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人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜  作者: Et_Cetera
<<さぁ、冒険の始まりです☆>>
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暁光帝、学者と戦う! この世界を貴様の思い通りにさせてなるものか!!

依頼人は瓦礫街リュッダ領主お抱えの博物学者のビョルンでした。

彼は街にやって来る謎のドラゴンについて語ります。

街が魔物の群れに襲われているとどこからともなくやって来て、人間の味方をしてくれる頼もしいドラゴンの話です。

けれども、そのドラゴンがなぜ助けてくれるのか、わかりません。

そこで無能な領主ジャクソンに代わり、有能な奥方のコンスタンス伯爵夫人がその謎を明らかにするよう、ビョルンに命じたのでした。

しかし、ビョルンがいくら調べてもドラゴンの意図はわかりません(当たり前だ)

そこで、謎の美少女アスタこと、我らが暁光帝に尋ねたのです(依頼を下請けに出したとも言う)

さぁ、暁光帝はこの謎を解き明かすことができるでしょうか?


キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/

 童女アスタと博物学者ビョルンの問答は続く。

 「キミの見解には思い込みによる厄介な誤解が存在する」

 大人を“キミ”呼ばわりして、これまた上から目線で語る童女。ナチュラルに偉そうだ。

 「『あのドラゴンは鱗の色合いから考えてまだ若い個体』って言ったよね?」

 「ええ。どう見てもあのファイアドレイクは年若い個体ですよ」

 「そこが間違いなんだよ」

 「えっ?」

 「ドラゴンは歳を取らない」

 「ええっ!?」

 「ドラゴンは歳を取らないから若いとか老いたとかないんだ」

 「そ…そんな馬鹿な……」

 童女との問答は博物学者の思想を根本から揺さぶる。

 「身近な生物の延長で幻獣を考えるからそんなおかしな考えになる」

 アスタは間違いを指摘して。

 「幻獣は虚無の空間からいきなり出現するだけだから、子供も大人も老人もないよ。“若いドラゴン”なんて考え自体が“老いた水”とか“若い石”とかと同じく無意味な概念なんだ」

 根本的な思い違いを指摘して思想の修正を試みる。

 しかし。

 「いや、そんなのは生物として不自然でしょう! どんな生き物にも寿命があります! どんな生き物だっていずれは歳を取り死んでゆくんです! 例外はありません! それが自然でしょう!!」

 ビョルンが初めて声を荒げた。

 だが、アスタは冷静に返す。

 「何、それ? 宗教?」

 大人に迫られてもまったく動じない。それどころか、余裕の笑みを浮かべて。

 「犬、猫、ネズミ、トカゲ、牛、ニワトリ、オリーブの木、身近な生き物に寿命があった。只、それだけだよ。キミはいつから世界のすべての生き物について知っているなんて錯覚し出したんだい?」

 愚かな子供に(さと)すように語る、そんな童女だ。

 その笑みは冷たい。

 「ぐっ、それは……」

 童女に論理の隙間を突かれてしまった。博物学者は動揺して二の句が継げない。

 「キミは知ってるかい? たとえば、雲の中にも多くの生物がいるよ。雲海は十分な水を持っていて空気もたっぷり、日光も当たるから生き物の生育に必要な条件はそろっているだろ?」

 アスタは気生プランクトンについて語る。

 雲には水があり、二酸化炭素があり、太陽光線が差す。条件がそろっているので光合成ができる。雲海の中を漂って暮らす生物がいるのだ。

 「ううう……」

 ビョルンが唸る。雲の中など地上で生きる人間にわかるわけがない。

 「彼らに寿命があるとでも?」

 だが、雲上を飛ぶ天龍アストライアーにとって気生プランクトンは身近な生物だ。

 「キミは海に潜ったこともないだろう? 日光の差さない深海の底にも生物はいるよ。彼らは海底から湧き出す熱い瘴気を食らって暮らしているんだ」

 今度は深海で硫酸を還元する古細菌(アーキア)について語る。

 月まで飛んだ天龍アストライアーだ。海の底にも訪れている。目蓋(まぶた)のない目は閉じないから虹色の瞳(アースアイ)は海中を見通す。信じがたいほどの分解能で観察できる。真っ暗な海中でも光魔法で照らすこともできるから視えるのだ。呼吸しない上に頑丈な肉体は深海の水圧にも耐え、潜ったまま長時間の活動ができる。

