
部下は静かに首を振った。
「そうか……」
オルジア皇帝の生存は絶望的かと司令官はため息を吐いた。
そして、1人の男が近づいて来た。
「助けていただきありがとうございます。この場は陛下に成り代わり、帝国を代表して感謝の意を示させていただきます」
頭を垂れる。
オルジア宰相だった。
「いやいや、暁の女帝では仕方ありません」
司令官は天災だからどうしようもないと天を指差し。
「皇帝陛下に於かれましてはまことにご愁傷さまです」
同盟軍の指導者を悼んでみせた。
これもまた外交である。
「まこと、得難い人物を喪いました。帰って帝都を守る皇太子を教育せねばなりません」
「ほほぅ、皇太子を……」
「皇太子は父君に似ず、他人の気持ちを思いやる、優しくおおらかな人物。これから、小生の仕事が増えますわ」
「それはそれは……」
「一刻も早く、傲岸不遜で怒りっぽい、鼻持ちならない人物になっていただかなければ」
そう言って宰相は笑む。
「はははは…たしかに」
総司令官は苦笑した。
オルジア帝国には強力な独裁者が統治する伝統がある。国が栄えるも衰えるも皇帝次第。皇帝には強くあってもらわねばならない。
亡くなったオルジア皇帝は良くも悪しくも帝国にふさわしい指導者であった。
「とりあえず、そちらの艦隊司令官は助かりましたね」
ポイニクス艦隊司令官は甲板に寝かされているオルジア艦隊司令官を示す。
「うぷー…うぷぅー…潰した国は百を下らず…殺めた敵は万を下らず…うぷー…うぷぅー……」
きらびやかな装飾はすべて剥げ落ちて、太った初老の男にしか見えない。水夫に介抱され、もともと膨れた腹を更に膨らまして飲んだ海水を吐いている。
倒れて意識を失ってなお龍戒を唱えている。まるで小さな噴水のように無様な姿だ。
「ホッ…本当に助かってよかった」
心なしか自分に似ている。ポイニクス司令官は安堵のため息を吐いた。
もしも半魚人の破壊工作がなかったら、ポイニクス艦隊は遅れることなく決戦の海域にたどり着いていた。その時は自分もこうなっていだろうと肝を冷やす。
甲板に転がされて噴水になるなんてまっぴらゴメンだ。
いや、その場合はポイニクス艦隊もやられているから今頃、海の底で魚の餌になっていただろう。
救助される側に回らなかった理由は自分が優秀だったからでも自分の戦略が成功したからでもなく、恐るべき超巨大ドラゴンに目をつけられなかった幸運に過ぎない。
人類の最大勢力を集めた、最強の艦隊ですらこの有様だ。
神殺しの怪物。
暁光帝、その脅威は計り知れない。
それを改めて思い知らされた。
「ええ、ありがたいことです。うちの司令官は役に立つ」
宰相は口角を歪めて笑んだ。
「我が艦隊はほとんどの戦力を喪失してしまいました。一応、残存勢力こそあるものの、軍事的な評価を下せば壊滅で間違いありません」
生き残った軍艦も無傷ではない。兵士や船員はともかく、将校らは暁の女帝を目の当たりにして発狂している。
もう組織的な作戦行動は取れない。
もはや、軍隊としては機能していないのだ。
その事実が宰相の背に重くのしかかってくる。
「ノアシュヴェルディ海上王国は滅びましたが…この被害を敗北と受け取るか、それとも、この戦果を勝利と受け取るか…有力者と帝都の市民の気持ち次第ですな」
勝利か、敗北か。それを決めるのは国家である。その中心たる皇帝も今は亡く、帝都と相談しなければならない。
「勝利とされたならこの男を立てて礼賛し、皇太子の後ろ盾としましょう。敗北とされたらすべての責任をおっかぶせて処断ですね。どちらにしても役に立つ」
抜け目ない宰相はすでに戦後の絵図面を描いている。
甲板に転がされて噴水になっている、このオルジア帝国艦隊司令官の運命は国家に委ねられたようだ。
「ああ、褒美を取らせるにせよ、処刑台に立たせるにせよ、生きていてもらわないと無理ですからな」
政治はつくづく大変だと思うポイニクス司令官である。
「それにしても……」
宰相はつぶやく。
「戦争、したかったですねぇ」
その顔には悔恨の色が強くにじみ出ていた。
国の中枢にいるからいろいろなことを理解していた。
この戦争でオルジア帝国は旗色が悪かったことを。
不利な戦争だったが、座して死を待つよりはマシ、せめて一太刀浴びせておきたかっただけのことを。
勝利を餌に皇帝や将軍達を煽って開戦させたが、宰相自身は戦局が厳しいと断じていたことを。
結局、何もかも無駄で、帝国を救えず、兵士と将校と皇帝を死地に追いやってしまうことになるのではないかと危惧していたことを。
それでも、一縷の望みを託して開戦に向かったことを。
実際、この結果は喜ばしいことを。
暁の女帝が戦争といっしょに獣人海賊を吹き飛ばしてくれてありがたいことを。
すべて理解していた。
それでも。
宰相は戦争がしたかった。
世界の命運を自分達の手で決したかった。
人間の手で。
ヒトに獣人や半魚人も含めた人間の手で。
だが、あの目は。
暁光帝の、虹色の瞳は未熟な人間などに任せておけないと言っていたように思える。
世界の命運はドラゴンが決めるのだ、と。
だから、これはわがままだと思う。
「戦争、したかったですねぇ」
わがままを繰り返してみた。今度ははっきりと口に出して。
すると。
「ええ。まったく」
まさかのことだったが、ポイニクス連合の総司令官も同意してくれた。
「戦争、したかったですねぇ。勝つにせよ、負けるにせよ、我々自身の手で決めたかった……」
しみじみと、同じ言葉で語ってくれた上、口に出せなかかったことを補ってもくれた。
「ははは……」
宰相は力なく笑った。
『戦は竜を呼ぶ』
暁の女帝のおかげで勝ち目のない戦を拾えたのだ。
ならば、よし。
国家の指導者は亡国の危機が去ったことを喜ばねばならない。
危機を打ち払ってくれた暁光帝に感謝せねばならない。
でも、戦争指導者だって愚痴を吐くくらいは許されるだろう。
「「戦争、したかったですねぇ」」
2人はしみじみと声を合わせた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ますます暁光帝の出番が減りましたね(>_<)
海中から飛び出して、人魚や海魔女とお喋りするだけの簡単なお仕事☆
さすが、暁の女帝様、業務形態がホワイトです(^o^)
これ、描きながら息抜きによそ様の作品を読んでいたんですが……
美少女+美童女+美幼女がキャッキャウフフしながら魔物を退治して、バトル終わったら♀×♀キスして百合ん百合ん♪
えっ、この作品、目次に「この作品には〔ガールズラブ要素〕が含まれています」ないのに!?
サービスなの?
サービス満点なの?
お得ですね。
それに比べてうちの『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ』…やばくね?
百合♀×♀恋愛になるはずが、おっさん大活躍シリーズだぉwww
まぁ、次回で『碧中海の戦争』シリーズは終わって、現代編…というか、中世編に戻ります。
次回は神界の神々と幻獣達のその後ですね。
お楽しみに〜