 「うむぅ……」

 もはや、ビョルンは悔しげに唸ることしかできない。

 近年、風魔法による飛行や新たな潜水服などで人間の活動領域は大いに広がった。しかし、それらはどれも欠点を抱えており、短時間しか活動できない。

 当然、空の彼方についても、海の底についても、わからないことだらけだ。

 「単純にキミら人間が知らないだけで、南国で繁茂する密林(ジャングル)の樹冠にも、火山の熱水の中にも、鉄さえ溶ける酸性湖の中にも生き物はいるよ。その辺の水たまりの一滴にも多くの生物が暮らしていて、小さすぎるからキミらの目で確認できないだけだし。どうしてすべての生物について知り尽くしたなんて錯覚したんだい?」

 アスタが笑む。紫髪が小さな身体の周りを漂い、金属光沢で輝いている。

 「キミの知らない多くの生き物が寿命を持たない、不老の生物だよ」

 大人の博物学者よりも(はる)かに広い知見を示して、はっきりと言い切る。

 「すべての生物には寿命があり、どんな生き物もいずれ歳を取って死ぬ? 老いによる死は避けられない? 運命だ? ハァッ!?」

 ビョルンの信念を残酷に(あざけ)り笑う。

 「キミは身近な例ばかりに(とら)われて、それらをことさらに強調した結果、帰納法(きのうほう)が捻じ曲げられてしまったんだよ。そこから導き出した()な命題を信じ込んでいるだけ。観察した例が狭隘(きょうあい)に過ぎて、論理の迷路に迷い込んでしまっているよ」

 アスタはビョルンが導いた推論の根幹そのものを突く。

 「そ、それは…だけど、それが自然でしょう! だって…だって……」

 子供に言い返されてタジタジの大人だ。

 博物学者は苦し(まぎ)れに反論しようとするも、論拠を示せない。

 彼が挙げられる例は今、童女に指摘された狭い世界の、わずかなものでしかない。

 「自然だから正しいと? 生き物はキミらに倫理を教えるために生きているわけじゃないよ。勝手に人間の“先生”にしないでくれ」

 童女は苦笑いする。

 幻獣は生物ではない。生物が何をどうしようと幻獣には関係ないから、天龍アストライアーはそこに価値観の基礎を見出そうとは思わない。

 「キミら人間は文明を築いて自然を捨てたんだろう? それとも服を捨て、火を捨て、魔法を捨てて自然に帰るのかい? 今さら、自分達が捨てた自然(ゴミ)を“正義”として(たっと)ぶとか()めてくれよ」

 アスタは腕組みしているが、紫髪はいくつもの束を作ってビョルンを指す。

 幻獣はもともと自然からかけ離れた、超自然の存在だ。

 自然界とそこに暮らす生物には何の感慨も敬意も抱かない。

 文明を築いて自然界から離れた人間も自分達と同じようなものだと思っている。

 それなのに、人間は未練がましく自然を(かえり)みて懐かしみ、そこに自分達の()って立つ価値観を見出そうとしている。

 惰弱(だじゃく)な。

 もっと気概を持って欲しい。

 「だけど、人間は自然から切り放されては生きられないし……」

 博物学者は弱々しく抗議する。

 「ハッ! 今、この瞬間にも自然を棄てる努力を続けているのに? 冬、(こご)えないように暖房のための(まき)を用意しているのは? 疱瘡(ほうそう)(かか)ったら治療せずに死を待つのかい? 井戸を掘って水を()むのは? 全部、自然のままに生きて死ぬのが嫌で(あらが)ってるんでしょーが。だったら、その努力を続けるべきだよ」

 博物学者の抗議をバッサリ切り捨てる。

 「そして、文明を進歩させる努力を続ける以上は後ろを振り返って自然を“先生”にするのは止めるべきだね。万物(ばんぶつ)の霊長なんでしょ? 未練がましくてみっともないよ」

 学者らが“人間”を表すもっとも象徴的な言葉を口にして、自然回帰の価値観を“みっともない”の一言で切り捨ててしまう。

 文明を進歩させる、つまり、自然から離れて生きる努力をしつつ、“自然”にこだわり、“自然”に倫理規範の基準を求める。そんな人間の態度が明らかに二重規範(ダブルスタンダード)であって“いいとこ取り”に見えるのだ。

 「幻獣も生物なんだとか、ドラゴンも自然の一部だから寿命があっていずれ年老いて死ぬんだとか、珍妙な誤解は止めてよね」

 童女アスタは博物学者ビョルンの考えを根本からきっぱり否定する。

 それはもう徹底的に。

 「うぐぅ……」

 ビョルンは完全にやり込められてしまい、まったく反論できない。

 実際、現在の学界では『幻獣(モンスター)は動物の一種である』という見解が一般的だ。ビョルンの考えもそれに沿ったものであり、主流派の考えから逸脱(いつだつ)してはいない。

 実際、学者や冒険者によって観察される多くの幻獣(モンスター)は餌を食べて、水を飲む。息もすれば、夜は眠るし。動物と同じような行動を示すことが多い。

 だから、多くの博物学者は『幻獣(モンスター)は少し変わってはいるが動物の一種である』と主張するのだ。

 しかし、冒険者に狩られた幻獣(モンスター)は死体も残さずに消え失せて、ドロップ品というアイテムと魔石を残す。

 また、オオカミや熊など、ふつうのの猛獣と違って、幻獣(モンスター)の中には海魔女(セイレーン)妖巨人(トロール)のように魔法を使う者もしばしば現れる。

 だから、『幻獣は生物ではない』と主張する博物学者もわずかながらいるのだった。

 だが、それらの声は幻獣(モンスター)と生物の類似点を挙げる多くの声にかき消されてしまい、ほとんど取り上げられないのが現状だ。

 しかし、アスタは止まらない。

 次は更に実例を挙げて。

 「キミは幻獣にも寿命があると言うけれど、それじゃ、たとえば…人食いヤドカリはどうかな? 知ってるよね?」

 ニヤリ笑う。

 人食いヤドカリは冒険者ギルドでは五番手の竹レベルに分類される、人気モンスターだ。倒し方さえ心得ていれば中級の冒険者にとって手軽な獲物であり、その魔石はいい稼ぎになる。

 「もちろん知ってますが……」

 ビョルンの声には張りがない。学者としてのプライドも今までに貯えた知識への信頼もずいぶん削られてしまった。童女に攻めれられて、だいぶ勢いを失っている。

 「人食いヤドカリはでっかいヤドカリだよ。海のヤドカリは成長に合わせて宿(やど)になる貝殻を取り替えるよね? だけど、人食いヤドカリの巨体に見合う、でっかい貝殻の巻き貝って陸地にはいないよね? どうやって貝殻を調達してるのかな?」

 容赦なく、博物学者が依って立つ思想の根本を揺さぶる。

 今回は誰もが知る幻獣(モンスター)の生態を挙げて弁証するようだ。

 「えっ、そ…それは……」

 ビョルンは当惑する。

 そんなことは考えてみたこともなかった。この辺は博物学者として不十分であり、研究に隙間があると言わざるを得ない。

 海に棲む、ふつうの生物としてのヤドカリは少し変わった甲殻類だ。やわらかな腹部を守るために巻き貝の殻を背負(しょ)うことで知られている。彼らは身体の成長にともない、小さい貝殻から大きい貝殻へ、自分のサイズに合わせて背負う貝殻を取り替えてゆく。当然、その辺に転がっている主を失った貝殻を拾って背負うのだが。

 幻獣である人食いヤドカリは人間を襲うほどに大きく、彼らが背負えるほど大型の巻き貝は存在しない。卵から子ヤドカリが(かえ)っても成長に合わせて取り替えられる貝殻がないのだ。

 「いや、ひとつだけ……」

 ビョルンが何とか思い出そうとするも。

 「言っとくけど、人食いカタツムリの殻は形状が人食いヤドカリの宿と違うよ」

 相手の反論をそれが来る前に叩き潰すスタイル。童女は容赦しない。

 「人食いヤドカリは成長しない。卵から生まれるわけでもないし、ゾエア幼生が育つわけでもない。そして、冒険者に狩られなくても歳を取って死ぬことはない」

 告げる。

 「どうやって人食いヤドカリは自分の宿である貝殻を調達しているのか。あれは貝殻を調達してるんじゃない。初めからあの姿でいるだけ。なぜなのか? 人食いヤドカリは幻獣であって生物じゃないから。親から生まれて子供から大人へ成長して、やがて寿命を迎えて死ぬ存在じゃないから」

 生物ではない、明らかに生物とは異なる、幻獣という在り方(ありかた)()く。

 「幻獣は何もない、虚無の空間からいきなり湧出(ポップ)するんだ。初めから親なんていないし、姉妹も兄弟もいない。当然、寿命なんてものもない。殺されなければ永遠に生き続けるよ」

 何もないところからポッと現れる様子を小さな手の仕草で示す。

 「だから、人食いヤドカリは初めから殻を背負った姿で現れる。あの殻は海のヤドカリのようにどこかで拾ったんじゃなくて、初めから、この世に現れたときから、背負ってるんだよ」

 童女は人間の思考法に(とら)われない。いや、人間とは異なる価値観と異なる思考で生きる者だ。そして、観察の例数も期間も桁違(けたちが)いに多い。

 「いや…しかし、生物の自然な有り様(ありよう)というものが……」

 弱々しく自分の信念を語ろうとするも、ビョルンはすでに圧倒されていた。

 アスタの推論は的確に博物学の弱点を突いて来る。こうして誰もが知っている例を挙げられてしまうと反論できない。

 ここまで自信満々に幻獣について語った者はアスタを()いて他にはいない。

 まるで見てきたかのように語る童女に博物学者は思想の根本から揺るがされつつあった。

 「それにエルフだって不老の人種でしょ? 生物としておかしいわけ?」

 アスタは豊満なエルフのナンシーを指して言う。

 「いや、それなら老いたエルフに会ったことがありますよ。彼はシワだらけで頭も禿()げていたし、ヒゲだって真っ白でした」

 ようやく反論できるとビョルンに少し勢いが戻る。

 「あぁ、それって只の“()化粧(げしょう)”よ。ヒト族の老人にあやかってエルフの里で流行(はや)ってるの。頭を剃ってヒゲを白く染めて、顔のシワは書いてOKよん♪」

 ナンシーはあっさり博物学者の論拠を否定してくれる。

 エルフは大人にまで成長してしまえば、その後は歳を取らないので外見で年齢がわからない。ヒト族の国ではしばしば老人が敬われているのを知って、それにあやかろうと考えた一部のエルフの間で()けて見せる化粧が流行っているのだ。

 ちなみにこの流行“かっこいいジジイ”はエルフ男性に限定される。エルフ女性からは見向きもされていないスタイルである。

 「ぐぬぅ…」

 ビョルンは悔しげにうつむく。

 先程からやり込められてばかりだ。

 それでも、アスタは攻勢を緩めない。

 「それから、キミはそのファイアドレイクの魔気容量を4千gdr(ゲーデル)って言ったよね? 冒険者ギルドのモンスター等級だと三番手の松レベルだっけ? 竜種は伊達(だて)にモンスターの頂点に立ってないんだよ。一桁違う。キミの見立てがそうなら魔気容量はだいたい4万gdr(ゲーデル)だね」

 数値を修正する。

 単純な修正だが、それは重大な結果をもたらす。くだんのファイアドレイクはビョルンの見立てより10倍も強いのだ。余裕で瓦礫街の宿敵ポリュペーモスを始末できるレベルの強さだ。

 物凄く強い。

 飛ばなくても、地上でぶん殴るだけで宿敵の息の根を止められるほどに強いのだ。

 「うむむ…そんなに強いならどうしてあのドラゴンは…あのドレイクはポリュペーモスを殺してくれないのだろう?」

 博物学者は悔しげに口を歪める。

 瓦礫街リュッダを苦しめる宿敵ポリュペーモスは街の兵隊だけでは倒せない。ところが、くだんのファイアドレイクなら片手で始末できると言う。

 ファイアドレイクが人間の味方ならポリュペーモスを始末してくれてもいいではないか。それで街が救われるのだからと憤慨しているのだ。

 ところが。

 「そりゃ、そのドレイクが縄張りを守るために出張(でば)って来ているだけだからね〜 何のことわりもなしに入り込んできた幻獣(モンスター)を追い払ってるだけだし〜」

 およそ人間が思いもよらぬ正解をアスタは突きつけて来る。

 「はぁっ? この街がドラゴンの縄張り? どうしてっ!?」

 「アスタさん、さすがにそれは聞き捨てなりませんよ! どういうことですか?」

 博物学者といつの間にか復活したギュディト百卒長が2人がかりで迫ってくる。

 「んー…ドラゴンが他の幻獣(モンスター)と戦う理由なんて縄張りしかないでしょ、常識的に考えて」

 アスタはこともなげに語る。

 何でそんなこともわからないのかという態度だ。

 「うん、その“常識”って……」

 『ドラゴンのでしょ』と続けたいナンシーだが、黙っておく。

 だが、見かけは子供、頭脳はドラゴン。さすがはアスタ、見事に謎を解き明かしてくれたと感心する。

 魔物の群れが襲撃してくるたびにどこからともなく飛んできて加勢してくれるファイアドレイクの話はエルフもしばしば聞かされてきた。

 だから、疑問に思っても来た。

 同じ幻獣(モンスター)同士、何で争うのか。

 何で幻獣(モンスター)であるファイアドレイクが人間の味方をするのか。

 何で人間の味方なのに街を襲う宿敵を始末してくれないのか。

 これらの謎がアスタの一言で一気に解決してしまったのである。

 なるほど、瓦礫街リュッダはいつの間にやらファイアドレイクの“縄張り”になっていたらしい。

 そして、そのファイアドレイクは“縄張り”を守っていただけだった。

 それなら幻獣(モンスター)同士、何で争うのも納得できる。街の宿敵ポリュペーモスを追い詰めないのもわかる。ファイアドレイクとしては縄張りを脅かす厄介者を追い払えればそれでいいのだから、殺すまでには至らないのだ。

 そして、ファイアドレイクは人間に味方してくれているわけではない。縄張りを守る行動がたまたま人間に味方しているように見えているだけの話だ。

 けれども、くだんのファイアドレイクはこれからも街を守ってくれるだろう。この街がその縄張りなら、ドラゴンが縄張りを見捨てることはあり得ないからだ。

 「で…でも、おかしいじゃありませんか。ドラゴンは縄張りに入る冒険者を追い払いますよ、執拗(しつよう)に。この瓦礫街が縄張りだと言うなら、どうして住民を追い出しにかからないんですか」

 衝撃的な話に動揺を抑えきれない博物学者がどもりながら尋ねて来る。

 それに対する回答はやはり簡潔なものだ。

 「最初からいるから」

 童女(こども)のアスタが学者(おとな)のビョルンを『何でこんなこともわからないの?』と言わんばかりの態度で教え(さと)す。

 「縄張りに入ってきた冒険者は不愉快な異物だからドラゴンは追い払うんだよ」

 至極(しごく)、当然の話だと続ける。

 「だけど、キミの話のドラゴンは最初からこの“住民のいる瓦礫街リュッダ”を気に入って縄張りにしたんだから。住民も込みでこの街が縄張りなんだよ、常識的に考えて」

 そう、人間の知らない常識を語る童女アスタである。

 ドラゴンが気に入った場所を縄張りにすることは博物学者も知っていた。

 だが、お気に入りの場所に人間が大勢いたらドラゴンがどうするかなんて、人間のビョルンにわかるわけがない。

 けれども、アスタにはわかる。

 ドラゴンは自分が見た光景を気に入れば縄張りにする。

 ドラゴンとはそういうものだ。

 その光景に人間が大勢いて、それでも気に入ったら、その大勢の人間も含めてそこを縄張りにする。

 それは別段、不可解なことでも何でもなく。

 オリーブの木がたくさん生えている丘をドラゴンが気に入った。

 アザラシがたくさん遊んでいる海岸をドラゴンが気に入った。

 オオカミがたくさん群れをなす森林をドラゴンが気に入った。

 そこでそういう場所をドラゴンが縄張りにした。

 それと何も変わらない。

 たまたま、人間がたくさん暮らしている街をドラゴンが気に入った。

 だから、その街を縄張りにした。

 それだけの話である。

 それは常識だった。

 人間の知らない、ドラゴンの常識だった。

 「うう…そんな…そういうものだったのか……」

 ビョルンは衝撃を受けている。

 人間はしばしば勘違いする。

 (いわ)く、『人間は万物の霊長である』とか。

 曰く、『人間こそが世界の主役なのである』とか。

 だから、人間を特別扱いしてドラゴンが縄張りを作る時の例外事項だと思い込んでしまっていた。

 だから、気づかなかったのだ。

 しかし、アスタからすれば人間も世界の光景を形作るパーツの1つに過ぎない。

 それ故、学者(おとな)の気づかない真実にあっさりたどり着けたのである。

 「何ということだ。あっという間に謎が全部解けてしまった……」

 「そうか…あのドラゴンは人間に味方してくれてたわけじゃないのか。そう見えてただけだったんだ……」

 博物学者と百卒長はずいぶんショックを受けている。

 昨日、街にやって来た得体の知れない童女と、只、少し対話しただけで長年に渡って街を揺るがした謎が解決してしまったのだ。

依頼人を思いっきり侮辱して信念をへし折り、思想の根本から叩きのめす冒険者の鑑www

さすが、我らの暁光帝☆

『英雄コナン』とか、『英雄ゾンガー』とか、『ファファード&グレイ・マウザー』とか、この手のファンタジー冒険譚はさんざん読み漁りましたが、まぁ、こんな冒険者はいませんでしたね(^_^;)

おなじみナーロッパ世界観の“冒険者ギルド”に酒場がセットになっているのはおそらくこの手のヒロイックファンタジーの名残りじゃないかと思います。

コナンが腕っぷしの立つ荒くれ者の集まる酒場で1人酒を飲んでいると怪しい男が近づいて来て…というのが物語定番の導入部でした。

ええ、みんな、コナンもゾンガーもファファードも、皆さん、文字が読めないので冒険の依頼書が貼ってある掲示板なんてないのですwwww

当然、冒険者ギルドの名物、受付嬢もいませんwww

たいてい、怪しい男が近寄ってきて口頭で依頼を話すのです☆

これで文字が読めなくてもOK♪

ちなみにこの手のヒロイックファンタジーの魔法使いって幻術がメインでコナンはよく騙されていましたっけ。

畜生(クロム)っ! また幻だった!!」ってね。

このクロムというのはコナンの属する部族キンメリア人の崇める神でしたが、コナンはよく悪態に使っていましたっけ。

どういう心理なんでしょうね。


さて、見ン事、依頼を達成した暁光帝、次回はバトルです☆

いや、例によって例のごとく心理戦ですけどね〜

まだまだ、暁光帝の方から手を出す本格的なバトル展開は先ですわ〜

だけど、そのうち。

乞う、ご期待☆

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